第41話 ナナミvs■■■■その⑤ マザーズ・オブ・ラブ

「……今手札何枚?」


「さあにゃ……何枚だっけ?」


疲労困憊。


非プレイヤー目線なら……カードゲームに体力は不要だろうと思うかもしれないが。実際にやるとそんなことは無いと痛感することになる。


カードゲームとは、脳を限界まで使う遊びだ。


お互いもう、目の前の情報を処理するのも苦労していた。


それでも。


頂点を駆けるべき二人に、そんな弱音は許されない。






「「────手札から、ギア1アシスト」」







二人は対等な権利を握って戦っている。


「《アヤカシの饗宴》を発動。場札一枚を疲労させ、デッキトップ4枚を確認。【アヤカシ】カード一枚を手札に加え、残りを山札の上か下に」


「《屑鉄の採掘》を発動。手札一枚をコストに、デッキトップ四枚を確認。その中のギア1を好きなだけ回収し、残りは山札の下に」


まっすぐに向かい合う。


お互いに、最後の撃ち合いに向け手札を整える。


いいや、よいよいの目当ては手札ではない。


「……デッキトップに 《ネビルシュート・火車・ドラゴン》を仕込んだね」


「にゃっはは……手抜きはナシにゃ」


今更、何を手札に加えたかなどどうでもいい。


用があるのはデッキトップの内容だ。




【常時】場のこのマシンはギア3としても扱う。また、+5000




もはや神経衰弱。


この後に出す最後の切り札のため、それを強くするカードを仕込む。


……と、ここでまた通信が入る。


《にゃー……冒険の敵は『母』だと言うケド》


コレより繰り出す切り札マザーズに思いを馳せたのか。


純粋に、旅路を阻む自分を定義する。


《だったらにゃーは、オヌシの敵でいい。今日を越えても、その先が過酷すぎるからにゃ》


《……いいや、その考えだったらあんたはおれの味方だよ》


《うにゃ?》


だが、もう敵対は起こらない。


ミュート回線で、二人だけで語らう。


《ダレカがダレカのせいにしたとき、そこに悪が産まれる。自分が償える以上の罪を重ねた時も。ダレカのせいにすればその先へ行けてしまうから》


それは哲学の話。


先刻まで戦っていた登和里……その掲げた論説は、現実から目を背け残酷を深める道だった。


だが、よいよいは違う。


《あんたが登和里ケントみたいに、自分が悪くないと思ってるなら。おれはあんたを敵として見るしかなかった……でもそうじゃない》


硝子の瞳でまっすぐと見据え。


先刻まで暴力を振るっていた『奴ら』と、よいよいの違いを説く。


ただ一人だけに、届く宣誓を。


《あんたが『母親』のロールを振るなら……おれは最後まで味方として見れる。そうすれば……この決着も、アトアジがいいってもんでしょ》


《……にゃるほど?》


察する。


もうナナミは、決着の権利を握っていると。


「……トドメのムーブを引いたにゃ?」


「さぁーてね?」


「いいや。そこまで行ったら、駆け引きもういいにゃーよ」


すっとぼけるナナミを窘め。


促す。






「来い。にきっちりトドメを刺しにゃ……!」






「…………」


響いた地声に、覚悟を知って。


「ターンエンド。さあ、かかってきにゃ!!!」


「もちろん。おれのターン……ドロー」


ターンを譲り受け取り。


動く。


動く!!!


