第23話 vsクリス中篇 ステアウェイ・ヘブン
「アヤヒ、カーテンを盾にして」
「「!!」」
ナナミも仲間を放置して勝負はしない。
守るため、俯瞰できる場所から指示を出す。
「カードを日光から守る遮光カーテン。それでダーツから身を守るんだ。……間違ってもマスを盾にしないでね。後が怖いし、下手に上体を起こしたらコウソクを解かれる」
冷静に指揮を。
そして、安息の言葉を。
「キャロルは必ずおれが止める。それまでブジで待ってて」
「わ、わかった!」
「チィ……!」
苛立ちとともに投げられたダーツが、丈夫な遮光カーテンに阻まれる。
一度落ち、傷ついた眼鏡の奥から苛立ちの視線が伸びる。
ずっとは持たずとも、時間を稼ぐのが大事なのだ。
目の前の大将……クリスとの対話のために。
「……さてクリス、くん。過去と今を照らし合わせたら、おれたちのことは恐ろしいから倒さないと……そういうハナシだったよね」
「ああ……」
「……たしかに。『これまで』と『今』で話したら、おれたちの方がおかしいかもね」
やはりあっさり認める。
対話とは、相手に理がある部分を認める事から始まるのだ。
「なら……」
「でも『これから』は?」
その上で、相手の穴となる言葉を飛ばす。
穴がないことはありえない。相手が十割正しいなら、そもそも議論などいらないのだから。
「これから……?」
「大事なのは『今』なにをしてるか。そして『これから』なにをするか、だと思うんだ」
「なん……だと。なにを言っている……?」
「おれたちを倒したとして、その『後』はどうするつもりなの?」
「…………ッ」
そこを考えてるとは思えなかった。
そもそもクリス・マス・キャロルの襲撃自体、ショーケースを倒した後がノープランすぎたからだ。
『ただ壊せればいい』……そんな無責任な動機が見えていたのだ。
「おれたちが怖いからとりあえず倒そう、この店はワルいことしたからとりあえず潰そう。その後のことは後で考えよう…………みたいな。みみにタコできるほど聴く、キャンセルカルチャー……ってやつかな?」
「キャン……?」
「しらなかったか。いうなら『無責任な正義』ってやつかな? テロリストが立てこもったとして……人質ごとバクサツしても『悪が滅んだからそれでいい』って言うタイプ」
「…………!」
それは、後先というやつを考えず『正しさ』という武器を振るう考えだ。
正しくある為、という理由であらゆるモノを、概念を排除していく。その動きは時として致命的な危機を防いだりするのだけれど。
たいがいは、ただただ全てを焼け野原にしていくだけ。
それは、知性無き大怪獣の蹂躙と大差ない。
正しさを振るった者は責任も取らず、ああ壊した、満足したと思ってどこかへ消えてしまうのだ。
「『奴ら』は今も、これからもおれたちを壊しにくる。きみたちだって、フツゴウが出たら消されるかもしれない……奴らが信じる別の『正しさ』の旗の元にね」
「け、消され……!?」
「そんなのを相手に。こんなところで潰しあってたら勝ち目はない。生き残れない。この場所のこれからにとっても、いいわけがないよ」
不意に、声が聞こえる。
この店に来たかったであろう子供たちの、残念そうな声。
「…………っ」
「大切なのは『今』と『これから』だよ。おれは過去に復讐しないし、これからのために積み上げる。店長も『これから』を担う子供を育んでるんだ。それをわざわざジャマして崩すってのは─────」
すぅ…………と息を吸い込む。
大事なことを語るため、十分な呼吸を入れて。
「─────あんまり、よくないと思うな。過去のために今を壊したら、どこにもなにものこらない」
言い放つ。
今を生き、未来を守る言葉を。
「それ……は…………ッ」
「おれのターン」
揺らぎが広がる。
クリスの胸中に動揺が広がるのを見て、ナナミは行動を次に移す。
「ギア3の 《危険駆 キライン》を経由して、ギア4の 《無限鉄拳 ティアードロップ》を出すよ」
定石を。
当たり前の動きを、当たり前ならざる戦場で。
《危険駆キライン》✝
ギア3マシン ステアリング【ロード】
POW3000 DEF3000
【登場時/場札三枚を疲労】山札の上から3枚を見て、一枚を手札、一枚を裏返してアシストゾーンに置き、残りを捨て札にする。
《無限鉄拳ティアードロップ》✝
ギア4マシン スカーレットローズ【ロード】
POW15000 DEF10000
【場札5枚を疲労】このターン、このマシンは「【このマシンのバトルでの勝利時】このマシンを回復してもよい。」を得る。
【このマシンによる相手マシンの破壊時】このマシンで2走行する。
愛用の切り札が舞い降りる。
そしてナナミは決着の資格を得る。
「そして手札から 《オーバーヒート・ドライブ》。相手のギア2以下のマシンは全て、次のターンに行動できない」
決着の、一手を。
《オーバーヒート・ドライブ》✝
ギア4マシン スカーレットローズ
◆相手のギア2以下のマシン全てに、相手ターンの終わりまで「このマシンは行動できない」を与える。
