第12話 vs店長後編・ティアードロップは罪の宝石


ATーMICアトミックブルドーザゴン》✝

ギア5マシン ヘルディメンション【ドラゴン】

POW13000 DEF17000

【追加コスト・自分の裏向きのアシストカード二枚を疲労させなければ、このマシンは登場できない】

【登場時◀鬼神走行▶】相手のマシン一台を破壊する。その後、このマシンはゴールまで残り6目盛りの地点まで走行する。

【このマシンの走行時】相手の手札を見て、そのうち1枚を捨てさせる。




優秀すぎるスタッツ配分。


人智を超越した効果テキスト。


固有能力すら携えたそれは、出てきた瞬間にゲームを終わらせるほどの威力を持っていた。


凶暴が動く。


動く!!


「ブルドーザゴンの登場時能力。まずは相手のマシン一台を破壊する。消え失せろピンクライン!!」


「む……敷き札の 《ダブルギア・アイギス》の効果。センターの破壊をこのカードが代わりに受けるよ」


「チィッ! だがその後、このマシンがゴールの6目盛り前まで走行するのは止まるまい!!」


反則級のショートカット。


半端な誤差をカンタンになかったことにする、凶悪すぎる効果が振るわれる。




店長 ゴールまで残り……13→6




さすがのナナミも、コレには片指押しこんでてでも白い目を向ける。


否、過程を大事と認識するナナミだからこそこのようなカードはあまり歓迎できないのだ。


「むぅ……やっぱいつみてもエッゲツナイねこれ。ドリョクってやつを笑られた気分になる」


……この能力こそが、ブルドーザゴンが現代最強と言われる所以。


ゴールまでどれだけ距離があろうと、たとえスタート地点からだろうと関係ない。


コレを出して、横にもう一台走れるマシンがあれば勝つ。


過程など全くもって関係ない。コレを出すことだけ考えれば勝てるのだから。


そして、その脅威を下支えするダメ押しの能力も持っている。


「さてと……さっき 《エンペリオン》を自分のコストに使ったが。【二回行動】の回復権はここでも使える。健在のクラフト・レーサーも含めて、君は二台ともを止めないと負けるんだ」


未だギラつく二台の取り巻きマシン。


ブルドーザゴンの走行は、残り6にしてから5目盛り進む。1目盛り残す峰打ちなので、トドメのもうひと押しは横の誰かがやる必要がある。


彼らが下手な受け札に捕まったら一巻の終わりの外れだ。


が。


「だがしかァし!! ブルドーザゴンは相手の手札を『見て』ハンデスする!! たとえ手札に強力な【ゴールキーパー】を持っていたとしても! それを狙って叩き落としておしまいなのさ!!!」


この能力の存在が、ブルドーザゴンを完全に最強かつ最低に仕上げてしまったと言える。


これは【ゴールキーパー】に防御の大半を任せる現代のこのゲームにおいてとても凶悪なのだ。


ミラーマッチでも土台役のルイズを落とし。


ほかの対面でも、受け札を狙って一枚落とせばだいたいのデッキは耐えきれない。


登場時の確定除去と相まって、コレが出た時点で勝ちを確信してもおかしくないほどだ。


実際、店長はもう勝った気でいる。


「さっき僕が出したみたいな、強力な受け札もコイツには通じない。さらにエンペリオンの効果を受けてる君はアシストさえ使えない!!

