第16話 転売ヤー撲滅合戦・中編
そして、日は明けて。
「ヒュー!! さっきの店が55円でセールしてたカード、別の店で500円で買取してましたぜ!! バッカでー♪」
「全く、どんな事情があるのやら……あるいは、何も知らないバイトとの連携が上手くなかったのかもしれないな」
「しったこっちゃねーっスね。買ってくれって叫んでんだから遠慮なく買わせて貰いますよ。1ダース売って……また5000円ゲットー☆」
あの転売ヤー二人は、今日もカードショップを荒らしていた。
─────新弾発売前後のゴタゴタはチャンスだ。
前の環境の覇者が過剰に値下がりしたり、逆に新進気鋭のパワーカードに値段が追いついてなかったりと様々だ。
ゆえに、彼らのような連中がたかりにくるのだが。
『なんだぁ!? あんなにあった 《ゴーカーティアン》が一枚もないぞぉ!?』
『せっかく三人でデッキ組めるっておもってたのに……!!』
『もうあのたっかい相場で買うしかないのかなぁ……』
故に、どこかで悲鳴が上がる。
転売を繰り返していくと、ホントにデッキを組みたくなる顧客が全く得をしないのだ。あらゆる転売に言えることだが、遊びたい欲を持たない者による価格の釣り上げは市場を破壊する。
あるいは自分の店でも持ち、地域住民の憩いの場として機能しているのならまだ考えようがあるけれど。
実店舗も持たず、なんの責任も負わない彼らの存在は害でしかないと言えよう。
「さてと……地元で売れない分はネットに流して待つとして……っと」
しかし、彼らはあまり気にしない。
「おっ、Q太朗さん見てくださいよ! インフルエンサーのよいよいが動画上げてますぜ! 7.5万の保証人が居る情報源がよー!!」
「ほう、どれどれ…………」
ただアンテナを張り巡らせて、飯の種にせんと動くのだった。
だがそのあくどい邪悪さにも、終止符が打たれる時が来ていた。
今日は珍しく本人だけでなく、見慣れぬ白い少女と一緒に紹介していた。
そのタイトルがコレだ。
『【コラボ回】リーク情報!! いぶし銀の強カード《エンジン丸》がプロモカード 《ボウジン丸R》によって更に超絶パワーアップ!!【
「おっ知らない子が居ますぜ新人かなぁ……? ガキですけどケッコー可愛い子じゃーないすか」
「お、おう……?」
逆立ちヘアーが違和感を覚える中、動画は進む。
『皆さまどうも御観覧!! 今日はよいよいとクウカちゃんのコラボ配信の予定……で・し・た・が! 収録中に公式からとんでもない漏れ情報があったので先に動画化していきたいと思いますにゃ!!』
『おー』
プロの語り口に反して、やる気のない掛け声とともに二枚のカードが映し出される。
《円月斬刃エンジン丸》✝
ギア6マシン サムライスピリット【アヤカシ】
POW30000 DEF30000
【二回行動】
【相手が攻撃、または効果の対象としてカードを選ぶ時】その対象は自分が選ぶ。この時、自分のカードのかわりに相手のカードを選んでも良い。
《防衛武人ボウジン丸R》✝
ギア3マシン サムライスピリット【アヤカシ】
POW10000 DEF5000
【常時】このマシンの上に【アヤカシ】コアを持つマシンを出す時、そのギアを2下げたものとして出してもよい。
【センターが離れる時】かわりにこのカードをマシンゾーンから捨て札にしても良い。
『新規で出たのは
『すっごーい……こんなすぐにおっきいの立てられたら、ぜったい勝てないよぉ……』
『でしょでしょー? 4ターン目にギア6出される時点で勝てる気しにゃいけどー、やっぱ攻撃も効果も「自滅」に変えられるのが凄すぎてもー!! オマケに身代わり能力まであるときた!』
『こんなのかうしかないよね……!』
……配信を眺めていた二人は、それぞれ真逆の反応を見せる。
逆立ちヘアーの男は警戒しているが。
「……なるほど、こんなものが本当なら凄まじいコンボだ。だが、こんなコンボどこでも言ってな─────」
「そらリーク情報なんだからトーゼンっすよ!! 公式の公開前なんだから……さあ急がねーと!!」
「おい待て! せめてSNSの傾向くらい見てから─────」
「そんなら見ましたぜ! どうも『買うしかない』の一点貼りッス。だったら買うしかないッスよねー!!」
リーゼントからはブレーキの外れた欲が出張る。
当然、相方は歳を重ねたぶんの警戒を示すのだが。
「待て待て。今回の動画はなにか……なにか奇妙だ。コラボとリーク暴露を重ねるか普通。それにこの白髪の少女、どこかで見覚えが……」
