第二十二話 「お祓い!」

王様のコネで、エルフの歌姫と舞台で演奏させてもらえるということで、エルフの国に旅に出ることになったが、だかだか、その前にどうしてもやらなくてはならないことがある。これは俺の人生において、とても大事なことだ。この大事なことには、複数名の強力が不可欠である。一人は迷惑の女神フォルトゥナ。もう一人は元勇者一行のヒーラー兼神父様のカルツォだ。

ついでだから、ソフィアとウェンディも呼んだ。あの二人にも関係あるからな。


朝から、二人分の朝食を用意させられる俺。

なぜこんなことになったんだと人生を振り返ってみるがわからん。天災にあったとしか思えない。


「ベルナールよ、今日の朝食は何じゃ?」

「ご飯を良く嗅ぎつけてくるやつだな。朝は、たまごパンだよ。」

「またか。しかし、我もたまごパンは大好物じゃ!」


寝ぼけて寝癖頭の女神が起きてきた。

フライパンで、たまごとミルクを混ぜ合わせた液にひたひたに浸して一晩寝かせたパンをバターで焼いていく。焼けたら皿に乗せ、砂糖、シナモンを振りかける。そして蜂蜜を、たらりとかければ出来上がり。


「はいよ。どうぞお食べください、女神様。」

「今日はずいぶんサービスがよいな?うむ。いい匂いじゃ。この紅茶もうまい。料理の腕は相変わらず、素晴らしいのう!」

「嬉しいような悲しいような。料理を褒められてもな。今日は思う存分楽しむといい!おかわりもあるぞ。」

「おう!そうか。お主も我を敬う気持ちが芽生えたようだな。くるしゅうない。」


くっくっく。これがこの世界での最後の食事になるとも知らず、いい気なものだな。良く味わうといい。


チリン!


ドアベルが鳴る。


「おじゃまします。」

「おじゃまするわよ。ベルナール。」


ウェンディとソフィアが軽く挨拶しながら家に入って来る。今日は町の外に行くわけではないので戦闘用の服装ではなく、町歩き用の服装をしている。水色のドレスシャツにスカート。ソフィアは白いワンピース。

いつも物々しい格好か、王様に会うための礼服が多かったので、新鮮な感じだ。


「よく来たな。ソフィアとウェンディも食べるだろ?たまごパン。」

「あらいいの!?それ、私も好きなのよね!」

「あま~い!久しぶりですね、これ。何かこの前の旅を思い出しちゃいますね。」


「今日は全員でカルツォの教会に行くぞ。ここにいる全員が幸せになれる、素晴らしいイベントがあるんだ。」

「何か怪しいわね。ベルナールが変なことをいい出す時は、ろくな事がない傾向がある気がするわ。」

「失礼ですよ、ソフィア。ベルナールさんだってたまにはいいことする時だってありますよ。えーと…。…今までは、ろくな事なかった気がして来ました。」

「あいさつでもしに行くのか、今日は近所の子供と遊ぶ約束もしていないし。うむ。仕方がない。付き合おうではないか。もぐもぐ。」


ご飯を食べて早々に、俺はフォルトゥナを連れて勇者御一行メンバーでもあるカルツォが所属する教会へ向かった。

教会の扉を開く。


「ベルナール、こんなところまで我を連れてきて何をするつもりじゃ?」

「まぁすぐにわかるさ、フォルトゥナにとってもいいことだと思うぜ。自称神父のカルツォさんいますかー!」


教会の奥からカルツォがゆっくり歩いてくる。

まるで神父様のようだ。


「自称じゃないよ。一応資格も持ってるし。って、なんだ?女神様とベルナール、ソフィアにウェンディさんまで。ツンデレ勇者が教会に何の用です?」

「その呼び方止めてください。教会に火を放ちますよ?」

「冗談だよ、ベルナール。気を悪くしないでくれよ。」


こいつなら本当にやりかねないと、顔を引きつらせるカルツォ。

ツンデレ勇者呼びは最近の俺が気を悪くするキーワード第一位だから止めてくれ。

そのキーワードはその場に居た一部の人しか知らない。広めないように封じ込めたはずだ。広めたら酷いことになるよってね。


「で、今日はなんの用だい?まさか我らか神ユグドラ・ファースト様のお祈りを捧げにでも来たのかい?」


「いや、その逆かな?」

「逆?お祈りを捧げて欲しいのか?魔王から盗んだ装備に呪われでもしたんですか?キヒヒヒ。」


相変わらずブキミーな笑い声だな。

 

