第二話 「金髪のザ・エルフ」

体が異常にだるい。血を大量に流し過ぎた。


「おーい。まだ生きてるでしょ。起きなさい。もしもーしー。」パチパチパチパチ!


体を揺さぶられ、顔をぶたれる。ちょっと叩きすぎなくらい叩かれる。

死んだはずの自分に話かける誰かがいる。


「はじめまして、片腕勇者さん」


皮肉たっぷりに言われた。

目を開けるとそこには、金髪で長髪、とんがった耳に、まつ毛の長いエメラルドグリーンの目、滑らかな白い肌、桜色のくちびる。ザ・エルフです感を出してるエルフがいた。

ただ左足が透けている。比喩的な意味ではなく、水のように透き通っていて反対が見える。

透けた足に長いブーツを履いていて奇妙な感じで存在していた。水の魔法なのか?

服装は女戦士の軽装といった雰囲気で青と紫を基調とし、豪華な刺繡が施されている。剣の他に天使が青い魔石を掲げる長い杖を背負っている。


「俺はドラゴンに食われて死んだと思ったんだけど。」


頭をかこうとしたが、かけない。右腕がなくなっている。さっきのドラゴンに噛み千切られていた。


「夢、なわけなかったか。」

「あなたは死んでないし、夢でもないわよ。」


絶望だよ。こんな日に。生きているのは我ながら奇跡だが、そんなことはどうでもいい。人生終わった。晴天の空を見上げて嘆く。こんないいことでもありそうな天気と、この現実との差に感情が追いつかない。

そういえば、御者のゼベットじいさんは大丈夫だったろうか。ここにドラゴンがいるということは逃げのびたのかな。


「どうせ治すなら腕を繋いで治してくれよ。」

「気持ちはわかるけど、損傷がひどすぎてとてもじゃないけど、不可能だったわよ。ドラゴンに食いちぎられていてズタズタだったわ。今生きてることに感謝なさい。」


そうだよな。もう死んだと思ってたからな。そううまくはいかなかったか。


「あなた、名前は?」

「ベルナール。」それが俺の名前だ。死にかけたが名前は忘れていなかった。

「命が助かっただけでも奇跡でしょ。幸運に感謝するのね。私が治療しなかったら。まあまあの確率で死んでたわよ。」


無謀なことしたバカなやつとあきれ返っているようだが、したくてしたわけではない。


「ありがとうございます。命拾いしました。」腹立ちまぎれに、ぶっきら棒に礼を言った。

「そう、よかった。それじゃあ、お願いがあるんだけどいいかな?」


つい今しがた死にかけて、片腕なくした人にぐいぐいくるな、と思いながら返事をする。


「なんでしょうか?」

「あなたが狩ったドラゴンの牙一本と翼をもらえるかな?治療代として。」

「えっ。いやいや、治療代にしては高すぎるだろ。牙一本で家が建つぞ。」

「あら、あなたの命はそんなに安いの?」

「高いけど、ここはあえて安いと言っておこう!」


治療はただでなかったらしい。厳しい世の中である。

右腕の肘から下はなくなっているがきれいに傷はふさがれていた。

俺は今の状況を確認する。周りを見渡すと、俺は赤いドラゴンに寄りかかっていた。

ドラゴンは片目から血を流し絶命していた。俺が頭の中を壊したからだ。さすがに目玉が鱗のように鋼鉄の硬さがあるわけもないからな。ざまーみろ。人間様をなめ過ぎだ。

ドラゴンの素材は希少価値が高い、牙はなんでも切れる刀剣となり、皮や鱗は鉄壁の鎧となるらしい。

ドラゴンなんてものを狩ることはほぼ不可能なので、本当かは知らん。姿を見た人なんてこの世界にほとんどいないだろう。そのくらいの存在だ。


「しかし何があったんだ?なんでこんなところまでこんな化け物が来たんだ?」


このへんはまだまだ人の領域だ。魔物は多数いるけど、ドラゴンほどの化け物がこんな人間の領土のど真ん中まで現れるなんて聞いたことがない。


「…サー。ソレハワカリマセンワ。。。ヒューヒュヒュー」下手な口笛を吹いてごまかしている。


あからさまに知っていそうだが、すっとぼけてる。

襲われた町はかなりの被害が出ていそうだが、ドラゴンに襲われて町の形が残っているだけラッキーだろう。

はー。俺の演奏会、俺の右腕…。心は折れたが、このままぼーっとしていてもしかたない。力なくエルフに話しかける。


「あらためて助けて頂きありがとうございます。それと、エルフさん。あなたの隣に浮いている精霊っぽいのはなんですか?」


なんか人型の水っぽい何かが浮いている。死にそうになったせいで幽霊でも見えるようになったのだろうか。

可愛い感じの女性の姿で、髪は波のようにうねって肩くらいまでの長さだ。


「私の名前はソフィア。見た通りのエルフよ。っていうか、あなたウェンディが見えるの!?」

「ウェンディ?初めて見たけど、水の精霊?見るからに。足があるから、幽霊っぽくない感じだしな。」


空中にぷかぷか浮かぶ青い精霊を指さし答えた。

ソフィアは目を見開いて精霊と目をあわせている。精霊っぽいのも驚いた表情だ。こっちの方が驚いてるけどね。


「そうね。ドラゴンを倒したんだから、可能性はあるわよね。」

「確かに可能性あります。私が見えてるということは、間違いなく『到達者』ですよ!」


何の話だ?何の話でも今は聞きたくない。

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