人殺しの息子と被害者の娘

おちみちお

第1話 いつもとは違う出来事

僕は小学校の教師をしている。特に将来なりたい職業がなく、特別勉強ができたり運動ができたりということがなかった一人の少年は、安定している職業が一番ということで、この職を選んだ。その通り、教員免許を取得し大学を卒業してからかれこれ5年が経っているが、何の問題もなく平穏に過ごしていた。注意の仕方が良くないとか、いじめにあっているからどうにかしろなどたまにどこにでもありそうなどうでもいいこと、いや本人や家族にとってはどうでもよくないのか、そこは訂正しよう。

日常生活を脅かす問題はたまにあったが、そう心を悩ますほどのことはなかった。朝起きて学校へ行き、夕方になれば家に帰宅する。土日は何もせずゴロゴロするだけ。そんな毎日が嫌いではない。だが、僕は警察署に来ている。僕が犯罪を犯したわけではない。僕が担任をしている生徒を迎えに来てほしいと連絡があったので、日曜日の早朝であったがやってきた。

経緯はこうだ・・・

生徒の名前は池田幸一。小学6年生である。特に問題がある生徒ではなく、勉強もそれとなくこなし、運動が全くできないわけでもない。クラスで浮いているところもなく、落とし物係なることもきちんとこなしている。

人気者ではないが、嫌われていたりいじめられていたりすることもなくごく普通の生徒だ。小学3年の時、両親が離婚をして、母親に引き取られている。母親の父と母親との3人でアパート暮らしをしていた。母親は近所のスーパーで朝から夕方までパート勤務をしており、その他に週三回閉店後のパチンコホールの清掃のアルバイトをしていた。彼女の母親は幸一が生まれる頃には亡くなっていて、一人暮らしをしていた父親のところに離婚後移ったと聞いている。警察の話では父親は一昨年頃から痴呆症を患い奇行が目立っていたらしい。全裸のままコンビニに買い物へ行ったり、2階建てのアパートの1階に住んでいるにもかかわらず、下の階の怖い人が「うるさい!!」と怒鳴り込んできたと電話をしたりと奇怪な行動が目立ち始めていた。病気の進行が止まらず、最近では、人の家に勝手に上がり込んだり、スーパーの惣菜をその場で口にしてしまったりして、幸一の母が呼ばれることが多かったらしい。幸一の母は頼る親戚もなく、父親のそばにいることを選ぶことしかできず、パートを辞め幸一が帰宅するまでは家にいたらしい。深夜にどんな仕事をしたいたのか?警察は詳しくは教えてくれなかったが、大いに想像がつく。そんな慣れない夜の仕事と父親の介護の疲れ、この先まったく明るい未来が見えない現状に嫌気がさしたのか?昨晩、幸一の母は、父親に頭からよくあるコンビニビニール袋のようなものを被せ、首元を粘着テープでぐるぐる巻きにした。父親は苦しくなりそのビニール袋をなんとか引きちぎったみたいだ。窒息死に失敗した幸一の母は、その後台所から包丁を持ち出し、首元を刺したようだ。室内はおびただしい血痕があったらしい。母親は自分から警察に電話を入れ、自首をした。警察が幸一の家に到着すると、すでに血を洗い流して髪のセットし、逮捕され連行される準備をして待っていた母親と外出する準備が終わっており、スマホゲームをしている幸一が玄関で待っていたようだ。母親はその場で逮捕、幸一も参考人として警察に連れてこられた。

母親は「これ以上生きていくのが辛くなった。楽になりたかった。」としか言わない。「母親もこの調子だし、息子さんにいたっては、ゲームから目を離さず何も話してくれないんですよ・・・だから先生なら・・・と思いまして。部屋の状況からして

外部の侵入者があったようでもないようですし、お母さんがやりましたと言ってくれれば終わるんですけどね」警察官がめんどくさそうに言いながら、幸一のいる部屋の扉を開けた。「なんて、僕はついていないんだろう。殺人事件に関わることなんて日本国内でわずかだろう。ましてや日曜日になんて・・・」心の中でそうつぶやき、部屋に入った。

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人殺しの息子と被害者の娘 おちみちお @sakuramatsuramaru

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