「数えるほどしか持ち出してないし、基本的に金目のものだから大丈夫なはずだ。」

「そうなのじゃ。デカい鞄に詰め込めるだけ詰め込んで我に担がせたのじゃぞ。あの時は本当に疲れた。ひどいやつじゃ。」

「私も重い鞄を持たされました〜。」


あの時、鞄を背負わせたのを思い出したのか、女神とウェンディが肩を回す。ちゃんと山分けしただろ。他人ごとじゃないだろ。


「…やっぱり盗んできたのか。教会でバカ正直に言わないでくれよ!それ懺悔のつもりなのか?じゃあ、他になんだよ?」

「強力な呪いを解いて欲しいんだ!ぜひお願いしたい。」

「お主、呪われてたのか!?」


それを聞いて後退りするフォルトゥナ。


「何か嫌な予感がしてきました。」

「奇遇ね、ウェンディ。私も同じよ。」


金貨一枚をカルツォに投げて渡す。


「ベルナールが金貨をお布施するとはよほどの呪いってことかい?呪われてるようには見えないけど?」


「何を言ってるんだ!?一目了然だろ!?コイツを俺から、祓ってくれ!」


俺はフォルトゥナのほうを指さす。


「へ?」


フォルトゥナが素っ頓狂な声をあげた。


「俺に取り憑いたこの悪霊を祓ってほしいんだ!」

「誰が悪霊じゃ!このぷりちーな女神を悪霊呼ばわりとは、人の道を外れ過ぎじゃろ!?泣くぞ。」


「な、なるほど。要するに女神様を天界か何処かへ返せばいいってことだね。まぁ試しにやってみようか。」

「本当か!さすがカルツォさんだ!」

「カルツォ、本当にやるの!?」


「じょ、冗談じゃろ!?お主ら、正気なのか!?天罰がくだるぞ!我は帰らないぞ~!せっかく、お主の元に来るために、ばったばったと、他の希望者をなぎ倒してお主の担当になったのに!うまいもの食べて、寝てお主をからかって生活したいのじゃ!」

「私は女神様を信仰しているわけじゃないので問題ないですよ。困っている人がいたら手助けするだけですよ。もちろんお金次第ですが。」

「今すぐこのぐうたら女神を祓ってくれ!」


フォルトゥナがギャーギャー騒ぐが無視して話を進める。


「こほん。じゃあ、やってみますか。キヒヒヒ。」


カルツォが腰から杖を抜き、フォルトゥナの前で複雑な魔法陣を描く。その後は、杖を床に置き、手を組んで、楽しげに祈りを捧げる。


「我が大いなる神よ!ベルナールに巻き付く悪し鎖を断ち切り、鎖の根源たる邪悪なる闇から解放してください。神聖カルツォの名において、この者の束縛を解き、神聖なるお力により、闇を天にお送りください!」


お祈りを捧げるとフォルトゥナの身体が光に包まれ宙に浮かぶ。


「ちょっと待て!お主ら止めんか!こら!」

「めーがーみーさーま〜!」

「えーっ!女神様にお祈りが効くの!?」


ウェンディが慌てふためいて叫んでいる。

ソフィアはカルツォのお祈りで宙を舞うフォルトゥナに驚く。俺も半信半疑だったから、正直びっくりだ。


フォルトゥナは宙に浮かび天井に張り付く。身体をばたばたばたつかせ、抵抗している。

素直に空のお家に帰るんだ。神様なんて信じちゃいないが、俺も手を組み、お祈りする。さっさっと天に帰れ!


