第二十三話 「ウェンディズレポート」

わたし、ウェンディは、水の精霊をやらせてもらってます。

最近はエルフのであるソフィアのサポーターをしてることになってるのですが、サポーターとは仮の姿。

本当は『到達者』となった人が大暴れしてこの世界を壊さないように監視するために、すぐそばで見守るお役目をしています。

見守ると言ってもそばでボーっとしてるわけじゃありませんよ。監視記録を書いて、天界の会報誌に載せる記事を書かないといけないのです。

そうしないと神様に怒られてしまいます。

ソフィアは魔王討伐の為に結成された勇者一行の一人で、魔法剣士さんをやってたエルフの女性です。

魔王にこっぴどく返り討ちにされて左足を失くした挙げ句、戦意喪失した勇者一行は解散したのにもかかわらす、一人で力をつけて到達者になった頑張り屋さんです。


わたしは、そんなソフィアのプライベートを仕方なく記事にして報告しています。


ソフィアが到達者となった後、ちょいちょいソフィアの日記を仕方なく盗み見て報告のレポートを書いてます。監視しないといけないから仕方なく読んだだけですよ。あくまでも仕事です。記事を書かないと偉い人に怒られてしまうで仕方ないのです。


机を物色してるのですが…。ガサゴソガサゴソ…。ありました!

この日記帳、カギがかかってるんですよね~。まぁ私なら簡単に開けられるんですけどね。

えーっとガチャガチャがちゃがちゃカチリっと。

ペラペラっと。ベルナールさんと会った頃のページはっと。


‐‐‐‐‐‐

ドラゴンを討伐する為に、谷でドラゴンと戦ったのはいいけど、取り逃がしてしまった。

町の方へ逃げてしまい、かなり焦った。

急いて追いかけた。町から追い払うと、また何処かへ飛んで行ってしまった。あの翼がむかつく。

また、追いかけると、ドラゴンが空中で大暴れして真っ逆さまに地面に落ちた。意味がわからなかったが、近づくと男が倒れていた。片腕はドラゴンに食いちぎられヒドイ有り様だけどまだ息はあった。

急いで手当てをする。周りには楽譜が散乱していた。音楽でもやっていたのだろうか。どちらにしろ迷惑をかけてしまった。私がドラゴンを追いかけ回さなければ、こんなことにはならなかったのに。


ドラゴンを討伐したのはこの男だった。

しかも、ウェンディが見えている。人間の『到達者』だ。ドラゴンを殺したからそうなったのだと思うけど、それだけで『到達者』に届くだろうか?

空からは騒がしい運命の女神様も降ってきて、今日はいろんなことが起き過ぎて疲れた。


「ねぇ、ウェンディ。本当にあいつ、ベルナールと言ったかしら、あれは本当に到達者なの?」

「間違いないです。私が視えてますもん!その上女神様ですよ!女神様がわざわざ地上に降りて来るなんて、期待のルーキー?みたいな。」

「特別な力は感じないけど。目つきが悪くてガラも悪そうなくらいで。」

「でも、女神様ですよ?しかもあの暴れん坊の運命の女神様が来たということは、何か面白そうなことがあるんですよ。」

「そう。もし、あいつが戦えるやつなら、魔王討伐に連れて行きたいわね。魔王を相手にできる戦力が欲しいわ。ロイズとか他の連中はもうあきらめたようだし、新しい戦力が必要よ。一人でもいいけど、弾除けは欲しいわ。」

「それはもう、適任ですよ。人間の到達者なんてレア中のレアですから!」

「じゃあ、どうやって釣るかね。あいつ、私と同じように失くした右腕を取り戻したいみたいだから、それで釣れるかしら?」

「それ、いいアイデアです!頭良すぎです、ソフィア!」

「まぁ、それほどでもないわ。そうね。戦力にするには、魔法で腕も作らないと役にたたないからそれも必要だしそれから…。」

「おもしろくなって来ました!ワクワクしますね!」

「遊びじゃないのよ。忙しくなるわ!」



今日は晴れ。

ロイズとベルナールの模擬戦を見た。

フォルトゥナが『ベルナールは戦闘の心得があるぞ』って言うから、けしかけてみたけど、まともに剣術で戦わない。戦い慣れしてるけど、何か嫌な戦い方だ。斧をぶん投げるってどういうことなの!?

