第38話 ナナミvs■■■■その② ワットウィング・ウイングス

「おいおい、たった二人かぁ!? この戦力に対してよぉ!!」


深夜の戦場。


宿敵・登和里がクラシックカーの中から煽る。……その体のあちこちは、まだ包帯が取れてない様子だ。


そう恐れることは無い。


「満身創痍でよく言うじゃあないか! たった数分……ナナミ君の決着まで稼げばそれで十分なんだろう!? 容易い事だ!!」


「ハッ!! 貴様らなんぞ秒殺だと言っているんだよ!!! 現実を見ろ、この戦力差を!!」


嘲りが、宿敵たる登和里より放たれる。


なにも時間を無駄にしてるのでは無い。


辺り一面の黒……頼もしい味方を鼓舞する意味合いもあるのだ。


認識を統一し。


士気を高める行い。


「……だがよォ、ひとついいか?」


そんなことを彼女が、アヤヒが素通りさせはしない。


「大企業って言っても……『サツ』は怖いよなぁ? 証拠は残せないし変な音も出せない……どんだけ本気を出せるよ? ぇぇ???」


「ぐっ……」


そう、これもナナミ達の勝機。


無法には罰が飛ぶ。裁きの時が来れば困るのは『奴ら』なのだ。


登和里も、これ以上は士気をあげられないと判断したようだ。


そして。


「もういい、気に止めるな……お前らかかれェ!!!!」


「「「オオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」」」


「「…………ッ!!!!」」


開戦。


一気呵成の大軍団が押し寄せる。


圧倒的物量差の戦いが、こちらでも始まるのだ。







そして電子の戦場。


「ギア1の 《龍石トロッコ》の上に、ギア2の《アシガル・フレイマー》 を設置。そしてギア3の 《ドラグ・スクランブル》を出すにゃ!!」


「む……」


戦局は往復3ターン目。


万を超える瞳の前、よいよいはギア3までのマシンを撃つ権利を持った。


「ここで、アシガル・フレイマーの能力……自身の上にマシンが乗った時、自身をアシストゾーンに置きつつ山札から同名二台を出すにゃ!」


「…………!」


警戒を強める。


この効果が素通ればほぼ終わる。


だからさせない。


「────その効果に対応して」


「にゃっ!?」


「手札からアシストカード 《スカーレット・マイン》を使うよ」


「にゃにゃ!?」


用意していた秘密兵器。


『攻略』とはこうやるのだ。




《スカーレット・マイン》✝

ギア2アシスト【設置】 スカーレットローズ

【発動条件・相手のセンター以外のマシンゾーン一箇所を選択】

◆選んだ場所にギア3以下のマシンが置かれた時、このカードとそのマシンを破壊する。




先置きの地雷。


リソースを削るための策が光る。


「出オチだよ。フレイマーのうち一体は場に出た瞬間に消える。残させないよ」


「ッ……そのくらい、出し直せば済むハナシっしょ?」


「ならやってみせてよ。ほかのギア2、手札に持ってないんでしょ?」


「む……!?」


「回ってるでしょ。安定感に酔ったツケがさ」


せっかく出したマシンを即、捨て札にしながら……よいよいはナナミの言葉に震える。


────改良型の【アヤカシ連ドラ】は、マシンが減ってアシストの比率が多くなりすぎた。


そのため、一人回しの安定感が上がった代わりに『除去から持ち直すのが厳しい』という欠点が加わったのだ。


コストを増やすためにマシンを出したいのに、そのマシンを手札に加えるサーチカードはコストを払わないと使えない……というもどかしいジレンマを抱えていたのだ。


(そこが、改良型の盲点でしょ)


