第十話 「ウサピちゃん」

王都に借りた自宅を清掃。出発前に片づけて、戻って来た時に辟易しないしたいからな。戻ってこれないことなど考えない。フォルトゥナの部屋は、家を借りた時に入っただけで、あの女神が家に押しかけて来てから入っていない。部屋のドアには「女神様のお部屋」とプレートが掛けられている。こんなもんどこで作って来たのやら。王様に頼んだか、ウェンディに頼むか、町の子供から小遣いを巻き上げて、どっかで作ったのか。個人的には、子供から小遣いを巻き上げて作った説を押すね。そんな女神様のお部屋を軽くノックをする。


コンコン。


「お~い。フォルトゥナ。部屋は片づけたのか?」


ドアを開けると、部屋はカーテンが閉められていて朝日が隙間から入るが薄暗い。

フォルトゥナは、昼になるというのに、ベットで抱き枕のような大きな白いウサギの人形を抱いてぐーぐー寝ている。

しかし妙にデカいぬいぐるみだな。ぬいぐるみの表情は表情のない真顔で、フォルトゥナと同じくらいの大きさがありそうだ。

ぬいぐるみをまじまじと見ていると、ぬいぐるみの首がゆっくりと動き、こちらを見る。


「ギィャーーーー!ぬいぐるみが動いた!」


ウサギのぬいぐるみはこちらを見たかと思えば、暗い部屋の中、ベットから起き上がり、フォルトゥナと同じくらいの背丈のぬいぐるみがゆっくりこちらに近づいて来る。

俺は腰を抜かし尻もちをつき、後退りする。


ウサギのぬいぐるみは、そばまでくると抱きついてきた。人形の顔をぶん殴り振り払う。


そうこうしてると、フォルトゥナがやっと起きてきた。


「なんじゃ。騒がしいのう。朝っぱらから何ごとじゃ?」

「おい!お前が抱いてぬいぐるみが襲って来たぞ!」

「ウサピちゃんのことか?我が作ったうさぎちゃんのぬいぐるみじゃ!カワユイじゃろう。」


フォルトゥナがカーテンをあけると、そこには殴られた顔をおさえて泣いているデカいうさぎのぬいぐるみがいた。

「いや、ぬいぐるみが動いてる!?」

「凄いじゃろ!我がドラゴンの魔石を使って作ったうさぎのぬいぐるみ、その名もウサピちゃんじゃ!仲良くしてくれ。」


ウサピちゃんが立ち上がり、お辞儀をして挨拶してきた。まるで人が入って入るように動いている。

ウサピちゃんとやらの頭や、体を潰してみるが、確かに中身は綿しか入っていないようだ。心臓の位置だけ何か入っている。


「ん?今、ドラゴンの魔石って言ったか?まさか、俺が狩ったドラゴンの魔石じゃないだろうな!?」


ヤベッていう顔してこちらを見てきた。


「パっ、パンナコッタのやつに、ベルナールの許可はとってあるから、くれといったらくれたぞ。ウサピちゃんの材料に必要だったのじゃ。」


フォルトゥナとウサピちゃんとやらが抱き合ってこちらを見てくる。そして、王様を呼び捨てにするんじゃない。王様、フォルトゥナのウソに気づいてるのに渡しやがって。


「あれはドラゴンの素材の中で一番高いんだぞ!?家が建つくらいの価値だ。何でこんな、デカいぬいぐるみ作るに使っちまってるんだ!」

「仕方ないじゃろ。寝る時のお供が必要なのじゃ。ウサピちゃんが必要なのじゃッ!」


ウサピちゃんの腕に顔を埋め、アホなことを言い出した。


カーテンが開けられた部屋の中を見渡すと、棚の上にぬいぐるみがたくさん飾られていた。机には、クッキーがたくさん入ったビンが三つ。これからしばらく家を空けるというのに。


「そっそうじゃ!ウサピちゃんに家の留守を任せれば良いのじゃ!なっ!役に立つじゃろ?一家に一ぬいぐるみ、ウサピちゃんじゃろ?」


ウサピちゃんもうんうんと必死に頷く。


「チリン♪」


家のドアベルが鳴る。おそらくソフィアたちが明日からの打ち合わせに来たのだ。


「チリン♪」


「ちょっと、ベルナール居るんでしょ?開けてもらえる?まだ寝てるの?もう昼よ!」

「ベルナールさん、起きてきくださ〜い。明日の打ち合わせに来ましたよ~。」


「ウサピちゃん!ソフィアたちのお迎えに行くのじゃ!ウサピちゃんの力を見せてやれ!」

「おい!待て!ウサピちゃん!」


フォルトゥナと同じくらいの背丈のウサピちゃんが、全力で階段を駆け降り、玄関まで走って行く。


がちゃり。

ウサピちゃんがゆっくりとドアを開、その真顔のうさぎの顔を出す。


「「ギャーーーー!」」


遅かった。玄関の前には、気を失ったソフィアとウェンディが、仰向けに倒れていた。


「何がウサピちゃんよ!心臓が飛び出したわ!」


気絶した二人をウサピちゃんと家の中に運び込んで、目覚めたが、目の前のウサピちゃんを見て、危うく二回目の気絶をするところだった。


「ウサピちゃんは、こんなにぷりちーなのに気絶とはどういうことじゃ。ウェンディまで!」

「面目ございません。フォルトゥナ様。しかしですね。こんな大きな真顔のウサギが出て来たら驚かない方が難しいですよ!」


「で、ウサピちゃんは何が出来るんだ?」

「お主、ウサピを働かせる気か?ウサピちゃんかわいいだけじゃ。」


テーブルを俺とフォルトゥナ、ソフィア、ウェンディが囲み、何故かウサピちゃんも普通に椅子に座っている。


「そうじゃな。あえて言うなら、ピンチの時は、自爆が出来るぞ。この街くらい消し飛ぶじゃろう!なんせ、レッドドラゴンの魔石じゃからな。そのくらい威力はあるじゃろう。痛ッ!なんで我を叩くのじゃ!」

