第14話 いざ先へ向かう三者面談、そして新たな出会いへ

「連れてってくれてありがと、戌井てんちょ。おかげで無事休めた」


「一日くらいお易い御用さ……大人として、これくらいはね」


あれから一夜と半日過ぎて。


ナナミのダメージは奇跡的に軽く済み、簡単な手当てと検査入院だけで済んだ。


……ちなみに戌井は、ナナミの暗殺を狙う『奴ら』を3人ほどボコボコに殴り倒していたのだが、そんなことはいちいち言わないのだ。


それより話すべき事がある。


「さて……これから具体的にどうするんだい?」


「もちろん『奴ら』に負けない策を打つよ」


現状復帰したカードショップ。


今は閉店しているが、普段は何人もの客で溢れている城にて語らう。


「やることは二つ。ひとつは『奴ら』の迎撃、その安定化。今回みたくキシュウでポックリは二度とゴメンだからね」


「確かに、どんなに鍛えても不意打ちはね……監視カメラとか警報とかつけるかい?」


「いいねそれ。おれも自分ちをどうにかしないと……」


コレで母親が毎晩居るならマシなんだろうけど……とぼやきつつ、議論を先へ。


「で……二つ目は?」


「それなんだけど……やっば。テレビ付けてみてよ。もう映ってるハズだからさ」


「テレビ?」


言葉に対応し、店に備え付けのテレビをつける。


いくつかチャンネルを変えると、二人の少年が対戦する画面が出てきた。


……今や下火になりつつある、VR空間での対戦風景だ。




『─────ここまでよく粘ったけど、ぼくの 《大理弓兵レプリフェイカー》は【ゴールキーパー・スキル】持ち! ゴールを試みるマシンは片っ端から打ち落とすんだ!』




「ッセーフ……。ギリギリ決着マエだった」


「弓兵……Archer? まさか彼が……」


勝ち誇る少年……それが従えるマシンに、カメラも二人も注目する。




《大理弓兵レプリフェイカー》✝

ギア4マシン ヘルディメンション【ゴーレム】

POW 0 DEF25000

【ゴールキーパー・S(相手がゴールする時、このマシンは以下の効果を得る)】

◆相手のマシンが疲労した場合、その先の処理を行う前にこのマシンとバトルする。バトルでこのマシンが勝ったら、その処理を中断する。




ケンタウロスの石像のような切り札が、ド迫力で映し出される。


……映っていたのは 「ちびっ子試遊会」と題されたテレビの1コーナー。


どうやら子ども向け番組の一コマのようで。発売直前の新弾、その宣伝コーナーのようだ。


「コレが例のArcherかい? 新規カードの試遊会か……厄介なオモチャを握られたなぁ」


「そっちじゃない」


「え?」


「そっちじゃないよ……対戦相手の方だ」


呑気な戌井店長の声を制す。


本当に注目するべきは…………





『■■■─────』


『え、今なんて……』


間を読まぬ宣言。


まだ画面への慣れが済んでないような、静かな宣言が続く。


『センターに来い、 《?????シーリアル ??????ウエイター》』


『ま、まって…………!?』


少年は周囲の理解を待たない。


虚を突くように、途方もないサイズの怪物が姿を表す。




?????シーリアル ??????ウエイター》✝

ギア5マシン マギアサークリット【ドラゴン】

POW∞ DEF∞

【二回行動】

【??????】????????????????????????????。




「「…………!!」」


『なんだコイツ、どこから現れて……!?』


不意に、唐突に。


どこからともなく出てきた、黒いモヤの塊のようなマシンを従え、少年は勝利へと向かう。


『ウイニングラン。 《シーリアルウエイター》でゴール』


『は? まってなにを……まさかっ!?』


『ああ……確かレプリフェイカーは、ゴールする相手とバトルだったね。強制で、ねぇ……?』


『はっ!? よ、よせレプリフェイカー、止まれ!!!』


無駄だ。


ゲームの処理は絶対。


どんなに願っても、バトルの結果はテキスト通りに進んでいく。


黒いモヤを射抜こうと放たれた矢は、無限倍の反撃となって返ってくる…………!!





WIN ウエイターPOW∞vs25000DEFフェイカー lose……




Archer ゴールまで残り……4→0=GOAL!!!!




