第十五話 「魔王の城下町」

各自愛馬に跨り、パッパカ走る。

道中フォルトゥナは昨日、俺を単細胞扱いして、珍しく言い負かしたのに大変気を良くして、ことある事に俺を単細胞扱いしてくる。


「お主は、本当に単細胞じゃ。単細胞、単細胞じゃ。うんうん。」


…フォルトゥナ。お前は気づいていないが、それが本当の単細胞ってやつだと思うぜ。さすがにかわいそうなので、指摘しないけど。

ソフィアもウェンディもいたたまれなくて、突っ込まずにいる。


「私たち、これから魔王を倒しに行くのよね?あなたたちの格好、村を襲うようにしか見えないわ。」

「フォルトゥナ、そのこん棒、イケてないってよ。」

「ベルナール、お主のその山賊ナイフのことじゃろ?」


お互い自分じゃないと言い張る。誰が見ても悪役装備だけども。


「こん棒担いで、ククリナイフもって、馬で集団で走ってれば、俺たちはもう立派な野盗だな!」

「やめてよ!私を入れないでよ!」

「私も何かもってくればよかった。失敗でした。」


ウェンディさんだけ、しゅんとして残念がってる。

最終野営から出発した俺たち四人は、馬に乗って魔王の居る城の城下町に入った。

アホみたいに堂々と真っ正面から侵入した。裏からこそこそとかでもいいのかもしれないが、めんどくさい。

グダグダ考えるより、突っ切ったほうが楽と判断した。中途半端に小細工をして、足元をすくわれるより、正面から攻めることを選択した。ここからは城までひたすらダッシュだ。


町にはそこら中に魔物がいるって話だ。そいつらにかまってたら魔王に会う前に全滅してしまうので、とりあえず魔王の城までひた走る。城まで行けば最低限、俺たちの面目は立つだろう。野営地から望遠鏡で監視してる兵士も城の中に入った後のことは確認しようがないからな。

それまで我が愛馬クロよ、頑張ってくれよ。

女神と精霊コンビは本当に何も手伝ってくれない。一緒に戦う気はないらしい。ただついて来るだけだ。魔物に喰われることもないようなので、どうでもいんだが荷物持ちだけは無理やりさせている。



『女神を荷物持ちに使うとは何ごとじゃ!』

『そうか。もうご飯がいらないなら仕方ないな。』

『しっ、仕方ないのう!カバンくらい背負ってしんぜようぞ。よいしょっと。』自ら積極的にリュックを背負ってくれた。

『女神様。なんと嘆かわしい。』ウェンディがハンカチを涙で濡らしていた。



そのおかげで、俺とソフィアは身軽な状態で戦闘に必要な物だけ身につけている。それだけがいいところだ。

城下町の中を一直線に城まで馬を走らせる。

魔王様はこちらの侵入に気づいているはずだが、遠距離から魔法は飛んで来ない。王国軍が攻め入った時はそれで追い返されたらしいが、第一段階はクリアしたようだ。


「さてさて、そこら中から出てきやがったぞ。」


出てきのはガイコツの魔物、幽霊の魔物、鎧を着たやつ。アンデッド系。そりゃあそうだ。魔王の魔力に引き付けられて集まって来たようだが、食べ物がないんじゃあ、魔獣みたいなやつは生きてけないからな。事前の情報通り。


「コイツらの足じゃあ、私たちに追いつけないわ。予定通り、走り抜けるわよ!」

「あいよ!」のろまな魔物は無視して走り抜ける。


だが、そううまくは行かず、俺たちが走る道を魔物が塞ぐ。そうなるよね。


「ソフィアさん。ここはひとつ派手なのを願いします。」

「まったく、調子いいわね!」


俺はアンデッド系は苦手だ。物理的に斬って殴って戦闘するタイプなので、斬れない、殴れない相手は厳しい。魔法が使えないわけでは無いが得意でもない。

ソフィアは馬に乗ったまま、前に出て背中に背負った杖を取り出し、前方の敵に向かって魔法を唱える。


「風の精霊よ、我が前に立ち塞がる敵を切り刻め!」


ウェンディを差し置いて風の精霊に浮気したソフィアの魔法がアンデッドの群れを蹴散らした。

何も全部倒す必要はない。道からどかせば十分だ。

次から次に現れる魔物をソフィアの魔法でねじ伏せた。

俺たちは後ろから後を追って走る。

横から骸骨の剣士が俺に向かって剣で斬りかかって来る。即座にククリナイフで受け止め、兜ごと頭を叩き割る。ドラゴンのククリナイフさまさまだな。兜なんてないのと同じように切り裂く。

隣を見るとウェンディには、中身のない鎧の騎士が襲いかかろうとしていた。ウェンディは無詠唱、かつ、魔法陣無しで、水の魔法を使い、あっさりと追い払っていた。

俺にだって同じことはできるが、精々焚火の火をつけられる程度のものだ。威力が違い過ぎる。さすが精霊様といったところだ。


「ウェンディも、戦ってくれる気になったのか?」

「さすがに自分に身くらいは守りますよ。ただ斬られたらバカじゃないですか。」


ごもっともです。ちょっとだけ期待したが積極的には戦ってくれなさそうだ。

少し後ろを見ると、フォルトゥナも魔物に襲われていた。こっちは厄介なゴーストの魔物に襲われていた。

物理は効きにくいから、俺の天敵だ。


「我の馬を傷つけるやつは許さんぞ!」


ドカン!


