第11話 vs店長中編・エキスパートレッスン

ところで、ナナミはlesson4を忘れていた。




プレイヤーにとっては当たり前すぎて、二人とも気づいてなかったのだ。


マシンを出すルールはだいたい言った通りなのだけれど、それに加えて『往復ターン数を越すマシンは出せない』という制約がある。


つまり先攻の最初のターンはギア1しか出せず、2ターン目……後攻1ターン目からはギア2まで出せる。


そして3ターン目……つまり先攻の2ターン目から、ギア3を出せるようになるといった具合だ。


そしてこのゲームは、だいたいギア4を従えた辺りから、決着のアッパーカットを撃てるようになってくる。


当然、それだけだと後攻絶対有利ゲーになってしまい面白みも何もないのだけれど、実際には現環境での決着は5ターン目が圧倒的に多かったりするのだ。


ではその理由はなんなのか。


果たしていかにして、このゲームは死のターンを凌ぐことができるようにしているのか。


それは、この後の二人の攻防を見ていればわかる事だろう。







「初期マシン、エアリアルの効果を再び発動。山上五枚を見て、その中からアシスト…… 《悪魔と相乗り》を手札へ」


「…………! センターを割ったのは迂闊だったかな?」


「さぁーてね。……センターに再び 《ダブルギア・アイギス》を置き、その上に 《危険駆キライン》を出す。 場札三枚の疲労と引き換えに、山上三枚を見てそれぞれ墓地、手札、裏向きのアシストに割り振るよ」




