第四話 「失くした腕を取り戻す方法」

演奏会に来てくれる予定だった学校の仲間は大丈夫だったろうか。

右腕を失った状態で会うのはためらうけど、無事でいてほしい。

焼けた町から目的地を変え、一番近い王都に向かっている。

エルフの馬車に俺、自称女神様が乗り、ウェンディが御者役で馬車の手綱を握っている。

近くの村で、血だらけの服装から動きやすい着替え、旅を続ける。村の人達は何事かと、驚いていたけどソフィアが上手いこと誤魔化してくれた。

ウェンディは水の精霊の姿から青いウェーブのかかったショートヘアーで深くて青い瞳の人間の少女の姿になっていた。

フォルトゥナは翼が無くなってそれ以外は姿は変わっていない。二人とも『到達者』以外にも見えるように普通の人の姿になっているらしい。どっちでも見えるので違いがよくわからない。

それにしても、何でこの女神様はまだついて来てるんだ?本当にヒマなのか。

エルフはというと、俺が殺した、バカでかいレッドドラゴンを片手に担いで引きずって歩いてついて来ている。本当に普通のエルフじゃないようだ。俺のイメージでは魔法が得意で華奢。そんで高慢ちきでお高く留まっていて、めんどくさいイメージだ。高慢ちきなところだけはあっている。言わないけど。


「それで、どうやったら腕を治せるんだ。」


馬車の中からドラゴンを引きずるソフィアに声をかけた。


「どんな傷でも、病でも治せる薬があるのよ。それを使えば一瞬で治せるわ。」

「今すぐよこせ!」


そんなものがあるなら今すぐ欲しいに決まってる。なんなら、そのまま演奏会ができる。


「それは無理ね。魔王が持っているものしか知らないから。」

「魔王だって?魔王って勇者を倒した、あの魔王のことなのか?」

「そう。その魔王よ。」


こいつは何を言っているんだ?


「それじゃあ、この世に存在しないのと同じ。というか何でそんなこと知ってるんだ?」

「あなた、私のこと本当に知らないのね。」


ええ、存じあげませんが。そんなに有名人なのか。

あのでかいドラゴンを片腕で抱えて歩くエルフなんて、そうそういないのはわかる。

昔の仕事仲間にもあんなことができるやつはいなかった。


王都までは一週間ほどかかるそうだ。王都には行ったことがない。

道中の食事当番は俺が担当している。野営は慣れてるので、自分でうまいものを作ったほうがいい。

というか、料理できる人員が俺しかいなかった。

左手に包丁を持ち、使いなれない右手にジャガイモを持って皮むきをする。

失くしたはずの右腕がなぜあるかというと、


「ソフィアさん、あなた様のその足はどうなっているのでしょうか?」


どこかのご令嬢にお尋ねする感じに目一杯、下手に聞いた。

このエルフ、左足がおそらく無い。おそらくというのは、何かの魔法で構成された義足で歩いているように見える。エルフは魔法が得意な種族だ。俺が知らない魔法なんてごまんとあるはずだ。


「お察しの通り、私の左足は、水の魔法で作ったものよ。私は魔法が得意なエルフの中でもさらに腕利きの魔法使いよ。仮の手足くらい作れるわ。」


めちゃくちゃ胸を張り、自慢げにお話くださった。

ですよね!そうだと思いました!さすがソフィア様!


「それって、わたくしの失くした右腕の代わりも作れるということでしょうか?」

「そりゃあぁできるわよ。」


キターーー!

腕を失くしたショックで絶望していたが、光が見えた!神様、仏様、ソフィア様!


「そうねー。料金はドラゴンの牙と翼の片方で作ってあげるわ。」

「金取るのかよ!ちょっとは、かわいそうだなーとか思わないのかよ!」


ドラコンの素材は非常に希少。牙と翼の片方でもあれば、王都でも家が建つだろうよ!


