第20話 無垢な少年は未来を見る
「なあ店長。アイツは『奴ら』の手先だと思うか?」
「いいや。さすがに邪気が無さすぎる。何らかの意図は感じるが……」
ゲームの準備を進める二人を、残る二人が半目で見やる。
この場を見過ごしていいはずはなく、店長とアヤヒの二人は知ることを努力する。
「ただな……アタシはひとつだけ、間違いないコトを見つけたよ」
目を細め、視界でなく情報を俯瞰する。
「アイツがここに来た時点で……登和里ケントは家族のコトを全く気にかけて無いってコトだ」
「…………!!」
そう。
登和里ケントが家族を想うなら、少なくとも敵地と言えるこんな場所には送り込まないのだ。
つまり最悪、あの子供が爆弾のようななにかを持ってきている可能性すらあるのだ。
「どんな仕込みがあるかわからん。目を離すわけには行かなさそーだな」
注目は怠れない。
たとえそれが『奴ら』の罠だとしても。
◆
「ぼくのたーん! カードドロー!!」
ゲームが始まる。
あくまで無垢な、普通のゲームが、だ。
「 えっと……まずは《パラディーの地図》! やまふだを4まいめくって、【使用条件】? てのがあるカードをさがすよ。…… 《究極合体 ジャスタング・キャノン》をもってくる!」
「……へぇ」
この時点で、ナナミはどんなデッキか理解していた。
《パラディーの地図》✝
ギア1アシスト【設置】 ステアリング
【設置時】山札の上から四枚を見る。その中から【追加コスト】または【使用条件】の記されたマシンカード一枚を選んで手札に加える。
というか、こんな立ち上がりのデッキは現状ひとつしかない。
「あとは……ギア1の 《超天星ネオ》で走行してターンエンド!」
「ほうほう?」
ワカバ ゴールまで残り……20→19
ものすごく予想通り。
ナナミはもう、デッキレシピまでわかりそうだ。
なぜならこのデッキは……
「じゃ、おれのターンね……ドロー。ギア1の 《ブラッド・エース》の上にギア2の 《ダブルギア・アイギス》を出すよ」
なんて、感傷を胸にしまってゲームを進める。
最低限の、礼儀と体裁として。
《ダブルギア・アイギス》✝
ギア2マシン スカーレットローズ
POW3000 DEF3000
【ダブルギア1(このマシンはギア1としても扱う)】
【このマシンの上に置かれたカードの退場時】かわりに、このカードを捨て札にしてもよい。
「続いて横に、二台目の 《ブラット・エース》と 《パクリート・ライド》を出して……っと。三台で走行。ブラット・エースの効果で、全員1多く走るよ」
「むむ……つっよい……」
流すように。
次のターンのための死化粧かのように、最低限の行動を示す。
《ブラット・エース》✝
ギア1マシン スカーレットローズ
POW 0 DEF 0
【常時】自分のマシンの走行距離を+1する。
《パクリート・ライド》✝
ギア2マシン スカーレットローズ
POW8000 DEF8000
ナナミ ゴールまで残り……20→17→14→12
「おれはこれでターンエンドだよ。さ、キミのターン……きて、全力でね?」
「う、うんっ……ぼくのターン、カードドロー!!!」
そして渡される『ラストターン』。
いい具合に逆境を見せてやったからか、彼の目にも闘志が灯っていた。
「ギア1のネオの上に、ギア2の 《鉄騎兵アームストロング》を、さらにその上にギア3の 《列旋風サイクロン・ジェット》を出す!!」
溜まったものを一気に吐き出すように。
勢いをつけた展開を。
《鉄騎兵アームストロング》✝
ギア2マシン スカーレットローズ
POW5000 DEF5000
【登場時/手札を一枚捨てる】山札を見て 《鉄騎兵アームストロング》一枚を手札に加えても良い。
《列旋風サイクロン・ジェット》✝
ギア3マシン スカーレットローズ
POW5000 DEF10000
【登場時】このマシンの敷き札一枚を選び、空いているマシンゾーンに出しても良い。その後、そのマシンと同じ名前のカードを一枚手札から出す。
少年は全力でデッキを回す。
デッキを信じる……なんて青臭いココロで持って。
「アームストロングのこうか、てふだ一まいとべつのアームストロングをこうかん! そしてサイクロン・ジェットで、今の二まいのアームストロングが横に並ぶ!! この二台も、ほかのアームストロングをよぶんだ!」
それは、ナナミにとって親の顔より見たコンボだった。