君はもうどうしようもない。観念してもらおうか!!」


絶対絶命。


並のプレイヤーなら敗北を覚悟し悶絶するところだが。


ナナミは。







「………………………………………………はぁ」






「えっ」


落ち着き払っていた。


鉄面被のせいのみではない。


ビビるくらいなら世間話でもした方がマシだという、図太い判断すらそこにはあった。


「何にでも雑に突っ込めるよね、それ」


「そうだな。俺のデッキもコイツに喰われたクチだ」


「やっぱし」


ため息が出るほどサイアク。


余りにも凶悪すぎる「出せば勝つ」性能。


それゆえに、多くのファンデッキの切り札がコレにすげ変わったほどだ。


「だがそれもやむなしって訳だ。このゲームで、コイツよりスペックの高いマシンは現在存在しない。……もう終わらせよう」


そうして最後の手に移る。


ホールケーキを切り分けるように、二刀をもって勝利を収める。


「フェイズ進行!! ブルドーザゴンで走行、同時に君の手札一枚を『見て』捨てさせてもらう。コレでウイニング直行だ!!!!」


「…………」


完全なチェックメイト。


普通のデッキは、アシストを禁止されてブルドーザゴンを使われたら終わる。


ましてナナミのような幼い者に、環境を知り尽くした店長を欺ける道理はない。


詰みだ。


終わりだ。







ただし。


烏丸ナナミは、その操るデッキはやはり普通ではなかった。









「じゃあその効果に対抗して」


「え?」


「手札から 《ロンリー・ブルース》を呼び出す」


「……え?」


ニュゥウウ…………という幻聴すら聴こえる執拗さで。


逆転のBGMすら聴こえるほどの鮮やかさで。


針の穴を突くような一手が放たれる。




《ロンリー・ブルース》✝

ギア4マシン ステアリング

POW3000 DEF3000

【相手マシンの行動時】このマシンを手札から出してもよい。

【進路妨害】

【5ターン目以降の登場時/手札のアシスト一枚を捨てる】コストが【ゴールキーパー】を持っているなら、あるいは【相手マシンの行動時】を含む【使用条件】なら、その効果をこのマシンの能力として使用する。




「な……な、にぃーーーーっ……?」


まるで密入国。


『アシストのマシン効果化』という離れ業を繰り出す怪物を、これ以上ないタイミングで切られた。


「なっ……こんなっ、こんな不安定なカードで……!?」


「登場時能力。コストとしてアシストを捨てれば、それが持つ能力に変身できる。もちろん捨てるのは《悪魔との相乗りデビル・サーファー》。 …………コレで5枚ドローできるね、店長?」


