第六話 「山賊業」
俺の両親は、音楽だった。母親はピアニスト、父親は指揮者だったが、物心つくころには両親は亡くなっていた。
おれは、両親が残した家はあったが、生活のために商人の元で町から町へと商いの手伝いをして生活していた。幼いころに母親から習ったピアノを毎日弾いては、商いに同行する生活だった。
商いに行く時は常に護衛付きなので安心していた。がしかし、それは突然だった。近くの森からフォレストウルフの群れが襲って来た。
それだけじゃない。大型のブラックウルフの群れも襲ってきた。数の暴力で冒険者も商人も殺された。
俺も殺されそうだったところを、さらに後ろから人間の山賊が襲ってきた。魔物と冒険者たちのあとをかっさらおうという魂胆だ。
山賊たちは、残っていた魔物たちを殺し、物資を物色していた。
そしてこの親玉のじいさんであるグランに助けられた。あごひげをたくわえた、ガタイのいい、じいさんだった。
グランは仲間に入るか尋ね来た。仲間に入らなくても殺されるわけではないが、幼い自分ではここから生きて町まで帰るのは不可能だろうと思った。幼かった俺には何も考えられなかった。
俺は、山賊としてグランたち『森の荒くれ者団』に入った。何度思い出してもかっこ悪く、取ってつけたような名前だ。
そこで俺は、武器の使い方、魔物の倒し方、荷馬車の襲い方を教わった。そして人の殺し方も。
気付けば何年も山賊稼業をしていた。
俺には、山賊のいろはを教えてくれたシャロアという兄貴分がいた。日焼けした肌に、ツヤツヤの茶髪で森の木々のように深い緑の瞳で、なんでもできた。特に鍛治仕事を任されていた。
二人で魔物を狩ったり、荷馬車を襲撃したり、悪いこともした。そんな生活もあっけなく終わりを迎えた。
その日はひどい雨の日だった。
特別な荷物を運ぶ情報をどこからか取ってきて、荷馬車を襲撃したグランが冒険者ギルドの護衛に斬られた。
命からがら、俺とシャロアはグランを担いで、森の中へ逃げたが、
グランは誰の目にも明らかにもう助からない深い傷を受けたていた。
「はぁーっ。どうやら潮時みたいだな。今更だが悪いことはするもんじゃないな。」重傷で血の気も引いているのにニタリと笑っていた。
「……。世話になったなぁ。シャロア、ベルナール。」まるで最後のようにグランが話す。
「らしくないぜ、じいさん。今治せるやつを総出で探してるぞ!」シャロアはグランに話かけ続けた。
「何年この稼業をしてると思ってるんだ?お前らだってわかるだろ。俺は助からない。だから最後に…。」
グランはニタリと力なく笑い、シャロアにではなく俺にグランのナイフを渡してきた。
「さぁ。楽にしてくれ。ベルナール。………。」
「俺にグランを殺せって言うのか!?」
「お前ならわかるだろ?俺の最後の願いで、おせっかいだ。さぁ終わりにしてくれ。ベルナール。」
おれはグランからナイフを受け取った。これは俺たち流の最後の儀式だ。血の一滴たりとも無駄にせず生きて死ぬ。
「……。さよなら、…。グラン。あの世では悪さすんなよ。」
俺はグランを殺した。
そして、自分も死んだ気がした。
グランと死んだ仲間を見晴らしのいい丘に埋葬した。
「シャロア。何でグランはシャロアじゃなく、俺に殺させたんだ?」
俺はどうしても聞きたかった。
「そんなことわかってるだろ?俺は人を殺したことがあるからな。だから、人を殺したことのないお前が自分の命に替えても欲しいものがあった時、相手を殺してでも奪えるようにだろうよ。いざという時に迷わないように、ためらわないように。それが俺たちの流儀だろ?」
ひどい話だ。わかっていた。けど聞かずにはいられなかった。
数日後、「これはグランから。もしもの時に渡せって言われてた。」シャロアから手紙を渡された。
手紙には、俺の両親が残していた家の場所と、権利書だった。不届者たちに奪われないようにいつの間にか入手していたらしい。いや、俺の家だけど。半ば攫われてここに来てすっかり元の生活のことを忘れていた。
「戻ったらどうだ?元の生活にさ。ここで暴れる生活しなくても、ベルナールなら生きていけるだろ?」
「それもいいかもな~。」俺は答える。
「シャロアはどうするんだ?」
「俺はここの親分だぜ!?仲間の世話があるし、武器や道具の手入れは誰がするんだよ。」
シャロアはここで鍛冶師のまねごとをしていた。
仲間の武器も必要な道具もすべてシャロアが用意していた。
「そうだな。シャロアはここに必要だからな。」
俺は、元の生活に戻ることにした。シャロアはグランのあとを継ぎ『森の荒くれ者団』の親分になった。
山賊業で稼いだお金で普通の学校へ通い、親と同じ道である音楽家になるべく、あの手この手で、音楽学校を卒業した。
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