第33話 沙彩の嫉妬が爆発

「ほらほら、がんばれぇ♪」

「わかってらぁ......!」


学校終わりの放課後、いつもと違う過ごし方をしていた。

必死に手と足を動かして走っている俺の後ろには悪魔の笑みを浮かべて自転車で追いかけてくる沙彩がいる。

応援なのか嘲笑ってるのかわからない声を聞いて俺はラストスパートをかける。


(......なーんでこんなことになったんだっけな)


なぜこうなったのか、それは今日の朝に遡る。


『ねぇ双葉君、最近運動してる?』

『最近はしてないな.....高校生になってから部活とか入ってないから体育ぐらいだな』

『やっぱりそうだよね、うん。放課後楽しみにしててね』

『.......ん?』


とまぁこんな感じにこの後放課後に走ろうということになって、走り続けている。

まぁ一応体力作りするということには賛成なのだが、如何せん距離が長すぎる。

10kmって.......しかも全力疾走、ふざけてる。


「お前も自転車じゃなくて走ったらどうだ??お前も運動不足だろ??」

「私は定期的に自主トレしているよ、緊急時のためにね」

「......お前さては俺が苦しむ顔を見るがためにこんなことしてんな?」

「あぁ、ばれた??」

「もうお前嫌い.......」


普通の人ってさ、普通人が笑顔でいる時をみたいなという人が多数だと思うんだ。

でも沙彩の場合だと話が変わってくるんだ。

俺が凹んだり、苦しそうにしていると、『愚かで苦しそうにしている双葉君が大好き!!』とか、笑顔で言ってくるんだぜ?

イカれてるぜ。


「ふぅ.....ふぅ.....」

「お疲れぇ、案外行けるもんなんだね」

「そりゃあお前のせいで遅刻しそうなときに走ってるからな.....」


最近は高校初めということであまり遅刻ギリギリということはなくなっているが、中学2から3の時はしょっちゅう遅刻をしていた・・・こいつのせいで。


「私のせい?......一体なんのことかな」

「お前が時間ギリギリまで俺の顔を眺めてるからじゃないか!!!」


いやまぁ一応俺のことを起こしてくれた時はもちろんあるが.....圧倒的に起こされなかった時のほうが多いのだ。

起きた時は大抵......