「あ? どっかで初配信とか見たんじゃないッスか? 置いてきますっスよQ太郎さん!! 急がないと売り切れますぜ!!」
「おい待て、早まるな大輔!!」
スタコラサッサとチャリンコで行ってしまうリーゼント。
くっ……と、今追っても無駄だと判断し、視聴を進めるが……あとは情報発見時のリアクションとか、時間埋め程度の話しかなかった。
『──ほれほれこーやってネタを拾って……えっウソなにこれ』
『えっつよ2踏み倒しとかあり? むりむりむり』
『ヤバいヤバいヤバいヤバい! ちょっとゴメンコッチ先にやるわ、にゃん』
『あ、語尾はだいじょうぶ、今ハイシン中じゃないし……』
「……配信者ってこんなものだったか? なんか妙に演技臭いような……」
この無駄な尺、収益化のために必要なのかと思ったが……どうにもギリギリそのラインの手前の尺になっていた。
違和感。
まるで、利益を得てしまわないように、なにかの時間稼ぎをしたいかのような……
「いやコレは……まさかッ!?」
嫌な予感がして、より深い調べを。
いくつかのサイトを巡り、過去の似たケースを探索。
そこからヒントを得て、普段めったにクリックしない箇所を選択。
蒼白の情報が飛び出す。
…………と、ちょうどそこへリーゼントの男が買い物を終えて戻ってくる。
「ただいまッスーーーーッ♪ 大漁大漁♪♪」
「…………おい、お前いくら買わされた?」
「あっと……? あ〜20枚ッス! 攻守三万のバケモンとあって一枚1000円もしやがりました……ま、ちぃーとばかし昨日からの儲けからアカは出ちまいましたが、コレで一気に数万金は儲かりま─────」
「馬鹿野郎!!! お前はハメられたんだ!!!これを見ろ!! 」
うぇっ!? と仰け反る大介に。
現実を突きつける。
「詳細欄……省略で隠れていた情報に 『#ジョーク動画』と書かれてる!! コイツは嘘っぱちだ!!」
「な、なーーーーんだってェーーーー!!!??」
大仰に驚くリーゼントに、険しい顔で続きを。
「おそらくあそこの店長が依頼したんだろう。コラボの名目で再生数を稼ぎつつ、俺たちのようなニワカにだけ刺さるフェイクを拡散した。調べたが、コラボ相手の配信者は配信歴も何もない架空の存在だ!!!」
「まじかよヤッベェ!! 急いで売らねぇと……そうだネット通販なら元取れるかも!」
「いや、どうにも無理らしい……」
彼は思った。この動画はかなりエグい騙し方だと。
エグく、かつ精密に狙うものだと。
「そもそもコイツは……ゴミカードだ」
「はいッ!!!????」
「重すぎるんだ! エンジン丸は確かにヤバいステータスを誇る……だが、自分を出すための能力を一切持たない。
真面目にルール通りに出すなら、ギア5のバケモン共を出した後にこいつが出る事に……蛇足すぎるくせに、別に出しても言うほど勝つってほどじゃあない。こんなデカブツ『無視して走る』って手があるからな!」
なんの役にも立たない。
本当にどう使えばいいかわからない。
「コイツは強カードなんかじゃない。値段すらつかないほどに、このゲームでぶっちぎりのクソカードだ。
治療する医者が居たとして、ソイツが匙を投げるレベルの……他所で言うなら、伝説の〇ンチホープや、〇オヴァナインに匹敵するゴミ野郎だ!!」
「ん……だ、とォーーーー!!???」
圧倒的な誇大広告。
それでいて、実際のプレイヤーには一目でウソとわかる繊細さ。
「それを平然と1000円で売りつけるなんて、あの店長やはり相当な胆力だぜ……大輔?」
「ざっけんな!! 転売で生活してるヤツも居るんだぞ! こんなガセネタ流したヤツは許せねぇ!!!」
自分のことを棚に上げて。
ブチ切れる大介は、周りの事もロクに見えてない様子で。
……大声に反応してよってきた、子供の相手などしてられなかった。
「あっと……? おじさん達なにを騒いで─────」
「あ゛ぁ!?ガキが見せもんじゃあねぇぞ!!」
ゴスん、と一発。
パーカーを深く被ったガキを数メートル殴り飛ばし、血に濡れた拳を見て。
「だめだ……こんな憂さ晴らしじゃ、俺の腹の虫は収まらねぇ!! ……そうだ、こんだけ精巧なフェイクなら他の店も騙されてる場合が一軒くらいあるはずだ! 行ってこの損をおっかぶせてやる!!」
「お、おう……いや待て、今それどころじゃない事が起きたような……?」
「待ってろよクソ野郎ォ!!!!!」
もはや暴走真っ只中。
加熱した欲望は、彼らを断罪の舞台へと運んでいく。
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