【自分ターンの開始時】通常のドローの代わりに、捨て札のこのカードを手札に加えても良い。
……このターン、ナナミは7目盛り走行する。
このカードがマトモに通れば、次のターンにクリスはなにもできない事になる。
ターンがそのまま帰ってくるなら、ナナミは三度目の7走行で20のサーキットを走りきれる計算だ。
すなわち勝利。
そうして広がる動揺に、敗北という「建前」を叩き込めば。
あるいは。
「……警告はしたよな。進める時は覚悟しろって」
「…………」
だが。
「ターンを進めたって事は、よ……」
だが、まだクリスは、折れていない。
「覚悟は良いって、事だよな……ッ!?」
自尊を保つための一手が飛ぶ。
備えを使い、傾いた戦場を持ち直す……
「場の 《ステイ・アウェー》の効果! ターボチャージャー4……往復4ターン目以降にこのマシンを捨て札にすれば、オレは1目盛り走行できる!」
「…………っ」
号令に従い、気配を消していた配下が役目を果たす。
《ステイ・アウェー》✝
ギア1マシン スカーレットローズ
POW 0 DEF 0
【ターボチャージャー4(往復4ターン目以降なら有効)/場のこのマシンを捨て札へ】自分は1目盛り走行する。
「これっぽっちだ。これっぽっちの能力だけど、これっぽっちが必須なんだ……」
力は僅かだが、そこには意味がある。
クリス ゴールまで残り……6→5
クリスがたった1目盛り進んだ。
たった1だが、その本質は…………
【豹変速】ゴールまでの距離が5以下になった時、このマシンカードを裏返し、センターの一番上に出し直す。
「…………」
ルーラ・ハスターのこの能力。
これを発揮するためのトリガーだ。
来る。
来る!!!
「─────【豹変速】! オレがゴールまで残り5メモリ以内まで進んだ時、ルーラ・ハスターを裏返し、 《地底王 ディストラクター・キャラット》に進化させる!!」
その場でルーラ・ハスターがひっくり返る。
表面とは比較にならない、おどろおどろしい裏面が姿を見せる。
それは黒いモヤを纏う、鋼の悪魔に見えた。
《地底王 ディストラクター・キャラット》✝
ギア4マシン スカーレットローズ
POW10000 DEF15000
【二回行動】
【マシンの行動時】その持ち主のマシンを全て疲労させ、連携行動にしてもよい。そうしたら、その合計走行距離は7になる。
【このマシンが、この面を上にして離れた時】自分はゲームに敗北する。
「これが……豹変速、ね」
敗北のリスクに恥じない凶悪さ。
効果は据え置き、どころか任意に強化されたあげく、本体スペックの強化に二回行動まで。これが急に出てくるのだからたまったものでは無い。
Archerの操る無限のバケモノも、こうやって飛び出すのだろう。
そして、二枚分のロックをスカされたナナミは次の手を考えねばならなかった。
Stay ティアードPOW15000vs15000DEFキャラット Stay
(ティアードロップで殴れば相打ちにしてゲームに勝てる? ……いいや、一枚だけのセンターは保持されるから、それだけじゃ勝てない。なら半端なロックを諦めて横を殴る……?)
脳死で相打ちは取れない。
今、ディストラクター・キャラットは『センターには一枚以上マシンがなければいけない』という、このゲームのルールに守られている。いかなる除去も受け付けず、戦闘でも無敵の状態だ。
オマケに攻守はティアードロップをひっくり返したものなので、バトルになれば相打ちという名の一方的勝利を押し付けられる。
ナナミは少し、考えて。
「いいや、下手は撃たないでおこう。ティアードロップで走行、ブラッド・エースの走行+1が乗る……」
「ならディストラクター・キャラットの効果。オマエのこのターンの走行は全部で7になる。追撃はナシだ」
「だーよね」
定石を。
下手な手を撃たない、という選択をする。
ナナミ ゴールまで残り……13→6
後一手でゴールできる。
しかしその一手は、果たして間に合うのか。
ナナミは外せぬ無表情のまま、淡々と見える態度で進める。
「ターンエンド」
「オレのターン、ドロー! ……悪いがこのターンで終わらせる」
対照的に、自分を鼓舞するように意地の宣誓をするのがクリス。
実際、必殺の権利を握っているのは彼のハズだった。
しかし。
「─────『おれの手札にはギア4アシストがもう一枚ある』」
「…………!?」
それでもナナミは不意を撃つ。
「『発動されたら勝てない』『阻止するためにセンターを殴る必要がある』」
揺さぶり。
盤上にあって、カードを一枚も使わない攻撃。
ぐらつく思考へ、とろけるような吐息をかける。
「この言葉……きみは信じる? 伸るか反るか、今度はきみに『覚悟』をみせてもらうよ」
「ぐっ…………!?」
甘く、溶けるような手管がクリスを絡め取る。
熱戦は佳境へと差し掛かっていた。
心を染め合う戦いは、果たしてどちらが制する。
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