第十六話 「決戦の前」

「しかし、そなたたちは、まったく、まともに戦わないのだな。」

「ただついて来てるだけのフォルトゥナだけには言われたくないが、その通りだよ。魔王と戦う前にいちいち倒していられるかよ。」

「私も不本意ながら、同感ね。あの程度の魔物たちなら、魔王を倒したあとに、王国軍がなんとでもしてくれるわ。私たちが手を下す必要はないわよ。前来た時はいちいち倒してたせいで、ここに来た時はボロボロだったわよ。今回は実質二人しかいないのよ。負担は最小限にしないと。」

「ソフィアは、だんだんベルナールに似てきた気がします。」

「ウェンディ、私を侮辱するのは許さないわよ!」

「俺に似ると侮辱になるんだな。なんで魔王の前で人の心を折ってるんだよ。」


泣きながら最後の装備確認をする。

腰には、投げ物、グランのナイフ、痺れ薬を塗ったドラゴンのククリナイフ。カバンには、ドラゴンのマント。用意出来るものは最大限用意した。ソフィアはローブを頭からすっぽり被った。ジャケットは戦闘の邪魔なので置いていこう。コンマ一秒を争う戦闘になるし、魔王の攻撃など一撃くらったら即、死と思った方がいいだろう。回避一択、スピード重視だ。


「魔王に挑戦するそなた達に、景気付けに運命の女神である我から有り難い話をしてやろう!」

「なんだよ、こんなところで。」


フォルトゥナがまるで女神様のように話出した。ここまで来て変なこと言い出さないだろうな。


「まあ聞くが良い。この世界に運命などはない。運命など後付けの言葉じゃ。先のことなど何も決まっておらん。お主らにはそこそこの可能性がある。」


フォルトゥナは腕を組みウンウンと大きく頷く。突然どうしたんだ?女神様にでもなったつもりか。


「そこそこってなんだよ。無限の可能性くらい言えないのかよ!」

「たかが人間一人一人に無限の可能性などあるわけなかろう?そこそこじゃ。そこそこ。」


冗談まじりに抗議してみるが、フォルトゥナは聞く耳を持たない。


「だから、暴れて掴みとって来い!そなた達の運命を!」


わかるような、わからないような話を聞かされ、フォルトゥナが俺とソフィアの背中を景気付けとばかりに、ばしばし叩く。


「まあ、ベルナールとソフィアなら、ろくでもない運命が決まっていても、どうということはないじゃろ?」

「あたりまえだ。これまで通り、奪い取るだけだ!」

「いつも通り、叩き壊して進むだけよ!」

「みんな、イケイケですね!いいと思います!」


「いくぞ!」

「もちろん」

「楽しみじゃ」

「行きましょう!」


そういえば、昔、グランに聞いたことがあったっけ。



『グラン、この世界で人間って一番弱いの?』

『ああ。一番弱い。ドワーフやエルフより軟弱で、寿命も短いしな。』

『じゃあ、一番強いのは?』

『一番強いのは魔族だな。あいつらは力も魔力も、人間、ドワーフ、エルフの中で一番強い。』

『魔族に会ったら回れ右して逃げないとね。』

『ベルナール、確かにそうだが、魔族ってやつは、強ければ強いほどお上品な戦い方をするんだぜ。強いやつは、お城で高貴な剣術を学び、高貴な魔法を学ぶエリート様ってことだ。人間と変わらないよな。』

『只でさえ強いのに、人間じゃあ魔族にやっぱり手も足も出ないってことでしょ?』


何か勝つ裏ワザでもあるのかと期待していたが、勝ち目がないと知って肩を落とした。


『そうじゃねぇだろ?あいつらは、人間の貴族様と同じだって言ってんだよ。あいつらは相手が同じように、真摯に戦ってくれると思ってる、お人好しってことだ。それなら、勝てるだろ?俺達はそんな連中の天敵だろ?罠にイカサマ、あらゆる手を使って奪い盗る野盗だぜ。予想外の戦いに慣れてないから、対応出来やしない。あっちがお城のエリートなら、こっちは野盗のエリート様だせ!その中でもお前は、生き汚なさと無駄に挑戦的な冒険心では右に出る者がいない、俺が育てた野盗の中の野盗、野盗のエリート中のエリートだ!お前なら魔族でも倒せるんじゃないか?がははははっ!』

『何それ?褒めてるつもり?全然嬉しく無いんだけど。』


やれやれ、昔のバカ話を思い出してしまった。本当に魔族にケンカを吹っ掛ける時が来るとはね。



気を取り直して、ソフィアたちに声を描ける。


「じゃあ、魔王様にご対面と行きますか!」


広場から城の中に通じる大きな扉を開けた。

城の中はロウソクがそこら中に灯っている。

一度来たことのあるソフィアを先頭に王座の間を目指し広い階段を登って行く。そして四人頷き、城の中央の扉を開けた。


扉を開くと、そこには魔王が王座に腰かけていた。

白い長髪にサファイアのような瞳、黒い貴族衣装に杖に剣。


「きっちり、借りを返しに来たわよ!」


ソフィアは魔王に啖呵を切った。


「あの時のエルフか。脚を焼いてやったというのにご苦労なことだな。そんなにもう片足も灰にして欲しいのか。」


まるでこの国の王のよう威厳と威圧感を与える声で、頬杖をつき楽しそうに話す。


「あんたが魔王様かい?」

「お前が新しい勇者か。」


こちらを見る。

ん?違いますよ。何か勝手に勘違いしてるぞ?自分は昔、ちょびっとだけ悪いことをしてた一般人ですよ。偉そうにしてるけど、勘違い魔王様、ちょっとカッコ悪いぞ。


「よく来た新たな勇者よ。一度逃がしてやった会があったというものだ!」


だから違うって。勇者なんかじゃない。いまどき、魔王に挑戦しようってやつが、勇者ってことでもないだろうに。

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