武器を投げつけるとか品のない。本人は「勇者に勝った!」とか喜んでいたけど、周囲は、そんな感じじゃなかった。空気読めないのかしら。どう評価すべきかわからない。


「ウェンディはどう思ったの。さっきのロイズとベルナールの模擬戦。私は、強いかかどうかより、なんか嫌だったわ。武器を投げつけるとか、なんでもありじゃない!あれはありなの!?ロイズも動揺してたわよ。えッ!そんな感じ!って。」

「どうなんでしょうね。カッコよさは、ありませんでしたけど。ロイズさんなら、相手がセコイ戦い方でも、普通なら負けないと思いますけど。仮にも勇者さんですからね。」

「まぁ、それはそうなのだけれど。魔王に負けてから腑抜けちゃってるからなー。もうわからないわ。」

「ソフィアは厳しいですね。気持ちはわかりますけど。」

「仕方ないわ、この際、弾除け要員でもいいわ。」

「ソフィアはひどいですね。」


魔王に挑むのに中途半端な実力の人間はいらない。その実力がよくわからない。困ったものだ。



今日は晴れ、午後から曇り。

魔獣の森まで来た。

こんなところに何があるのかと思えば野盗の集落だった。

こんなところで生きてきたから、戦闘慣れしていたのかと納得した。

しかしガラが悪い人の集まりだ。野盗なんて犯罪集団は無くさないといけない。今度、王様に進言しよう。遠すぎて、わざわざ騎士団を派遣するのは無理な気はする。

魔王退治の後は、野盗退治をするのも悪くないかもしれない。


「本当にここはなんてところなの!野盗の集落ってなによ!ただの犯罪者のアジトじゃない!」

「ははは。そうみたいですね。やばそうな人ばかりですね。こんなところで育ったから、ドラゴンも倒しちゃったんですかね?」

「あ〜アタマが痛くなってきたわ。私は野盗と魔王討伐しに行こうとしてたってこと!?犯罪の片棒を担がされてないわよね!」

「まあまあ、そこまで悪いことはして無さそうですし、大丈夫じゃないですか。ギリギリセーフってことで。」

「どこがよ!ゴリゴリにアウトよ!まったく!この集落は潰す必要があるわ!」

「そんな怖いこと言わなくてもいいじゃろ。ベルナールの地元じゃぞ。第二の故郷にして原点じゃ。大目にみてやってくれんか?」


フォルトゥナが話に割り込んできた。


「こんな犯罪組織が故郷とか、あり得ないわ。まったく呆れるわ。」


ソフィアは頬を膨らませ、憤慨する。


「お主は恵まれ過ぎているからわからないのじゃ。この世界は魔物に侵食され、親を亡くし、一人で生きていかなければいけない者もたくさんいるのじゃよ。あいつもその一人じゃよ。たくましいと思わんか?」

「同情はするけど……。それとコレは別の話よ!」

「冷たいヤツじゃのう。まあ好きするがよいぞ。あいつらはそう簡単に捕まらないし、報復は怖いから気をつけるのじゃぞ。」

「止めておきましょうよ。ソフィア。なによりベルナールさん怒らせたら怖いですよ。」

「…そっ、そうね。まぁ急ぎはしないわ。そのうちってことにしてあげるわ。」

「ベルナールがよほど怖いのじゃな。」

「あの常識のない陰険な性格のやつに恨まれたら怖いじゃない!何をされるかわからないわ!」

「確かに。私も怖いです!」

「お主ら。ベルナールのことが怖いんじゃな。。。」


そうこうしていると、後ろから声をかけられる。


「お〜い!ソフィアたち!昼ご飯の時間だぞ!こっちに来いよ!」

「あっ、はっはい!今いくわよ!」


動揺しながら返事をする。

「この集落のご飯は、美味しいのよね。ベルナールは料理もここで覚えたって言ったかしら。」

「そうじゃろ。この集落あってのベルナールの料理じゃぞ。」

「は〜あ。まあその話はまた今度にして、ご飯をいただきましょう!冷めてしまうわ!」

「そうじゃ!早く行かなければ、争奪戦に負けてしまうのじゃ!」


ソフィアとフォルトゥナが大慌てでご飯に向かって走り出す。それをウェンディが追いかける。


「みなさん、ご飯に夢中過ぎですよ!待ってください!」



今日は晴れ。

最前線の野営地まで来た。魔王の城まで目と鼻の先。

五体満足で帰って来るか、または、死ぬか。

ベルナールの汚い作戦に乗ることにした。ベルナールが魔王にフェニックスの血液を使わせるから、その瞬間横取りするもの。

フェニックスの血液を奪うには、悪くないと思う。ただ汚いやり方に悩んだ。それでも可能性の高い方法を選ぶことにする。

魔王は必ず殺す。復讐を果たして、この足も元に戻してみせる。必ず。必ず。必ず。何を犠牲にしても。

ただ、もし、フェニックスの血液が一人分しかなかったらその時、私はどうするのだろうか?自分で使うと心に決めているが、ベルナールも当たり前にそのつもりだろう。このケースについては、お互いに話さない。なぜなら、その時はたぶん、どちらが死ぬ。


