第二十話 「片腕勇者と両足エルフ」

「はじめまして。両足エルフさん。」


俺は、嫌味ったらしく言った。


ソフィアは目を覚ました。体は血まみれだが、傷はまったくない。それどころか、左足は魔法で出来た作り物の足ではなく、天から与えられた美しいエルフ本来の足が生えている。

足は治癒され、すっかり元に戻っていた。

ソフィアは俺のほうを見た。

当然、俺の右腕は失われたままだ。俺は、フェニックスの血液を死ぬ直前のソフィアに使った。

俺はソフィアから少し離れたところに片手を付いて、へたり込んだ。さすがに疲れた。できれば両手をついてへたり込みたかったよ。

足が生えたエルフのほうを見ると、

ソフィアは、状況を理解したのか、泣いていた。もう二度と戻らないはずの足が戻ったのだから当然だと思った。だが違った。

ソフィアの目は絶望に打ちひしがれていた。まるで、俺が右腕を失った時の自分のように茫然自失、魂が死んだような目をしていた。

ソフィアは自分の腰の短剣を抜き、自分の首に突き立てようとした!!

さすがにボロボロの体ですぐに動けない!間に合わない。止められない!


「バカヤロー!」


叫ぶしかできない!


ガキィーン!


甲高い音を立て、ナイフが宙を舞う。

フォルトゥナがすんでのところで、ソフィアのナイフを蹴り飛ばした。


「高潔のエルフともあろうものが、足が戻ったというのに死ぬのか?」


あぶなかった。本当に危なかった。フォルトゥナがいなければどうなっていたか。

ソフィアは自分が許せなかったんだろう。いや、わからなくなってしまったのか。

自分が誓っていた高潔さとは何かを。

俺を巻き込んだ挙句、自分だけ元の体に戻ったことがいいことなのか悪いことなのかを。

わんわんソフィアは泣き続けていたが、まぁ大丈夫だろう。そこまでやわじゃないはずだ。その程度のやつなら、こいつに使わなかったさ。

ウェンディがあわてて介抱している。

フォルトゥナがこちらに向かって、満面の笑みで自慢げにピースサイン。


「ああ、よくやったよ。」


おれもピースサインを返した。

いままで本当にまったく何の役にもたっていなかったが、この瞬間だけで、ここまでついて来てくれたかいがあったと思った。

女神の気まぐれなんだろうけどさ。


「さあ。帰ろう。」


俺たちは王都に帰ることにした。だが簡単に帰れるわけもない。当然来た道を戻らなければ行けないからだ。

しかも、帰りは馬なしだ。城下町を出るまでは必至に走った。それはもう脱兎のごとく魔物から逃げた。いちいちかまっていられない。魔王は倒したのにこんなところでくたばったら目も当てられない。

死にそうになりながら、城下町を出るとクロ、シロ、チャイロ、コゲチャが待っていてくれた。感動の再会。


「我が永遠の友よ!」

「ヒヒーン!」


フォルトゥナがチャイロと抱き合って再会を喜ぶ。いや、結構再会早かったよ?

こいつらも無事に逃げ出せたようだ。


野営地から馬車での帰り道。


「なぁ、フォルトゥナ。もしかしてすべてわかってのか?」

「なにがじゃ?」

「俺が魔王を倒すこと、ソフィアを助けること、ソフィアが死のうとすること。とか。」

「いや、ぜんぜん。」


……。ほんとうかよ。うそくさい。


「お前たちは何で俺たちについて来てるんだ?サポーター?そんなんじゃないだろ?」なんもしてないもんな。

「私たちはサポーターという名の監視者なんですよ。この世界が『到達者』によって壊されないように見守る役目なんですよ。基本的に。」ウェンディが言う。

「『到達者』ってすごそうな割りに正直、俺はそんなに強くなってない気がするぞ?」

「所詮人間の到達者だからのう。上げ幅も大したことないのじゃろう。たぶん。」うんうんとうなずくフォルトゥナ。


俺、そんな状態で魔王と戦わされたの?可哀そう過ぎだろ。


「ついでに言うと、『到達者』が世界に生まれると神様からこの世界に影響を与える人物がどんな人物か神様から大発表されるのが二つ名なのですよ。それで、勇者を打ち負かした『絶望の魔王』みたいに自然に世界に広がっているようにみえるんですけど、ネーミングに関しては神様が決めているのですよ。毎回天界の会報誌に載って大盛りです!」


