第39話 ナナミvs■■■■その③ 午後六時のブギウギ

熱戦は佳境へ差し掛かっていた。




「おれはギア1扱いのダブルギア・アイギスの上に 《ラピッド・フルスロットル》を出すよ」


「むむむ……」


普通の手段じゃ出せないマシンもお手の物。


ナナミの実力は既にトップインフルエンサーと比べても遜色なかった。




《ラピッド・フルスロットル》✝

ギア1マシン スカーレットローズ

POW10000 DEF10000

【使用条件・センター以外のギア1マシンの上に置く】

【自身を、敷き札ごとセンターの下へ】センターに置かれたマシン一台を回復する。




勝利への道が示される。


繰り出されるのは、完全勝利への手順だ。


「行くよ、よいよい。三台で一斉走行……ギアの合計は6だけど、場に出てるブラッド・エースの効果で+1の補正が入る……3台ぶんね」


「ぐぬぬ……」


ノイズが混ざるだけで、頭が割れそうになる計算もお手の物。


所詮は、小学校レベルの算数にすぎない。





ナナミ ゴールまで残り……12→7→5→3




「…………、」


合計で9の走行。


よいよいにも緊張が走る。


ゴールはもう遠くない。


伸びきった戦線へ、ナナミの攻勢が畳み掛けられる。


「ここで 《ラピッド・フルスロットル》の効果。自身を敷き札ごとセンターの下に入れる事で、そこに置かれたマシン一台を回復する」


重いコストも容赦なく払う。


むくり、ナナミの切り札が起き上がる。


一歩後ずさる相手へ宣告を飛ばす。


「よいよい。対応がなかったら……コレで終わりだよ」


「……………………」


返事はない。


トドメの一手は既に握った。


これが通れば、ナナミの勝ちだ。


「いくよ……ウイニングラン。ティアードロップでゴール……」


そうして、最後のマシンを疲労させて宣言し……






「──────






止められる。


やはり、そんな簡単には済まない。


「オヌシ…………にゃーがわざわざ……倒されるためのかませ犬をサーチ持ってきたと思ってんのかにゃ……?」


「……そりゃ、ちがうよね」


「そうとも大甘にゃッ!!! 『このターンは安全』ってわかってるから安心して積み込たのにゃ!!」


手札から、サーチしたのとは別の受け札が切られる。


それは、歴史を着込んだ豪奢な刀に見えた……


「喰らいにゃ……アシストカード 《焔咲居合斬》!!!」


わかっていても堪えるものだ。


よいよいの手元に秘匿されていた奥義が繰り出される。




焔咲居合斬ほむらさきいあいざん》✝

ギア5アシスト サムライスピリット

【ゴールキーパー(相手がゴールする時、このアシストを手札から使ってもよい)】

【相手マシン一台を選ぶ】そのマシンのこのターンの走行距離は0になる。その後、そのマシンを破壊する。こうして離れなかったならそのマシンは疲労し、次のターンの始めに回復しない。