コレで、続くカードで仕込める数は一枚減るハズだ。


「むむむ……手札から 《ドミネーション・プランニング》を、場札四枚を疲労させて発動にゃ!!」


案の定、援軍は出せない。


不完全なプランニングだ。




《ドミネーション・プランニング》✝

ギア3アシスト ステアリング

【使用コスト︰場札を好きな数疲労】

◆自分の山札を見る。そこから払ったコスト+1枚のカードを選び、山札をシャッフルしてから好きな順番でその上に置く。




「ぐっ、山札の上……5枚を好きなカードで固定する。配置は 《両裁剣暴 Q・Busta》 《マザーズラブ・マーモンズ》 《両裁剣暴 Q・Busta》《両裁剣暴 Q・Busta》 《正義執行剣 オオミカミ・トラクリオン》にゃ……!」


「…………へぇ」


記憶を辿る。


以前はコストが足りてた分、6枚を固定していたハズだ。


前に選んだ6枚から、1枚だけ欠けているものを探る。


すぐに見つかる。


「……前のメンツから《ネビルシュート・火車・ドラゴン》をハブったね」


「ギクッ!!」


「テキストは覚えて来たよ。今日のためにね」


検索に不足はない。


カードゲームの情報は、万人に開かれている。




《ネビルシュート・火車・ドラゴン》✝

ギア4マシン サムライスピリット【アヤカシ】

POW14000 DEF11000

【手札を一枚捨てる】相手のマシン一台とこのマシンを破壊する。

【常時】場のこのマシンはギア3としても扱う。また、+5000




「カードゲームには『サイクル』がある」


このテキストは、ナナミもかつて世話になったことがある。


「……似たの使ったケイケンあるからわかる。アイツが居なきゃ 《マザーズラブ・マーモン》は大した力が出ないでしょ?」


「ムッ……ゥ!!!」


妥協による損は広がる。


いくらなんでも、素で【豹変速】を終えた怪物を殴り倒す受け札なんて居るわけがない。あのルイズでさえ、絶望の戦いを強いたりしないのだから。


強化の札を切り捨てた以上、未来は大きく歪めたハズだ。


だから好機だ。


「くっ……これでターンエンドにゃ」


「じゃ、おれのターン」


守りは崩した。


次の攻勢で、決着までいけるだろうか。


いや、持っていくのだ。


と、不意に。


《────このまま上手くいくとでも?》


「……?」


奇妙な声が、ナナミを縫い止める。







「裏手はダメだ! ガッチガチのバリケードで固められている!!」


「バラすには数時間はかかる……決戦中に脅しをかけるには、やはり正面からしかけるしかない!!」


そしてリアルにて。


ナナミを守る決戦は白熱を極めていた。


「出入口のガラスを破れ!! 誰か一人でも突っ込めば我々の勝ちだ!!」


「「そうは……させるかぁアアアア」」ア!!!」


「「「ぐぐぅ…………ッ!!!!」」」


アヤヒの軽い体が夜を舞う。


店長のドンと構えた体躯が多くの敵を押さえつける。


『奴ら』の黒装束が吹き飛ぶ中、それでも鼓舞は欠かさない。


「速攻だ! 速攻で攻め落とせ!! 決着の前に脅しをかけねば意味が無い!!!」


号令をかけながら、車の中の登和里が動く。


「「ッ!?」」


まだ身体は動けないのだろう。車窓から黒光りするなにかを取り出す。


「まさかッ!?」


「アレは……」


「この一撃に続け!! 破城の巨大弓バリスタだッ!!!!!」


ボヒュゥ……と一発。


それは、静音で槍のような矢を撃てるカラクリだった。


容赦のない無音の発砲、そこへ黒服達の相手をする二人は対応できない。


「しまっ……窓ガラスが!?」


「貰ったああああああああ!!!!」


通用口さえ開けばこちらのもの。


そうタカをくくっていた店舗のガラスが……



「…………な?」






「ここは満員だ。他をあたりな」






巨大矢を、強靭な体躯が立ちはだかる。


