第五話 「フエルト王国の王都」

カン!カン!カン!

あからさまに警報っぽい鐘の音が鳴り響いている。ここフエルト王国は人間の領土では一番大きな国で、その王都となれば、俺の住んでる町とは比べもにならない大きさだ。高い石造りの外壁で囲われていてどんな魔物を寄せ付けない気位が感じられる。

最近は特に魔物がうろついているから、見張り台から町の外を見張る衛兵多いはず。その人たちが、こちらに気づいたのだろう。

王都の城下町に入る門は兵士たちでごった返していた。ガッチガチの厳戒体制だ。

そりゃそうだ。ドラゴンが引きずられてくればそうなる。ましてや人が一人で担いできたら。


「これ大丈夫なのか?」


俺たちは明らかに不審者だ。捕まりはしないかと、ビビり倒していると、


「わたしは顔パスだから大丈夫よー。」

「ソフィアは顔が広いのじゃな。」

「そうですよ、フォルトゥナ様。ソフィアはこの王都では知らぬ者はいないくらい有名なんですよ。」

「それはすごいのじゃ。」


すんごい自信だ。ウェンディも褒めちぎっている。

何となくこいつの正体がわかってきた。

王都に顔パスで入れて、バカ力。かつ、よくわからないけど精霊と一緒にいる。

こんなエルフは思いつく限り一人しかいない。

五年前、人間の勇者と仲間たちは、人間領に一番近い魔王城に攻め入って、ぼろ負けして帰って来た。

世間では勇者が魔王に負けて絶望的な空気となっていたが、生きて帰って来ただけでも、さすが勇者様御一行だと思ったものだ。確かこのパーティーは人間二人、ドワーフが一人、そしてエルフが一人だったはず。

