episode6.5 ジョーカーファイト
電子の底よりの悪夢! vsジョーカー前編
【注意︰読み飛ばし推奨】
本エピソードは幕間にあたる話です。初見の方はひとまずepisode7に飛ぶことをおすすめします。
ただし本編と繋がってはいますので、そちらを読んだあとに戻ってくるといいかも知れません。
よろしいですね?
◆
それは、彼らが旅立つほんの少し前の出来事。
「おい、そのVRギア……なんか光ってないか?」
「あ、ホントだ……」
よいよいとの決戦時に送られた例のVRギアだが……後日、花家グループ名義の便箋で「もうソレあげます」との連絡があった。
発信機でも入ってるか……と警戒してみたが、どっちみちみんなスマホ持ってるので無駄だと結論付けた。位置情報なんて簡単に知れるだろう。
ガサゴソと説明書を漁ってみると……序盤数ページですぐ答えが出た。
「ん、メール着信…………? こんな機能まであるんだ」
「ふむふむ? この発光パターンだと……『VRチャットのお誘い』だぁ? ドコの誰だよこのギアのアクセス権持ってきたの」
「さーってね……っと」
言いつつ、しれっと装着を試みる。
「ちょっオイオイ……行く気か? こんなのどーみてもアヤシイぜ?」
「そうだけど……シンパイなら……『観戦』すればいいよ。あの時みたくさ……」
「……そんな問題かァ…………?」
気安く言ってのけるナナミに、半目でアヤヒが返す。
きょうびVR空間へのダイブは、子供でも持てるケータイに500円(税抜き)のガワを取り付けるだけでなんとかなる。同じ空間を見るだけなら、専用のアプリを入れるだけでも行けるのだ。
それがどうした、とでも言いたげな彼女に、なんてことないようにナナミは。
「まあほら……これもケイケンだよ。コケツにいらずんば……ってね。それにこれが花家グループの罠だったら、おれはとっくに終わってるでしょ?」
「う……うーん……?」
まあ確かに……と思いかけ当惑。
アヤヒも少し迷ったが……折れる方が早かった。
「わったよ……危ないと思ったらすぐ止めるからな?」
「ん。よろしく」
あくまで、ちょっと見に行くだけ。
怖いもの見たさは今に始まったことでは無い。
恐れも薄く、二人は電子の海へと飛び込んでいく。
◆
ちゃぽん…………と水中に降りた感覚。
水の底に着き、水気が晴れ……徐々に重力を取り戻していくと、よいよいと戦った時のような
だが、空気感が違う。
「…………なに、ここ?」
『さぁ……真っ黒くろすけの空間だなー』
よいよいと戦った時より……更に深い、闇色の場所。
ナナミは事前スキャンした現実の姿そっくりに出てきたが……観戦中のアヤヒはモニターと羽が付いた、サッカーボール大の機械で浮いてる格好だ。
一本道。どこか湿り気を感じ取れる、紺色の闇が輝くような矛盾の空間。
その奥から。
「────オンヤァー? ダレか遊びに来てくれたようデスね!!!!」
『「…………?」』
響いた声の主……それは奥の小部屋に浮いていた。
それは小さなぬいぐるみ……か、それに取り付いた妖怪に見えた。
アヤヒよろしく代わりのアバターを使ってる……のとも違う様子だ。
「待ってたよ、待ちくたびれたね!! さあさ遊びましょ!! ボクと一緒に遊ぶのさ!!」
「……だれ、あんた?」
「ボクはジョーカー!! おしゃべりダイスキな『お人形さん』サ!!」
ジョーカーと名乗ったおかしなぬいぐるみは、中に骨でも入ってるようにゴキリゴキリと動き出す。
「ボクはここから出たくてたまらないのさ! キミらに出してもらいたいのサ!!」
『はァ? んなもんとっととログアウトすれば……』
「ノンノン♪」
チッチッチと指を振る。
そして……攻撃。
『「!?」』
不意に、巨大なエネルギーのような『なにか』が通り抜ける。
不気味な笑みを浮かべるぬいぐるみドールが、大鎌を構え言い放つ。
「『キミに』住ませて貰うのサ!! キミと一緒に遊ぶのサ!! みんなまきこんで遊ぶのサ!!!!」
『住まっ……!?』
「なるほど……とりあえず、あんたが良くないものだってのはわかったよ」
先の戦いで、取り戻した『怒り』が睨みつける。
『うっわぁ……こいつアレだ! 脳ミソに寄生する悪霊的なヤツだ!! とりあえず逃げろナナミ!!』
底知れぬ悪寒に、アヤヒが慌てて撤退を促す。
しかし遅い。
「それがさーアヤヒ……できないんだよねー。さっきからためしてるけど、ログアウトコマンドが消えてる」
「はァ!? んだそりゃ、ガチの妖怪かよアイツ!?」
ヒッヒッヒと笑うぬいぐるみ……さっきの攻撃でなにかしたようだ。
なんの冗談か。ログアウト不可は創作だけにして欲しい、と思いつつ問う。
「なに考えてるかよくわかんないけど……悪さするならヨウシャしないよ? さっさとログアウトコマンドをかえして」
「いーやーデース!! 返して欲しけりゃ遊ぶのさ!! ココロを賭けてボクと遊ぶデス!!」
「……ちぇー」
話が通じない……その上、よくない情報も入って来る。
『おいナナミ……今ヘッドギアを外したんだが、そっちは……』
「もどれてない。こりゃ、頭にもどした方がよさそうだね」
「クソッ!!」
ギアを物理的に外してもダメ。
どうやらナナミは……大昔、この世界にもあった事件と同じメに遭ってるらしい。
すなわち『精神の幽閉』。
そういえば、目の前の彼も出れないと言っていた。
……となるともう、道はひとつしか無さそうだ。
