第44話 惜別ー極地への旅立ちー【第一篇ー完】

「────準備はいいかい……みんな」


それは初夏か晩夏か。


決して寒くなく、さりとて全てを焼き払うほどでもなく。


暖かな陽射しが、戦士たちの旅立ちを照らす。


「うん」


大荷物を引っさげ、夜明けの目覚めを背負う戦士たち。


その選別は、数日前に済んでいた。







「ジンイン、センベツ?」


「ああ。ナナミ君とアヤヒ君……僕は確定として、誰が行って誰が残るか……」


いつかの夜の作戦会議。


重要な割り振りだった。よいよいの協力を得たことで資金面は何とかなったが……やはり旅路をゆく人員は限られる。


ここを間違えば全滅か、逆に帰る場所がなくなりバッドエンド確定だ。


「言っておくが、俺はこの街を離れなれん」


真っ先に白旗をあげたのは弓太朗だ。


「流石に俺と店長がどっちも離れると、戻った時にこの店が残ってるかわからん。……それに、大輔を待たなきゃいかんしな」


「あー……アレ仮釈放だったんだ」


「ハハハ……まあな。そりゃあ無罪放免とはいかんだろう? これからじっくり裁いてもらうさ」


「たしかに……ね。じっくり待つといいよ」


罪は償わねばならない。


呆れるように受け答えるなか、頼りのよいよいも渋い顔で打ち明ける。


「……実はにゃーも、同行できそうににゃい」


「えっ……」


「ほれコレ。花家グループからのお誘いにゃ」


差し出されたのは……もはやドラマの中の存在と化した、真っ赤な便箋。


よいよいを呼びつける、血みどろの号令だ。


「エキシビションマッチ……大会の運営側にご招待されてにゃー」


「うっわぁ……そういうことしちゃうんだ」


明確な意図。


ナナミ側の戦力を削ぐため、よいよいは大仕事へと引っ張られて行ったのだ。


「TCGインフルエンサーとして、この案件は断る訳にはいかにゃい。いかにゃいが……まったく。このゴジセイに、真っ赤な召集命令ときた。まったく、自分を独裁政府かなにかと思い込んでるんかにゃ?」


「連中は……今が西暦何年だと思ってやがる?」


「さあにゃー? もしかしたら歴史関係なく、自家毒で参ってるのカモにゃ?」


不穏。


よいよいを逃がした事がもう怪しい。


まるでナナミたちだけは「生きて返すつもりはない」と宣告されているような……


いや、あるいは彼も。


「よいよい……行って大丈夫なの?」


「ダイジョーブ。こちとらもーすぐ銀の盾持ちにゃ。もー流石に手出しはせんっしょ?」


気安く微笑む。


ここしばらくの話題性に加え、大型案件が舞い込んだことでついに彼女の登録者は10万の大台を越えた。


そのため、衆目は十二分に集まっていたが……戦力として数えられない事には代わりない。


付け加えるように。


「わかっていると思いますが、我々『にゃんでっと』は自分の店の運転と防衛で手一杯ですので」


「勿論です」


よいよいの相棒・小日向に返答するが……ナナミ側の戦力層は思ったより薄いと思い知らされる。


「……だがそうなると、かなり厳しい戦いになるかもしれない。正直、会場までは彼の影に隠れて比較的安全に進めると思っていたからな……」


「もし花家グループが全力で妨害できるなら、さすがに三人ぽっちは危なくねーか?」


「むぅ……」


ちらり、道連れ候補を見やる。


危険な旅路……あとの頼りは、彼らだけだ。


「クリス・マス・キャロル……どうする?」


「ああ、わたしはここに残って働かないと……」


繰り返しだが、罪は償わねばならない。


彼女にとってそれは、真面目に働き与えた損害を賠償することだろう。


…………だが。


「……いいや。行ってこい、キャロル」


「え…………」


予想外の位置から反論があった。


明確な『意志』がそこにはあった。


「マス……?」


「見失うな。彼らが居なくなっては償いも届かない」


まっすぐな視線。


ナナミ以上に壊れたはずの彼が、真っ当な『意見』を述べる。


「俺の意志力じゃ、ついて行けそうにないし……償えばからこそ、お前は行くべきなんだ。あの三人にないものを、お前は持ってる気がする」


「マス……」


「……ったくよー」


じれったい空気……二人の意志に応えるように、リーダーも立ち上がる。


「じゃあ、俺もでばらせてもらうぜ?」


「クリス」


「結局、オレらもよいよいってのも花家グループに良いように操られてたんだろ? してやられた借りは、リーダーのオレが返さないと……な?」


仮にも、旗を立ち上げた者の責任感。


そして、そもそものハナシ。


「それにだ……そもそもカードゲームは、オレたちコドモの戦場だろ。オトナに荒らされっぱなしでいられるかってんだよ!!」


「いえてる。いっしょに取り戻しに行こう、クリス」


「おう!!」


宣言とともに、硬い握手が交わされる。


地獄の沙汰も気持ち次第。


結束が深まった所で。


「……まあ、こんなところだろう。手配は任せていいんだね、よいよい君」


「はいにゃー!!」


こうして、全ての準備は整った。










朝日を背負う。


大いなる旅立ちを祝うように、煌々と輝く日を背負い。


今ここに、旅立つ五人は出揃った。


「「「「「行くよッ!!!!!」」」」」





バァーーーーーーーーン!!!!!






烏丸ナナミ……使用デッキは【連撃ティアードロップ】。先週はついに支配率1%台に落ち込んだ、旧環境の遺物。しかし変則的な戦術を使いこなす決意が、その切れ味を唯一無二のモノにする!


