第十七話 「魔王」

魔王の隣を見てめまいがした。隣には白い翼の天使が立っていた。天使が傍にいるということは、魔王は魔族の『到達者』だ。

予想はしていたが、かなりショックだ。魔族で到達者なんて、まさに怪物。一生会いたくなかったよ。


「おお!ラファエルか!お久じゃのう!」


天使は金髪ショートカットに金色の瞳、白い天使っぽいローブのようなものを身にまとっている。空から降ってきたやつは、どいつもこいつも見かけだけはきれいだ。

で、その天使が何か嫌そうにフォルトゥナのほうを見る。


「げッ!!フォルトゥナ様じゃないですか!なんでこんなところに!」

「女神?と精霊か。と、いうことはお前たちも到達者か。クックック!これはおもしろい!」


魔王が不気味に舌なめずりをする。


「フォルトゥナとウェンディは下がってろよ。まぁ二人は大丈夫なんだろうけど。」

「フォルテッシシモ!こいつらはやばい!フォルトゥナ様に関わると、ろくなことがない!マジで油断しないほうがいいわよ!」


フォルトゥナさん!あなた、あっちの天使にめちゃめちゃ嫌われてるぞ。おかげで警戒されまくってるよ!


「ほぉ。それはおもしろいじゃないか、それは最高だ。退屈しのぎになる。」


「お前、その右腕は魔法の義手か?そんな腕で我に挑もうなど、馬鹿にしてるのか?」

「いやいや魔王様の目は節穴ですか?この右腕も捨てたもんじゃないですよ?貴方を斬るには十分過ぎるくらいですよ。」


右腕を見せびらかして答える。


「そうか?それならよい。我もここにいるのも飽きてきた。大陸のほぼ中心に位置するこの国に陣取れば世界中から俺を殺しに刺客が押し寄せ、スリルを楽しめるかと思えば、来るのはクズばかり。お前を殺して、次は大陸の端から端まで、殺してまわるか。我に生きている実感を与えてくれる者はいないのかねぇ。」


正直理解は出来る。コイツはつまらないのだろう。よくは知らんが魔族もエルフに劣らず長寿命だろうし、バケモノみたいな力があっても、変化がないと生きてるんだか、死んでるんだがわからないってことなんだろう。

だからといって、コイツのしてきたことは一切認めないが。


「もう、俺を殺した気になってるんですか?さすがにそれは気が早いですよ。」

「お前は、俺を楽しませてくれるか?」

「もちろんですとも。楽しませるどころか、終わらせてあげますよ。」

「そうか。そこまで大口をたたく愚か者は、お前が初めてだ!」


魔王様は、凶悪な笑みを浮かべてハイテンションのご様子。ヤベ。ちょっと調子に乗りすぎた。


「お主、正気を失ったのか?そんなに煽って大丈夫なのか?」

「ベルナールさん!かっこつけるのはいいですけど、私はまだベルナールさんに死んでほしくないです!」


フォルトゥナとウェンディが、らしくもなく心配している。実力差は歴然、まるで勝ち目はないといいたげだ。


「やってみなきゃ、わからないぜ!ここまできたら、盛り上がっていこうじゃないの!」

「それもそうじゃな!やっちまえ!ベルナール!」

「破れかぶれですね。ベルナールさん」

「油断するんじゃないわよ!ベルナール!」


俺のポジティブシンキングにあきれつつも乗ってくれた。

相変わらず好き勝手なことを言うやつらだ。俺たちらしくていい。


「魔王様、戦う前に一つ確認したいのですが?」俺は魔王に声をかけた。

「何だ?ここまで来て何を聞きたいんだ?」

「あなたがこれまで人を殺してきたというのは本当ですか?」

「あんた、何今更何聞いてんのよ!」ソフィアが怒鳴りつけててきた。ちょっと黙っててくれ。

「そんなことを聞いてどうする?この国に来た時、歯向かう者は始末した。この城を取り返しに来たお前達人間の軍隊を殲滅したのも私。そこのエルフの脚を灰にして、つまらん勇者たちを追い返したのも私だ。人間、エルフ、ドワーフ、魔族すら殺してきたよ。だからこそ魔族の『到達者』なのだよ。これで満足か?」つまらなそうに言う。

「そうですか。あなたの口から聞けて良かった。」


良かった。これで、これから自分がやることの決心がついたよ。


魔王は眉を潜めたが、王座から立ち上がった。

魔王は髑髏が赤い大きな魔石を持つ長い杖を持ち優雅に前に出る。


「魔王様、貴方が襲った兵士たちが教えてくれましたよ。城までの城下町でどんな魔物が現れるかを。

それを引き継いだ勇者様が教えてくれましたよ。魔王様がどんな戦い方をするのかを。

みんな弱いのに、あなたと違って命懸けで戦ったんですよ。そして後に続く人に繋げてくれたんですよ。

おかげさまで俺なんかでも、こんなところまで来れちゃいましたよ。」


空気がヒリつく。魔王の気配が変わった。魔獣の森の魔物がかわいく思えるくらいの殺気を向けてくる。


「だから何だというのか?」

「まぁ、だから俺も、あなたの首を胴から切り飛ばすくらいは、頑張らないとねぇ?」


俺はニヤニヤと笑い魔王に言い放つ。


「そうこなくてはな!」


魔王もニヤリと笑い、こちらを見る。

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