第十三話 「アジトでの生活」

日が傾き、狩りから戻ると、夜は久しぶりに帰ってきた俺とその他、ソフィアと愉快な仲間たちのために山賊集落の中央広場で大宴会を開いてくれた。

真ん中にはキャンプファイヤーがあり、前には小さなステージがある。お祝いごとや、イベント、大きな決め事を発表するのに使ってたな。大きなテーブル、イスもたくさんある。

魔獣の森の中とは思えないほど、山イノシシの丸焼きをはじめ、豪華で凝った料理が並び、お酒もいいものがたくさん出される。ここの連中はそこらの町の住民より、生活水準が高い。

みんなで飲めや歌えの大騒ぎ。

みんな家族みたいなもんだからな。それとも戦友かな。ほとんどよく知った顔だ。


「ネネは今じゃあ、鍛冶仕事をしてるんだよ。いい筋してるよ。」

「あのネネが鍛治仕事とはな。昔は俺とかシャロアの後ろにくっついて歩いてたのになぁ。」

「昔の私じゃないんです。もう大人なんですよ。」


「ソフィアさんって何してる人なの?」


ネネはあまり集落から出ないうえに、ここに人が来るころはあまりないので、森の外の住人、しかも始めてみたエルフであるソフィアに興味津々だ。


「何もしてない。働いてないな。ニートだ。」


俺はソフィアの普段の振る舞いから確信をもって答えた。


「何失礼なこと言ってるのよ!エルフ領から派遣されてる騎士よ!ちゃんと働いてるわ!仕事でこんなところまで来てるのよ!」

「へー。そんな偉い感じなのか。元勇者の仲間だから当たり前か。」


考えてみれば、勇者一行って周りの国から選りすぐりの戦士を集めた集まりだからな。


「お酒飲み過ぎたわ。ウェンディさん、私にお水ちょうだい!水の精霊さんのおいしいお水ちょうだい!」


ウェンディは精霊として集落の皆さんに、精霊のおいしい水を提供している。だれが、そんなこと思いついたのやら。この集落の連中らしいとは思うけど。


「オレにも頼む!」

「こっちも!是非に頂きたい!」

「はいはい、ただいま!」

「お前たち、精霊様をあごで使うんじゃない。何だと思ってるんだ!」

「ウェンディ!我にも精霊のおいしい水をおくれ。」

「いや、お前もかよ!」


まさかの、お酒を飲んでへべれけになっているフォルトゥナもウェンディのおいしい水を美味しそうに飲んでいる。フォルトゥナが酔っぱらっているのを初めて見た。

集落の料理担当が藁で焼いた串焼きを山のように皿に積み重ね、肉汁を滴り落としながら運んで来た。


「これが本当の山賊焼きってね!」山賊の仲間が次から次へと料理を運んで来てくれる。

「これはおいしいわね。こんなところで、こんなにおいしいものが食べられるなんて!」


珍しくソフィアも気にいったようだ。目を丸くしてほおばっている。

それをいただいていたのだが、人一倍、ここの連中が料理した串焼きを夢中で食べるやつがいる。


「こっこれはうまい!ベルナールの料理並みにうまいぞい!」

「そりゃあ、ここの連中から教わったんだからな。」


次から次へとたいらげていく、フォルトゥナの姿をみて、次から次へと料理を運んできてくれる。あんまり甘やかさないでくれよ。キリがないぞ。


「ベルナール、ピアノはまだ弾けるの?」


ネネにしては珍しく、遠慮しがちに聞いてきた。どう見ても右腕は作りもの。どんだけ動くか気になるよな。


「そうだな。こんな右腕になっちまったが、弾けるには弾けるぜ。」


ぱぁっと笑顔になり、じゃあと。


「それならまた弾いてよ、ピアノ!まだ大事にとってあるよ、ピアノ!」

「こんなところにピアノがあるの?」

「あるよ。昔、えらい苦労して手に入れたんだ。」

「皆!ピアノ持って来て!」

「おお!ベルナールの演奏がまた聴けるのか?任せとけ今持って来るぜ!こいヤローども!」