《危険駆キライン》✝

ギア3マシン ステアリング【ロード】

POW3000 DEF3000

【登場時/場札三枚を疲労】山札の上から3枚を見て、一枚を手札、一枚を裏返してアシストゾーンに置き、残りを捨て札にする。




「そしてキラインの上に 《七宝剣騎 ピンクライン》を呼び出す」


「…………? また環境外のカードを……」


苛立ちが募る。


知らないカードをいちいち理解するのは脳が痛むのだ。




《七宝剣騎ピンクライン》✝

ギア4マシン ステアリング

POW16000 DEF10000

【相手マシンへの攻撃時】このマシンはターンの終わりまで【二回行動】を得る。

【常時】場のこのマシンはギア3としても扱う。また、このマシンカードを敷き札とするマシンのPOWを+7000する。




「さっきから、見た事がないカードばかりなんだな……んん? お小遣いが足りなくてストレージから組んだのかな?」


「それもあるかもね。コレが環境に入ったコト一度もないし、大した事は無いカードだと思うよ。

………敷き札にした実質デド○ムや、OVERハ○パー化でラフ○ル・ラブに化けるバケモンに比べたらね」


「…………君はさぁ……」


「ま、だからいーんだけど」


本質が見え始める。


鉄面皮の向こうから、戦いに呼応するように素顔がのぞき出す。


あるいはママに作って貰ったアバターに入って、シミだらけの体とオサラバする配信者の趣を感じるけれど。


─────ナナミの精神はあるいは、あの日それ以上のドロドロの真っ黒に煮崩れてしまったのかもしれない。


「ピンクラインでエンペリオンを攻撃。同時にピンクラインは二回行動を得るし、更に手札から 《ターゲット・カーソル》も使う。

……コレをマシンの下に敷いておけば、このバトルに勝った時にも走行できるんだ」


「……ッ!? まだアシストは使えないぞ!」


「コレはアシストじゃない。マシンの能力だよ」


「くぅっ……ッ」


手玉に取る。


毒でも盛るようにじっくりと、己を刷り込み誑かす。




《ターゲット・カーソル》✝

ギア1マシン スカーレットローズ

POW 0 DEF 0

【バトル開始時/手札か場のこのカードをセンターの下へ】このバトルで自分のセンターのマシンが勝った場合、そのマシンは走行する。




WIN ピンクラインPOW16000vs5000DEFエンペリオン lose…




先ほどから、店長の脳にもだいぶ負担がかかっていた。


環境外のカードを多用する、ナナミのトリッキーな戦法のせいだ。


「じゃあ、バトルに勝ったからギア4の走行が入る。もちろんブラット・エースの走行+1の効果が乗るから、ここは5メモリ走行ね」




ナナミ ゴールまで残り……13→8




「……ッ、これだからスカーレットローズのギア1戦術は!」


「まだだよ、ピンクラインで通常の走行」


しかし、ナナミは遠慮や容赦なく攻め込んで行く。


軽やかな疾走のイメージとは逆に、まるで万力で締め上げるような意地の悪さがそこにはあった。


だが、その行動の中心には。




ナナミ ゴールまで残り……8→3




まるで砂場いっぱいの砂鉄を引きずるネオジム磁石のような、強く輝き引き寄せる芯があるように見えた。


常人のココロとはかけ離れても、あるいはだからこそ。多くを引き寄せかねないあやうさがそこにはあった。


「…………ふぅ」


…………ゴールまで残り3目盛りに対して、動けるマシンの走行力は合計4。


残り二台の走行で勝てる。


数値上は勝ち切れるはずだ。


─────だが、そう簡単にトドメが通るだろうか。


「……んーや」


そこまで考えて、ナナミはかぶりをふって。


選択を。


「スマートに行こう。ウイニングラン……残る二台でそれぞれ走行し、ゴール─────」


決意を固め、コースの最後までコマを進めていく…………






だがやはり、そう簡単に終わるゲームなどある訳がなかった。






「─────ゴールキーパー。相手がゴールする前に手札から 《豪鬼の狩り手 ルイズ》を呼び出せる!!」


「……だーよね」


ス……と店長の手が断罪に動く。


カタカタと壁や天井が震えるのは、果たして錯覚なのだろうか。


そのカードの登場は、その意味は。


一昔前から変わらない……年季の入った恐怖として扱われている!!






─────zuluuuuuuuuuuuuuunn!!!!




《剛鬼の狩り手 ルイズ》✝

ギア4マシン ステアリング POW  0 DEF20000

【デミ・ゲストカード(自分の効果でのみセンターに置くことができ、センター以外では走行できない)】

【ゴールキーパー(相手がゴールするとき、このマシンを手札から呼び出せる。その後、このマシンの【登場時】の効果を先に処理してもよい)】

【二回行動】

【【ゴールキーパー】による登場時】相手を8目盛り逆走させ【進路妨害】を得る。




現れ出でるはギラッギラのトップレアカード!!


ゲームがリリースされて以来、絶対必須とさえ呼ばれる青く輝く鉄巨人が姿を現すのだった!!!


自身を護る盾の到着に、店長のボルテージも上がる!!


「ルイズの登場時能力! 相手を8目盛り逆走させ、自身に【進路妨害】を与える!!」


「出たね巨大盾。……進路妨害は出たけど、既に決まった走行までは止まらないよ」


仕様ゆえの処理、しかし結果は店長に傾く。




ナナミ ゴールまで残り……3→11→7




フィニッシュを止められた。


しかも後続を出した所で、20000点もの防御力が全てを受け止め返り討ちにする。


しかし。


現代環境における彼女の脅威はそんなものではなかった!!!


「コレでターンエンド……まったく。チョーシ出てきたじゃん店長」


「君のおかげと言っておこう。……一応ね」


こきり、首骨を鳴らして備える。


店長の覚悟は、ナナミが思っていた以上に決まっていたのかもしれない。


相手の内心を見透かす発言まで始めるのだから。


「……君はこう考えている。次のターン、引き入れた 《悪魔と相乗り》を使い大量ドローすれば……僕がやったように、ゴールキーパーを引き入れて耐えられるのではないか、と」


「……む」


わかってはいても堪えるもの。


ココロに土足で踏み込まれるのは、やっぱりどこの誰でもイヤなのだ。




悪魔との相乗りデビル・サーファー》✝

ギア4アシスト ラバーズサイバー

【使用条件・相手マシンの走行時】

◆使用条件となったマシンのギアと同じ数だけドローする。




そう、これこそがナナミの戦術。


店長が使えるカードは当然、ルール上ナナミにも使う権利がある。


金や時間の問題はあるけれど、スタンピードとかいうゲームはこのトップレアをタダでバラ撒くレベルで封入、再録するとかいう狂気の沙汰をキメていた。


だからナナミが、鉄巨人ルイズを使えない事にはならないのだけれど。


「君の思う通りには……ならないんだな、コレが」


だがやはり、資産の問題は深刻だったかもしれない。


「僕のターン! ターン開始時、マシンゾーンにあるトライヘッド・ケルベロス二台を破壊する事で、捨て札から 《討伐魔将クラフト・レーサー》を復活させる!!!」


「……やっば」


見落としていた。


店長の手腕に気を取られ、肝心な情報を見逃していたとナナミは思った。




《討伐魔将クラフト・レーサー》✝

ギア3マシン ヘルディメンション【デーモン】

POW10000 DEF5000

【ターンの開始時/このマシンが捨て札にある/場の自分のマシンカード2枚を捨て札へ】このマシンと、ほかのギア3以下のマシン一台を捨て札から選び、マシンゾーンに出す。