アヤヒ……使用デッキ不明。しかし本気の彼女は相当強いと皆がおもっている。覚悟の強さでは、ナナミさえも上回る!!


戌井……使用デッキ【鉄壁ブルドーザゴン】。環境の頂点からは落ちるも、その力は未だ健在。『あの日』以来誰にも負けないと鍛えたその怪力は、ままならない事態を突き抜け切り開く!!


クリス……使用デッキ【ハスターDESTINY】。環境トップ争いからは一歩下がっているものの、その地雷っぷりはとんでもないレベルだ。幼い身ながら責任感もすごいぞ!


キャロル……使用デッキは【赤緑レメディ】。新環境の三すくみの一角を担う【豹変速】を使ったデッキ。可愛いナリして大人の世界をたっぷり知ってる。奇襲ならお手の物だ!!




かくて戦士は街を立つ。


彼ら五人は果たして、どのような旅を見せてくれるのだろうか。


妨害に備え、早めの日程で出る所だったが……


「おーい、みんにゃーーーー!!!」


「??? よいよい?」


だだっと駆け出る……他の従業員たちも一緒に、仕事着でだ。


なんで? と思っていたが……


「にゃーはあとから追い抜くんだけど! メイド気取っててこれやんないのもどーかって思ってにゃーーーー!!!!」


言うだけ言って、すぅ…………と大きく息を吸い込んで──────────






「「「「「──────────行ってらっしゃいませ、ご主人様にお嬢様ーーーーーーーーッッッ!!!!」」」」」






「…………!!」


「……へっへへ。行ってらっしゃい、だってよ。『行ったら帰って来い』って意味だゼ?」


その意味を込めているのだろう。


(おちおち死ねない……そーゆー事でしょ)


力いっぱい、全力で腕を振るよいよいや小日向、拠点を守る同士たちに向けて。


「…………うん、行ってくるよ……!!」


しっかりと返す。


帰る場所がある。


これほど頼もしいことは無い。


帰る大地が強ければこそ。


踏み出す足は、重く強く前へと進むのだ。










第一遍「サイアクの先を目指す旅のハジマリ」……完

































一方、ある夜にて。




「────ウイニングラン。 《■、■■ノ■■ヲ■■シーリアルウエイター》でゴール!!」


「う、うわぁああああああああああ!!!!」




Archer ゴールまで残り……5→0=GOAL!!!!




「決まったァーーーー!!! サバイバルフェスの優勝はArcher選手だァーーーー!!!」


鳴り止まぬ声援。


高まるビート。


漆黒の空を昼に変えんばかりの輝きが、湯水のような財を以て練り上げられていた。


「さあさ!!! 歴代トップクラスの開催規模を誇る『SPGPスタンピードグランプリ24thトゥエニフォース』直前スペシャル!!! サバイバルフェスの熱気に加え、更には当日のエキシビションマッチの決定に現場は大盛り上がりとなっています!! 状況は現場より桀紂院けっちゅういんあきらがお送り致しております!」


近未来的な外観を背負う場所。


奥に見据える巨大会場……目的の大会……『STGPー24th』の舞台の前で、前夜祭的に開かれたのがこのサバイバルフェスだ。


その前に設けられた小会場……その中央で最後の参加者を下し、勝者として立つのは、花のような被り物をした少年。


パンクな出で立ちだ。開いた唇のようなプリンがされたインナーを着込んでるが、ジャケットを羽織ってることで上唇がハート型にも見える。パリッとしたジーンズも相まって、ストリート系の仕上がりとも言えるが……いくらかの鎖のアクセサリーがやはり異質さを表していた。


彼が、50人以上居た有象無象を制し頂点に立った逸材。


Archer。


ナナミたちが向かうべき宿敵……かの日よりのターゲット。


そこへ、小型のエアロバイクのようなもので接近しつつ実況・桀紂院はインタビューする。


「さてさて注目すべきはやはり《天才》Archer選手!! 手ずから仕上げた【奪取ウエイター】で公式大会を、そして先刻のサバイバルフェスを制した彼に話を聞いてみましょう!!」


「ええ……最近推してる配信者がいましてね」


大分、こなれた様子で応対する。


いつかの新弾発売日よりも慣らしてきた。成長してるのは、なにもナナミの側だけでは無い。


「彼女……って呼んでいいのかな? 最近伸びてるようなんで、当日会えるのを楽しみにしていますね」


「ふむ? 具体的にどなたで……」


「それはまあ、おいおいってコトでね? ……ただ、確実に逢えると確信はしてるんです」


はぐらかし、だまくらかし。


黒に近いグレーでひらひら踊る。


「ただ……会う時が来たら、向き合って一戦申し込むつもりです。この……」




華帝奪取かていだっしゅ キング・ティアード》✝

ギア4マシン マギアサークリット【ロード】

POW 0 DEF 0

【登場時】相手の敷き札を全て捨て札にする。その後、同じ枚数まで自分の山札の上から選び、裏のままこのマシンの下に敷く。

【常時】このマシンのPOWとDEFは、このマシンの敷き札一枚につき+3000される。

【???】?????????????????????????????????。




「この 《キング・ティアード》と……【豹変速】の 《シーリアルウエイター》の力で。盛大に出迎えてあげますよ」


「素晴らしい意気ですッ!! フェス優勝者の彼には、GPのシード権とエキシビションマッチ担当権が与えられます。皆々様方、当日をしかとご期待ください!!!!」


帽子の奥、自信に満ちた視線が隠される。


底知れぬココロが、逆光の奥で静かに燃えていた…………






そして運命は装填される。


段重ねの権利は平等。


かの日の宿敵との対面は、そう遠くない所まで迫っていた。






to be continued…………

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