無限になんて勝てるわけなんてなかった。


静かに自慢の札の最期を目にしながら。


「ひ……ひでぇよこんなの……いったい、どうやって勝てば……」


敗北するのみならず、おろしたての切り札まで徹底的に撃破され。


打ちのめされ、泣きながらうずくまる対戦相手。


……ハッと我に返り、アナウンサーが場を持ち直す。


『 あ……《Archer》君が魅せてくれました! これら強力な切り札たちが入った最新弾 《三角図形の伝説デルタ・レジェンド》は今週土曜日に発売となります!! ぜひお買い求めを─────』


彼女が精一杯場を取りまとめる後ろ。


帽子を深めに被った少年が、静かに手を振っていた…………。






「「……………………」」


その圧巻の光景に、二人して打ちのめされるナナミと店長。


先に言葉を出せるようになったのはナナミだ。


「……最後に出たあの化け物。【二回行動】の二回目を使わず勝ってた。ヨユーの圧勝なんだ」


「…………!!」


「はははー……なーる。【マアラループ】が規制されて別の相棒を見つけたってワケか。……いや、そもそも地上波で無限ループはムリだよね」


全く笑えてない声が、顔が深刻さを語る。


無限ループが無理ならステータスを無限に。


無限の概念を、己のアイデンティティにしたのだろうか。


「いや……これは何だ? 『奴ら』の中で何が起こってるんだ……!?」


「ネットニュースでだいたい出てた。どうやら連中は、Archerこと花家キュウベエこをカードゲーム・インフルエンサーとして売り込むつもりらしい」


「…………!!」


「跡継ぎとして顔売っとくに越したことはない、ってハナシかもだけど……コレは逆にチャンスなんだ」


動くからには隙ができる。


そこを突く。


「チャンス……どこが?」


「アイツは必ず次の大型大会に出る。そこがチャンスなんだ。取り返しが効かない接触をして『奴ら』のくだらないこだわりを崩してみせる」


「……!!」


それは、王様が裸で野に降りてくるレベルの好機。


無垢な子供でも言葉を刺せる機会が、向こうからやってきてくれるのだ。


ナナミはここを逃さない。


「大会まで一ヶ月ちょい。必ずアイツの所まで届いてみせる」


「……やれるのか? 相手はおそらく、とんでもない教育を受けた実力者だぞ?」


「ダイジョーブ。他の人ならともかく……おれの場合は、ゼッタイに大丈夫なんだ」


希望に満ちた算段へ。


「……そうか。なら、僕もとことん付き合うよ」


明確なゴールテープを設定し、ナナミは新たな仲間を引き入れ前に進むのだ。


















「…………どーやら、交渉は順調そうだナ?」


そんな二人を見守るのは、ナナミの相棒たるアヤヒだ。


彼女も裏で死ぬほど体を張ってたのだが、裏方に徹する都合でスポットライトが当たりにくい。


それでいい、と彼女は思っていた。


もとより自分にスポットライトは似合わない……そう思い、ナナミを助ける道を選んだのだから、と。


思っていた所へ。


─────コンコン、と窓が叩かれる。


「あン?」


窓の外を見やると、一人の可愛らしい少女がはにかんでいた。


装飾過剰……俗称としてのメイド服を、更にゴテゴテとデコったような存在感。


髪型も、ツインテールに羊カールを混ぜたような……明らかにワックス缶一本は使ってるレベルの重力無視ヘアーをしていた。


トドメにあからさまな猫耳カチューシャ。時代を二段くらい間違えてそうなファッションだ。


故に危機を感じ、半目で流そうとする。


「…………あーワリ、もうこの店締まってるんだ。アタシらは手伝いで来ててさ─────」


「うんにゃうんにゃ! 今度こっちの空き店舗に入るから、ゴアイサツって奴にゃん♪」


「…………ハァ?」


一瞬、日本語かどうかさえ疑った。


しかし敵意も感じない。仕方なく鍵を開け、店長に呼びかける。


「おーい店長さんよ。コイツがアンタに用だってよー」


「??? はーい…………ってなんだそのキワモノメイド!?」


「…………? どちらさま?」


ドン引きする店長に反し、ナナミの方が抵抗なく無表情なままに問う。


対する彼女は、アヤヒ以上のフル稼働表情筋で愛嬌たっぷりに。


「新装開店『にゃんでっと』所属、佐々木夜市と申しますにゃん!! にゃーの事はよいよいって呼んでくれにゃん♪」


「にゃ……にゃん?????」


「にゃん、にゃん、にゃん♪♪♪♪」


「うん……にゃんにゃん…………」


とりあえず、と、死に絶えた表情でポーズを合わせるナナミ。


終わりきった空気だが、構わず時間は先へ先へと進んで行くのだった…………。






決意の隣には新たな出会い。


次の物語は、すぐ側まで迫っていた。







TRUE to be continued……

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