地震が起きたかの用に地面が揺れ、ゴーストがいたところには小さなクレーターができていた。

ゴーストをこん棒で叩き潰していた。


「「えっ?」」


ウェンディと俺は、ゴーストが潰され、霧散していく姿に目を丸くした。あれっ?ゴーストってそんな感じで殴れたっけ!?

「なんじゃ?なにを驚いているのじゃ?ほれ、先を急ぐぞ、我が心の友チャイロが魔物に傷つけられたら、我は泣いてしまうぞ。さあ、早くいくぞ!」


馬チャイロがヒヒーンと、かっこつけていななく。

フォルトゥナは心の友チャイロと息のあった走りで、魔を蹴散らしながら、俺たちを置き去りにして、先に進む。

女神様ってこう、神聖な魔法的な力で魔物を撃退していくイメージだったんだけど、えっ、いざという時はゴーストだろうがなんだろうが、物理的な感じで戦うの?腕力は正義な感じ?実態がある魔物相手にこん棒を使うのかと思ってたら、何の魔物が来ても、モグラたたきのように、こん棒一本で殴りつけて片付けていった。


「私もフォルトゥナ様が魔物と戦うのを初めて見ました。もっと神々しい感じを期待していたのですが。」

まさかのウェンディさんもちょっと悲しんでいる。

ショックを受けてる場合じゃない。俺たちも早く行こう。俺とウェンディは二人を慌てて追いかけた。


城下町を抜け、やっとの思いで、城の入り口である跳ね橋まで駆け抜けて来た。

幸運なことに跳ね橋は降りていたが、そこには、門の高さと同じくらい大きな鎧の騎士が二体、門番をしている。こちらに向かって動き出した。

全員ここで馬を降り、馬を逃がした。


「お前ら逃げ切れよ!」


俺は馬のケツを叩き送り出した。馬たちは別れを惜しみながら来た道とは別の方に走って行った。

これも予定通り。ここに留めていたら、たちどころにやられてしまう。


「また必ず会おうぞ!我が友よ!」

「私の癒し。必ず生きて逃げてください!」


フォルトゥナとウェンディは号泣して全力で手を振っていた。またすぐに会えるさ。

ここから離れさえすれば、わざわざ馬を追いかけて殺したりはしないだろう。ここにいるのはアンデッドばかりだから、馬を殺して食べようとする魔獣はいないからな。

馬を降りたはいいが、やれやれ、後ろからは魔物、前には鎗を構える鎧の騎士。ここはひとつ、


「ソフィアさんもうひと働きお願いします。」


俺はソフィアさんに手を合わせる。結局ソフィア様頼りである。


「言われなくてもわかってるわよ!」


ソフィアはロングスタッフを構え巨大な魔法陣を鎧の騎士に向けて描く。杖についた魔石から放たれる光で魔法陣を描いていく。

そして、異常なデカさの魔法陣が空中に現れる。並大抵の魔法使いじゃ到底扱えない規模の大きさと緻密さだ。

その間、俺は後ろから追って来た魔物の相手をする。左手に握った、ククリナイフで魔物を刻むが効果は薄い。

アンデッド系は物理が効きにくいから俺の天敵である。


「水の精霊よ!清浄なる水竜の牙をもって我が敵を洗い流せ!水の竜よ!ここに顕在せよ!」


華麗なダンスのように優美に魔法を使う。ソフィアは喋らなければ完璧なんだがなぁ。

魔法陣から巨大な水の竜が出現し、門番である鎧の騎士二体を丸呑みにした。

水の竜はこいつらを呑み込んだまま、空高く舞い上がり鎧の騎士と遠くまで飛んで行った。

コイツらもいちいち戦闘不能にする必要はない。

そんなことをしていたら、あっという間にバテバテになってこちらが全滅してしまう。

希望的観測だか、俺たちが城の中入れば魔王の根城までは追っては来ないはずだ。

鎧の騎士をどかした後、俺たち四人はすかさず城まで走る。



跳ね橋を渡り、城内部の広場まで来た。やはり城内は魔王様の聖域といったところか。魔物は一匹も入って来ない。


「城の広場までは、なんとか来れたな。やれやれだぜ。」

「そうね。わ・た・しのおかげでここまで来れたわね。」手を腰にあてふんぞり返る。

「ソフィアは凄いのう!ソフィア様々じゃ!」

「ソフィアさん凄いです!」

「そだね。」


仕方なく同意しておいた。全て俺の作戦だけどね。

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