「………………………………ウッソでしょ」


ザクッッッッッッ!! と一発。


深々とセンターに突き刺さる刃。


これでは、走行も何もできはしない。


しかし環境で見るカードでもない。


いったいどこからこんなものを……そう思いながら処理へ対応する。


「……破壊効果は 《ダブルギア・アイギス》で受ける。これをセンターの下から捨てることで破壊を無効にするよ」


「オーライ……でも走行はナシ。しかも次のターンの行動もできないにゃ!」


「くっ……」


過剰なほどの停止命令。


こんなものを。


おそらく年単位で前のカードを、今日のために掘り起こして来たのか。


「ターンエンド……まったく、とんだ隠し玉があったもんだね」


「隠し竿って言うべきかもにゃ? ……さあ、覚悟を決めにゃ『殻野瀬クウカ』」


「わかってるよ……まったく」


ターンを明け渡す。


冗談めかす場合ではないかもしれない。


対処を怠った、怠慢のツケが回ってくる。


来る。


次のターン、最強の連続攻撃が。


ナナミはそれを、全力で乗り越えないといけない。


…………なのに。


《おっと……向こうでもぼちぼち決着っぽいにゃ?》


《えっ?》


不穏な知らせが届く。


ミュート会話で、番外からの不幸なメッセージが。







「────動くなッ!!!!」


それは、頭蓋砕くネイルガンを手に放たれる呪禁。


「キャロルッ!!?」


「くっ……ごめんリーダー……ッ!!!」


「ハハ……最初からこうしてればよかったんだ」


『奴ら』の切り込み隊長、登和里が命を盾に安堵する。



剥き出しの敵意が、ナナミ一行を追い詰める。


「お前らの大将に、烏丸ナナミに伝えておけ……次のターンの攻勢で『なにもするな』ってな!!!!」


「くっ…………」


クリス・マス・キャロルに苦悶が走る。


状況は『奴ら』に傾いている。







《みんな……》


衆目に、聞こえぬ声でつぶやくも。


「────にゃーのターン、カードドロー」


「ッ……!」


容赦なくターンは返る。


この上なく嫌そうながら、それでも仕方ない……という声色で告げられる。


「にゃーはこのまま走れば勝つ。


「……ッ」


よいよいのエース 《Q・Buster》が連続走行の構えを取っている。


絶対絶命。


20目盛り走れば勝つところを、27目盛り走る連撃が。


超ド級のオーバーランが、脅しをつけてナナミの前に迫っていた。







「…………いいや、全力で行けナナミ」


だが、その状況に異を唱えるものが居た。


「ッ!?」


「アヤヒ、くん…………?」


「ハッタリだ。ヤツはキャロルを殺さない」


冷ややかな目の少女……アヤヒ。


もとより魂がアウトローなのか、彼女は登和里の思考を読んでいた。


予定外であろう回答に、登和里に激しい動揺が走る。


「な、何を言ってる!? お前はこのナイフが、状況が見えてないのかッ!?」


「見えてるよ……今だからこそな。オマエ、実はよいよいとそこそこ仲良いだろ。そんなオマエが、よいよいが雇い始めた新人キャロルを殺すわけが無い。


「何を……ハッタリなものか。やるぞ……俺は、俺達はやる時はやる!!」


言って首元にナイフを立てているが……その向きは刃を下にしている。喉の傷ひとつさえ、残してはいけないと思っている手つきだ。


やれやれと手をふり、アヤヒは静かに歩き出す。


「ヤツの言葉が真実かどうか……取り返しに向かえばわかる。……今から向かって行くぜ、登和里」


「なっ……!? 正気か貴様……お前ら取り押さえろッ!?」


「「「お、おおおおおおおおおおおお!!」」」


号令により『奴ら』の軍勢が来るが……アヤヒは揺らがない。


拠点を護るのは難しくとも、自己防衛なら容易い。


万全の登和里が相手じゃなければどうということはないのだ。


時に拳をいなし、時に剥き出しの頭部を踏みつけ、人質が縫い止められた車へと向かう。


「「「ぐううううううううう……!」」」


「な……来るなあああああああ!!!」


そして、登和里を殴り倒すのにちょうどいい位置に着地し────






「────なーんてな」






「イッ…………!?」


豹変。


人質のキャロルを投げ捨てる。


アヤヒを掴む手を空けるためにだ。


「がっ…………!!」


「あ、アヤヒ君ッ!!!」


「お前を待っていた! この場で最も無価値……かつ、最も烏丸ナナミにダメージが行くお前をだ!!!」


かくてアイアンクローがアヤヒを掴む。


三下じみた恐怖さえ演技だった。


アヤヒは登和里の口車にまんまと乗せられた格好だ。


「マヌケめアヤヒッ!! コレで安心して血を流せる……本当のチェックメイトだ!!」


「が……ハッ…………!!」


勝ち誇る。


人一人害するに十分なネイルガンがアヤヒにせまる。


このまま。


『奴ら』の勝利に向かう、本気の手詰まりがなされてしまったのか……?

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