第25話 vsクリス後編B ユア・ディスティニー
「…………おれのターン。カードドロー」
「ターンの開始時、オレは 《襲撃者の旗印》を使う」
最後の攻防が始まる。
お互い、推しげのないリソースのぶつけ合いだ。
《襲撃者の旗印》✝
ギア2マシン ステアリング【設置】
【使用条件︰各ターンの開始時】
【設置時】自分の山札の上から一枚目を、裏のままこのアシストの下に置く。その後、捨て札のカード一枚をこのアシストの下に置いてもよい。
「へぇ……コスト用の置き物か」
不吉な予感。
隠しもせずに、勇み足を誘う。
「捨て札の 《ステイ・アウェー》を自身の下へ。向かって来るってんなら……来いよ今。全力で返り討ちにしてやる」
あからさまなデカイ動きの準備。
向こうも当然、守りの切り札があるのだろう。
なら、こちらも相応の対応をすべきだ。
「……じゃあ、それに対応して 《ストレート・アヘット》を使うよ。アース・ファイアーは山札に戻って」
「ッ…………」
ラストターンの覚悟。
奇しくもナナミも、縛りの強いアシストを使う所だった。
《ストレート・アヘット》✝
ギア1アシスト スカーレットローズ
◆ギア1の露出したマシン一台を山札の下に置く。そのターンの終わりに、そのマシンの持ち主はカードを一枚引く。
《アース・ファイアー》✝
ギア1マシン ラバーズサイバー
POW 0 DEF 0
【ゴールキーパー
◆【このマシンを捨て札へ】行動中のマシンを全て手札に戻す。
このタイミングでならデメリットが機能しない、と踏んでの解放。自分に使う目も消えていた。
決戦の前の場ならしだ。
「……あっぶな。エグイのが気配消してるじゃん。コレをムシして走ってたら負けてたかもね」
「よくいう。どう転んでもセンターは守れるだろう」
「ま、そうだけど……ね」
やっぱり、クリスは『気づいてる』。
だがそれで、予想通りになるという保証にはならない。
予想外の手など、幾らでも撃てるのだ。
「……バトル。横を走る《ブラッド・エース》で、地底王ディストラクター・キャラットを攻撃」
「!?」
パワー0による自爆特攻。
この局面では全く意味が分からない一手だが、対応するしかない。
なぜなら……クリスにとっては千載一遇のチャンスなのだから。
「何を考えて……!? 《ディストラクター・キャラット》の効果、マシン三台の連携に変える!」
「……ふむ」
そうするしかない。
ルイズは【進路妨害】を持ってる。守備力20000の壁となるため、攻撃力10000のキャラットでは突破不可能。
本来は除去を引けるのを待つ所を、自ら散りに来てくれるのなら受けるしかないのだ。
だからこそ良い。
「そうだよね。きみはそうするんだ」
lose 三台連携POW8000vs15000DEFキャラット WIN
ここでルイズの敗北は確定するが 、まだ処理は終わらない。
「バトルは負け。ここで下に敷いた 《ダブルギア・アイギス》を身代わりにすればルイズを守れる……」
そうするべきのハズだ。
防御の盾を残し、次のターンに備えるべきなハズだ。
だが。
「けど、そうしない。バトルの破壊は受け入れる」
「なっ……!?」
異常な選択を続ける。
その結果は速やかに出る。
マシン達が……鉄巨人が砕ける。
その下から、隠れていた無限の拳が露出する。
そして、ナナミはすぅ……と息を吸い込み─────
「─────ティアードロップが露出した時。手札から 《
「…………!」
切り札を切る。
この場で最も真価を見せる、かつ安定して凶悪な切り札を。
《
ギア3アシスト スカーレットローズ
【使用条件︰自分のマシンが露出したとき】
◆使用条件として露出したマシンは、ターンの終わりまで、このターンに自分のマシンゾーンを離れたマシンの数だけ回復できる。
なんの演出もなくとも。
ティアードロップの加工の輝きが増して見える気がした。
「そう来るか。このブラック企業め!」
