第9話 vs店長前編・lesson1

「僕は……《キャリーバーン》で1メモリ走行。ターンエンド……」




店長 ゴールまで残り……20→19




「動きわるいじゃん。ルールでも忘れちゃった?」


「それどころじゃ……ないだろ…………ッ」


「そうかな? ……おれのターン。《エアリアル》の効果。手札を捨てることで、山札五枚を確認してアシストカードを手札に加える。……チ、 《一番星の転生》を手札に」


平然とゲームを進めるナナミ。


やはり彼は壊れてしまったのか……と店長が思う中。


「─────lesson1」


不意に、釈迦への説法が始まる。


「マシンゾーンの真ん中……センターへマシンを置く時は、登り数字で置かないといけない。ギア1のエアリアルの上に、ギア2の 《ダブルギア・アイギス》を置く」


「……っ?」




《ダブルギア・アイギス》✝

ギア2マシン スカーレットローズ

POW3000 DEF3000

【ダブルギア1(このマシンはギア1としても扱う)】

【このマシンの上に置かれたカードの退場時】かわりに、このカードを捨て札にしてもよい。




「lesson2。センター以外のマシンゾーンには、センター以下のギアを持つマシンを出せる。センターがギア2だから、ギア1の 《リコピン・ハンマー》と 《ブラット・エース》を呼び出すよ」


「君は、さっきから何を言って……?」




《リコピン・ハンマー》✝

ギア1マシン スカーレットローズ

POW8000 DEF 0




《ブラット・エース》✝

ギア1マシン スカーレットローズ

POW 0 DEF 0

【常時】自分のマシンの走行距離を+1する。




「lesson3。呼び出したマシンを疲労……縦から横にすることで、そのギアの分だけ走行できる。こうして先にゴールに着いたものがゲームの勝者となる」


「くっ……」


「三台で一斉走行。この時、横に居る 《ブラット・エース》の効果で、走るそれぞれの走行距離は+1ずつされる」


処理は淡々と進む。


シャンデリアを落とす電極へ、着実にコマが進む。




ナナミ ゴールまで残り……20→18→16→13




「ターンエンド。さ、店長のターンだよ」


「…………」


平然とゲームを進めるナナミに反し……店長は及び腰だ。


そこへナナミの嘲りが飛ぶ。


「チョーシ悪いね。動きがニブいよ」


「……ッ。いい訳、ないだろ……」


当然に見える、文句を垂れる。


「身体は縛られ、頭には釣り天井だぞ? こんな状況で、まともに戦えるハズがない……」


「……ふーん」


一見、正論にも見える主張。


しかしナナミはそう思ってない。


「そうかな……おれは戦ったよ? あんたよりずっと脆く、弱いジョウタイでさ」


「……!!」


ナナミは切り返す経験を持っていた。


あの日、店長も見やる中で行った極限の経験があったのだ。


更に。


「……そしてアンタも、たぶんもうやってるとおもう」


「え」


その経験値は、追撃の威力をも増していく。


「やってる……だと?」


「『奴ら』が銃口チラつかせながら『おれをコロせ』と命じてくるのと、おれがデスマッチしかけながら『おれをコロさないと助からない』と突きつけてくるの……一体なにが違うっていうの?」


「…………!!!!」


ココロの隙を突く。


矛盾に等しい痛みを突かれ。


ぐらり、重い揺らぎが入った。


「今更ショック受ける……って事は、自覚なかったのかな。だからあんたはそんな命令受けても、あの店を笑顔で回せていた……」


震える店長へ。


ナナミは容赦をしない。


すぅ……と呼吸を置いて。







「だったら、おれに対してもフツーに接して欲しいかな。『通常営業』ってヤツでさ」








「……ッ!!!!」


挑発。


感情が一周回り、直後にブチッと響いた音は。


脳の血管がちぎれる感覚


「……足の縛りをトいた。コレで踏ん張りくらいは効くでしょ」


「ナナミ君……君ってヤツは…………ッ」


「……来なよ店長。全力じゃないとイミないよ」


畳み掛ける口撃。


もう、遠慮とかを考えるのもゴミ箱に捨てたくなる程に、店長は煽りに煽られて。


ついに、キレ始める。


「ああわかったよ……やってやるよッくそっ!!! 僕のターン、ドロー!!」


まともな闘志が灯り出す。


ようやく、通常戦闘BGMくらいはかかり始めたか。


「ギア1のキャリーバーンの上に、ギア2の 《トライヘッド・ケルベロス》を出す! 効果で手札を2枚捨て、三体に増殖!!」


ヘルディメンションの定番ムーブ。


三つ首の主力が平然と出ばっていく。




《トライヘッド・ケルベロス》✝

ギア2マシン ヘルディメンション

POW5000 DEF5000

【登場時/手札を二枚まで捨てる】山札を見て 《トライヘッド・ケルベロス》を二枚まで選択し、空いているマシンゾーンに置いてもよい。




「更にギア2のケルベロスの上に、ギア3の《ブライ・エンペリオン》を呼び出す。この時手札一枚と共に、初期マシンの 《キャリーバーン》を捨てることで効果起動。出てきたエンペリオンに効果を与える!!!」


「…………へぇ」


切れ味が増していく。


環境でもよく見る流れが魅せてくれる。




《怨鬼爆発キャリーバーン》✝

ギア1マシン ヘルディメンション

POW 0 DEF 0

【手札一枚を捨てる/このカードを捨て札へ】このターンの終わりまで、自分のセンターは「【走行時】相手のセンターのマシン一台を破壊する」と「【行動終了時】カードを一枚引く。」を得る。




《ブライ・エンペリオン》✝

ギア3マシン

POW10000 DEF5000

【登場時/自分のマシン二台を疲労】このマシンは【二回行動】を得る。また次のターンの終わりまで、相手はアシストカードを使用できない。




「更にブライの効果を処理。ケルベロス二体を疲労させ、このマシンは【二回行動】を得た上で君のアシスト使用を封じる」


「待った。その効果に対応して 《一番星の転生》を使っとく。 《ダブルギア・アイギス》を回収ね」


「チッ……まあいいだろう」




《一番星の転生》✝

ギア1アシスト スカーレットローズ

◆山札の上から4枚を見て、そこからギア1のマシンカード一枚を手札に加える。




かったるい応酬は終わった。


さあ走行の時だ。


「さあ走行だ。ブライ・エンペリオンで二回行動。3を二回で6目盛り進む。ここで 《ダブルギア・アイギス》を破壊!

言っとくが君は、アシストによる妨害なんてできないからな!!」


「わってる……そーこなくっちゃね」




店長 ゴールまで残り……19→16→13




ピッタリ13で並ぶ。


しかもそれだけじゃない。


「フゥーーーー……エンペリオンの効果で、カードを二枚ドロー!! ……コレでターンエンドだ!!」


「りょーかい……このゲームが終わる頃には、あんたの垢も全部落ちてるかもね」


「アカ……なんだって?」


「んーん、なんでもないよ」


くっと歯噛みして見やる店長を、ナナミは相変わらず無表情で見つめる。


しかし何故だろう。


同じ無表情なのに、当初の怪異めいた気配は失せている。


どこか満足気に、顔に出さずとも満ち足りてるような気配さえあった。


……ともあれ。


「じゃ、おれのターン。ドロー……じゃあ、そろそろおれもしかけるかな」


「来るなら来い。この際だ……大人と子供の違いを分からせてやる!!」


熱戦は熱を上げながら進む。


盤上の語らいは、まだ始まったばかりだ。

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