『.....うへ?』

『あ、おはよう』

『おはよう......なぁ何時だ??』

『えっとね、8時半』

『もう無理じゃあああああああああああん!! 』

『あははっ、もう無理だ』

『何してたんだよお前は!!』

『顔を眺めてた』

『........いつから?』

『朝4時から』


ということらしい.....四時間半も俺の顔を眺めているだなんてどういう神経をしてるんだろう、軽くホラーである。


「そうだったっけ??忘れちゃった」

「忘れんな!?一番大切なところだよ!!」

「......えへへっ」

「お前笑顔でそんなこと言っても過去はきえねぇよ??」


笑顔でなかったようにしてくるが、もちろん俺はそんなの効かない。


「まぁでも、元々今日の放課後運動しようと思ってたでしょ?」

「露骨に話し変えたな......まぁそうだけどなんでわかるんだよ」

「わかるよ、小さい頃から君とは見えない何かでつながってるんだから」

「......要するに幼馴染だからわかるって?」


いやほんとに昔からずっと気になってるけど、幼馴染だからってそんな未来予知みたいなことできないだろ。俺もその能力ほしい。


「そうともいう♪......まぁでも真面目に考えてもよくわかんないんだよね。でも、ほんとになんとなくわかるんだよ」

「うらやましいもんだぜ......」

「.......まぁもしかしたら───前世に何かしらの繋がりがあったのかもね」

「えぇ......??」


つまりこういうことを言いたいのだろう......姿は違うけど会ったことがあるということを。

だがそれはありえない.....俺に仲いい他人はいなかったのだから。


「まっ、流石にこれは冗談だよ」

「そんなことだったら、面白そうだな」

「ほんとにね──嬉しすぎて私が私じゃなくなっちゃかも」

「まぁ流石にないだろうよ」


といい、一旦この話を区切り、途中で沙彩が買っていたスポーツドリンクを飲む。

うへぇ.......やっぱ運動後にこれは美味しいよなぁ。

俺と沙彩はお互いに休憩しながら雑談をしていると──────1つの人影が見えた。



・・・・・・


「こんにちわぁ~!!」

「こんばんわじゃないかな、今の時間帯は」

「あっ、確かにっ!!!」


さっき見えた人────片野凛さんは俺の幼馴染、沙彩と笑顔で話していた。

どうやら彼女はこの近辺に用事があったらしい。


「二人はなにをしているの??」

「ランニングだ、沙彩に無理やりな」

「運動不足直さないとだめだと思わない?片野さん」

「そうだねっ、確かに運動不足はよくないぞっ!」


無慈悲にも2対1という状況を作り出されてしまう。

これはひどい......だまされるな片野さん!!!俺の味方になって共にあの悪魔を殺そう!!!


「あっ、そういえばずっと気になってたんだけど」

「ん?なんだ?」

「双葉君って沙彩ちゃんの彼氏なの?」


いきなりそんな質問が繰り出される.....俺らが無意識のうちに避けていたことを。

だが俺は無表情で「ただの幼馴染だ」と伝えようとしたら


「あっ、うん。そうそう彼氏彼女だよ」

「へ~~っ、やっぱりそうなんだ!!!!」

「んんん??」


あれなんか話がすっごい方向にぶっ飛んでないか???


「なぁちょっと──」

「そうそうっ、苦労がかかる彼氏だよ」


沙彩の視線が物語っていた──なんもしゃべんなと。

どうやら俺に人権などないらしい.......ひでぇとか考えていたら片野さんがとんでもない行動に出た。


「じゃあ私も彼氏立候補しようかな~?」むぎゅうううううううう


片野さんはいきなり俺に抱きついてきた.......んえ??

えまって脳の処理が追いつかない。


「なっ、何してるのさ!!離れなよ!!!」

「えぇ~~っ、なんでさぁ~」


沙彩にとって久しぶりに想定外のことが起きたからだろうか、いつもの小悪魔みたいな表情は崩れていて、とても焦っているのがよくわかる。


「親しくもない人にそんなことするなんて、そこに愛はないじゃん!!?」

「あるよ??人生で初めての一目惚れしたもん」


────────え?


俺と沙彩、共に何が起きたのか分からず、顔の表情どころか、息すら止まってしまう。だが、沙彩は一足先に息を取り戻す。


「ひ.....ひ....一目惚れ??」

「そうだよ♪だから今日もここに会いに来たんだよ!!」


ここでようやく俺も息を取り戻す。

それにしても一目惚れか......そんなこと俺がされるとはな。

ていうか後半すごいこといってなかったか?


「どうどう??先ずは二番目の彼女でもいいよっ!!」

「い......いい加減、私の双葉君から離れてよおおおお!!!!!」


そう言って、沙彩はいつもの洗練された綺麗な動きではなく、雑な動きで俺のことを取り戻しにきたが、無意味だった。


「よっと♪」


対照的に華麗なステップで沙彩のことを避ける。

なんだ今の動き......まるで未来が見えてたかのような動きだったぞ。


「さて、そろそろ私も用事があるし。今日はここでおさらばかな」

「早く帰りなよ!!」

「あ、これ私の連絡先っ。後で一言頂戴ね」


物凄く不満そうな顔をする沙彩を無視し、連絡先を俺のスマホに登録した。


「いつの間にっ!!?」

「連絡先はちゃんとしないとだめだよ~?1111だなんてさ」

「じゃあね!!?」


────────チュッ


「......え??」


彼女は間違いなく俺の頬にキスをして去っていった。


(まじかよ......流石に赤面だぜ)


さてと.......


「ねぇ!!本気なの!!??片野さんにぞっこんになっちゃうの!!??」

「.......迷っちゃうぜ」

「もうっ、なにさ!!私の前でイチャイチャして!!ねぇ、私にも!!」


そういい、沙彩は唇を差し出して俺に迫ってくる。


「沙彩!!??一旦落ち着いてーー!!沙彩!!」

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