山賊達が何人かそそくさと、どこからから台車に乗せたグランドピアノをコロコロを運んできた。

その他、太鼓に管楽器とこんな森の中には似つかわしくない楽器を安っぽい舞台上に運んできた。


「じゃあいつものを頼むぜ!」

「では、みんなのご期待に応えさせて頂きますよっと!」


俺は小さな舞台の上に置かれたピアノの前に座り、ここでいつも弾いていた曲を演奏する。


柔らかに鍵盤に指を滑らせる。華麗で野蛮なその演奏にみんなノリノリで踊り出す。

自然の中で演奏するなんてここじゃないとできないことなので、とても気分がいい。

自然の風を感じながら、森に音を響かせる。

俺の演奏に合わせて、他の楽器も音を鳴らす。

確かに、右腕があれば、もっといい音色で演奏出来るだろう。でも、この瞬間を作り出せる腕はそこまで悪くないと思えた。

演奏に乗っかり、女神も精霊も踊りに参加して大盛り上がりだ。

そんな演奏を、最初は目を細くして眺めていたソファアもネネに引っ張られ仕方なく参加させられている。

山賊らしい大きなキャンプファイヤーを囲み、飲んで歌って、に加えて食べて踊って、日常からちょっと離れた夜は過ぎていった。


翌朝。

「親分達は、本当にアホなのか?俺たち見張りは昨日何度も死にかけたぞ!?」


見張りの野盗達が親分であるシャロアのところに詰めかけている。

その姿はズタボロで、木の棒を杖にここまで来た者もいる。当然だ。ここは魔獣の森。あれだけ騒いで、魔物が集まって来ないわけがない。

大宴会の裏で、見張りの皆さんが魔物と生死を彷徨うほどの死闘が繰り広げていたらしい。

確かに何かカンカンなっていた気がするが、演奏が忙しかったので、ほうっておいた。他のみんなも騒ぐのに忙しくて、気にしないことにしてたな。

野盗なんてそんなものである。

俺は四人で借りている家からそんな騒ぎを尻目に、一人森へ出かけた。


「あっ!ベルナール!おい!お前逃げるな!一緒に怒られやがれ!おい!待て!ベルナール!」


何も聞こえない。俺は足早にその場を後にした。



その日、俺は、俺を半ばさらって育てた、グランの墓参りに出かけた。

集落から少し歩き、見晴らしのいい崖の上に建てたお墓まで来た。

ちゃんと墓石に、グランの名前が彫ってあるちょっと立派なお墓だ。

墓にお城から盗んできた、…違った。貰ってきた上等な酒をかけてやった。グランは酒が大好きだったからな。

俺はどっかり墓の前に座り、死んだグランに話しかける。


「正直、もうここには二度と来ないつもりだったよ。グランが言った通り、人生ままならないねぇ。」



幼かった俺はよくグランに森で魔物狩りに駆り出された。

『ベルナール、ここでの生活にはなれたか?』

『「アホか。簡単に慣れるわけないだろ?山賊だぞ?突然、魔物やら荷馬車襲う生活に慣れるわけないだろ!』

『そのうち慣れるもんさ。人生ままならないもんだが、どうせなら、この人生の荒波の飲み込まれるより、乗りこなした方が面白いだろ?荒波の波乗りだ!』

『山賊業だぞ?荒波にもほどがあるだろ!そんなにうまいくかよ!

『ワハハハハハッ!そいつは違いない。でもまあ、適当に頑張れ。』

他愛のない話も、今となっては懐かしいよ。


「グラン。ここを出たあと、音楽の学校に行ってたんだぜ。まったく、卒業までしたのにこの有様だよ。」

墓に水の魔法で出来た右腕を見せる。



集落の舞台で俺はよくピアノを弾いていた。

『よし、お前ら!俺の演奏を聴きやがれ!』

俺は、舞台で勢い良く、ガチャガチャ演奏した。

魔獣の森に嵐が来たかのような、騒がしい演奏をしていた。

演奏していると、どこからかグランが血相を変えて走ってくる。

『お前、演奏するのはいいが、もう少し静かに演奏できんのか!?』

カンカンカンカン!

