第21話 襲来。武装少年団クリス・マス・キャロル

「あんたら……自分が何やったのか、わかってるの?」


「ああ、わかってるさ……よぉーっくな」


ナナミの問いにも冷静に答えている。


あれだけの事をした後で、冷静に。


彼らは自分達が倒し、破壊したショーケースをお立ち台に使っていた。


ギラリと据わった瞳は烈火。


真紅のマフラーを引きずり前に出るのは、いかにもリーダーといった風体の少年だ。


「俺はクリス。部下はそれぞれマスとキャロルだ」


「…………偽名だよな? マスが不憫じゃあないのか?」


アヤヒが思わず水を刺すと、ヒョロガリ少年から。


「気にするな。俺は気にしてない」


「それに、大事なのはそこじゃないでしょう?」


そして、厚ぼったい外套の少女が怒りを混ぜて続ける。


「大事なのは……この店で過去何があったか。そしてその上で、どの面下げて今日まで営業しているのか!」


「……ッ!?」


もしかしたら、同じ怒りか。


ナナミ達の原動力と、近い位置に彼女の怒りはあるのか。


「待ってくれ、一旦話を……」


「黙りなさい! どんな理由があろうと! 極悪非道を成したこの店は残しては置けない!!!」


しかしその向きが違う。


例え今すぐ真実を話しても、店長を受け入れて進むナナミは理解されないだろう。


何より既に賽は投げられた。


この場は戦うしかない。


「極悪非道……ね。だったらよー」


だから、ここでアヤヒが動く。


こういう場面には、魂が慣れている。






「─────てめーらのそれは……極悪非道じゃねーのかって話だよッ!!」






開戦。


跳躍。


カウンターを飛び越え、着地とともにガラス片を拾う気だった。


彼らが研いだ牙で、彼ら自身を傷つけさせる気だった。


が。


「甘い」


「なっ!?」


既に着地点に、長すぎるマフラーの端を敷かれていた。


そのまま足を取られ、テーブルクロス引きのようにひっぺがされる。


そう、ガラスだらけの地面へ……


「─────ぎゃばっ……!?」


「やらかしたあとどうなるかくらい、想定してきている」


「…………っ」


ヒョロガリの少年・マスが無感情に言う。


ナナミも黙って見ている訳じゃない。


ガラス片を拾いに行ったら、また転ばされて大ダメージを負うだろう。


故に、手持ちの中で最も信頼のおける武器として選択したのは。


「─────ティアードロップ!!!」


「!!」


選択は必然。


愛用する切り札が、弧を描きクリス・マス・キャロルへとすっ飛んでいく。


「きゃっ……」


効果自体は薄く、カツンとキャロルの眼鏡に当たって落とす程度だったが、動揺で時間ができた。


距離を詰める。


「くっ……カードゲーム手裏剣……!? フィクションだけのモノじゃなかったのかよッ!!」


「そら、トランプ芸とかと同じ理屈だし。さすがにまっすぐ飛ぶとはならないけど……ねっ……!」


話し、思考の間を埋めながら。ガラス片を踏まないよう、固定されたテーブルの上をジャンプで移動する。


ぐっと身構えるクリス・マス・キャロルだったが……


「─────僕の店で乱暴してタダで済むと思うなよォ!!」


「「「!!???」」」


剛力。


天地がひっくり返る衝撃。


なんと店長が、三列並んで繋がれたショーケースを端から起こしたのだ。


当然、上に立つ三人は転ばされる格好になり、そのまま壁に挟まれかねなかった。


だが浅い。


「舐める……な…………ッ!!」


「なっ!!?」


マスが、思ったより高い背を利用して体当たりで崩しに来たのだ。


が、それこそが致命の隙。


全力で体を前に出し、その頭部は徐々に下へ下がって行った。


ナナミが構えた拳に当たりに行くように。


「あ」


ヒョロガリのマスへ、クリーンヒットが入る。




─────ゴッスーーーーーーーーーーーンン!!!




重く響いた。


再び寝かせられたショーケースの上、ヒョロガリのマスが仰向けに倒れる。


「わりぃ、またせた!!!」


そこへ、スタンガンを構えたアヤヒが復帰する。


「サンキュ。早いとこ一人止めて……」


「動くなッ!!!!」


「「っ!!?」」


声に振り返る。


やはり状況は甘くなかった。


そこには、お菓子皿を構えたキャロルと……


「店長……ッ!?」


「が、ガラス皿は……無理…………っ」


苦悶に歪み、人質に取られた店長が居た。ショーケースを持って、両手が塞がった隙を突かれたのだ。


「コイツの背骨を強めに撃った! もうコイツはしばらく立ち上がれない。妙な動きをしたら、次は頭をぶっ叩く!!!」


「……! ざっけんな、コッチはスタンガン持ってんだぞ!」


「行動不能を増やす事も許さない。なにか不利益と感じたら迷わずやる!!」


「…………!!」


ここで、両陣営二名が拘束される。


動けるのは互いの大将だけ。


すくみの構図が出来上がった。


「……………………」


「……………………」


「……………………」


手詰まり。


三方悪し。


膠着状態。


サイアクな状況。


……そんな状況を、ナナミはよしとしない。


「…………お互い、身動き取れないのは良くないね」


そしてなんてことないように……スっと椅子を引く。


「待て! 動くなって言ったでしょ……!?」


「それで? その後は? 一切動かないで、大昔のアニメみたいに睨み合ったまま何時間も突っ立ってるの?」


「うっ……」


反論はなかった。


彼女としても、ここからどうするかの策は全くなかったのだ。


「そんなのはよくない……だから、スマートに行こう」


「スマートに?」


「うん。お互いの大将……おれとクリスとでゲームするんだ」


「…………はァ!?」


呆れと怒りが飛んでくるが、ナナミは気にしない。


「イヤよイヤよも関心のうち。デッキくらい持ってるでしょ? それで負けた方が、自分のホリョを手放すってルール」


「待って待って……それをどう信じろって? それにそんな口約束……」


「信じなくてもいいし、約束は守らなくていい」


「…………へ?」


意図が分からなかった。


「ただお互い、何もしないで過ごすのもタイヘンでしょ。時間潰しみたいなもんだよ。……少なくとも、ゲームのあいだは『見張る』負担を減らせる。次の手を考えたりできるわけだよ」


「……………………」


ナナミの意図は、味方二名でさえ読めてないようだ。


だが大将クリスは、なにかの裏はあると踏んでいた。


「オマエ……何考えてるんだ?」


「さーて……ね」


そして、それはおおよそ間違ってない。


「強いて言うなら。どこかで『負けてもいい』と思ったらコレがタテマエになる。勝負をして、ナットクして負けられるなら悔いは残らない。でしょ?」


「…………」


これも理由のひとつ。


それだけでは無いが……今は言わない。


わざわざ言うことは無い。


「…………キャロル、オレがやってるあいだに次の手を頼む」


「…………ッ! わかったわ……マズイと思ったら迷わずやるからね?」


そうして、渋々ながら送り出す。


微細なガラス片を払い、テーブルの上が戦場に変わっていく。


「ルールは旧ルール。フィールド、サーキットカードは無しだよ」


「わかったよ。何考えてるか知らないけど……こっちでもオレは負けないぞ」


緊迫の中、ある意味ミスマッチな勝負が繰り広げられようとしていた。


番上にて、戦支度が成されていき。


合言葉を。





「「疾走に情熱を」」





ナナミ ゴールまで残り……20


クリス ゴールまで残り……20





熱戦が始まる。


入れ子の戦場で、果たして少年たちは何を得るのか。

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