一目でわかるその効果のヤバさ。


【ターンの開始時】という縛りこそあれど、無差別で中堅所のマシンまで復活させてしまう性能ははっきり言ってイカれていた。次の禁止改定で消えても全く不思議じゃないと、大半のプレイヤーから思われているのだ。


それは、ナナミも当然知る所だった。


「さっきコストで捨てたカードか……確か相場3500円のバケモンだっけ?」


「今は4200円に上がってんだよ!! 同時に蘇った 《ブライ・エンペリオン》の効果! 自身と 《豪鬼の狩り手ルイズ》を疲労させ、アシスト封じの効果を再び起動させる!!」


「…………ッ」


コレでナナミは、再びアシストカードを使えなくなってしまった。


「こうしておけば 《悪魔と相乗り》は使えないよなぁ!? それも環境の外だが、理由があるんだよ『スッとろい』!!!」


「む…………」


して確かに、ナナミの防御は崩されて見えるけれど。


果たしてマシンを二台も疲労させて、あと13目盛りをどう走りきるつもりなのだろうか?


結論を言うと、店長はそこを気にする必要がなかった。


そのレベルの、圧倒的なバケモノが背後に控えていたのだ!!


「そして…… 手札から《新緑の街路樹》を使用。デッキトップを裏のままアシストゾーンに置き、自らも裏向きになってアシストゾーンに留まる」




《深緑の街路樹》✝

ギア2アシスト ステアリング

◆山札の一番上を、見ないでアシストゾーンに置く。その後、このカードを裏返してアシストゾーンに置き直す。




かくて準備は整った。


化け物を越えた化け物を呼び出す、極上のお膳立ては整ったのだ。


そして店長は、改めて自身の勝利条件を定め直す。


「…………僕がここでやるべき事は、きっと君に大人とはなにかを教える事だ。君の心をへし折り、バカな真似をさせない事だ。きっとそうなんだ!!」


己を鼓舞するような叫びが、とてつもない怪物の襲来を予感させる。


(…………来る)


「そして!! これがカードゲームである以上、僕はプレイヤーとして君への勝利を目指さなくちゃいけない。

……来い! 裏向きのアシスト二枚を疲労させることで─────」






ド ン ッ ☆





「ギア4のルイズの上に、ギア5のコイツが君臨する! 出走せよ 《ATーMIC ブルドーザゴン》ッ!!!」


不意に、電灯を弱めるほどの圧。


最硬の鉄巨人すら尻に敷く怪物。


遠雷を伴い、真の最強が姿を現す!!!






─────GaloooooooooooooooooooooooooooooNNNNNNNN!!!!!!!!




ATーMICアトミックブルドーザゴン》✝

ギア5マシン ヘルディメンション【ドラゴン】

POW13000 DEF17000

【追加コスト・自分の裏向きのアシストカード二枚を疲労させなければ、このマシンは登場できない】

【登場時◀????▶】相手のマシン一台を破壊する。その後、????????????????????????。

【このマシンの走行時】????????????????????????????????????。






現環境最強の怪物が現れる。


あのルイズさえも霞む程の、圧倒的怪物。


全プレイヤーのヘイトを引き受ける、最優十全の悪魔龍が顕現した。


『出せば勝つ』。


そのレベルの切り札を従えて、店長は。


「僕だって強いんだ。体も……カードゲームだってッ!!!!」


「わかってるよ……だからホンバンはここからなんだ」


激しく感情を上昇させるが、やはりナナミは凪のまま。


二人の決着は、表面からはやはり見て取れない。


最後の最後まで、しかと見てみないとわからないようだ。




激闘はクライマックスへと駒を進める。


夜明けに向かう盤上の物語は、ボルテージを上げつつ終点へと突き刺さって行く。

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