魔王に敗れて人間領、隣接するドワーフ領、エルフ領も別の魔族に侵攻を許すことになり支配領を狭めることになった。

王都は俺の町に比べ近代的な作りになっていて、町の人も清潔感のあるきれいな容姿の人ばかりだ。

我が町の宿屋の住人などと比べてはいけない感じだな。


「いや~大きな町じゃのう。久しぶりに人間の町に来たが、食べ物のいいに匂いがするぞ。」

「フォルトゥナ様、後でご案内しますよ。ここは人間の国の中でも大きな町なんですよ。おいしいものもたくさんありますよ。」

「フォルトゥナ様は人間の食べ物を食べるのですか?ウェンディは食べますけど。」

「もちろんじゃ!我は肉が好きじゃな。あれを網で焼いて、なんやかんやで味付けしたものがうまいよのう!」

「なんやかんやって味わかるのか?」

「ベルナールさん、失礼ですよ!フォルトゥナ様はあれでも女神様なのですよ。味がわからないわけないじゃないですか。わかりますよね?」

「あれでもとはなんじゃ!お主ら、我のことが嫌いなのか?」


町の人たちもこの騒ぎに人だかりができているがお構いなしに、町の人に愛想を振りまきながら、まるでいつものことのように歩いていく。


「ソフィア様、このドラゴンは討伐なされたのです!?」


ソフィアは俺の方を指さし、「いえ、私ではないわ、あっちの人が倒したのよ。」兵隊たちがざわざわし始めた。

「誰だ、あいつは?知っているか?」

「いや、知らん、ドラゴンを狩るやつなど、よほど名のある者だと思うが心当たりはないな。」


兵士の皆さんがこそこそ話しているのが聞こえた。その通り大した人じゃないからほっといてほしいな。


「ソフィアおばさん、ドラゴン触っていい?」

「おいガキ!ソフィアおねぇさんでしょ?」


おい!はこっちのセリフだよ!無邪気なこどもたちが、恐怖に後ずさりしてるぞ。


「ソフィアおねぇさん!ドラゴン触ってもよろしいでしょうか!」

「いいわよ~。」

「ソフィアおねぇさん怖すぎだろ!」

「今から教育しておかないと。大人だったら死んでたわよ?」


こどもたちはたくましく、ドラゴンの顔をぺたぺた触ってた。


「すっげー!こんなのに会ったら、食べられちゃいそう!」

「あぁ~。よくわかってるな。食べられたよ。」

「あなたも、脅かさないの。」

「今から教育しておかないとな。大人になってから食べられるぞ。これ見て、「ドラゴンって倒せるんだ!」って思ったら、危ないだろ。教育は大事だ。」


ドラゴンの見物人の中をかき分け進み、そのまま、お城の中へ入って行こうとする。


「じゃあ、俺はこのへんで、ドラゴンはお金に替えたら持って来てくれ。」


このまま城の中までついて行く理由もない。

腕を失ってこれからの身の振り方を考えなければならない。

ドラゴンはソフィアにぼったくられた部位以外で、一部売却してもらうよう伝えていた。こんな有名人が金を盗んで逃げたりはしないだろう。


「ついて来なさい。腕を取り戻したいのでしょう?」道中の話ではほぼ不可能な話しか聞けなかったが、

ほかにも方法があるのだろうか。だんだん嫌な予感かしてきた。ズルズルこんなところまで連れてこられてきていい気がしない。かと言って右腕のためには従うしかない。


「はぁー。」っと深い溜息をついて仕方なくついて行くことにした。



ドラゴンを城内の広場に置いたあとは、ずんずん城の中心部へ進んで行く。


「王様がお待ちです。」


途中、ちょっと偉そうな兵士が声をかけてきた。

そのまま玉座の間まで来てしまった。アポ無しで王様に謁見とは、いろいろ考えさせられる。

それほど、このエルフが国にとって重要人物であり、かつ情勢が悪いことがうかがえるからだ。

一生お目にかかるとは思わなかったこの国の王様が目の前にいる。王様の隣には、姫様、王子様、王妃、宰相っぽい人、その他大勢。偉そうな人が勢ぞろいだ。

ドラゴンが町で暴れたうえに、討伐されたとなればそんなものなのかもしれない。


「よくぞ戻った、ソフィアよ。そしてよくドラゴンを討伐してくれた、えーと名前は…」

「ベルナールと申します。」さすがに畏まって言った。おとなしくしていないと怖いからね。

「ベルナール!よくぞドラゴンを倒してくれた!」

「世がパンナコッタ王である!ドラゴンの討伐など歴史上そうそうあることではない。国を代表して礼を言うぞ。」王様から名前を聞かれた上に褒められた。ちょっとうれしい。


この国はドワーフ領、エルフ領に間に位置し、人間の国々の中心地に位置する好立地な領土にある。

王様は、その立地を利用し、他国の貿易を盛んに行う貿易都市として繁栄させたすごく腕の王様と評判だ。

見た目は背が低く、音楽の偉人のような髪型で、ちんちくりんな感じだ。


「となりのお嬢さんは?」俺の隣とは、フォルトゥナのことか。おれもこいつが何なのかよくわらん。

「我は、女神じゃよ。チャキーン!」

ちゃきーんって。。体から光を放ち、自分で効果音を言いながら、翼をダイナミックに出した。王様を目の前にして、この態度、御見それしました。


「おおー。本当に女神様が!大変失礼致しました!」


王様が跪く。王様、素直に信じるのかい!どう見てもちょっとヤバい子だなーとか思うだろ!そう簡単に信じないほうがいいと思いますよ!


「精霊様に続いて女神様が降臨されるとは!これは吉兆の兆しか!」みんな大盛り上がり。周りに皆さんも拍手喝采、歓喜に湧き上がっている。

「こやつが、『到達者』になったから、我が直々にこやつのサポーターとして来てやったのじゃ!」

ない胸を張っている。そんなこと、こっちはまったく頼んでないよ。


「おおー!女神様と共にいるとは!」

この場にいる人はとにかく盛り上がっている。


「みなさん、まさか本当に女神様だとか信じてるわけではないですよね?」

「精霊殿が、女神様とおっしゃっておるのじゃから、女神様なのじゃろう。お主も学校で習ったじゃろ?この世界の大陸はきれいに真円のような形をしている。まん丸じゃ。もちろん川とかはあるが。しかし、大陸が真円なんぞに、自然になるわけないじゃろう?だから神様がこの世界をお作りになったか、または壊した結果、丸い形になっていると考えられておる。そんな超常的な力が働いた痕跡があるからじゃ。女神様がいても不思議はないじゃろ?わかりやすい精霊もおるしな。」

「それは、そうなんですが、こんな感じのが女神様とは…。」


俺は信じられないけどね。


「ソフィア様以外に到達者が現れるとは、魔王討伐も夢ではないですねお父様!」

王子様が俺を巻き込もうとしてる。いくら王子様でもやめてください。

ここの王子様、お名前は確か、ブランデだったかな。王様と同様にとても優秀らしい。王様は他国との外交に秀でいるが、そのあとを継ぐ王子も同じ路線で活躍してると聞く。確かに人当たりの良さを醸し出している。こういう人が国を背負って立つんだなーと思う。金髪で美形だし、美貌は王妃様から受け継いで、知性は王様譲り。神様はどんだけこの王子に幸運を詰め込んだかと思う。

一方、俺は右腕をドラゴンに食われるというこの差はなんだ。


「それでソフィア、目的のものは手に入ったのか?」挨拶もそこそこで、本題に入った。

「はい。ドラゴンの牙も皮も入手致しました。」


目的のもの?まるで、ソフィアはドラゴンを討伐に出かけていたような口ぶりだが、時系列的におかしい。

偶然居合わせていたのかと思っていた。


「ご存じがと思いますが、竜の谷で逃してしまい、ドラゴンが町のほうへ逃げて被害が出てしまいました。救援、物資の支援をお願い致します。」えっ…。このソフィアの言いぶりは、こいつがドラゴンを追い立てたせいで町に被害がでた上、俺の右腕が食われたってことか!?俺はソフィアをにらみつけ、


「ソフィアさん、俺はそんな話きいてないのですが…。」となりを見ると冷汗を流すソフィアの姿が。

「仕方がなかったのよ、私も空を飛べるわけではないわ。やっと見つけたと思ったら、私などに見向きもせず飛んで行っていってしまったのよ。」ばつが悪そうに言うがとんでもない話だ。