「オーケイ、わかったフシギ悪霊。……あんたはゼッタイぶっ倒す」
「ヒッヒッヒ!! こちらのセリフです!! オマエもトクサツのよーに『床ペロ』させてやります!!!」
お互い、カードを取り出して。
聖戦の盤上にて。
なにやらとんでもない敵と向き合って。
合言葉を。
「「──────────疾走に情熱を!!」」
ナナミ ゴールまで残り……20
ジョーカー ゴールまで残り……20
ゲームは、ナナミの先行で始まる。
「おれのターン、ドロー。 《エアリアル》の効果で手札を交換して……ターンエンド」
《エアリアル》✝
ギア1マシン スカーレットローズ
POW3000 DEF3000
【このマシンを疲労/手札一枚を捨てる】山札の上五枚を確認し、アシスト一枚を手札に加えてもよい。残りは山札の下に置く。
らしくない大人しさ。
ナナミ自身も困惑していた。
(む……手札も引きも死んでる。とりま次のターンまで待って……)
「へっへっへっ! ボクのターンドロー!!! ギア1の 《英雄胚 ベイビー・ジャック》の上に、ギア2の 《爆速切開 キルジャック》を載せちゃいます!!」
「……えっ」
見覚えのないカード達。
未知を知る負荷はかけてきたが、今度は自分が受ける番のようだ。
《爆速切開 キルジャック》✝
ギア2マシン ヘルディメンション【ドールズ】
POW5000 DEF5000
【登場時/場札二枚を疲労】相手の手札を見ないで一枚選んで捨てる。
「キルジャックの効果でランダムな手札を捨てさせ……さらに手札から《抹殺演技 スクラップル》!! 手札を一枚捨てて下さいナ!!」
「むむ……」
いやらしい戦法。
おそらくこのデッキ相手だと、長期戦を強いられそうだ。
《抹殺演技 スクラップル》✝
ギア2アシスト ステアリング【ドールズ】
◆相手は自分の手札を一枚選んで捨てる。
この時点で、お互い手札は4枚。
だが相手の場にはギア2が残り……見合った追撃も来る。
「そしてボクはターンエンド、この時初期マシン 《ベイビー・ジャック》の効果で、相手が捨て札にした手札の枚数分走行しますネ!!!」
「むぅ……しんどいね」
《英雄胚 ベイビー・ジャック》✝
ギア1マシン ヘルディメンション【ドールズ】
POW6000 DEF 0
【ターン終了時】相手がこのターンに捨て札にした枚数と、同じ数の目盛りだけ走行する。
【常時】このマシンの上に置かれたマシンは、真上に書かれた能力を得る。
ジョーカー ゴールまで残り……20→19→18
キルジャックが、ベイビー・ジャックの効果を得て走行。
この記述……後で思わぬ化学反応を起こしそうだ。
「……なるほど。そーゆーデッキね」
─────デッキの名を【ドールハンデス】。
1ターンでどれだけ走るかより、時間をかけてじっくり追い詰めるデッキタイプだ。
一息に二枚のカードを捨てられ、ナナミの手札は4枚まで減ったが……このあとのドローで5枚に戻るハズ。
現状、特に問題ないが……?
(あんまり相手したことないタイプのデッキだね……『環境外』かな?)
そう思うも、油断はできない。
初見のデッキは、何をしてくるか読めず対応を誤るのが鉄板なのだ。
「おれのターン、カードドロー」
未知を埋めるのもまた成長。
旅立つ前に、慣らしていくのも悪くない。
そう思い、動く。
動く!!
「……行くよ。ギア1のエアリアルの上に、ギア2の 《ダブルギア・アイギス》を、その上にギア3の 《危険駆 キライン》をだすよ」
「ホウ!!!」
《ダブルギア・アイギス》✝
ギア2マシン スカーレットローズ
POW3000 DEF3000
【ダブルギア1(このマシンはギア1としても扱う)】
【このマシンの上に置かれたカードの退場時】かわりに、このカードを捨て札にしてもよい。
《危険駆キライン》✝
ギア3マシン ステアリング【ロード】
POW3000 DEF3000
【登場時/場札三枚を疲労】山札の上から3枚を見て、一枚を手札、一枚を裏返してアシストゾーンに置き、残りを捨て札にする。
「危険駆キラインの効果、山札の上三枚を見て、捨て札と裏アシスト、手札にそれぞれ割り振るよ」
展開しながらリソース補給。
依然状況は芳しくないが、まあやりようはある。
応援席から声援が飛ぶ。
『ナナミ!! 帰ってきたらアッツアツのパイで出迎えてやる!! そんなバケモンの挙動するヤツにエンリョはいらない……全力でぶっ倒せ!!』
「ん。ありがとりょーかい……がんばるよ」
激励に対し軽く答える。
仮にも命がかかっているハズなのだが……まだ実感が追いついてないのだろうか。
────少しだが、ココロが高揚する自分がいる。
どうにも、ナナミにとってはカードゲームに全てがかかった状況が心地よいらしい。
が……ぺちんぺちん、と。
自分の頬を叩き、持ち直す。
(……だーめ。よっぱらうのはハタチからだよ)
見失わない。
言い聞かせる。
正気を保たねば、この狂気の塊には勝てないだろう。
「イイネ、イイネ!! でもまだ、もっとスゴイ遊びを見せておくれ!!!」
「……いわれなくても」
思い直し、ナナミは改めて目の前の
カードゲームは『ココロの染め合い』。
そういう意味では……目の前の怪物のような者こそが『天敵』になるのかもしれない。
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