案の定、集落の警報が鳴り響く。

『親分!ブラックウルフの群れがこの集落に向かってきますぜ!大群ですよ!』

山賊でも驚くほどの群れで、向かって来ていた。

『だから言わんこっちゃない!お前ら、迎えうつぞ!そしてお前は一回静かにしろ!』

グランたちは慌てて集落の外へ出かけて行った。

『ふう。静かになった。』

俺は再び演奏を始めた。そのあと、さらに怒られたのは言うまでもない。



グランが生きてたら、うまくなった俺の演奏を自慢したのにな。少し寂しい気分になる。


「さて、じゃあな。気が向いたら来るし、縁がなかったら来ないよ。適当に見守っていてくれよ。」

ワインの瓶を投げ捨て、グランの墓を後にした。


帰り道、小さな滝を通るのだが、人の気配がする。

ここで魔獣狩りを繰り返し、昔の勘を取り戻しつつある俺は、周囲の気配にかなり敏感に察知することができるようになってきた。

習慣で気配を消して近づくと、そこには精霊の元の姿で、水浴びをしている。ウェンディがいた。


「なんだよ。ウェンディか。驚かせやがって。」


ほっと、胸をなでおろしたが…。


「えっ!キャー!ベルナールさん、のぞきですか!キャー!」

「えっ!?いや、ウェンディは精霊だろ?それに初めてあった時もその格好だったろ!?精霊の姿だったろ!?落ち着けって。」

「こっち見ないでください!」


ウェンディは俺に向けて、この世ならざる、水の魔法で木々の高さより高い大波を作り出し俺に放った。

精霊の大魔法が森を飲み込んでいく。


「えっ?おい!ちょっと待て!うゎッー――!!ブクブク。。。」


波にのまれて意識を失った。

グラン。俺はまだまだ、人生の荒波を乗りこなすには、修行が足りないらしい。

気付いた時は、集落の外壁に引っかかっていた。


「ごッごめんなさい、ごめんなさい!ベルナールさん!最近、人の姿でずっと生活してたので、人がのぞかれた時のリアクションと間違えちゃいました!テヘ。ごめんなさい、ごめんなさい!」


集落もウェンディの魔法に飲み込まれて水浸し。

カンカンカン!遅まきながら警報が鳴り響く。ここに来てからいったい何度警報が鳴ってることやら。鳴らない日の方が少ないくらいだ。


「なにごとじゃ!ウェンディ、お主なのか、我を溺死させるつもりか!?」

「ウェンディ、あなた何やってるの!?あたな、もしかして魔王の手先だったの!?」


服のまま川に飛び込んだように、びしょ濡れのフォルトゥナとソフィア。


「違いますよ!ごめんなさい、ごめんなさい!」

「俺たちの集落が!」シャロアも飛び出してきて、荒れた集落の姿にへたりこんでいる。


そのあとは、ウェンディは家一軒一軒に謝っていたことは言うまでもない。

こんな騒がしい生活を新しい装備ができるだけまで、ひたすら繰り返し時間が過ぎた。

シャロアがトンカントンカン鍛冶仕事をすること数週間。


「ベルナールやっと例のやつが出来たって!早く起きろ!」


ネネが俺たちが間借りしている家まで呼びに来た。

間借りしている部屋にずかずか上がり込み、よだれを垂らして寝ていた俺の布団を力の限りはぎ取る。


「わかったから布団をはぎ取るな!」


朝っぱらから強制的にシャロアの家に皆連れて来られた。


「やっと出来上がったぜ!俺様の最高傑作だ!」


ドラゴンの牙で出来たやや大振りのククリナイフを自慢げに見せてきた。


「刃厚は刃物にしては厚く、刃は独特に前方に折れ曲がり、相対する相手はやりにくい。それでいて重さが

あり破壊力もある。多少刃こぼれしようが、力まかせにぶん殴れば刃の鋭い鈍器になる。その上ドラゴンの牙で作ったコイツは丈夫で切れ味がイカレてる。最高の出来だ。もちろん、前と同じ仕様にてあるぜ。」


