第七話 「旅の条件」
勇者とあの後も何度か打ち合ってみたが、勇者が俺のセコい戦い方に慣れてきたせいで俺の勝率は下がっていった。最終的には五割といったところだろうか。自分では凄い!と思ったが、みんな微妙な顔を並べていた。
いろいろ試してわかったのだが身体能力は人間離れした体力、力、スピードはあるがそれだけ。確かにすごいけど、う~ん、イマイチといった感じ。魔力も多少上がったが、ソフィアには遠く及ばない。
皆さんのご期待には添えなさそうだった。良かった。良かった。
お試しの模擬戦もそこそこに、これからの作戦会議だそうだ。もう俺は帰りたいのだが。
大広間に移ると、王様(まだ居るのかい。)、ブランデ王子、王妃様、お名前はアニエス王妃、そして姫様、確か、レイチェル姫だったかな、もお揃いだった。それに加え、勇者ロイズ、ドワーフのピピ、人間のヒーラーであるカルツォがいた。これにソフィアを加えたのが勇者パーティーだ。
宰相らしきメガネの男が言う。
「ドラゴンの牙、その他もろもろは鍛冶師に回しました。準備は整えますが、本当に一人で行くのですか?」
「いいえ、コイツと行くわ。多少は役に立つわ。」隣にいる俺を指す。
いや、俺をそんな死地に誘わないでくれ。
「右腕はいいの?」
いやいや元は野盗的なことをちょっとだけしてましたけど、魔王を襲おう!とはならないかな~。当たり前だが。
「では、どうすれば、ソフィアさんと魔王討伐に行って頂けますか?ロイズさんにも卑怯なやり方とは言え勝っていたではないですか。」
王子様にも卑怯な戦い方だと思われていたとは。ややショックだよ。
ブランデ王子がソフィアと行かせようと俺に攻勢をかけるが、ここはお断りさせて頂く!
「王子様、さすがに無理です。」
俺はやんわり答える。誰だって命は惜しいからね。
「まさか条件は定番である、姫のわたくしとのけっ・こ・んですか?」お姫様のレイチェルが口を出す。
「えっ?」
「今日初めてお会いした殿方と結婚など到底無理なご相談ですわ!でもでも、魔王を倒さない限り王国の明日はありません。この身を悪魔に捧げるのも仕方ないのかもしれません!」
「いや〜、あの、そんなことは一言も。」俺は否定する。悪魔呼ばわりはお止めください。俺だって泣きますよ?そんなベタな展開よしてくれ。
「うんうん。こやつは悪魔じゃ。今日の朝ごはんなど、我のほうがソーセージが一本少なかったのじゃぞ。まさに悪魔の所業じゃ。」うんうん頷くダメ女神。だまってろ。
「なんと卑劣な願いじゃ!しかし魔王討伐の為には仕方ないのか!?」王様とお姫様が泣きながら抱き合う。
コラコラコラ!俺を人でなしみたいに言うんじゃない。
アニエス王妃も続ける。
「冗談はそのくらいにして、魔王討伐をお願いしたのです。その代わりに何か出来ることがありますか?まさか!本当に娘との結婚ですか?それならば少々考えさせて頂きたく存じますよ?」
もうそこから離れてください。
王様がコホン。と咳払いし、やっとバカ話をやめてくれた。
「ベルナールは強い上に音楽家と聞いたが本当か?お主が望むなら、各国でお主が演奏出来るように取り計らうぞい?」
「ん!?」
王様が思わぬことを言ってきた。それはちょっと魅力的だ。いやかなり。
このご時世無名なやつの音楽なんか誰も聞かない。気に食わないが王様のお墨付きなら客が付く。
魔王と戦ったビアノ弾き…。めちゃくちゃな感じしかしないけど。
ソフィアが死んだら仮の右腕も無くなるしなぁ~。
右腕は取り戻したい。どうしても。
「わしがそなたの後援者になろう。会場が埋まること間違いなしじゃぞ。どうだ?」
王様が後援者とは悪くはない。本当は、そんなので会場を埋めたくはないけど、背に腹は代えられない。
魔王から薬だけ奪って右腕を治す。そして王様の支援を受ける。ソフィアがいれば、隙をみて奪うことなら可能かもしれない。
「はぁ。わかったよ。行きますよ。行けばいんだろ。」
「その代わり、魔王を倒せなくても、逃げ帰っても、報酬はもらいますよ?」
十中八九逃げ帰るけどね!
「もちろんそれでよい。本当に感謝するぞい!」
「良かったわ。行かないなら腕を取り上げるところだったわ!」いや、お代は払っただろ!ドラゴンで!
