episode3 ユア・ビックショット

第15話 転売ヤー撲滅合戦・前編

「にゃん、にゃん、にゃにゃーん♪ にゃん、にゃにゃーん♪♪♪♪」


「…………なんじゃその鼻歌」


あれから数日。


今ひとつ信用ならないコスプレ猫女は毎日来ていた。


お店の開店準備の合間に休みに来てるので、当然といえば当然なのだが。


ゆえにアヤヒから、当然の疑問がでる。


「なあ店長……イマイチ信用ならないケド大丈夫かぁ?」


「さぁなぁ……なーんか怪しい雰囲気はあるんだがなぁ……」


別に、入り浸るだけなら大丈夫だった。ちゃんと買い物もしていくし、理解のあるいい固定客だ。


だが、ふと油断するとナナミにくっついていくのだ。


今日も、多段重ねのスカートをはためかせナナミに迫る。


「のーのーオヌシー」


「……またぁ?」


「またぁー♪ ……こういうヒラヒラの服にキョウミないかにゃーん?」


「べつに……そういうの、考えたこともないし」


本能で避けるナナミ……しかしよいよいは折れず。


「うーむ相も変わらずツレないにゃーん? どれ、ちょっとばかし採寸を……」


「う……ひゃんっ……」


「お? おお? カワイイ声あげるにゃんねぇー???」


「や、やめてぇ……」


「にゃんにゃにゃーん♪ よいではないかよいではないか……♪♪♪」


くんずほぐれつの貼り付き合いに、ここでアヤヒがプッツンいった。


「ストォーーーーップ!!! オイオイオイまてまてまて!!」


「にゃーん??」


「やめてっつってるだろ!? またなのかッ! まーたたぶらかそうとしてるのかッ!?」


「そりゃあまー、こんな逸材逃す手ないにゃんし? 将来的にコッチに来てくれたらお店もにゃーもお客さんも大助かりにゃん♪」


「なっ!? ナナミに何させる気だテメーッ!?」


怒りを前に距離を取り、うむうむと唸る。


その上で推測。


「しかし……うんにゃ? この態度……もしかしてオヌシらツレってか、ツガイだったりするのかにゃん?」


「つ、ツガイっ!?」


うっ……とたじろぐ。


「バッ違っ……別にそーいう関係じゃ……ッ!!」


「え、違うの……? はじめて会った時はひとめぼれって言ってくれたのに」


「あっいやその……今のは言葉のアヤってやつで!! ってかその、えっと……!?」


「ヒューヒュー、こりゃアツすぎて挟まれないにゃんねぇー♪♪♪」


なんて、慌ただしくも日常的な会話が続く中で。






─────カランコロン……。






…………と。


「チィーーーーッス」


「邪魔するぜ…………」


「お、いらっしゃーい」


ズン……ッ、と。二人組の客が来店する。


「「「………………ッ」」」


空気が冷える。


思わず取っ組み合い中の三人も固まる迫力。


黒スーツの『奴ら』が相手にならない程のタッパ。リーゼントと逆立ちヘアーのコンビだ。


いかにも不良……といった出で立ちだが店長は動じない。こんな店だから奇抜なファッションは慣れてるし、真正面から戦う限りはそう誰にも負けないからだ。……勝てるかどうかは別として、だが。


