第二十四話 「領土間移動列車」

王様のコネを使い倒し、エルフ領でエルフの歌姫とコンサートをする機会を勝ち取った。正直この右腕を治す方法を探すことをあきらめたわけではないが、かといって治すあてもない。このままの右腕で演奏活動することも並行して考えていかなければいけない。王様のコネでぼーっとして生きていけなくもないが、そんな生活はごめんだ。


「お主は音楽より、料理人の方があっておるぞ。我が保証しよう!」

「そんな残念な保証はしないでくれ。」


料理は好きだが、そうじゃない。ピアノを演奏して暮らすのが目標なのだ。女神のために料理を作って生きていく生活はまっぴらだ。

エルフ領への旅のため、王都の自宅で身支度を整えた。

エルフ領への案内はソフィアが行ってくれる手筈になっている。ソフィアの故郷へ行くことになる上に、ソフィアの魔王討伐の偉業をエルフのお偉いさんへ報告する仕事もかねているらしい。

案内とは言っても、エルフ領へは、列車で数日で着くのでそこ間で必要はないのだが、エルフは気難しいので仲介役としての役割が大きい。乗る列車は領土間移動列車。ドワーフ領、人間領、そしてエルフ領を結ぶ長距離列車がある。莫大な費用と労力をかけて作られた路線は、相当な金持ちと軍事目的の兵の移動や、貿易に使用される列車だ。エルフの魔法の知識と、ドワーフの技術力、人間の労働力で作られたこの列車は一般人が乗れる運賃ではないので、乗れる機会が来るとは思わなかった。王様ありがとう!


駅でソフィア、ウェンディと待ち合わせて、列車に乗り込む。こんな黒い鉄の塊が、すごいスピードで移動するとはね。技術の進歩はすごいものだ。

残念ながら、愛馬はお城に預けていく。みんな愛馬との別れは悲しかったが、フォルトゥナを馬から引きはがすのは大変だった。馬を無理やり連れて来ようとしてひと悶着あったが引きずってここまで来た。


「すっげー。俺、列車に乗るのは初めてだよ。ソフィアは乗ったことあるのか?」

「当たり前でしょ。エルフ領からこっちに来るときにも乗って来たわ。」

「我もはじめてじゃ!これが走るのか、ワクワクが止まらないぞ!」

「わたしもです!物凄い速さで走るんですよね!ソフィアの故郷に行くのも楽しみです!」

「そうだな。こいつがこんなわがままエルフが育ったところを見るのは楽しみだな。」

「だ・れ・が がわがままエルフよ!ぶっとばすわよ!!ベルナール!」


怒られた。道中気まずくなるのでこれ以上ふざけるのはやめておこう。殴られたら体が粉々になりそうだし。でも、楽しみなのは嘘ではない。

エルフなんてソフィアしか見たことがない。それほどエルフやドワーフは人間領では見かけない。王都でわずかに見かける程度だ。未知の土地、未知の町に行くのは楽しみだ。


貴族様仕様の向かい合わせの席に陣取り座る。


「我が窓側じゃー!」

「なんだと!俺も窓側がいい!」


ドタドタと走り抜けるフォルトゥナ。結局、俺が通路側で、隣の窓側がフォルトゥナ。こういう時だけ異常に素早い動きで、俺も窓側が良かったのに!

窓側に陣取りテンション上がりっぱなしのフォルトゥナ。フッ、子供だな。ちょっと悔しいけど。


「まったく、あんたたち、子供ね。」

「こっちの窓側に座ってもいいですよ?」


ソフィアとウェンディに子供扱いされるとは。そんなばかな。


「ウェンディに譲るよ。俺は大人だからな。」

「ありがとうございます!ベルナールさんいい人ですね。」

「そんな口車にだまされたらダメよ。ウェンディ。後でなに要求されるかわからないわ。」


この列車は、いくつか大きな町に停車しながら、エルフ領の芸術の町、ジョゼという町へ向かう。

そこで、王様のコネで、世界一の歌姫と名高いロレーヌさんと共演予定だ。エルフは長寿。ということは、当然、演奏や、絵画、なんでも芸術分野の技術力が高い。長生きな分、当然それだけ、練習してきた年月が違うのだから、人間が勝てる道理はないのだが、まあ、それを言ってもはじまらない。バカにされないようにしたいね。バカにしてくるやつは、魔王と倒した腕力で黙らせてやる。


列車が大きな汽笛の音を上げ、出発する。

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勇者は魔獣に成り下がる↓ カズウ @Kazuuleo

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