「くっ……くそぉ……!?」


制約の隙を突き、逆転の一手が刺しこまれる 。


血液検査の針でも差し込まれるように、極めて正しく進む力を削がれていく。




悪魔との相乗りデビル・サーファー》✝

ギア4アシスト ラバーズサイバー

【使用条件・相手マシンの走行時】

◆使用条件となったマシンのギアと同じだけドローする。




順当に5ドローを決める様を見るうち、店長がある事実に気づく。


「ちょっと待てよ……まさかコイツを撃つためにピンクラインを!? ルイズを入れる枠を削ってまで……そんなの正気じゃない!!」


「確かに、汎用ステアリング枠使い切ったからルイズさいよーできなくなっちゃったけどね?」


特殊クラス・ステアリングは、全てのデッキに入れられる代わりに三種までしかデッキに入れられない。


ルイズもそのうちの一種で、なおかつ確定枠レベルだ。


現環境でルイズを抜いてまで環境外カードを積むのは、カレーライスから肉を抜いてふ菓子でも投げ込むようなものだ。


それをやってのけた。


無表情、無感情のままに肉なしカレーをこしらえて重労働の場に来たのだ。


しかしナナミは気にしない。


「でもま、受け札ってルイズだけじゃないし。じゃあ改めて……おまちかねのハンデスタイムだよ。五枚ドロー後に、たった一枚のね」


ドロドロと意地悪く。


黒くみなぎるセリフが店長を苦しめる。


だが言葉以上に結果が効いた。




《ヒドゥンズ・ゲート》✝

ギア6アシスト シュガーマウンテン

【ゴールキーパー】

◆このターンの終わりまで、相手はゴールできず、お互いのゴールコイン及び周回遅れコインは全て剥がし続ける。




《ベクトル・トラッパー》✝

ギア6マシン マギアサークリット

POW10000 DEF10000

【ゴールキーパー】

【登場時】このターンの終わりまで、相手の露出したマシン全てに「【このマシンがゴールする時】かわりに表のままアシストゾーンに置く。」を与える。




《魔襲皇帝デーモンズ・シールダー》✝

ギア5マシン ヘルディメンション【デーモン】

POW10000 DEF10000

【ゴールキーパー】

【登場時】マシン2台を破壊する。

◀進路妨害▶




「あ、あがぁあああああああ……ッ!!!!」


あらわになったゴールキーパーは三種三枚。


どれを落としてもこのターンはおしまいなのに、無駄に種類が多くて悩まさる。


「どう? ゼツボーの未来でも見えた?」


煽りに耐え、負荷を受け続けた頭を必死に回す。


…………ヒドゥンズ・ゲートはアシストだからこのターン使えない。が、残り二台のゴールキーパー・マシンで十分このターンを耐えられる。


例えマシンのどっちかを選んだとして、このターンを受けられたが最後。アシスト封じを貼り直せなかった場合、ヒドゥンズ・ゲートが復活して次のターンですら勝ちきれない。


そもそも次のナナミのターンを凌げる保証もない。


「こ、こんなの、どれを落としたって勝てないじゃないか……ッ!!」


「そうだけど? せっかくのカードゲームだもの、面白オカシくしっかり勝たなきゃ」


「……はうっ!?」


ここで、店長の戌井は悟った。


─────月に数度ほど、見知らぬデッキで環境デッキを押し退け、大会を制する鬼才が現れる。


それらは新たな環境デッキになるほどの地力を持ってはいなかったけれど、たびたびインフルエンサーに取り上げられてはネットを賑わせるのだ。


この子もそのタイプだ。


奇術師なのだ。


この子はデッキを使った奇術の天才なんだ。奇抜な構築で人を驚かせる事に秀でているんだ……と。


「……アシスト送りは、蘇生もできない。単なる破壊の方が、まだ目が……ッ」


血色の瞳で見つめられる中。


内心穏やかじゃない中、それでも無理やり決断する。


「つっくしょおおおおおお!!! 僕が捨てさせるのは 《ベクトル・トラッパー》だっ!」




店長 ゴールまで残り……6→1




もう走行処理を気にする余裕もない。


考えすぎて脳が煮える。


もう半狂乱で、一刻も早く終わらせたいと宣言を重ねる。


「ウイニングラン!! エンペリオンでゴールする!!」


「ちょっと早いかなー。まずロンリーブルースが受けるよ。DEF3000しかないから負けね」




lose ブルースDEF3000vs10000POWエンペリオン WIN




「ちっ! ウイニングラン!!!! クラフトレーサーで今度こそゴールする!!!!!」


「ゴールキーパー 《魔襲皇帝デーモンズ・シールダー》。登場時能力でクラフトレーサーと自分を破壊ね」


「くっ……なんでだよくっそおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


シールダーが場に出た瞬間、クラフトレーサーを道連れに捨て札になっていく。


結局完全にしのがれた。


破壊の仕方が上手いせいで、盾のルイズが露出することもクラフトレーサーを強く使うこともできない。


もう、終わりの心境でエンド宣言するしかない。


「ターン、エンド……なんでだ、なんでここまでやって勝てないんだっ!?」


「さぁーてね。じゃあおれのターン」


もはや余計な事は言わない。


ここから先は一手詰みなのだ。


勝利のBGMが、佳境に差し掛かる。


「……ギア3としても扱うピンクラインの上に、ギア4の 《無限鉄拳ティアードロップ》を出す」


「えっ……」


またも環境外のカード。


刷られたのも割と前だが、ナナミにとっては。




《無限鉄拳ティアードロップ》✝

ギア4マシン スカーレットローズ【ロード】

POW15000 DEF10000

【場札5枚を疲労】このターン、このマシンは「【このマシンのバトルでの勝利時】このマシンを回復してもよい。」を得る。

【このマシンによる相手マシンの破壊時】このマシンで2走行する。




太陽の少女に救われた日に、ナナミが最も執着を寄せた切り札。


そこには意味がある。


それだけの実力もある。


「七宝剣騎ピンクラインの上に置いた事で、ティアードロップのPOWは7000アップ。更に盤面5枚を疲労させることで、このマシンはバトルに勝つたび回復するようになる」