「じゃあそうこう! アームストロング二体とサイクロン・ジェットで7メモリすすむすすむ!!」
親の顔よりも、求めたものだ。
ワカバ ゴールまで残り19→16→14→12
「そして、手札から 《究極合体ジャスタング・キャノン》をかさねてだす!!!」
「……うんうん」
拙い道筋から這い出る、圧倒的なカイブツの襲来。
それさえも、ナナミは慣れっこだった。
《究極合体ジャスタング・キャノン》✝
ギア3マシン スカーレットローズ
POW17000 DEF 0
【使用条件・自分のギア3のスカーレットローズ・マシンの上に、ギア2マシン二台を重ね、その上に置かなければいけない】
【三回行動】
【このマシンの行動時】手札のマシンカード一枚を捨てる。そうしないなら、行動後にこのマシンを破壊する。
「わぁ……おっきい…………」
少年のため、大袈裟に驚いてやる。
実際、パワー17000は、ギア5まで行っても破格と言える数値だ。
それをギア3でたたき出して、しかも3回行動までとなると、ゲームを決めるには十分すぎた。
ある事情を除けば、だが。
「こんなおっきいのに……早くでるなんてすごいね?」
「え、えっへへ…………ジャスタング・キャノンで三回行動!! この時手札のアームストロングをすてる!!」
ナナミは無粋な事を言わない。
誰も止めない連続攻撃。
とんでもない重さが、サーキットを撫であげる。
ワカバ ゴールまで残り……12→9→6→3
「っと……コレで三回うごいた、から……」
かくて連続攻撃は完了。
このままではゴールできてないが……もちろんそんなあまっちょろいコンボでは無い。
トドメの一手がある。
「じゃあこれでターンエンド! このときに 《超天星ネオ》 のこうかで、このターンに自分の上におかれたカードのかずだけはしれるよ!!」
「ふむふむ……おみごと、だよっ」
《超天星ネオ》✝
ギア1マシン スカーレットローズ【ステラ】
POW 0 DEF 0
【各ターン終了時】このターンの終わりに、このカードの上に置かれたマシンカードの枚数分走行する。
「ウイニングラン! 《超天星ネオ》の効果で5メモリはしって……ごーる!!!」
3→0=GOAL!!!!
「負けちゃった…………いいね。すごくいい」
熱戦はワカバの勝利で幕を閉じた。
しかしナナミは無表情なりに、晴れやかな口調で褒め称える。
「ほんっとに強いね……どのくらいやってるの?」
「えっと……こないだはじめたばっかり……おかあさんに『いきりたつよいデッキー受け切れぬ合体ー』をかってもらって!」
「……そっか」
それを、ナナミは知っていた。
かつて注目し……代金500円(税抜き)ぽっちさえ、母親に出してもらえなかった過去があったからだ。
だからこそ、ナナミは少年を称えるのだ。
「いい、おかあさんなんだね」
「うんっ、だいすき! ……でもおねーさんもけっこうすき!」
「いやおねーさんって……まあいいや。遊んでくれてありがとね、ワカバくん」
世辞を交えつつ、片目閉じながらなでなでしてあげる。
するとワカバ少年は、子犬のように喜んでしまうのだ。
◆
「………………わざと負けたね、ナナミ君」
「………………ああ、手札に
もちろん、ナナミはかなり手を抜いていた。
初心者潰しなんてやってたら、プレイ人口が増えず詰んでしまうからだったのだが。
「そもそも3ターンで誰でもケリついたら、このゲーム成立しないからなぁ……うん」
「ま、それはおいおいってヤツだろ。ガチの初心者に言うこと、じゃ……」
なにかを我慢してるように、二人は言葉を濁していた。
しかしアヤヒが耐えきれず、今言うべきでない話題に振る。
「…………なぁ店長」
「言うなよ。絶ッ対言うなよ」
「ずーっと、ずーーーーーーーーーっと思ってたんだが……アイツって、ナナミって一人称以外オンナノコしてねぇか……!?」
「言うなってんだよ!!!!!!! 僕だってずっと気になってたんだからさぁ!!!!!!!!!」
どうにも、妙な可愛げがあるとは思っていた。
顔立ちは中性的通り越して女性的ですらあるし、変に作らなくても心地良いアルトの声が出てくるし。
そもそも当初のアヤヒみたいな真似を、なぜ今のナナミができているのか謎だったのだ。
女性の目線が、母性のようなナニカがナナミにはある。
というか。
「つーかさぁ! なんかいちいち言い回しがエッチぃんだよッ!! なーんかえっちなんだよ!!! どこで学んだらあんな歪ませる側のセリフ吐けるんだよッ!?