「では、魔王討伐のために、俺たちが戦った時のことを話しておく。今回の戦いに役立てて欲しい。」
「みなが魔王というが、普通の魔族じゃ。人間だけじゃなく、エルフ、ドワーフ、魔族でさえ、虐殺を行い、その上、現在居座っているサングリア王国を攻め落とし現在に至っておる。強すぎるが故に、いつの間にか『魔王』と呼ばれるようになっているのじゃ。」
「王様のいう通りです。その先は私から。」
ロイズが言うには、魔王は十年前にここから近い人間領の南の国である、サングリア王国を占拠した。
ここフエルト王国から軍隊で取り返そうとしたが、魔王の魔法で返り討ち。で、ドワーフとエルフからも選りすぐりの戦士を集めた少数精鋭の勇者御一行で討伐に向かったがこれも返り討ち。
「城門前には鎧の騎士が二体いる。そいつらを何とかしないと城に侵入することもできない。
鎧の騎士は何とか倒して、王座の間で魔王と戦闘になった。」
「魔王は魔法主体で戦うタイプだ。最初に雷の魔法は城の天井を突き破るほどの威力だったよ。」
「そのあとも魔法主体の戦闘スタイル。で負けた要因になったのが火の大魔法。それでピピの大盾が灰になり、ソフィアの足が焼けてしまった。」俯きながらロイズは話した。
「しょうがないじゃない。あの一瞬で自分の身を守って、あんたと、カルツォ抱えて、ソフィアを突き飛ばして、全員命があるだけで感謝してほしいね。」
ピピさんはドワーフとしては背がちょっと高い女性の戦士らしい。髪は赤褐色でいかにも不屈の精神の持ち主っぽい目をしている。心が折れたロイズより、まだしっかりしている。今は大斧を背中に背負っている。かっこいいな。この人が盾役だったわけか。
「あれは、人智を超えている。地獄の使者のような姿をした地獄の業火のような魔法だったよ。必至で、ソフィアの応急処置をして、そのあとは何が何だか…。」
カルツォさんも、もう思い出したくもないと打ちのめされている。
「その時は、私は到達者じゃなかったのよ。今なら負けないわ!」
「盾がなくなり玉砕覚悟で、全員で魔王に斬りかかって、いいところまでいったと思ったんだが。」
「そこで魔王はフェニックスの血液とかいう薬を使って傷を完治させた。切り落とした腕も、つぶした目も元通り。俺たちが絶望するのを見て、楽しんでいた。絶望の魔王だけにね。」
そいつを手に入れれば俺の右腕も元に戻せるって話か。
フェニックスの血液って、伝説の不死鳥の血液ってこと?そりゃあ、あれば確かに治りそうなもんだけど、実際に勇者一行が見たと言わなければとても信じられる話じゃない。本当なんだろうけどさ。
「あれは、おれには無理だ。勝てる気がしない。」
勇者ロイズが悲しげに言う。勇者の心を折るくらいのバケモノか。本来、俺なんかが関わる相手じゃないな。
頑張っても、魔王様を見てダッシュで逃げるくらいかな。こんにちは!さようなら!
「私が作った大盾が簡単に灰にされちゃあ手がない」ピピさんが言う。
「だから、ドラゴン狩りをしてたってわけか。まったく、いい迷惑だ。」
なるほど。それで、火に強いドラゴンの皮が必要だったってか。それで装備を整えようってことですか。ドラゴンを探し出し、狩って、武器、防具を作り…。気の長い話だな。
「僕たちは雑魚扱い。「つまらない」って言われて見逃されたってわけです。そのおかげで生きて今ここにいるのですよ。」肩をすくめて、ヒーラー役のカルツォが付け加えた。
カルツォは緑のローブを着た、猫背の禿げたおじさんだ。いかにも教会とかに居そうな感じがする。
「それで、勇者を倒した魔王は、『絶望の魔王』と言われるようになったのよ。」
人間、ドワーフ、エルフに絶望を与えたってか。たいそうなネームがついたもんだ。
「そうそう、魔王の名前は、フォルテッシシモ。絶望の魔王フォルテッシシモよ。」
…なるほど、そりゃあ、とても強そうな名前だな。
「勇者と呼ばれているが、王様が王国騎士団の団長だった俺に『勇者』という肩書を与えただけのことなんだよ。だから特別な力があるわけでもない。魔王に会って、自分が勇者だと勘違いしていることに気づかされたよ。本当にばかだった。ソフィアの足もそんなことになってしまって。」
ロイズは本当に申し訳なさそうに言うが、みんなを生きて連れ帰ってきたのもあんただろ?もっと胸を張ればいいのにと思った。生き残りさえすればいくらでも、やりようはある。俺はそう信じているから。
作戦会議が終わり、ソフィアにこれからの予定を話す。
「必要なもの用意するから、『魔獣の森』に行くぞ。それから魔王様だ。」
「武器なら王国お抱えの鍛冶師がお望みの物を用意するぞい?」ありがたいことですが、
「いえ、自分用の武器を用意出来るのは昔の相棒だけなので。王様には申し訳ありませんが、自分も命懸けなので、最善の物を用意させてください。」
「魔獣の森って魔獣しかいないでしょ?」
ソフィアはわかってないな。だから隠れ家に最適なんだよ。
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