episode6.5 ジョーカーファイト

電子の底よりの悪夢! vsジョーカー前編

【注意︰読み飛ばし推奨】

本エピソードは幕間にあたる話です。初見の方はひとまずepisode7に飛ぶことをおすすめします。

ただし本編と繋がってはいますので、そちらを読んだあとに戻ってくるといいかも知れません。









よろしいですね?


















それは、彼らが旅立つほんの少し前の出来事。





「おい、そのVRギア……なんか光ってないか?」


「あ、ホントだ……」


よいよいとの決戦時に送られた例のVRギアだが……後日、花家グループ名義の便箋で「もうソレあげます」との連絡があった。


発信機でも入ってるか……と警戒してみたが、どっちみちみんなスマホ持ってるので無駄だと結論付けた。位置情報なんて簡単に知れるだろう。


ガサゴソと説明書を漁ってみると……序盤数ページですぐ答えが出た。


「ん、メール着信…………? こんな機能まであるんだ」


「ふむふむ? この発光パターンだと……『VRチャットのお誘い』だぁ? ドコの誰だよこのギアのアクセス権持ってきたの」


「さーってね……っと」


言いつつ、しれっと装着を試みる。


「ちょっオイオイ……行く気か? こんなのどーみてもアヤシイぜ?」


「そうだけど……シンパイなら……『観戦』すればいいよ。あの時みたくさ……」


「……そんな問題かァ…………?」


気安く言ってのけるナナミに、半目でアヤヒが返す。


きょうびVR空間へのダイブは、子供でも持てるケータイに500円(税抜き)のガワを取り付けるだけでなんとかなる。同じ空間を見るだけなら、専用のアプリを入れるだけでも行けるのだ。