「カードゲームでは絆と呼ぶ、らしいよ?」
こんなことで悲しんでいたら、ヘルディメンションのブラック労働を見た時に昏倒してしまうというものだ。
「ブラッド・エース。パクリート・ライド。そしてルイズ。散っていった者たちの力は、一台に引き継がれる。これでこのターン、ティアードロップは三回回復できるようになった」
しかもまだ終わらない。
ここでもう一押しが入る。
「そして、ティアードロップで攻撃。この時に……手札から 《ターゲット・カーソル》を使う」
「!?」
ネタバラシ。
どういう意図があったのか、奇術のタネがここで明かされる。
《ターゲット・カーソル》✝
ギア1マシン スカーレットローズ
POW 0 DEF 0
【バトル開始時/手札か場のこのカードをセンターの下へ】このバトルで自分のセンターのマシンが勝った場合、そのマシンは走行する。
店長にも使った、不意打ちの小技が光る。
「しまっ……そういう事か! ソイツをオレのキャラットの下に置けば……」
「ルールの守りを剥せる……ってワケ。ソイツが無敵なのは『センターにマシンを一台は維持する』っていうルールのおかげでしょ?」
片手の小指で口角を上げる。
ほくそ笑む、ということができないナナミの代価行為だ。
「だったらマシンを追加してやればいい。これで守りはなくなって、普通に倒せるんだから……ね」
「……なるほど、な」
これが、先刻からのナナミの勝機だった。
さっきクリスから殴って来てたら、相討ちの時にコレを使ってあっさりと勝っていた。
「なんとなくわかる。おれは最初からゴールで勝つのはムリだった……そうでしょ? だからキャラット、ソイツを倒して特殊敗北をさせるしかなかったんだ」
ため息が出るほどカンペキで、スマートな勝ち筋。
圧巻。
とっくに決着はついていたのでは、と疑う程の切れ味の差。
それを見せつけ、トドメに移る。
「……これでウイニングアタックだよ。無限鉄拳ティアードロップで、キャラットとの相打ちを取る」
「……そうだったか。そういうシカケか……」
standby ティアードPOW15000vs15000DEFキャラット standby
「ここまで支えたムテキ感が、ただの一手でオジャンか。ああそうさ、これ以上ない手だろうさ」
まるで、負けを受け入れるような賛辞を贈り。
「……でもな」
しかしまだ、クリスは折れ切らない。
今度は彼が魅せる番。
ココロを震わせろ。
決意を力に変えるのだ。
「オレだって、負ける気はないんだ。手札からアシストカード 《You're Destiny!!》を使う!!!」
「…………!」
旗印の予告は果たされる。
最後のカードが、戦場に切られる。
《You're Destiny!!》✝
ギア4アシスト ステアリング
【使用コスト・場札一枚を疲労】
◆自分の山札の一番上をお互いに見て、山札の下に置く。それがマシンカードならこのターン、次の相手のマシンの行動を無効にする。
◆使用後、このアシストを手札に戻す。
心音が早まる。
鼓動が加速する。
「このカードで、オレはカードを疲労させる度にオマエの攻撃を止められるようになった。……コレは本来、キャラットの能力と合わせて使うものなんだがな?」
乗せられた事を悔やみつつ、しかし楽しむように。
連続攻撃に合わせた、連続防御の構えを取る。
「真剣勝負で使うのもワルくない。来いナナミ、コレが最後の撃ち合いだ!!」
「いいね。いいよクリス。とことんまでやろう……!」
同意し向かう。
勝利条件……キャラット撃破による特殊敗北を起爆するため。
「まず一枚目、ドロー!!……マシンカード 《パクリート・ライド》。コイツを山札の下に送り、攻撃を無効にする!」
一手目は防がれた。
だが次がある。
「二回目……ウイニングアタック。ティアードロップでキャラットを攻撃」
「二枚目ドロー! ……マシンカード 《ステイ・アウェー》を山札の下へ置き、攻撃は無効だ!!」