だから、大男二人に凄まれても大した事はなかったのだけれど。


「…… 《アメージング・グレート》を、あるだけ頼む」


「…………!!!」


逆立ちヘアの言葉に、一瞬で険しくなる。


どうにも、プレイを前提とした頼み方ではなかったからだ。


少し間を開け立ち上がり、視線を遊ばせてからカードを手に取る。


そして、あえて若く気の抜けたリーゼントの方に了解をとる。


「こちらでよろしいですか?」


「そーそー! コレっすよ欲しかったのは──」


「いいやスミマセン、そっちは 《アメージング・ノドーカー》だった。アメージング・グレートはコッチだ」


「あ、あれ? あ〜そーそー、グレートですよコイツが。……んじゃ、とっとと会計しちゃいましょうぜ」


「……………………」


「……………………、うっ……」


バレッバレの探り合い。


今のやり取りだけで、店長は少なくとも、リーゼントがニワカ野郎だと十二分に見抜いていた。


デカデカと書かれたカード名やイラスト、果ては枠のデザインの違いすら見分けられないのは論の外だったのだ。


「おい店長」


だがそこへ、より大柄の男が圧をかけてくる。


「…………ッ!!」


「俺たちは値札通りの金を払うんだ、文句は無いだろう。余計な詮索はしないで、早いとこ会計を済ませちゃあくれないか」


「……ハイ、かしこまりました……と」


「ッ……ヒュー……ヒュー……」


正論を前に、大人しく従う店長。


それに意を唱えられるものは、もはや誰も居なかった。







しばし落胆。


ちょっとばかし休憩中の札を下げ、起こったことへの対策を考える。


「おい、さっきの思っきし転売目的のニワカヤローじゃ……」


「十中八九そうだろう……けど、きっちり値札通り払って行ったよ。迂闊だった……アンテナを伸ばし損ねた僕が悪い」


売った後になって、全カードリストを確認するハメになる。


一人でやってる店は、なかなかノーマル格の強カードまでは把握できないものだ。


すると、以下のコンボが紹介されていた。




《アメージング・グレート》✝

ギア4マシン ラバーズサイバー【アクア】

POW14000 DEF11000

【登場時、または攻撃時】カードを二枚引く。




《アクア・フォルテシモ》✝

ギア2アシスト ラバーズサイバー【アクア】

◆手札から【アクア】コアを持つマシンを一台出し、このアシストをそのマシンの下に敷く。

【常時】このカードの真上のマシンのギアは2になる。




常識を覆すレベルのコンボに、思わず頭を抱える。……早い話、後攻1ターン目から強〇な壺を二回撃てると考えていい。


このゲームでここまでのことが出来るカードは今までなかったと断言出来……ないが、下手したら禁止制限にぶち込まれるレベルの性能はあると言えた。


「ぜんっぜん気付かなかった……新弾ではこんなコンボもできるようになってたんだな」


「ほとんど新規のアクア・フォルテシモのせいだ。そらカイマク4ドロー出来たら強いわな……」


実際には、このコンボが環境を制する保証は無い。だが高騰とは、わかりやすい強カードが跳ね上がりやすいものだ。


「でも、一応は二人合わせて四投分だろう。転売するって証拠があるでもなし……」


「うんや、マチガイいなく遊んでないよ」


ココで差し込んで来るのはナナミだ。


「なんだと?」


「デッキケース特有の音がしてない。 これから始めるにしては買うカードがピンポイントすぎる。 《アクア・フォルテシモ》の使い方知らないどころか、タブンTCG自体やってないんじゃないかな」