ティアードロップPOW……15000→22000




「コレでもう、誰にも負けない。相手がブルドーザゴンでも、たとえルイズをもう一度出されようとカンケイない。全て倒して行くだけの力がある。

んでバトルに勝つ度2走行だから……もうゴール確定かな?」


「あ……あがっ…………」


真のチェックメイト。


リソースも枯れた店長に受け切る術はない。


故にその先を宣誓する。


「悪魔みたいなコンボでしょ。……ティアードロップは『罪の宝石』。おれはこいつを掲げて、サイアクの先を見に行く」


「サイアクの、先…………」


「ところで店長」


ふと、なんてことないように訊く。


「さっきのターン、おれをヨウシャなくコロそうとしてたよね、二回も。……コレに関して、言うことはある?」


「あえ? えーと…………あ」


そういえば、すっかり忘れていた。


自分達がデスマッチの最中で、自分たちの頭上には凶器がぶら下がってる事を。


もう、なにを考えたらいいかもわからなくなって。


「あ、あはは……」


「アイソ笑い……」


壊れた言い訳みたいな笑顔を、しかしナナミは咎めない。


「それができるだけスバラしいよ。おれには一生、できないかもだからさ」


ちゃんと褒めて。


現状も語って。


「……じゃあ、殴るね。ティアードロップでブルドーザゴンから順に攻撃」


「ふ、ふぇぇ…………」


容赦なき葬送を。


連撃で。







WIN ティアードPOW22000vs17000ブルドーザ lose……


「ブルドーザゴンに勝利した時、ティアードロップの2走行が発動」


WIN ティアードPOW22000vs5000エンペリオン lose……


「ルイズに勝利時、ティアードロップの2走行」


WIN ティアードPOW22000vs5000クラフト lose……


「クラフトレーサーに勝ったから2走行」


WIN ティアードPOW22000vs20000ルイズ lose……




「ウイニングラン。ティアードロップの勝利時の走行でゴールだよ」


「ああ……が、あ…………」




ナナミ ゴールまで残り……7→5→3→1→0…………GOAL!!!!!!!






─────バチィ…………ガッシャーーーーーーーーン!!!!!!






「ギャーーーーバベラァアアアアアアアッッッッ!!!!」


店長のマシンを一掃し見事ゴール。


容赦なく入る電極のスイッチ 。


降ってきたシャンデリアに店長は悶絶。


たまらず仰け反り、椅子やテーブルと繋がったまま後方に転げ落ちるのだ。


ズンガラガッシャーーーーーーーーン……とぶっ倒れた店長を見るナナミは。


「……いや。まさかテーブルごとひっくり返るとはね」


血色の目を伏せ、それでも慌てていない。


慌てるだけの事だと、認識できてていない。


「そんなランボウにしたら、カードを痛めるよ?」


皮肉めいた一言。


返事は無い。


ただの燃え尽きた精神が、男の中で果てているだけだった。
















……まあもちろん、ホントに刃物で刺し殺すわけもなく。


「……………………もしもーし? まさか『オモチャの演出』と『ダンボールのハリボテ』でくたばってないよね?」


そう、ハリボテ。


電磁石の回路は本物だけれども、さすがに子供が集められる銅線だけで、何十本ものナイフを含むシャンデリアを吊れるわけが無い。


それをとっとと説明したいのだが…………


「……ばうっ!? あわわわ……うぅ……」


「……! よかった生きてる……もしもし、どの辺痛いとかある?」


「うぅ…………ママぁ………………」


「うっげ……やり過ぎたかなコレ……」


さすがにお灸が効きすぎた。


『しっかり話し合う』。


最も重要な所に行くまでは……もう少し時間がかかりそうだ。

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