「お前はどこまでアホなんだよ!そんな物騒なもの家において抱き枕にするんじゃない!」

「だッ大丈夫じゃよ。我がよほどのピンチにでもならない限り自爆しないから大丈夫じゃよ。」


なんちゅう物騒なものを作ってるんだよ!

コイツの言うことほど信用出来ないものはない。


「こんな解体したほうがいいわ!」

「ウサピちゃんならお留守が出来るから、この家を守ってくれるからいいじゃろ。解体なんかしようとしたら自爆じゃぞ自爆じゃ!」


「まあもういい、ウサピちゃんが留守番出来るか試してみようじよないか。そうだな。家をあけるんだから、掃除は出来るか、ウサピちゃん?」


「ウピッ!」


ウサピちゃん声出たんだ。ウサピちゃんは頷くとはたきで家中のホコリを払う。続いて、家の箒を持ってきて、掃き始めた。部屋の角から切れ目なく掃いていく丁寧な仕事をみせつけてくる。ぬいぐるみの丸い手で器用な箒捌きだ。あっという間に床は小ぎれいになった。


フォルトゥナとは大違いなキメ細やかな仕事ぶり。10点をやろう。」

「フォルトゥナの掃除の点数は?」

「3点だな。雑だから。」

「そんなことないじゃろ!我も頑張っているぞ!」


「よし!次だ。次は皿洗いをしてもらおうか。」

「お主、ソレは卑怯じゃぞ!ウサピちゃんが濡れてしまうじゃろ!」

「ベルナールさん、ぬいぐるみに水仕事させるとはさすがですね!発想がろくでなしです!」


おそらくは、ウェンディは嫌味を言っているのだろうが、そんなことはお構い無し。


「さぁどうした!ウサピちゃん!降参か!?」


「ウピウピ!」


ウサピちゃんは台所の前まで行くと、丸い手に汚れたお皿と、スポンジを持ち、次から次へと食器を洗いあげていく。

まるで食堂のベテランアルバイトのように、手慣れた手つきで目の前の皿を片付けていく。


「なに〜!やるな!ウサピちゃん!10点数をやろう!」

「ちなみに、フォルトゥナは何点なの?」

「フォルトゥナはこの前皿を三枚割ってたから、3点かな。」

「我も頑張っておるのに!厳し過ぎるじゃろ!」


ウサピちゃんは濡れ手をもう片方の手で絞っている。

…何かごめんなさい。


「よし次だ!」

「まだ、やる気か!お主、ウサピちゃんで遊んでるだけじゃろ!」

「失礼な。留守を守れるか確認してるだけだ。次は料理をしてみてくれ。何でもいいからあるもので作ってくれ。」


「ウピ!」


おそらくは肯定の返事なのだろう。返事をすると冷蔵庫を開けて、たまご、牛乳を取り出し、ケーキの粉と混ぜ合わせる。


「料理は留守番に関係ないじゃろ!」

「イヤイヤ、来客の対応とか必要だろ?」

「あんたは、何を目指しているの?」


そうこうしているうちに、オーブンから甘い匂いがする。


「ウピ。」


こんがり焼けたクッキーが出てきた。


「おー。いただきます。」

「なんでもないありね、ウサピちゃん。どれどれ。」


みんな焼き上がったばかりのクッキーん食べる。

…。


「…まぁ。普通ね。なんというか、普通ね。」

「私気づいたんですけど、ウサピちゃん、ぬいぐるみだから食べ物食べないですよね。味はわからないのではないでしょうか?」

「…。そりゃそうだな。5点だな。」

「ウェンディ!我をウサピちゃんを愚弄するのか!」


ウェンディがビビってソフィアの後ろに隠れる。


「ちなみにフォルトゥナは何点?」

「3点かな。料理は俺任せだからな。全然しない。」

「ソレはしかたなかろ!?お主が作ったほうがうまいのじゃから!ソレを食べれないなら、ここにいる意味ないし。」


何か失礼なことを言われてる気がする。


「ウウピ。」


ウサピちゃんがっかりモードだ。表情はないけどがっかりしてるのはわかる。


「料理はともかく、ウサピちゃんは合格だ!フォルトゥナより働けるからな。仕方ない家に置いてやるか、家にいてよし!」

「良かったわね!ウサピちゃん!私も欲しいくらいだわ!」

「良かったですね!私たちの家に来ても良かったですけどね。女神様より、ウサピちゃん凄いですね!」

「お主ら、ウサピちゃん作ったの我じゃからな…。我の心の友じゃからな。」


「ウピ!」


ウサピちゃんも立ち直ったようだ。ガッツポーズをしている。切り替え早いな。


こうしてよくわからないぬいぐるみが家に増えた。

ウサピちゃんはその日、みんなの人気ものになった

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