「そんなにわかるものか……? だがそれでも」


とここで、コドモケータイの着信が入る。


「ふむふむ……なるほど……オーライ、わかったよありがと、今度またお魚持ってくからね」


「なんだ、どした? 一体誰から……」


「いま、下町の春日さんから連絡があって。800円にして売ってたってさ。いまさっき150円で買ったのをだよ」


「はっ…………!? 八枚持ってったから、一枚650儲かって……5200円儲けてるっ!?」


「てーかいつ知り合ってたんだ怖ッ!!?」


ものの数分を二回で五千円オーバーの儲け。


これを一度味わったら、時給千円そこらのバイトなんてやってられないだろう。


ナナミは動かない表情の代わりに、両手でやれやれのポーズを示す。


「ジュヨーとキョーキューって言えばそれまでなんだけど……フギリってやつだよね、あまりにも」


「マジか……多分アイツらまた来るぜ? 旨みが無くなるまで値上げしたらどうよ?」


「まあ確かに……いやしかし、さっきのは極端にしても。こんな立地で一気に価格まであげたらお客さん来なくなっちゃうからなぁ……」


「そっかぁ……」


店長の店は割と街の端っこ。店の小ささもあいまって、他店並みに値上げなんてしたら誰も寄り付かなくなる危険性がある。


三人は思考を巡らせる。


─────現状、この店にあまり打つ手は無い。


例えば二人を出禁にしたところで、キレた二人に悪い噂でも流されたらアウトなのだ。


加えてあの体格。ちびっ子など相手にならないあの体躯では、ノールールの打ち合いになった時優位なのは彼らだろう。いくら店長が武闘派といっても、二対一では勝てるかどうか。


だが、ナナミは。


「アヤヒ」


「なんだい?」


「おれたちのこれからのためにも、この店がカモにされるのは。それは防がなくっちゃいけない」


決意を固める。


あんな小悪党に負けてられないんだと。


「守るよ。アイツらに痛い目見せて、二度とこんなことできないようにするんだ」


「そー来なくっちゃ。アタシはとことん付き合うぜ」


小さな反撃が始まる。


より良くあろうとするために、悪意の相手に立ち向かうのだ。


「…………ほーん♪」


それを、よいよいはちょっぴり遠巻きにみやるのだった。







…………と、その裏で。


「あの店バカっスねー。こんな高騰カードをこんなやっすく売るなんてよォー」


「調子に乗るなよ大輔。あの店長、コッチの狙いには気づいてた。下手打つと後で手痛いしっぺ返しを喰らうことになる」


「わーってますよQ太朗さん。だがあの店からは、まだ後数回は絞り取れそうじゃないっスか? この際だ、連中が泣くまでやっちゃいましょうぜ」


「……ったく、仕方ないな。俺たちの懐も寂しいし、あの店には臨時収入になってもらおう。買い替えそこねたスーツがよれよれだぜ」


…………ナナミの予想通り、二人組の転売ヤーは次の襲撃の算段を立てていた。


こんなヤツらは、キツく深く仕置きしなければならない。







一方、ナナミ達はというと。


「高騰必至・令和最新版コンボ!!

簡単で

す!!!!!!!

まずは 《出鱈目非行スカベンジャー》を 《黄金旋風ボルカノドン》の上に置いてください!! (ほかのセンターは事前にどかしておきます) そして……

……いやコレなんかわざとらし過ぎない?」


「いや、こーいうのはいかにネタにされるかだ。カクサンパワーisジャスティスなんだゼ。だからブレーキ踏まずに……」


閉店後のプレイングスペースを借りて、明らかに上手くいかない策を立てていた…………。


今まで大人達を手玉にとった手腕はどこへやら。


簡単な不意打ちや物理的なやり取りならまだしも、遊びを超えた『頭脳戦』は、さすがにちびっ子達には荷が重かったのかもしれない。


このまま行ってもロクな結果は出せんだろう。


だからこそ。


「…………いんやー、そもそも、きょうびワ〇ップに騙されるキッズは居ないと思うにゃんよ?」


「むっ」


ここぞ、とずいっとしゃしゃり出るのが…………謎の猫耳メイドのよいよいだ。


「うっげ……見てたのかよぉ……」


「ぶー。じゃあどーするのさ」


二者それぞれに嫌を示す中、しかしよいよいは自信マンマンだ。


「ふっふっふ。こんな時こそにゃーの出番って事にゃ」


「ほぇ?」


信頼を得るための行動。


くるりと回って決めポーズ。


そして……ダーーーーッン!!!! とスマホをかざし。


「こちとらチャンネル登録者7.5万。そこそこ名の知れたインフルエンサー。オヌシら存分に頼ってくれにゃん♪♪♪」


「…………まじ?」


「大マジ!!!!」


かくて希望の物語は始まる。


謎のコスプレ少女との、はじめての共同戦線だ。


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