第38話 幼馴染の大切さ
「......有希さんや、大丈夫か?」
「あは.......ふふふ」
二人は店の近くにあったベンチにぐったりと腰をかけていた。
双葉は有希に声をかける.....だが、薄気味悪い笑いをするだけで、何も声は帰ってこない。
さっきまでは『余裕です』と強がっていたが......流石にそれをする気力は消えてしまったらしい。
目は何もないところを見つめ続けており、何故か口は半分常に開いており、完全に魂が抜けた人のようになっており、これはどうしたものかと双葉は頭を悩ませてしまう。
だが既に50分経過しており、死んだかと思われた有希は双葉に声を返す。
「......沙彩はいったいどこに?」
「あいつは待ちくたびれてどこかに行ったぜ?まぁどうせ後で帰ってくるさ」
「........わかりました、双葉様」
「......ん?」
「あぁいえ、気にしないでください」
......とりあえず今のは聞かなかったことにしよう、そうしよう。
それにしてもあいつ遅いな.......すぐ帰るといってたんだがなぁ。
「.......生きてるか?」
「何も問題ありませんけど?」
「めっちゃ問題あるように見えるけどなお前......」
途中で白目を向いて意識をなくしていたのに、まだ激辛に負けたことにはなっていないらしい。まぁほとんど食べてはいたが.......ふつうに考えて負けだろう、これは。
「そこのコンビニでアイス買ってきたが......いるか?」
「.......決してさっきの辛さに負けたというわけではありませんが、食べましょう。負けてはいませんけどね?」
有希が気絶している間に口直しとしてアイスを買ってきただけなんだかめっちゃ早口で言い返してくるやん......まぁいいけど。
「これ、美味しいですね」
「だろ?俺の最近のお気に入りなんだ」
「さっきの忌々しい辛さが消え......じゃなく、さっきまで辛いのを食べていたのでちょうどいいですね」
「.......うーい」
「.......むぅ」
双葉の呆れたような視線に気づいた有希は、恥ずかしそうに目線を逸らして俺に返事をする。
(ったくよぉ......意固地な性格をしてるよなぁ)
まぁでも、本人が隠したいことをわざわざ言うつもりはない.....たとえ辛いのが苦手ということがバレバレでも、本人がそのまま隠したいというのであればその意志は尊重すべきことだと俺は思っているからだ。
▽▼
「.......それでは、私はここで」
「じゃあな」
「また学校でね~~」
二人でアイスを食べ終わった後、すぐに沙彩は帰ってきた。
そしてその後帰路につき、有希と別れて沙彩と一緒に家へと向かっていた。
一体なにをしていたのかと聞いたらどうやら近場の図書館に行っていたらしい。
近いとはいえあの状況でいくのはどんな心してんだと思ってしまったが。
「図書館でなにを借りてきたんだ?いつもはたいていスマホで終わらせるだろ?」
「なんでだろうねぇ.......まぁちょっと気になることができてね」
「......そうかよ」
どうやら沙彩は俺に話すつもりはないらしい......ここでもっと追求したらきっと沙彩ならば答えてくれるだろう、だが双葉はそんなことはしない。
沙彩が追求しないでほしいことだとわかっているから
「んーでも、そんな重要なのに今日行くんだな?」
「あぁそれは......ラブレターもらったんだよ」
「......は?」
こいつは一体なにを言ってるんだろう...?
「この前学校でラブレターもらったんだよね、それでそこの図書館で告白するから来てみたいな」
「.......やっべ、ようわからん」
「その子とは最近図書館でよく話してたんだけど......懐かれちゃってねぇ」
「色々と聞きたいことはあるがまぁそれは分かった.....だがなぜあそこの図書館なんだ?」
「どうやら私達の学校の本好きの間ではあの図書館で好きな本と共に告白したら付き合える......というよくわからない噂があるらしいよ」
「それはよくわかんないな.....?」
「ほんとにね」
あの図書館は『過去未来図書館』......という名前だった気がする、確か。
でもなんなんだこの感じ......なーんか違和感を感じるんだよなぁ。
「でもお前男子と仲良くしてたんだな、珍しい」
「.......いや、女子だったよ」
「........なるほどな」
この世の中、そういうのは今となっては何ら不思議ではない。
でもそうか.......告白されたのか。
「......なんて返事したんだ?」
「無理って答えたよ、私にそういう気質はないからね」
「.......そうか」
「あははっ、顔がめっちゃ安心しちゃってるねぇ♪」
「.......そうだよ、わりぃか?」
こういうのは否定するとずっと相手のターン......だったら素直に肯定したほうが身のためだろう。
「おーっ......そう返答してくるんだ」
「お前が告白されることなんて慣れてるからな」
「まぁ幼馴染だもんねぇ」
「知ってて当然だろうな」
毒舌クールキャラで男子を昔から毛嫌いしていたというのに.....それでもしてくる奴はいるんだよな、ドМの男とかな。
「沙彩は俺が告白されたらなんか思うことはあるのか?」
「君されたことないでしょ?」
「.......まぁそうだが」
「私のせいではあるんだけどねぇ.....まぁいっか♪」
どんな返答をしても全て沙彩には返り討ちにされる......かなわないぜまったく。
でもまぁいいんだけどな、俺はお前さえいてくれたらなんでも。
「なんか女子にモテる要素とかないの?」
「んなこと言われてもなぁ......」
「じゃあこういうのでも宣言したら?───俺は沙彩のためなら命なんて惜しくない....とかさ」
「......まぁそれもいいけど、別にいいかな」
「んーー?なんで?」
「......だって俺は、沙彩さえいてくれたらもう何でもいいからさ」
そんなことを俺は笑いながら言った。
だって別にいいだろ?───それほどまでに、俺は君という"幼馴染"が大切なんだ
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