なんだよそのなぞシステムは。


「フォルトゥナ様は、ベルナールの二つ名が『ツンデレ勇者』と発表されて、どんな人か生で見たかったんですよね?ツンデレるところを!」

「えっ?」

「!?よっよけいなことを言うではない!ウッウェンディよ!!?」

「なんだ!?その恥ずかし過ぎるあだ名はッ!!!!しかも神様が決めてるのかよ!」


俺は絶句する。冗談もいい加減にしてくれ!そして神様っているのか!?


「『ツンデレ勇者』だなんて爆笑必至の二つ名を与えられた人が、どんな生き方をするのか生で見るために、女神様がわざわざサポーターとして来たんですよね?天界ではおもしろイベントに参加したいサポーター希望者が殺到してラグナロクが起きてましたよ。聖戦ですよ、聖戦。血で血を洗う一席を争う争奪戦ですよ。みんなひまなので。」


ウェンディがもう魔王倒したからもうどうでもいいやという感じでぶっちゃけはじめた。ウェンディさんそういうところあるよね。

俺の殺意に顔面蒼白になっているフォルトゥナに俺は詰め寄った。


「本当なのかい?怒らないから言ってごらん。」

「ウェンディ。お前は処刑じゃな。消滅させてやろうぞ。」フォルトゥナはアホで武闘派キャラだったんだな。

「ひぃぃッ。ごめんなさい!ごめんなさい!」ウェンディが泣いて謝っている。


まったくこいつらときたら。


「フォルトゥナ、いつまで付いて来る気だ?わかってるだろ?俺は女神が付いてくるような善人じゃないよ。」

「お主に一つ良いことを教えてやろうぞ。」

「おう!」

「そういうのをツンデレというのじゃーーー!!!!」

「うるせぇわーーッ!」


ドコッ!


「ギャァ〜〜〜!!!」


女神が顔から地面に突っ込み地面に転がる。

思わずアホ女神の顔面を全力でぶん殴ってしまった。人がまじめに話しているというのにコイツは!


「ぜーはーぜーはー。魔王に続いてアホ女神も退治しちまったぜ。また世界を平和にしてしまった!むしろ魔王退治より平和にしてしまった!!」

「めーがーみーさーまー!!!」


ウェンディが慌てて馬車か降り、元々水でできた真っ青な顔を真っ青にして地面に突っ伏しているフォルトゥナにダッシュで駆け寄る。


「うえぇ~ん!神様!こやつに天罰を!」


フォルトゥナはむくりと起き上がり、空を見上げて俺を指す。


「女神が神様に祈ってるわよ。頭が痛くなってきたわ。」


ソフィアがあきれて頭を押さえる。そんな騒ぎの中、


「ちょっと聞きたいんだけど。」

「なんだ?」

「なんで私に使ったの?」ソフィアが言う。


なんでかねぇ。まあ、


「100年片腕か1000年片足かだったら、そりゃあ、100年片腕の方が得だろ?俺は強欲なんだよ。ただそれだけの話さ。」まるで、あたり前のように言う。

「はぁ。まったく馬鹿なことをしてくれたわね。」


ソフィアが深い溜息をつく。

正直、最後の最後まで自分で使うつもりだったさ。なんでソフィアに使ってしまったのかわからない。まったくバカなことをしたもんだ。自分でもそう思うよ。


「あなた、これからどうするの?」


さぁなぁ…。正直何も考えていない。

遠くを見て何も答えられない俺に業を煮やしたのか、ソフィアは意を決して言う。


「はぁー。仕方ないわね。100年くらい付き合ってあげるわ!ベルナール。この左足の借りは必ず返すわ。エルフの名にかけて。」

「期待しないで待ってるよ。相棒。」軽口を返す。

「どうせあと3年くらいしか生きないでしょ?」

……。いや、それはひど過ぎないか。


…さて、これからどうしようか。

右腕は戻らなかったが、うまくはなくても、弾けないことはない。久しぶりにピアノでも弾いてぼーっとしてから考えよう。

俺たちは帰路についた。

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