「お花積みは終わったのか?」

「あなたって本当にデリカシーってものがないのね!」


文句を言ってベルナールのそばに座る。

焚き火の火だけであたりは暗闇だ。


「ついに明日ね。自信はある?」

「逃げ切る自信はあるよ。今までどれだけ逃げてきたと思ってるんだ。」

「いや、魔王を倒す自信のことよ!なんで最初から逃げる気漫々なのよ!そんな情けない自慢やめて。」


コイツはこの期に及んで、この調子。


「作戦通り行けば、不可能じゃないさ。倒せなければ逃げるだけだろ。逃げ切る自信はあるぞ?」

「めちゃくちゃ逃げにこだわるわね!」

「生きてりゃまた挑戦出来るんだから、当たり前だろ?逃げられれば勝ちみたいなもんだろ。」

「そのポジティブさだけは尊敬するわ。」

「そっちこそ、しくじるなよ。」

「当たり前でしょ!誰に向かって言ってるのかしら。」

「さっきまでお花を摘みに行っていたソフィアさんにですよ。」

「だまれ!」



晴れ。

魔王を討伐した。足も取り戻すことが出来た。正直、生きて帰って来れるとは思っていなかった。上出来だ、と自分を無理やり納得させた。

魔王を討伐したのは、実質的には、ベルナール。私と薬を賭けての決闘に勝ったのもベルナール。それなのに。それなのに、アイツは自分の右腕じゃなく、私の命と足を治すのに使った。むかつく。腹が立つ。

ベルナールなら必ず自分に使うと思っていた。そんな柄でもないことをして、一生後悔すればいい…。


自分だけの力じゃ何も手に出来なかった。わかっていたけど、私は止まることが出来なかった。ベルナールに心臓を貫かれるまで。

魔王を殺して、足を取り戻す。それだけを考えて生きてきた。そうしないと気が狂ってしまいそうだった。足を焼かれた体で永遠に近い時間を生きることを考えると今すぐ終わりにしたくなっていた。

私一人では魔王に勝てないことはわかっていたけど、止まれなかった。

ベルナールを魔王討伐に誘ったのはほんの気まぐれだ。ドラゴンを殺した上に、女神が憑りついている人間に興味があったし、なかなか死ななそうだと思っただけだ。

頼んだわけじゃないけど、ベルナールには大き過ぎる借りが出来てしまった。仕方ない。借りを返すまでは、しばらく付き合うことにする。腕を取り戻す為に、フェニックスの血液を探しに行くのだろうか?それとも、水の腕で演奏活動をしていくのだろうか。どちらにしてもしばらくは付き合うつもりだ。人間の一生は短い。それなのに。まったく。バカなやつだ。本当に。

また長い旅になりそうだ。今度はとても長くなりそうだ。でも今度の旅は悪くない予感がする。


王都へ帰る途中の馬車の中。

「で、どうするのよ。これから。フェニックスの血液を探すの?それとも諦めてその右腕で演奏活動を続けるの?」

「この右腕は有り難いけど、やっぱり治したいと思ってるよ。王様に情報を集めてもらうつもりだよ。きっと協力してくれるだろ?」

「そうね。それがいいと思うわ。薬は存在した。私かその証拠ですもの。」


私は治った足をベルナールに見せびらかす。


「ソフィアには羞恥心というものがないのか?エルフには羞恥心がないと。俺は今、心に刻んだ。」

「あなたって人は!その身体を切り刻んであげましょうか!」


私は思わず、剣を抜きかける。


「やめてくれ。疲れてるんだ。」

「まったく、あなたって人は!あなたって人は!」


はぁ。こんな感じでこの先どうなるのかしら。やっぱり不安になってきたわ。私がしっかりしないと。コイツが脱線しないように面倒みないとね。ああ、忙しくなるわ!



今日は曇りがちだった。

ベルナールは行先が決まった。明日にはもう出発する。いつも慌ただしいやつだ。

それにしても、まさか、エルフの国に行くとは。エルフ領の町ジョゼは、私の故郷だ。芸術の町だから、ベルナールが行きたがるのは必然といえば必然なのか。

姉のロレーヌに会うのも楽しみだ。私が魔王を討伐したことになってるし、自慢したい。実際、魔王の腕を切り落として活躍したし、あながち間違いではないと思うことにした。


私が歌姫と言われるロレーヌの妹であると、知ったらベルナールのやつは驚くだろうか。早く自慢してやりたい。


「ベルナール。向こうに着いたら重大発表があるわ。心しておくことね。」

「なんだよ、もったいぶって。厄介ごとは御免だぞ。」

「まったく、憎まれ口以外に話せないの?」

「悪かったな。楽しみにしてるよ。」

「ええ。楽しみにしておいて。」



‐-------

ソフィアさん、これからベルナールさんに付いて行くみたいですね。と、いうことは、私もベルナールさんに付いて行くということです。

それにしても、ソフィアさんのお姉さんが、有名な歌手だとは、わたしも知りませんでした!新事実です!

これも報告しなければ!

それに、ベルナールさんの作るご飯は美味しいので、いい旅になりそうです。


「ウェンディ。そこで何をしているの?」

「えっ…。」


私の方をがっつり睨みつけるソフィア。これは、マズイ…。

殺気を放ち、目に光が宿っていない!

こちらへゆっくりと歩いて来る。これは、どうすれば生き延びることができるのだろうか。


生きてこの部屋を出られたら、レポートを書かないと。では、今日はこれにて失礼します。生きていたら、また。

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