「バ、バカな。オマエは……オマエ達はッ!?」


ずいっと現れ出てるのは、熊かなにかかと見まごう立ち姿。


その背から、続々と援軍が出てくる。


「ナナミから全部聞いたわ……結局わたし達は、アンタらのいいように使われてたってことね?」


「せっかく『なにか』を掴みかけてるところなんだ。この場所を崩す事は許さない」


「なにより街の平穏を脅かすヤツは、このクリス・マス・キャロルが許さない!! オレたちが相手になってやる!!」


それは『奴ら』がさんざん悪用した三人組だった。


「オマエら……ッ!! 夜市の側に付いたのではないのか!?」


「ああそれな? 今回の喧嘩を売ったあとで、ナナミといっしょに話し合ったんだ。真相はどうあれ……オマエらの策の肥やしになるのはゴメンだってよ?」


「こ、コイツら…………!!」


そして背後からも。


「「「グワァーーーーーーーー!!!!」」」


「何ッ!!?」


「……次の世代が頑張ってるんだ。邪魔しないで貰えるかな?」


「俺はあんま関係ないんすけど…………まあ、弓太朗さんとの付き合いもあるんでね」


順当に拳を構える若者と……なぜかヌンチャクを振り回す御老体の姿があった。


彼らは、別のカードショップの老店員と弓太朗の義息……先にナナミ一行が解決した、転売事件における被害者と加害者だった。


その二人が並び立てているのは、やはりナナミの『人たらし』の才覚ゆえか。


そして、締めくくるように弓太朗が……『花家グループの長に見捨てられた第一子』が言い放つ。


「この辺りが被害を受けると、俺の心がヨレヨレになっちまうんだ……親父に言っとけ。『アンタのやり方はクソだ』ってな」


「く、くっそぉ…………!!!」


あるいは『奴ら』が今日までいいように暴れた分のツケ。


たんまり溜まったぶんが、今ここに回ってきたのだ。


「微力ながら、ナナミ君やアヤヒ君とかき集めたさ。改めて……僕たちが相手だ、花家グループ一行ッ!!!」


「くっ……ほざくなよ、多少群れただけのクソカス共が……ッ!!!」


お互い全力の総力戦。


これまで積み上げた全てが、烏丸ナナミの味方となる。







《表では、ドンパチ賑やかにやってるようだにゃー》


《……まあね。おれを全力で守ってくれてるんだ》


それはミュート回線。


よいよいが、配信に乗らない会話をしかけてきたのだ。


当然の指摘を返す。


《で……ナニコレじかんかせぎ? 視聴者さんにタイクツされるよ》


《タイクツ、ね。そもそもタイクツってなんにゃ?》


《……?》


哲学的な質問。


《タイクツはどこから来る。どこからともなく? ……いいや違う、タイクツはどこにでもある。夜の闇みたいにどこにでも……ね》


視聴コメント欄も動揺が走る。


そこに『しー』の可愛いらしいポーズで返したあと、続ける。


《それを吹き飛ばすには……ひたすらにおっきい太陽が要るってワケにゃ。日光をばら撒くエネルギーがにゃ》


《それが、花家グループだって?》


《物分りが良くてよろしい……太陽が地球に必須なように、この輝きだけは絶やしちゃいけにゃい》


以前に聞いた論を蒸し返す。


確かに『奴ら』を、大企業を太陽に例えるなら失ったり、損ねてはいけないだろう。


だが違う。


《……だから、イケニエの薪が要る、ってコト?》


《…………》


《ジョーダンじゃない。それってさ、逆なんじゃない?》


まっすぐに否定する。


飾り付けた『強者の理屈』に屈しはしない。


《おれがここで『なにもしない』を選んでも。『生贄として散る』を選んでもサイアクなんだ。逆なんだよ。今花家グループを叩かないと、下手したら……この国の人口より多い数の被害が出るかもってハナシ》


《にゃんだって……?》


《チャカ持った部隊を飼ってて、敵を容赦なくぶっ潰す。そんなものが太陽だって? ブラックホールの間違いでしょ。手段と目的は入れ替わりつつある。このままじゃ手遅れになる……かもよ?》