「それとこれとは別。どうするの、いるのいらないの?」

「お願いします。」深々と頭を下げる。喉から手が出るほど右腕が欲しいに決まってる。

「よろしい。」


ウェンディと、フォルトゥナが見守る中、ソフィアは地面に複雑な魔法陣を描いていく。

この世界の魔法は、簡単に言うと、個人の魔力量と魔法陣と呪文の掛け算だ。あと魔石の要素もあるな。

魔力量が多ければ小さな魔法陣でも高度で高威力な魔法も使え、魔法陣が大きければ大きいほど威力も上がる。ただし、不相応に大きな魔法陣にすると発動する魔力が足りず魔力が足りず倒れてしまう。魔法陣の発動のための呪文も魔法陣が大きければ大きいほど基本的には長くなる傾向にある。いずれにしても、個人の持つ魔力量によって発動できる威力の上限が変わる。

戦闘時は杖の上にたいてい付いている魔石に魔力を通し、バトンを回す要領でくるくる回して空中に魔法陣を描き魔法を放つ。戦闘で使うにはかなりの訓練が必要だ。ちんたらしていると、近づかれて切られるからだ。だから長い呪文にするのも良くない時もある。

ソフィアがわりと大きな魔法陣を描き「ここに立って」というので魔法陣の中心に立った。


「水の精霊よ、我が願いに答え、この者に仮初の水の片腕を与えよ!」


俺の右腕に魔法陣から現れた水の渦を巻き右腕に巻き付いた。あっというまに、水の義手が出来たように見えた。体に流れる魔力路と、このソフィアの水の魔法で作られた義手が繋がる。失った右腕の肘の当たり顕と顕在化した水の義手との接着面が異常な熱を持ち、激痛がはしる。

俺は魔法陣の上を苦悶の声をあげ、のた打ち回る。

「あ〜、はい。終わったわよ。」

ソフィアは確実に他人事の完了の合図をした。

できたばかりのせいだが、自分の体から異物が生えてきたかのようで気持ち悪い。すぐに慣れるのだろうけど。

俺はひとしきりじめを転げ回った後、座り込んで今しがた産まれた水の魔法で作られた右腕を触ったり、指一本一本を動かしてみた。次に、自分の意志で右腕が指一本一本動かせるどころか、指の関節の動きも、元々の右手と同じように動かせる。

右手を握ったり開いたり、物をつかんだりした。物を触った感触はなく、痛みも感じない。が自由に動かせる。まさに水の義手だ。


「ウェンディありがとう!」俺はウェンディの手をつかみブンブン振って礼を言った。

「ちょっと!私に感謝しなさいよ!」ぷりぷり怒っているが、

「いや、だって水の精霊が右腕つけてくれたんだろ?ようするにウェンディが右腕をつけてくれたってことだろ?『水の聖霊よ』って呪文唱えてたろ?」ウェンディも顔を赤くして照れている。

「わ・た・しの魔法で右腕を作ったのよ!勘違いしないで!」そんな怒るなよ。冗談だよ冗談。

「はいはいわかりました。ありがとうございます。」ソフィアはへそを曲げてしまった。


ということで、ソフィアの魔法で右腕を作ってもらった。だが、本物の腕にはほど遠い。

水の魔法で作られた腕なのだが、自分の意思で自由に動かせるが、感触がない。それに演奏するような繊細な動きは不可能だった。ものをつかんだり、投げたりはできる。

ないよりはまし、いや幸運だとは思う。期待し過ぎていた。仮初の右腕ができた。

しかし、これにはいろいろ問題があり、ソフィアが死んだら消えるし、ソフィアの魔力が尽きれば消える。

そして「俺」が作ったおいしい料理をみんなで食べている時、


「ソフィアも料理してくれないかなー。伊達に年とってない…?」


言い終わる前にジャガイモを持っていた右腕が爆発した。

当然といえば当然なのだが、ソフィアの機嫌を損ねるとこうなる。

泣きながら謝って、もう一度右腕を作ってもらいました。決してソフィア様を怒らせてはいけません。

そんなこんなで、このフエルト王国の王都に着いた。

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