まさかだぜ? アタシらが勘違いしてるだけで、本当はアイツおん……」
「それは無い!! こないだの転売ヤーがアレに触れてダメージ食らってたろう!?」
「ホントかそれ!? よいよいのヤローのだけで勘違いしたのかもしれねー! まあアタシにゃ確かめる方法ないけどさ!」
と、あーだこーだ言ってるうちに登和里ワカバは退店していく。……気の抜けることに、本当に挨拶しに来ただけのようだ。
なーんだよ結局杞憂だったのかー、いやにしても与える印象ヤバすぎね? とか話してたところで。
気づく。
「あれ? なんかおかしくね?」
「ん? どこがだい……?」
「なんか、店ん中……」
二人分の視線を集中した結果、店内の他所を見ていなかった。
その間に、お客さんが居なくなってる。
いや、居る。
三人居るが……どこか様子がおかしい。
なにか一箇所に集まって、紐のようなものを持ってるような……
デジャブを感じるが、今日はどこかがいつもと違う。
よく見ると、出入口には張った覚えのない張り紙が貼ってある。
『本日 臨時休業』
◆
「そうか、ワカバは戻ったか……ああそうだね。いい街だろう? まあ、時間はあるからゆっくり考えるといいさ」
言うだけ言って通話を切り、個室ではーあとため息をつく。
────もちろんケントに、あんな場所に引っ越すつもりは微塵もなかったが。
「……家族は作っておくものだな。無条件の信頼ってやつは使えるものだ」
これが登和里ケント。
誰かを欺き、目的を果たすためなら無知の家族すら平気で利用する。
当然、血縁外ならなおのこと。
チェスの駒みたいな認識で、容赦なく使い潰す。
故に曇りはない。
「さあ、準備はできたろう。やってしまえクリス・マス・キャロル……俺にいいように使われてるとも知らずにな!」
クックックと、一人自室で笑いを漏らす。
家族を子供を利用しつくし、己が信じる者に捧げるのみだ。
◆
そして。
厄災は、人の手で引き起こされる。
「「「どっこいしょーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」」」
─────ガッシャーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!
「「「─────ッ!!」???」」
轟音。
異変。
その異常事態は、誰より店長にこそ響いた。
「バカな……ボルトで固定したショーケースが!?」
「なんてことを……っ。わざわざボルト外してからやったのか!?」
「……おもったよりヤバいの来たね」
三人がかりの綱引きが成された。
ガラスのショーケースが、三台分一気に倒されたのだ。
ガラス片が散らばり、中にあったカードもめちゃくちゃ。さほど広くない店いっぱいに飛沫が飛び、とても営業できる状態でもない。
よく見ると、子供たちの手には他にも工具らしきものが。これで固定具を外してから、三人がかりで破壊を成したのだろう。
それは明確な敵意。
明確な、潰すという意思だった。
困惑の中、アヤヒが問う。
「オイオイオイオイオイオイ!! お前ら…………一体ナニモンだッ!?」
怒号に反応し、構えを取る。
むしろ、誇るように。
「オレたちは、正義の味方」
ギロリ、赤いマフラーを床まで届かせる少年が。
「過去に悪行を成したこの店を、決して許さない者」
ギラリ、厚ぼったい外套を羽織った眼鏡の少女が。
「そして、いずれ全てに叛逆する存在」
そして、虚ろな目のヒョロ長い少年が。
いずれもビシッとポーズを決めて……答える。
「「「私設武装集団……クリス・マス・キャロルだッ!!!!」」」
─────今度の敵は三人組。
三倍する敵意が、襲い来る。
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