第三話 「退屈な女神」
「はぁー。まさか人間の『到達者』が生まれるとはね。」
腕組をして、どうしたものかと思案顔である。
何を言っているのかわからない。世の中の常識のようには話されても聞いたことがない。俺は腕を組めないというのに人の前で腕を組むな。ムカつく。
「我が教えてしんぜようーぞ!」
突然、上空から声がした。太陽にかさなりまぶしい光に包まれた人影が空から目の前に降ってきた。
翼が生えている。大きな翼を広げてまるで天使のような風貌だ。茶色長髪にブラウンの目、赤い派手なドレス姿。派手な美貌の女性が空から降ってきた。
その翼でふわりと降りてくるのかのように見えたが、実際のところは、ほぼ空から落ちてきた。
ドスン!と大きな音、小さなクレーターを地面に作り、女神様風の人が落ちてきた。
砂煙の中から姿を表す。
彼女の本来は美しいであろう長い茶髪は舞い上がった土ぼこりで、見るも無惨にくすんで、風でなびいている。
「その背中の翼は飾りですか?」
降ってき来た人物が何者かよりも、最初にそこが気になってしまった。
「もちろん飾りではないぞ。地上に降りてくるのに、かったるいから落ちて来たのだ!」
無駄に元気よく答えてくれた。元気いっぱいなのだけはわかった。
次から次へと今日は何なんだ。こっちは大けがをしたばかりだというのに、騒々しい。これ以上の騒ぎは御免こうむりたい。
「じゃじゃーん!我は運命の女神フォルトゥナ。到達者となったお主を祝福しに来てやったぞ。」
じゃじゃーんじゃない。話し方と見た目があっていない。こんな空から降ってきたアホにかまう気分じゃない。片腕を失った自分にめでたいことなどない。誰だか知らないがどっか行けよ。それとも、俺は頭がおかしくなってしまったのだろうか。そのせいで変なものが見えているだろうか。
「お主、ドラゴンを狩ったじゃろ?」見てたかのように翼の女が話す。
「そうみたいだ。それがなんだ?おたくもこいつが欲しいのか?」みんな大好きドラゴン。
「魔物を狩れば、少しばかり人は力が増したり、足が速くなったり、強くなるじゃろ?強い魔物を倒せばそれだけ強くなる。ここまでは知ってるじゃろ?」
この世界では、魔物を倒すとその分強くなるそれはみんな知ってることだ。
「唐突になんだよ。もちろん知ってるよ。この世界で知らない人間はいないよ。」
「ドラゴンを狩ったお主は、人としての限界を超える力を得たのじゃ。その力はこの世界を変えるほど強大じゃぞ!さぁ!旅立たんー!ビシッ!」
お空に向かって腕を突き立てる。ビシッじゃないよ。旅立つ予定なんてないよ。
「どこの誰か存じあげませんが、今そんな気分じゃないので余所をあたってくれますか?」
大けがを負ったこの状態が見えないのだろうか。服は血だらけだというのに。
「お主!まったく信じておらんな!この翼が見えんのか!?」バサバサッバサ、人の顔の前で羽を過剰にバタつかせる。いいかげんにしろ。
「なんで、わざわざ女神様がそんなことを伝えに来たのですか?天使様か精霊のお役目なのに。何かあるのですか?」
精霊さんはこいつのことを知っているのか、うやうやしく自称女神に話かける。まるで女神が本物みたいな言い方だな。
「フッフッフ。ウェンディ。そんなの決まっているじゃろ?面白そうだからじゃー!!」力強くこぶしを握る。
「えっと………。ちょっとそうじゃないかなぁ~と思っていたのですが、そんなにはっきり言われるとは…。」ウェンディさんが悲しんでるぞ。
「ウェンディ!この人、本当に女神様なの!?」俺と同じように、信用していない人がもう一人。
「ソフィア、失礼ですよ。これでも一応女神様ですよ。見かけに寄らず、天界ではえらい人なんですよ。」
一応って。ここのろ声が漏れてる精霊さんも大概失礼だと思うよ?
「まったく無礼者たちじゃな。いいか?人間の到達者など、ここ数百年現れてないじゃろ?見に来ないなんて考えられないじゃろ!余は暇なのじゃーー!」女神様の本音がだだ漏れした。
「これからは、余自らがお主をサポートして進ぜようぞ。なんでも聞くが良いぞ!ブイ!」
ピースサインをする姿を冷たい目で全員見ていた。
自称女神様が言うには、この世界では、魔物を殺すと、その生命力を奪い生物として一段強くなる。
そこまでは、この世界で一般常識だ。ただ、人間が魔物を倒すのは弱い魔物でもなかなか難易度が高い。
それほど強くなることは難しい。そんなことが簡単にできればこの世界は平和そのものだろう。
魔物を倒して限界まで強くなった存在を『到達者』といい、
「到達者と呼ばれるまでになると世界を左右するほどの力を得るのじゃぞ!」だそうだ。
「女神様。とりあえず失くした腕を元に戻してもらえますか?」女神様に切に願った。
「そんなの無理に決まっているじゃろ。」やっぱり女神じゃなかった。帰れ!
女神とは名ばかりで、結局何もしてくれないらしい。本当に何しに来たんだよ。
「腕を治したいの?」ソフィアが尋ねて来た。
「そんなの当たり前だ!俺はこれから隣町の舞台で演奏するはずだったんだぞ!それがこんな…。」
そんなことは当たり前だ。俺は音楽家だ。腕がないとどうしようもない。手がない。実際ない。
最後の演奏を聴いたのが宿屋のリリーでおまけに殴られたんじゃあ悲劇というか喜劇だ。
これからどうすりゃいいんだ。この世界で生きていくのは簡単じゃない。働き口がないと昔の仕事にでも戻らないと生きていけない。絶望に頭を抱えていると。
「その腕、治す方法はあるあわよ。」勿体つけてソフィアが言う。
「今すぐ教えろ!!!」
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