狂える手数の抹殺者 vsジョーカー中編

気力を尽くした熱戦は続いていた。


ただし、相手の思うがままに。


「手札から 《ブラッド・エース》を出して……そのまま走行。 効果でそれぞれの走行に+1の補正が乗るよ」


「ヒッヒッヒッ! ムダなコトを!!」




《ブラット・エース》✝

ギア1マシン スカーレットローズ

POW 0 DEF 0

【常時】自分のマシンの走行距離を+1する。



ナナミ ゴールまで残り……20→18




「ぬるいですよ、ぬるいですね!! 効かないですですその程度!!」


「むぅ……」


あまりに終わってる走行距離。


本来このターンなら、ゴール手前くらいまでは進んでないと嘘だ。


それがこのザマときた。次のターンが来たとしても、まったく勝ちきれる気がしない。


(なるほど……コントロール系相手だと、こーゆーコト起きるんだ)


ビート環境だと全く気づけなかった。


リソースの奪い合いが、ここまで対面を縛り付けるとは。最善のムーブをぶつけ合って雌雄を決する……みたいなゲームばかりしていた身からしたらまったくの未知だ。


もう、このターンにするべきことがない。


「……ターンエンド」


「おおーっと、ここで 《ベイビー・ジャック》の効果と 《人形部隊の最前線ドールズフロントライン》 を発動! 走行とサーチを一緒に行います!!」


「……ッ!?」


だが相手は容赦なく動く。


未知の手数で遠慮なく。




ジョーカー ゴールまで残り……18→17




(おれが自発的に捨てたカードまで……か。いや、それよりも)


ジョーカーはそれだけで済まさない。


不意を撃つ、未知の手数がナナミを苦しめる。




人形部隊の最前線ドールズフロントライン》✝

ギア2アシスト【設置】 ヘルディメンション【ドールズ】

【自分のターン開始時】捨て札から【設置】ではない【ドールズ】コアを持つアシスト一枚を手札に加える。




早い話、無限のリソース源。


場にあるだけで、タダで墓地回収を続ける。


(相手に負担をかけながら、自分は無限リソースを得る……ね)


やってる事はかなりエグい。


こうなるなら、一旦顔面を叩くべきだったかもしれない。センターのギアが下がれば、発動も許さなかったハズなのに……


「ボクのターン、カードドローさ!」


後悔は先に立たない。


ターンが移る。


猛攻が始まる。


「ここで《人形部隊の最前線》の効果、《抹殺演技 スクラップル》 を回収します!! トウゼン即時使って……アナタに手札を一枚捨てさせます!!!」


「くっ……」


無作為に一枚、ナナミの力が削ぎ落とされる。


残る手札は二枚。


ジリジリと負担が響くが、ここまでなら問題なかった。


だが。


「そして手札から、ギア3の 《複製魔境ストレンジ・ジャック》を経由して……おいでなさいませ!! 《切開事変 リーパー・ザ・ジャック》!!」


「……!?」


滑らかに円滑に。


かつ万力のような詰め方で。


揺るぎないエースカードが、ついに君臨する。




《複製魔鏡 ストレンジ・ジャック》✝

ギア3マシン ヘルディメンション【ドールズ】

POW10000 DEF5000

【登場時】場のこのマシン以外の【ドールズ】コアを持つカード一枚を選び、山札を見る。その中から選んだカードと同名のカードを一枚選んで手札に加える。



《切開事変 リーパー・ザ・ジャック》✝

ギア4マシン ヘルディメンション 【ドールズ】

POW14000 DEF11000

【登場時、または自分ターン開始時】相手の手札を見て、そのうち一枚を選んで捨てる。こうして相手の手札が二枚以下になったら、

【ターン終了時】相手の捨て札に置かれたカード一枚につき、1走行する。

【常時/相手の手札が二枚以下】このマシンはマシンゾーンを離れない。




「まずは《ストレンジ・ジャック》の効果で《ベイビー・ジャック》を増やします!! そ、し、て……《リーパー・ザ・ジャック》の効果でキミの手札を『見てから』ハンデスするです!!!」


「……そーゆーコトしちゃう?」


見てからのハンデス。


このカードゲームでは最もキツイ行動のひとつだ。


それをギア4で……しかも完全耐性引っさげて、繰り返しターンを跨いで行うときた。


いや、鬼かと。


(あのハンデスお化け……ブルドーザゴンでもギア5だってのに、これと来たら)