が、しかし。願いも虚しく、フォルトゥナから光が消え、天井から落ちてきた。


ドカ!


「痛っ!頭を打ったじゃろ!このバチあたりども!」

「フォルトゥナ様、大丈夫ですか!お怪我はありませんか!?」


頭から落ちて、頭を抱えるフォルトゥナに、ウェンディが駆け寄り懐抱する。


「だめだったみたいだね。結構いい線いってたけど。天に帰すまではいかなかったか。お金を積んでもらえば不可能ではないかもね。キヒヒヒ。」

「いったいいくらあれば、コイツを天界に突き返せるんだ!」

「そうだな~。金貨で1000枚くらいあればいい線行くかな?保証はしないけどね。キヒヒヒ。」

「は〜!?王都で大豪邸がいくつも買えるぞ!お祈りにそんなにかからないだろ!」

「何を言ってるんだ、ベルナール。私一人だとこの教会の天井くらいまでが限界だったんだ。女神を天に還すなんて悪事に手を貸してくれる悪い神父を大量に雇って、三日三晩お祈りしなきゃ無理だ。そんなメンツを集めるのは骨がおれるし、集めることが出来るのは、私くらいだよ。これでもサービス価格だよ?友人のよしみで。」

「神父よ、お主、悪いことしてる自覚はあったんじゃな。」

「仮にも女神様だからね。王様にでもバレたら指名手配されそうだ。協力者は選ばないといけないからね。ベルナールの願いだから試してあげたんだよ。」

「いや、お布施積んだからだろ。」

「いや〜、まぁそれもあるね!キヒヒヒ。」

「あと、女神様には動かないでじっとしていてもらわないといけないってのもあるよ。」

「嫌じゃ。我は帰らんぞ。逃げるからな。」


悪い神父をかき集められる手腕は凄いけど、そんな大金無理だ。女神を動けなくするのも難しい。

俺は床に手をついてうなだれ、涙を流した。


「そんな大金、用意出来るわけ無いだろ。お祓いは無理ということか。うぅ~。」


「ベルナールさん、そんなに、女神様といるのが嫌だったんですね。お気持ちはわかります。女神様のお世話大変ですもんね。」

「何も泣くことはないじゃろ。我がいれば楽しいであろう?そして、ウェンディ。後で話があるから顔を貸すのじゃ。締めてやる!」


ウェンディが悲鳴をあげてソフィアの影に隠れる。


「アホか。こないだなんて、ガキンチョと暴れて人ん家の窓を壊して逃亡。何で俺が平謝りしなきゃならないんだ!俺は保護者謝じゃないんだよ!他にも…。」

「あー!我は用事を思い出したぞ!夜には帰るから、うまい夕食をたのむぞ。では、さらばじゃ!


危険を察知したのか、そう言い残すとフォルトゥナは風のように走り去った。


「あなたも苦労してたのね。ちょっと同情するわ。ちょっとだけど。」


「あのだめ女神のやつ、必ず空に帰してやる!力ずくで!」

「魔王もいなくなったと言うのに、大変だね。キヒヒヒ。」

「そうだよ、魔王もいなくなったんだから帰ればいいだろ。まったく。」

「女神様もこの世界の生活を楽しんでるみたいで良かったですね。ベルナールさん、女神様のお世話は頑張ってくださいね。」

「ウェンディは血も涙無いんだな。そういうところあるよね。」


フォルトゥナを天に還す作戦は、見事にあっさり失敗し、心をおられただけだった。


「そうだ!女神を還すのに失敗したんだから、さっきの金貨を返せ!ってあれ?おい、カルツォ!どこに行ったんだ。お金返して!」


振り向くとカルツォの姿はなかった。教会はもぬけの殻だ。まったくどいつもこいつも!

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