第20話 あなたが.....そうなの?

「沙彩の好きな物を買うと行っても.....あいつ、なんでも食べるしなぁ、正直分からないというか」


そう、俺はこれだけ長いこと沙彩と一緒にいてあいつの好きな食べ物が分からなかったりする。いや、これだと語弊があるか、正確には辛い食べ物が好きというのは知ってるんだが.....


『え、お前まだ食うん?』

『??全然食ってないでしょ?』

『激辛ラーメンそれ4杯目なんだが......?』


俺の中で沙彩は....辛い食べ物だったら正直何でも食べると思ってる、なぜならあいつは基本何でも食うし、何でもバカみたいな量を食うし、どれを食べる時も満足そうな顔をしていたのだ。


『お前物欲とかはないのに、なんで食欲とか睡眠欲がそんなすごいんだよ』

『ん?そんなにかな?』

『......あぁ、自覚なしだったわ』

『???』


まぁ悲しいことにあいつはそんな意識がなかったようで、家でもパクパク食べていてお母さんを困らせているという話をちらほら聞いていたりもする。

いやまぁな?俺も1回その事に言ってみたんだけどな?そしたらなんて言ったと思う?


『......食べ過ぎというのは心外だけど、君たちがいつもより運動したら腹が減るのが早いのと同じように、私は君たちより脳を沢山酷使しているからね、その分食べる量が多いのかもしれないね......そんなつもりは無いけど』


とのことらしい.....まぁ、確かにあいつの脳内凄いことになってそうだもんな。

......いつか、沙彩が普段どんなことを考えているのか言語化して、教えてほしいほんだよな。

何はともあれほんとになにを買う?......いつの日か甘いものを買ってあげたこともあるのだが、なんて言ったと思う?


『......君は私のことをさほど理解してないね?私を普通の女の子と同じだと思わないでほしいよねぇ......でもまぁ、嬉しいけどね』


ということを言っていたのだ、要するにあいつをただの女の子だと思わないで選べということなのだが.....なんだがなぁ、俺の中じゃただの女の子なんだけどなぁ.....まぁその話はあとでいっか。


「......ん?あれって」


買い物に出かける道中......一人の女の子がいた。その少女はガラの悪い男の人に声をかけられ、鬱陶しそうにしていた.....十中八九、ナンパだろうなぁ。

今の時代にナンパする奴いるんだな......てっきり、アニメの世界だけだと思ってたぜ。

周りの奴らは見て見ぬふりをして、明らかにその少女がナンパされて迷惑そうにしているのを気付いてるのに、誰も助けようとしていなかった。


「はぁ......しょうがねぇ、俺が助けに行くしかないよなぁ」


周りの奴らに呆れて少女のことを助けようと思っていたが.......できることなら俺も行きたくない。......だって、あいつの顔めっちゃいかついんだもの.....人間に擬態した鬼かな?と、思わず思ってしまうくらいのだ。

だが助けないわけにはいかないので、そっちの方に向かって行こうとするのだが.....、その少女が一体誰なのかわかってしまった。


「あれ絶対有希やん.......」


そう、目の前にいる少女は沙彩の友達である───浅海有希だったのだ。

ある意味確かにとも思ってしまう.....だって、彼女は沙彩と負けず劣らずの容姿をしているからだ。その魅力は数多の男を引き付けるのだろう.....優れた容姿を持つやつの運命なのかもしれないな。


「.......迷惑です、さっさとどこかに消えてください」

「そんなこと言わないでよぉ、俺と遊びにいこうぜ?」


有希は沙彩を彷彿とさせる毒舌でそのナンパ野郎を離そうとしているのだが.....一方にそのナンパ野郎はナンパをやめようとしない。

一体どうやって撃退しようかなと考えていたら.....そのナンパ野郎は強引に有希の腕をとった.....それを見た瞬間、俺の体は勝手に動き出した。


「すみません、そいつは俺の連れです」


そのナンパ野郎に俺はそう告げた。そのナンパ野郎はこっちを見た。

......こっわ、目の前で見たら更に迫力が上がってやがる。


「なに??この子の彼氏??」

「いーや、そういうわけでもないんですけどねぇ.....一応大事な人なんで」

「でもよぉ、彼氏じゃないんなら別によくねーか?」

「いやいや、そういう話じゃないでしょ、その子が明らかに迷惑そうにしているのが分かりませんか?」


うーーむ......これ以上、出来れば騒ぎを起こしたくないんだがなぁ....ほら、周りから視線が俺らに集まってくるのを感じる。

まぁこんなアニメみたいな状況.....周りからしたら、面白くないはずがないもんな。

だから誰も加勢しようとせず俺らを見てくる。

正直そんな奴らを見てしょーもないと思わずにはいられないのだが、今こんな事を気にしてもしょうがないだろう。


「とりあえず俺らは帰るんで......欲求不満なら別の女の子でも狙ったらどうですか」


俺がその言葉を言った瞬間、ナンパ野郎は雰囲気をガラッと変え、俺のことをギラっと睨みつけてきた。


「.....なにおまえ、うざいんだけど」


その瞬間男は、拳を振り上げ、俺に真っ直ぐ振り落としてきた。

だが俺にとっては.....あまりにも遅すぎる、沙彩と比べたら尚更だ、だからこそ俺は、そいつがどこに拳を振り上げてくるのか、手にとるようにわかった。

だから俺はそれを当たり前のように避け、男の腹部に拳を打ち込んだ。


「がっ.......!?」


男は腹部を殴られたせいで、その場に座り悶絶していた。

......なにこいつ、ダサっ。


「はぁ.....有希、行くぞ」

「......あっ、はい」


呆然としていた有希の手を取り、早々とその場を去っていく。......やりすぎたかなぁ、あれ。周りの人々も呆然としていたし。

俺もあそこまでするつもりはなかった、ただ相手の手をとって手首を捻りあげるだけでよかったのに。


(体が勝手に人を助けようと動くあの現象.....どこか既視感を感じたんだよな....なんでだろう)


この不思議な感覚に俺は思考を巡らせてみるが、今はそんな状況ではないとその思考を無理やり打ち切り、そろそろ走るのをやめてもいい場所まで来た現状に意識を集中させる。


「ここまで来たら大丈夫か?」

「.........」

「...大丈夫か?有希?」

「あっ.....はい、大丈夫ですよ」


どうも有希の様子がおかしい.....なんというか、どこか心ここにあらずという感じがする。


「はぁ.....とりあえず、あぁ、なったら周りに声をかけろよ?流石に周りの奴らも声をかけられたら助けるだろうし」

「......どうして?」

「は?」

「私が知る限りのあなたは....沙彩以外はどうなろうがどうでもいい、たとえそれが沙彩の友達の私であろうと、それに変わりはないと思っていたのですが.....」

「あぁ.....なんというか、不思議な感覚でな。足が勝手にお前のことを助けに向かってた.....この感覚既視感があったんだけど....それは別にいいか、まぁ案外俺はお前のことを大切に思っていたのかもしれないな」

「........」

「有希?」


有希は俺のいったことに返答せずじっとこちらを見てくる.....一体どうしたというのだろう?いつもの不敵な笑みではなく、何かを見つけたような顔をしていた。


「もしかして.....あなたが、そうなの.......?」

「ん?小さくてよく聞こえないんだが」


有希は俺の声を聞いていないのか、またもや小さな声で何かを呟いた。


「.......私を交通事故から助けて、私の代わりに死んだ.....私の王子様はあなたなの?」



あとがき

有希が優秀なのは優秀な親からの遺伝子だけでもなかったり........


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