それがどうした、とでも言いたげな彼女に、なんてことないようにナナミは。


「まあほら……これもケイケンだよ。コケツにいらずんば……ってね。それにこれが花家グループの罠だったら、おれはとっくに終わってるでしょ?」


「う……うーん……?」


まあ確かに……と思いかけ当惑。


アヤヒも少し迷ったが……折れる方が早かった。


「わったよ……危ないと思ったらすぐ止めるからな?」


「ん。よろしく」


あくまで、ちょっと見に行くだけ。


怖いもの見たさは今に始まったことでは無い。


恐れも薄く、二人は電子の海へと飛び込んでいく。







ちゃぽん…………と水中に降りた感覚。


水の底に着き、水気が晴れ……徐々に重力を取り戻していくと、よいよいと戦った時のような


だが、空気感が違う。


「…………なに、ここ?」


『さぁ……真っ黒くろすけの空間だなー』


よいよいと戦った時より……更に深い、闇色の場所。


ナナミは事前スキャンした現実の姿そっくりに出てきたが……観戦中のアヤヒはモニターと羽が付いた、サッカーボール大の機械で浮いてる格好だ。


一本道。どこか湿り気を感じ取れる、紺色の闇が輝くような矛盾の空間。


その奥から。






「────オンヤァー? ダレか遊びに来てくれたようデスね!!!!」






『「…………?」』


響いた声の主……それは奥の小部屋に浮いていた。


それは小さなぬいぐるみ……か、それに取り付いた妖怪に見えた。


アヤヒよろしく代わりのアバターを使ってる……のとも違う様子だ。


「待ってたよ、待ちくたびれたね!! さあさ遊びましょ!! ボクと一緒に遊ぶのさ!!」


「……だれ、あんた?」


「ボクはジョーカー!! おしゃべりダイスキな『お人形さん』サ!!」


ジョーカーと名乗ったおかしなぬいぐるみは、中に骨でも入ってるようにゴキリゴキリと動き出す。


「ボクはここから出たくてたまらないのさ! キミらに出してもらいたいのサ!!」


『はァ? んなもんとっととログアウトすれば……』


「ノンノン♪」


チッチッチと指を振る。


そして……攻撃。


『「!?」』


不意に、巨大なエネルギーのような『なにか』が通り抜ける。


不気味な笑みを浮かべるぬいぐるみドールが、大鎌を構え言い放つ。


「『キミに』住ませて貰うのサ!! キミと一緒に遊ぶのサ!! みんなまきこんで遊ぶのサ!!!!」


『住まっ……!?』


「なるほど……とりあえず、あんたが良くないものだってのはわかったよ」


先の戦いで、取り戻した『怒り』が睨みつける。


『うっわぁ……こいつアレだ! 脳ミソに寄生する悪霊的なヤツだ!! とりあえず逃げろナナミ!!』


底知れぬ悪寒に、アヤヒが慌てて撤退を促す。


しかし遅い。


「それがさーアヤヒ……できないんだよねー。さっきからためしてるけど、ログアウトコマンドが消えてる」


「はァ!? んだそりゃ、ガチの妖怪かよアイツ!?」


ヒッヒッヒと笑うぬいぐるみ……さっきの攻撃でなにかしたようだ。


なんの冗談か。ログアウト不可は創作だけにして欲しい、と思いつつ問う。


「なに考えてるかよくわかんないけど……悪さするならヨウシャしないよ? さっさとログアウトコマンドをかえして」


「いーやーデース!! 返して欲しけりゃ遊ぶのさ!! ココロを賭けてボクと遊ぶデス!!」


「……ちぇー」


話が通じない……その上、よくない情報も入って来る。


『おいナナミ……今ヘッドギアを外したんだが、そっちは……』


「もどれてない。こりゃ、頭にもどした方がよさそうだね」


「クソッ!!」


ギアを物理的に外してもダメ。


どうやらナナミは……大昔、この世界にもあった事件と同じメに遭ってるらしい。


すなわち『精神の幽閉』。


そういえば、目の前の彼も出れないと言っていた。


……となるともう、道はひとつしか無さそうだ。


「オーケイ、わかったフシギ悪霊。……あんたはゼッタイぶっ倒す」


「ヒッヒッヒ!! こちらのセリフです!! オマエもトクサツのよーに『床ペロ』させてやります!!!」


お互い、カードを取り出して。


聖戦の盤上にて。


なにやらとんでもない敵と向き合って。


合言葉を。


「「──────────疾走に情熱を!!」」




ナナミ ゴールまで残り……20


ジョーカー ゴールまで残り……20




ゲームは、ナナミの先行で始まる。


「おれのターン、ドロー。 《エアリアル》の効果で手札を交換して……ターンエンド」




《エアリアル》✝

ギア1マシン スカーレットローズ

POW3000 DEF3000

【このマシンを疲労/手札一枚を捨てる】山札の上五枚を確認し、アシスト一枚を手札に加えてもよい。残りは山札の下に置く。




らしくない大人しさ。


ナナミ自身も困惑していた。


(む……手札も引きも死んでる。とりま次のターンまで待って……)


「へっへっへっ! ボクのターンドロー!!! ギア1の 《英雄胚 ベイビー・ジャック》の上に、ギア2の 《爆速切開 キルジャック》を載せちゃいます!!」


「……えっ」


見覚えのないカード達。


未知を知る負荷はかけてきたが、今度は自分が受ける番のようだ。




《爆速切開 キルジャック》✝

ギア2マシン ヘルディメンション【ドールズ】

POW5000 DEF5000

【登場時/場札二枚を疲労】相手の手札を見ないで一枚選んで捨てる。




「キルジャックの効果でランダムな手札を捨てさせ……さらに手札から《抹殺演技 スクラップル》!! 手札を一枚捨てて下さいナ!!」


「むむ……」


いやらしい戦法。


おそらくこのデッキ相手だと、長期戦を強いられそうだ。




《抹殺演技 スクラップル》✝

ギア2アシスト ステアリング【ドールズ】

◆相手は自分の手札を一枚選んで捨てる。




この時点で、お互い手札は4枚。


だが相手の場にはギア2が残り……見合った追撃も来る。


「そしてボクはターンエンド、この時初期マシン 《ベイビー・ジャック》の効果で、相手が捨て札にした手札の枚数分走行しますネ!!!」


「むぅ……しんどいね」




《英雄胚 ベイビー・ジャック》✝

ギア1マシン ヘルディメンション【ドールズ】

POW6000 DEF 0

【ターン終了時】相手がこのターンに捨て札にした枚数と、同じ数の目盛りだけ走行する。

【常時】このマシンの上に置かれたマシンは、真上に書かれた能力を得る。




ジョーカー ゴールまで残り……20→19→18




キルジャックが、ベイビー・ジャックの効果を得て走行。


この記述……後で思わぬ化学反応を起こしそうだ。


「……なるほど。そーゆーデッキね」


─────デッキの名を【ドールハンデス】。


1ターンでどれだけ走るかより、時間をかけてじっくり追い詰めるデッキタイプだ。


一息に二枚のカードを捨てられ、ナナミの手札は4枚まで減ったが……このあとのドローで5枚に戻るハズ。


現状、特に問題ないが……?


(あんまり相手したことないタイプのデッキだね……『環境外』かな?)


そう思うも、油断はできない。


初見のデッキは、何をしてくるか読めず対応を誤るのが鉄板なのだ。


「おれのターン、カードドロー」


未知を埋めるのもまた成長。


旅立つ前に、慣らしていくのも悪くない。


そう思い、動く。


動く!!


「……行くよ。ギア1のエアリアルの上に、ギア2の 《ダブルギア・アイギス》を、その上にギア3の 《危険駆 キライン》をだすよ」


「ホウ!!!」




《ダブルギア・アイギス》✝

ギア2マシン スカーレットローズ

POW3000 DEF3000

【ダブルギア1(このマシンはギア1としても扱う)】

【このマシンの上に置かれたカードの退場時】かわりに、このカードを捨て札にしてもよい。



《危険駆キライン》✝

ギア3マシン ステアリング【ロード】

POW3000 DEF3000

【登場時/場札三枚を疲労】山札の上から3枚を見て、一枚を手札、一枚を裏返してアシストゾーンに置き、残りを捨て札にする。




「危険駆キラインの効果、山札の上三枚を見て、捨て札と裏アシスト、手札にそれぞれ割り振るよ」


展開しながらリソース補給。


依然状況は芳しくないが、まあやりようはある。


応援席から声援が飛ぶ。


『ナナミ!! 帰ってきたらアッツアツのパイで出迎えてやる!! そんなバケモンの挙動するヤツにエンリョはいらない……全力でぶっ倒せ!!』


「ん。ありがとりょーかい……がんばるよ」


激励に対し軽く答える。


仮にも命がかかっているハズなのだが……まだ実感が追いついてないのだろうか。


────少しだが、ココロが高揚する自分がいる。


どうにも、ナナミにとってはカードゲームに全てがかかった状況が心地よいらしい。


が……ぺちんぺちん、と。


自分の頬を叩き、持ち直す。


(……だーめ。よっぱらうのはハタチからだよ)


見失わない。


言い聞かせる。


正気を保たねば、この狂気の塊には勝てないだろう。


「イイネ、イイネ!! でもまだ、もっとスゴイ遊びを見せておくれ!!!」


「……いわれなくても」


思い直し、ナナミは改めて目の前の怪物ジョーカーに相対する。






カードゲームは『ココロの染め合い』。


そういう意味では……目の前の怪物のような者こそが『天敵』になるのかもしれない。

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