興奮気味に話すシャロアから如何にいい出来なのかがわかる。


「シャロアに頼んでよかったよ。」


俺は武骨なドラゴンのククリナイフを眺める。前のよりやや重く、怪しく光る刃に見とれた。


「あんた、これで魔王と戦う気なの!?これ、完全に野盗とかが馬車とか襲う時の武器じゃないの!?」


ソフィアが驚愕している。これが驚愕というやつか。

あんたとか言われたく無いが、俺もそんなイメージだよ。

シャロアが慌てて弁解する。


「ソフィアさん。その通りのだけど、考えてもみてくれよ。それだけ襲う時にみんなが選ぶってことはいい武器ってことだろ?」

「はぁ。もう聞きたくたいわ。」天を仰ぐ。

「いいかどうかはともかく、ベルナールさんに似合ってると思います。」

「カッコいいではないか!ベルナールにピッタリの武器じゃな!」


なんだ?バカにしてるのか?


「さすが女神様!いい目をしてるね〜!」シャロアと女神が意気投合し固い握手を交わした。誰とでも仲良

くなれるやつだ。


「ベルナールオーダーのブーツとマント、グローブも用意したぜ。」

「こっちはあたしも手伝ったんだよ!」

「ありがとよ。ネネ。もう立派な山賊だな。」

「あったりまえよ!」


ネネは防具作りを手伝ってるらしい。抱き合って喜ぶ。それをソフィアが冷たい目で見る。


「立派な山賊って褒め言葉なの?」


ソフィアのツッコミが止まらない。細かいことをきにするやつだ。

ドラゴンの赤い皮を黒く染めあげて作ったドラゴンの赤混じりの黒いブーツに、ドラゴン皮で作ったマント。マントというより風呂敷といった具合だ。

それとシャツとグローブも作ってもらった。ジェケットも。あと投げ物も。

魔獣の牙や皮の扱いに関して、森の荒くれ者団は超一流だ。ドラゴンが材料でも変わらず最高の物を作ってくれた。


「確かにこんな野蛮な物は王都じゃ作れないわね。」

「だろ?」


俺はさっそくグローブを右手に着てみる。

感触は無いがいい感じだ。


「レッドドラゴンの素材で作った装備だから、火にはめっぽう強い。だからと言って魔王の魔法に耐えられるかはわからないけどな。」


ドワーフの盾とソフィアの脚を持っていった魔王の魔法か。


「でもまあまあイケんじゃねぇかな?」


シャロアが適当なことを言う。俺はまあまあで命をかけることになるのかよ。この感じは懐かしいけど、いいことではないけど。


これで俺の装備も整った。用意できる最高の装備が用意できた。

物は用意できたので、翌日の朝、森の荒くれ者団の集落を出発することにした。次に目指すのは、サングリア王国の魔王がいる王都に一番近い、人間の王国軍が魔王監視用に設営した野営地だ。そこから、魔王に挑戦することになる。


「世話になったのう。ご飯はうまかったぞ。ここの山賊焼き、しかと我の胸に刻まれたぞ。」


女神様だけ旅の目的が確実に間違ってる気がする。何でお前だけ食い倒れの旅をしてるんだよ。


「また、水浴びに来ます!」

「もう集落を壊すのはやめてくれよ。」

ウェンディは苦笑いでごまかしている。まじでそこは反省してくれ。俺も死にかけた。


「次に来る時は、王国軍を連れて来ます。」

ぽつりとあいさつし、スタスタ歩いてくソフィア。真顔で言わないでくれ。


「おいおい、俺たち全員取っ捕まえる気かよ。ここの連中はそう簡単には捕まらないぜ。勘弁してくれ。」

シャロアが苦笑いし、やめてくれと嘆く。


「ベルナール、みんな、頑張ってね。必ずまた来てね。」

「世話になったな。ネネ。」

「まあ、死ぬなよ。ベルナール。それが一番カッコ悪い。」

「もちろん、わかってるよ。ありがとよ。相棒!」


俺とシャロア、ネネは腕をぶつけ合い、山賊流の挨拶を交わす。

さぁ行きますか!魔獣の森を後にした。

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