第十四話 「決戦前のご飯」

俺たちは魔獣の森を出て、一週間ほど馬で南に移動し、魔王のやつがいる城への最終野営地に到着した。

ここは王国軍が陣地を敷いている野営地だ。簡易だが木材の塀に囲まれた砦となっている。

今日はここに泊まり、明日、魔王の居る王都サングリアに攻め込む。ここの小さな小屋を借りて今日は過ごす

ことにした。一通りの設備は整っていて、短い間だが快適に過ごせそうだ。


「すんごいすぐ行くのね?もうちょっと休んでから出発しないの?」ソフィアが言う。

「ここに魔王の内通者とか嫌だろ?待つ意味もないさ。ソッコー落とす。」ソフィアは肩をすくめた。


おのおの装備の最終確認をし、焚火を囲みご飯を食べた。魔獣の森で狩った山イノシシの肉を香草で包み香辛料をかけた料理を作り、全員で食べた。もちろん支度をしたのは俺だ。

なぜか魔獣の森へ行ってからさらにメンバー内の地位が低下している気がする。不思議だ。

例のごとく、フォルトゥナは、ばかばか食べる。こいつは食べられさえすれば、毎日ハッピーで羨ましいよ!


「ベルナールが作ったおいしいご飯は、今日で最後になるのかもしれんのか。泣けてきたぞ。」

「そう思うと、感慨深いわね。」

「おい!これからって時に殺すんじゃない!」

「そうです!ベルナールさんは、しぶとくてなかなか死なないって、野盗の皆さんが言ってましたよ!」


ウェンディさん。それはフォローなのかな。

夕食後、ソフィアがお花を摘みに行っている間、気になっていたことをウェンディに聞いた。


「ウェンディ、何でソフィアは片足になってまだ生きてるんだ?」


エルフはプライドが空より高く、長寿命だ。だから不治の病や大きなケガなどすると多くは自殺する。

永遠とも言える時間を病やケガを背負って生きることができず、現実を受け入られず死を選ぶからだ。


「そうですね。だから『高潔のエルフ』と言わるんじゃないですか?ソフィアの高潔さは他のエルフさんとは違うんじゃないですかね。一度魔王にボコられたのに、立ち向かうのは正気じゃないです。勇者さんですら心が折れてお城に引きこもってる有様ですからね。それでも命をかけて魔王と戦おうとしたり、変わってますよね。エルフっぽく無いですよね。」

「ソフィアさんの考える高潔さとかプライドは人間に近いと思うんですよね。わたしは好きですけどね。そんな感じが。」


確かに同感だよ。俺も悪くないと思う。ここで死ぬつもりじゃなければ。


「あとは、勇者さんたちと一緒に魔王と戦った時に、なんでも治る薬を見せつけられたらしいですからね。今は魔王なんかより、そっちが目的です。魔王にリベンジして足も治す。一石二鳥、憂いなしみたいな。」

「そううまく行けばいいけどな。」

「お主はずいぶんと、やる気になっておるのう?最初はあんなに後ろ向きだったのにのう。」

「ソフィアが大丈夫って言ってたからな。」

「それだけか?お主、意外に単細胞なのじゃな。」


フォルトゥナが目を丸くし意外そうな顔で、バカにするように言ってくる。フォルトゥナのくせに。


「そういうのも、たまにはいんじゃいの?やるだけやってみるさ。それより、フォルトゥナが単細胞って言葉を知ってるのに驚きだよ。」

「本当に口のへらないやつじゃな。」


ニヤニヤ顔のフォルトゥナとウェンディ。

さてさて、明日はどうなることやら。俺も明日に備えて寝るとしよう。

その前に俺もお花を摘みにっと!


翌朝早朝、打倒、魔王様!と行きたいところだが、魔王様の前に朝ごはんを食べなければいけない。

お腹が空いては戦はできない。

いや、正直すぐ出発する予定だったんだけど怖気付いた。

王国軍の野営地なだけあって食料も豊富にある。


「今日が最後の食事になるかもしれないんです!なにとぞパンと牛乳と卵とバター砂糖とシナモンとはちみつを分けてください!」


昨日の夜も最後のご飯のつもりだったが、まだ食べておきたいものがあった。


「あっ勿論であります!好きなだけお持ちください!」


食料庫の前でメソメソ泣いてもらって来たんだぞ!どうだ!


「そんなアホなことしなくても、もらえるわよ。これから魔王のところに行くんだから当たり前でしょ。」


何だそうだったのか。妙に素直に分けてくれるなぁと思ったんだよね。

よくといた卵に牛乳を入れて混ぜ、食パンを浸す。

俺は私物の鉄フライパンにのっけて、焚き火で焼く。砂糖とシナモンを振り完成。お好みではちみつをどうぞ。

たまごパンをお皿に取り分ける。コーヒー付き。


「早く早く、我の分を頼む!」

「はいはい、どうぞ。」

「おいし~い!やるじゃない!」

「美味しいです!ひたひたのタマゴがいいです!」

「それは良かった。」

「次はいつ食べられるタイミングが来るかわからないから、たくさん食べといた方がいいぞ。」

「まるで、最後になるかのような言い草じゃな。」

「そのつもりはないけど、自信もないな。」


ソフィアはどこから持ってきたのかルバーブのジャムをたまごパンに付け食べていた。


「ソフィア、ルバーブのジャムとは随分ハイカラなもの食べてるな。」

「このパンには良く合うわよ?」


俺も少々もらうが、確かに悪くはない。甘酸っぱい、フルーティーな味。甘いものを食べてると、だんだん行きたくなくなってきたなぁ。

このおいしい朝食が最後の朝食にならないことを祈りたいね。

皆、遠慮なく食べるので何度もたまごパンを焼いた。好きで家でもよく焼いていた。

俺も最後になるかもしれない好物の甘いたまごパンとコーヒーを飲んで不安を紛らわした。

現実逃避のご飯に尾を引かれながら、も支度を整える。


「準備はできた?」ソフィアが皆に声を描ける。

「ああ。大丈夫かな?」

黒いドラゴンの皮ズボンに、ブーツ、ドラゴンの鱗であつらえた胸当て、レザージャケット、そしてグローブを身に着け、可能な限り動きやすい装備にした。

腰にはベルトには各種投げ物とククリナイフ、グランのナイフを括り付けている。

それに小さいカバンを背負った。


「ちょっと、しっかりしてよね!」ちょっとばかしぼーっとしてると怒られてしまった。

「はいよ。」適当に答える俺。

「我はお腹いっぱいだし、武器も借りたし、チャイロもいるし準備万端じゃ!」

「わたしもです!」

「いや、ちょっと待て。お前が肩に担いでるそいつはなんだ?」


フォルトゥナは肩に大きなこん棒を背負っていた。


「我と我が心の友であるチャイロを守るために、武器を借りてきたのじゃ!ここは王国軍の野営地だからいいのがそろっておってなぁ。これを借りてきたのじゃ!貸さないぞ!」


いやいやと違うとジェスチャーを返す。欲しがっているわけじゃないって。


「女神が持つ武器じゃないだろ。もうちょっとマシなの武器はなかったのかよ。」

「これが最強なのじゃ!いちいち気にするでない!」


そんな仰々しい武器を肩に担いでるのを見て気にするなって言われても無理だろ。フォルトゥナはトロールの親戚なのか?


「はぁー。じゃあー今度こそ、いくぞー。」


半ば、やけくそな気持ちで出発の声をかけた。

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