ただの口八丁ではない。


そもそも太陽は、意志を持って人を焼いたりはしない。


どんなにいい繕ったところで……越えてはならない一線はあるのだ。


《シンパイしなくても大丈夫》ナナミは言い切る。 《おれは復讐を目指さないよ。お坊ちゃまも……《Archer》も止めない。むしろ、助けたっていい》


《つまり……にゃにか? 自分は腕利きの外科医で、これからやるのは殺人じゃなくオペだって? どういう資格掲げてやる気にゃ?》


《どんなってまあ……大会参加資格かな?》


言葉遊びで負ける気はない。


ミュートを切り、すぅ……と公の場に引きずり出す。


「よいよい……大会、登録したよ。専用の商品買ってさ。まだ行けるかどうかワカンナイってのにね……でも、行きつければ『アイツ』に会ってシンジツってのを知れる」


「……ッ、んなもん知ってどうするにゃ?」


無駄だと押さえつける。


それがなにより良くないコトだ。


「もし、そのシンジツが良くないものなら、おれがアイツを倒して止める……おれがやるのは、それだけだよ」


「だ、か、ら……そのゼンアクってのを……オヌシどうやって決めるってのにゃ? 」


「決まってるでしょ……この国の法律だよ」


「ぐ、ぐぬぬ……」


言葉では負けない。


だが間違いは起こさない。


ぼちぼち、観客も待ちきれない頃だろう。


勝負を進めよう。


「いくよ……おれのターン、カードドロー」


「く……この瞬間…… 《ドラグ・スクランブル》の効果!」


動揺しててもやることはやる。


プレイングミスなど期待してない。


「味方マシン一台を自分の下に置いたあと、デッキトップを確認して【ドラゴン】なら呼び出す。当然、さっきデッキトップに置いた 《両裁剣暴 りょうさいけんぼQ・Bustaクアトロバスター》のお出ましにゃッッッ!!」




両裁剣暴 りょうさいけんぼQ・Bustaクアトロバスター》✝

ギア4マシン サムライスピリット【ドラゴン】

POW14500 DEF10500

【アースシェイカー(登場後、次の相手ターンの終わりまで、このマシンは攻撃や効果で選ばれない)】

【行動時】山札の一番上を見る。それが【ドラゴン】コアを持つマシンなら出してもよい。そうでないなら手札に加える。




「《龍石トロッコ》の効果、カードを一枚ドロー、にゃ……」


相手の切り札は確かに出た。


だが、恐れることは無い。


このターンで決着を付ければ。


「……ギア2のダブルギア・アイギスの上にギア3の 《危険駆キライン》を。そしてその上に………来て。ギア4 《無限鉄拳ティアードロップ》」


「……ッ」


お決まりの流れ。


こちらも、愛用の切り札のお出ましだ。




《危険駆キライン》✝

ギア3マシン ステアリング【ロード】

POW3000 DEF3000

【登場時/場札三枚を疲労】山札の上3枚を見て、一枚を手札に加え、もう一枚を裏向きでマシンゾーンに置き、残りを捨て札にする。



《無限鉄拳ティアードロップ》✝

ギア4マシン スカーレットローズ【ロード】

POW15000 DEF10000

【場札5枚を疲労】このターン、このマシンは「【このマシンのバトルでの勝利時】このマシンを回復してもよい。」を得る。

【このマシンによる相手マシンの破壊時】このマシンで2走行する。




向かい合う、豪奢な切り札達。


しかし両者は睨み合わず、あくまでゴールを見据えている。


「それで仕掛けるって? ……大人しく通すと思ってるにゃ?」


「さてね。……少なくとも、今手札に加わったカードじゃコイツは止まらない」


ブラフも通じない。


使えない理由はあるのだ。


だからナナミは迷わず進む。


「行くよ。この攻撃は愛では止められない」


宣告する。


旅立ちを賭けた戦い。


勝利に手をかける攻勢まで、まもなくだ。






熱戦も終盤が近い。


最後の撃ち合いは、色濃く永く続くだろう。

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