仕方なかったではすまない。こっちは片腕を失くしてるのだから。


「前に話した通り、魔王から薬を奪えば腕も私の足も元に戻せるわ!」

「今の私ならドラゴンで作った武器と防具があれば、一人でも十分魔王を倒せるわよ。」


申し訳ないが、一度負けて帰って来たやつを信じられない。

そんな単純なことなのだろうか。


「なら、あなたもついてくればいいわ、あなたも『到達者』になったのだから、十分戦えるでしょ?」


ああ。なるほど、そうゆう展開ですか。人を巻き込もうって魂胆ですか。そこらの魔物なら、負けないような気はするが、魔王と戦うとか論外だ!


「そうね。今のあなたがどれだけ人間離れしているかわかっていないのね。なら、勇者と戦ってみればいいわ。すぐにわかる。」


言いくるめられて、勇者様と剣を交えることになった。「なんで俺が多少は武器を扱えること、知ってるんだ?」とソフィアに聞いたら、「フォルトゥナが『ベルナールなら余裕で戦えるじゃろ。』って教えてくれたわ」

フォルトゥナは俺に恨みでもあるのだろうか、余計ことばかりして、まったく。

まるで俺が昔、山賊やってたことを知っているようだ。本当に女神様でなんでもお見通しなのだろうか。それともまぐれか?

王様の手前逃げ出すことも出来ず言われるまま、訓練場まで来てしまった。

城内の訓練所で得物を探していると、白髪、ムキムキ戦士っぽい恰好の男が入ってきた。40歳前後だろうか。ムキムキの引きこもりには見えない。


「あなたが、勇者ロイズさんですか?」ここにくるそれっぽい人なので声をかけた。

「ロイズだ。もう勇者とはいえないけどな。よろしく。」握手をすると、ゴツゴツな大きな手。この感じは大きな剣を使うタイプだろう。

「見ての通り、魔王に負けて城に引きこもっている有様さ。それでも城の中で毎日鍛えてるから腕は落ちていないつもりだよ。あんたが魔王と戦えるのか一つ試してみようじゃないか。」


そこら辺の一般人である俺をつかまえて、勇者と手合わせとはこれいかに。

まあ殺されるわけじゃないから、勇者と戦えるというのはちょっと楽しみでもある。人に自慢できるのではないだろうか。家に帰った時に宿屋の連中にでも自慢しよう。

武器を探したが、自分ごのみの得物が見つからなかったので、適当にナイフの木剣を二本腰に差し、木製の大きな斧を両腕に持った。重量がなかなかだ。ある意味使える。

勇者は予想通り大剣を肩に担いでいる。


「えっ。本当にそんな感じで戦うの?」ソフィアが俺のいでたちにあきれている。

「使いたい得物がないから仕方ないだろ。それにちょっと体を動かすだけだろ?殺し合うわけじゃなし、適当でいいだろ?」


ソフィアは口をとがらせて不満顔のまま言う。

フォルトゥナとウェンディは目をキラキラさせて楽しそうにしている。何を期待しているのか知らないが、期待に応えられるようなことはないぞ。


「それじゃあ、はじめましょうか。相手に大けがさせなければ何でもあり。さあ実力を見せて。はじめ!」

のかけ声と同時に、俺は大斧を振りかぶって、全力で勇者に向かってぶん投げた。

「!?」


初手から武器を手放すとは思わず、突進していたロイズは、急ブレーキをかけて止まり、

大斧を剣で受け止めたが、『到達者』とやらになった俺の斧の一撃が重く、受けとめるだけで精一杯の様子だ。

俺は斧を投げたのと同時に、両手に短剣を握りロイズに向かって走りだしていた!

走りながら、右手に持った短剣もロイズに向かってぶん投げる。

斧に続いて、何とか短剣も受けきったロイズに、今度は右手で顔面を殴りにかかる!

ロイズはそれを素手で受けようとするがその瞬間、水の魔法でできた右腕が爆発した!


「!?」


ロイズが状況の理解が追いつかないコンマ何秒かの間に左手の短剣をロイズに首に突きつけた。


「こんな感じですがいかがでしょうか。」

周りがざわついている。何か問題でも?

「……。はぁ。負けたよ。だけど、それでいいのかよ!?それじゃあ、まるで野盗とかの戦い方だろ。そんな勝ち方でいいのかよ?」


何故かとても苦い顔をして負けを認めた。勇者らしくない。素直に負けを認めてほしいものだ。戦士の鏡だろうに。


「思ってたのと違う。もうちょっと真面目に剣で打ち合って正々堂々と戦えないの!?」

「だまし打ちか!お主らしいのう!わーはっは!」

「ベルナールさんってそういう人だったんですね。」

ソフィアは頭を抱え、ウェンディは天を仰ぎ、フォルトゥナは腹を抱えて笑っていた。


その通り。俺は小さいころ、野盗として生きてたからな。こんな戦い方しか知らない。勝てさえすれば、それでいいだろ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る