「ギア4のティアードロップの隣に……来て。ギア4 《七宝剣騎ピンクライン》……!」


「にゃ……!!」


サラッと並び立つ。


乱打を極めた、超人たちが。




《七宝剣騎ピンクライン》✝

ギア4マシン ステアリング【ロード】

POW16000 DEF10000

【相手マシンへの攻撃時】このマシンはターンの終わりまで【二回行動】を得る。

【常時】場のこのマシンはギア3としても扱う。また、POW+7000




カードゲームにはサイクルがある。


火車ドラゴンとピンクラインは同じサイクルだが。


同等の力、何をどう使うかは万人の自由だ。


「そして、ギア1のブラッド・エースの上に二枚目の 《ラピット・フルスロットル》を出す。コレをセンターの下に置くことで、ティアードロップを回復させる」


「にゃんと……」




【使用条件・センター以外のギア1マシンの上に置く】

【自身を、敷き札ごとセンターの下へ】センターに置かれたマシン一台を回復する。




「ははは……んなバカにゃ」


先ほども使った力。


遠慮なく払われたコストで、ティアードロップに深く刺さった刀が引き抜かれる。


自由を取り戻した相棒が……暴れる。


「ここからだ。ティアードロップの能力。五枚の敷き札を披露させて【】能力を得る…………ジェノサイドモードだ」




【場札5枚を疲労】このターン、このマシンは「【このマシンのバトルでの勝利時】このマシンを回復してもよい。」を得る。

【このマシンによる相手マシンの破壊時】このマシンで2走行する。




力を得たティアードロップが覚醒する。


決着の宣言だ。


「行くよ。ティアードロップで、アースシェイカーの切れた 《Q・Buster》を撃破……撃破時に、能力で2目盛り走行」


「くっ…………!!」


アースシェイカーはターンが返ってくるまで有効。


それを過ぎれば、容赦なく攻撃対象になる。




WIN ティアードPOW15000vs11000DEF Buster lose……



ナナミ ゴールまで残り……3→1




あとたった1目盛り。


そこへ、最後の追撃が入る。


「そして……ティアードロップと 《ピンクライン》の連携で、ドラゴ・スクランブルを攻撃……!!」


「む……!!」


ドラゴ・スクランブルは殴り合い用のカードでは無い。


当然負けて。


幕引きへ。


「そして……エフェクト・ウイニングラン……再び、ティアードロップの能力。マシンを倒した時、2目盛り走行するよ」


「ハッ……お客さんの前なんでね。格好つけさせてもらうにゃ!!」


あの刻とは事情が違う。


最後まで戦うことに意味がある。


「ゴールキーパー! 《ラバーズラブ・マーモンズ》をセンターへ!」


最後まで、彼は努力をやめない。




《マザーズラブ・マーモンズ》✝

ギア4マシン サムライスピリット【アヤカシ】

POW12000 DEF12000

【ゴールキーパー】

【【ゴールキーパー】による登場時】山札の一番上を見て、それが【ドラゴン】コアを持つならこのマシンの下に置いてもよい。その後、行動中のマシンに攻撃を受けたものとしてバトルする。




「マザーズラブ・マーモンの効果……登場時、デッキトップを確認して【ドラゴン】なら自分の下に置く。当然……仕込んだ火車ドラゴンを下へ!!」


最後の壁。


数多の環境級フィニッシュを……同型ミラーでさえ耐え凌ぐ手順が繰り出される。


「マザーズラブ・マーモンの攻守は、火車ドラゴンの効果で5000上昇! そして行動中のマシンはコイツとバトルにゃ!!」




マザーズラブ・マーモン 参照DEF……12000+5000=17000!!!



high マザーズDEF17000vs15000POWティアード Low……




「………………」


必殺のムーブのハズ


ティアードロップ単体なら倒せ


そもそもティアードロップは寝てし、単騎で強化されたマザーズラブ・マーモンを越えるのは至難のハズ


なのに。


「────おれは一人じゃない」


だってのに、コイツと来たら。


もう、コイツには迷いはない。


「ティアードロップの他に……もう一台。連携中のマシンが居る」


「…………ははっ!!」


もう、よいよいは笑うしかなかった。


チェックメイト。


たゆまぬ努力が繋いだ先に、揺るがない結果が待っている。


優しく佇む、マザーズラブ・マーモンの真正面を突き抜ける。




ティアードロップ 参照POW……15000+16000=31000!!!!



WIN ティアードPOW31000vs17000DEFマザーズ lose……




「…………にゃっはは」


勝てるわけなかった。


ツキはあったが足りなかった。


互いに奇策を尽くした結果、数歩以上の差がついていた。


静かにひび割れ、光に帰りゆくマーモンを後目に。


熱戦の勝利者は、高らかに宣言する。






「──────────エフェクト・ウイニングラン。ティアードロップの能力でゴールだよ」






ナナミ ゴールまで残り……1→0=GOAL!!!!




「…………にゃーの負け、かぁ……………………」


脱力し、電子の宙を仰ぐ。


その前に、細い腕が差し出される。


「……ありがとう。いいバトルだったよ」


「にゃっはは……こちらこそありがとう、にゃーの完敗にゃ」


戦いが終われば握手で締める。


それは何十年、あるいはそれ以上も前から伝わる習わしだ。






そう、決着。


もはや誰の文句もなし。


旅立ちをかけた最終決戦にて。


烏丸ナナミの完全勝利が、今ここに成されたのだ。

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