「…………む」
無表情なナナミも汗はかく。
白磁の鉄面被を流れる汗が、あとの無い緊張を示す。
次を。
「三回目。ウイニングアタック……ティアードロップでキャラットを攻撃」
「もう一度だ……三枚目、マシンカード 《アース・ファイアー》!!! You're Destinyが攻撃を無効にする!!」
「む…………!」
クリスもまた、捲り上げる手に汗が滲む。
これでどうにか三回の攻撃を受け切った。
そう思ったのに。
「─────ウイニングアタック」
「!?」
まだナナミの攻撃は止まない。
最後の最後、後の無い挑戦が来る。
「真実への不時着は…………散った仲間の数だけ回復できる効果。三回の回復の他に、ティアードロップ自身の攻撃権がのこってるよ」
「あっ…………」
当然の失念。
気が緩んだところへダメージが入る。
だが、四度目を持っていたのはナナミだけでは無い。
「いいやまだだ。もう一度……もう一度発動しろ、You're Destiny!!」
「…………ッ」
三枚構成のコストオブジェクト、襲撃の旗印は使い切った。
そのコストは別にある。
「オマエに貰ったターゲット・カーソル」
着目したのは、キャラットの下に置かれたナナミのカード。
「……それもオレの場のカードだ。オレの効果のコストに使える!」
「……バレたか」
クリスはもう他に払えるコストがない。
だがナナミもコレがラストアタック。
この一撃を受け切られたら、次のターンを凌ぐ手はなく詰みだ。
だが。
「でも、まだだ。まだ分からないよ」
「なんだと?」
「最後の最後、アシストを引いて効果をスカすかもしれない」
カードゲームなら当然の事象。
しかしクリスは信じない。
「ハハハ……まさか。オレのデッキのアシストは 《You're Destiny!!》だけ。四枚引いてもダブる確率は五割も行かないハズだ!」
「……だよね。でも」
……ナナミは、別ゲーで似た事を言って大爆死した人を何人も知っていた。
外す時はそれでも外す。
「勝負所で、カクリツってヤツに負けた人は沢山いる。もっと低いはずの目を引いてさ……」
「…………ッ」
「さあ、めくりなよ。それで最後だ」
─────どこまで行っても、カードゲームには運が付きまとう。
もう、ここまで来たら、リスクでもプレイでもない。ただの運だけのゲームだ。
「……ああ、わかってるさ」
ただし、その運だけのゲームに参加する資格があるのは、適切なプレイをして、リスクを背負ったプレイヤーだけだ。
そこへ、両者は辿り着いていた。
「四枚目、ドロー…………」
そうして、めくれた、山札の上は…………
「アシストカード…………You're Destiny……!! オマエの攻撃は止まらない……ッ」
最後の最後に、天はナナミに微笑んだ。
Draw ティアードPOW15000vs15000DEFキャラット Draw
「この二台は相打ち。キャラットのデメリットで……」
「ああ…………オレの、負けだな」
クリス……キャラットのデメリットにより、敗北
決着。
それは全力の熱意と戦略のぶつけ合い。
お互いに最善を目指し、最善を尽くした。
そして、最後に運が選んだのはナナミだったのだ。
「……ありがと。たのしいゲームだったよ」
「ああ、こちらこそ。最後までたのしかった…………!」
そこにもはや、恨みや不信感は残っていない。
激闘を超えた二人は、晴れやかな決着を迎えていた…………。
◆
「楽しかった……じゃあないでしょ、リーダー」
「ッ!!!」
……だがさすがに、彼女は納得してないようだ。
「盤上のお遊び……でなんて終われない。ここまで来て、こんな事で引き下がれるもんですか……ッ!」
「だーよね……キャロル、さん」
熱戦の後始末。
ナナミには、もうひと仕事残ってる。
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