「さあ、見せるです手札。捨てさせるですボクに!!」


「……はい、どーぞ」


「ホウホウ……おーおーいいの持ってるネ!!! もちろん 《豪鬼の狩り手 ルイズ》を捨てさせるです!!」


「……ですよねー」


ルイズ。


持ってる間は負けない、とさえ評された【ゴールキーパー】の原点にして頂点が、こうもあっさりと。


(ゴールキーパーの弱点はハンデス……か。さぞやりやすいだろうさ)


「いざ走行! 《ジャーニー・ジャック》と 《ベイビー・ジャック》で5走行です!!」


このゲーム、手札を削ればだいたいの受けは消える。


多少貧弱な攻め方だろうと、止める術は無い。




ジョーカー ゴールまで残り……17→13→12




「ターン終了……と一緒に同じ効果が三枚分。《リーパー・ザ・ジャック》 と 《ジャーニー・ジャック》二枚の効果でゴールに突き進むです!!」




ジョーカー ゴールまで残り……12→6




「……………………えっぐ」


あっという間に死の淵へ。


(……ちっきしょ。やるじゃんハンデスも)


盤面は背水。


残る手札はたったの一枚。


事態を整理してみるが、不利な


(リソースゲームが終わってる。相手が早いんじゃなくて、こっちがすっとろくさせられる……)


こんな戦法があったのか、と感心する。


「おれのターン、ドロー……」


5ターン目。


必殺のターンに入っても、まるで勝てる気がしない。


これが【ドールハンデス】。


(ぜんぜん手札が足りない……こんなのって、こんなのって…………)


未知の世界。


それを知ったナナミは。


ナナミは。






(たまらない。ぞくぞくくるのが、とまらない……ッ!)






震えたつ、ハジメテの感覚。


戦いでなにかを得るのではなく。、戦いそのものに意味を見出す。


懐かしい……喜怒哀楽が揃っていた頃の感覚。


当たり前に、カードゲームを楽しむキモチ。


「もっとだよ……もっと見せて。おれにその先を」


「ヒッヒッヒ!! 見せるです、見せてやるです、だからとっととターンを返すです!!!」


挑発はもうシカト。


思考を回す。


さっき、最後の手札を狩り取れたのにそうしなかった。


そこには必ず理由がある。


(ナニを優先した……カレは何を怖がってる? 一番困るコトって何? あるいは、一番求めてることは?)


行動のひとつひとつが大事なヒント。


一個たりとも見逃さない。


「おれは手札から二枚目の 《危険駆 キライン》を使う。デッキトップ三枚を見て、手札、裏向きアシスト、捨て札に振り分ける」


「……おんやぁ?」


手順よくリソースを回す。


再び二枚になった手札、そのうえで戦術を練る。


(ゼンテイとして……おれはこのターン、手札を残すだけムダになる)


次のターンに向かえば、必ずジョーカーは手札を全部枯らしてくる。


ならば、手札ゼロでターンを終えるのが理想。


出し惜しみはナシだ。


(ここで使い切る。なけなしのリソース全部……!)


決意。


二枚のうち一枚を、躊躇いなく切り出す。


「ギア3のキラインの上に……来て。ギア4 《無限鉄拳 ティアードロップ》!!」


「…………ホウ!!」




《無限鉄拳ティアードロップ》✝

ギア4マシン スカーレットローズ【ロード】

POW15000 DEF10000

【場札5枚を疲労】このターン、このマシンは「【このマシンのバトルでの勝利時】このマシンを回復してもよい。」を得る。

【このマシンによる相手マシンの破壊時】このマシンで2走行する。




かくて切られる無二の相棒。


熱戦は、クライマックスへと近づいていた。









「これだ! アンタなら何とかならないか……!?」


「と、言われてもな……第一、こんな不具合聞いたこともないぞ」


一方のリアル。


助けを求めて店長に声をかけたアヤヒだったが、その反応は芳しくない。


とりあえず、なにか判断材料にならないか……と店長は問う。


「一応訊くが……アクセスしてきた側はなんと名乗っていたんだい?」


「え? なんか……『ジョーカー』って名乗ってたが」


「……………………はい?」


名前を聴くなり、店長の顔がみるみる青ざめる。


「…………どったよ店長?」


「なっ……ジョーカー、だって……んなバカな!?」


「……は?」


まるでこの世の終わりのような顔で驚く。


当惑の理由は、果たして……?

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