第15話 あいつは俺のものだ

「ふぅ、やっぱりここは落ち着くな」


昼休みの時間になった今、俺は沙彩や怜と要と一緒におらず、屋上にきていた。

屋上は屋上で高所なので、俺らが住んでいるこの街を一望することができる。

特に目的はないのだが、ここから見る景色が見たいのと、たまにふくそよ風が気持ちいいので俺はここに来ていた。


────ガチャ


背後から屋上の扉が開く音が聞こえてくる。

普段は誰も来ないので少し驚いてしまうが、別にここは封鎖されている場所ではないのでたまにここに来る人もいるのだろうと考えを改めて、すれ違う形で俺はこの場から去ろうとしたのだが


「やはりここにいましたか、双葉君」


そこには沙彩の友達である浅海有希が立っていた。

彼女のいいぶりから、俺がここにいたことが分かっている上でここに来たらしい。

いったいどうして?───と思っていると、彼女は俺の考えていることを先読みしたのか、俺が聞くよりも先に口を開いた。


「最近たまに双葉君が消えているなと思いまして、興味本位でついてきただけですよ」

「あぁ.......なるほど、俺が屋上に来るようになったのは最近だからな」

「えぇ、その通りです......そういえば、この前風邪をお引きになったんだと耳に挟みましたが」

「.....別に、俺が言わなくても先に沙彩から聞いてるんじゃないか?」

「いえいえ、何でもかんでも共有しているわけじゃありませんよ、あなただって、何でもかんでも彼女にいうわけではないないでしょう?」

「あぁ......そうだな、その通りだ」

「納得していただいたようで何よりですよ」


クスッと上品に笑った有希は柵に手をかけていた俺の横に並んだ。


「まぁ、その様子ですと....元気そうですね、よかった」

「別に心配するような間柄じゃないだろう?俺らは」

「その通りですが、あなたが具合悪いと沙彩も調子が悪くなるので」

「なるほどな、納得だ」


確かに、普段からでもめんどくさい沙彩が、ストッパーである俺がいなかったらめんどくさそうだしなぁ.....ははは

......どうせだし、この際だ。俺が前々から気になっていたことでも聞いてるとしよう。


「なぁ有希」

「なんでしょう?」

「君は一体......なんなんだ?」

「なんなんだ.....といわれましても、よくわかりませんね」

「.....君が普段からしている洗礼された立ち振る舞い、そして、アニメでもないのに君は誰が相手でも敬語.....一体、なんなんだ?」


そう.....アニメなら、敬語キャラなんて山ほどいる。たとえそれがただの幼馴染だろうが、ただのヒロインだろうが。だが現代社会において敬語を.....それも同級生に使うなんて、普通じゃない。


「なるほど.....ですが、あなたの言う通り実はアニメ好きという説もあるでしょう?」

「お前が沙彩と仲良くなったのは小学生からだが....出会ったのは入学当初からだ、その頃からお前は敬語を使っていた、流石におかしいと思わないか?」

「....ふふふっ」


有希は口元を歪め、普段の有希からは想像できないほど口を歪めて笑っていた。


「まぁ確かに普通ではありませんが....気づかないあなたもあなただと思いますが」

「は?」

「.....聞いたことはありませんか?政治家で有名で、この世の犯罪率を減少させた浅海という苗字を」

「.....へ?まさかその人の娘......なのか?」

「はい.....まぁ、私という存在は隠されていたので、しょうがないかも知れませんね」

「まじか......」


有希があの浅海......の娘、なるほど、そりゃあ敬語キャラなのというのも納得だ

ともなれば....この二人がどうやって仲良くなったというのも想像がつく


「あの沙彩が.....いきなり誰かと仲良くなっていたのは驚いたが....沙彩はお前の正体にすぐ気づいたってことなのか?」

「はい、そしてそのうえで友達になってほしいと言われまして」

「えぐいな.....」

「......あまり怖がらないんですね」

「怖がる?なんでだ?」

「世界一位と言われている政治家ですからね......この世の法にふれることも多少は誤魔化せる存在なのですよ?」

「まぁ.....俺だって有希がどういう人間か、多少なりとも知っているからな、大丈夫と思っただけだ」

「大丈夫.......ね?」

「あぁ、だって俺が世界で一番信用している沙彩から友達になろうといわれたんだろう?だったら別に怖がることはないだろうさ」


あいつは人をよく見ている.....そんなあいつからそんなことを言ったんだ、だから大丈夫だろうと思い、そんなことを自信満々で言った。

なのだが.....有希は呆然としていた。


「......驚きましたね、まさか彼女の思惑がここまで進んでいたなんて」

「......??」


(彼女は双葉君が沙彩から離れていかないよう、徐々に依存させていくというのは知っていましたが.....十分依存しているではないですか)


もう既に彼女の思惑がほとんど成功していると言っても良いだろう.....だが彼女は興味が沸いた、双葉の中で沙彩はどのぐらい大切なのか。


「ですが双葉君、人のことはそう簡単に信用してはいけませんよ」

「......あん?」

「.....天海沙彩、彼女という存在はある意味この世界のエラーのような存在です」

「エラー?」

「はい、彼女の価値観、思考.....あなたがいるから彼女は正常なんです、もしあなたがいなかったら、この世界の悪になっていたと思います」

「それは.....」


双葉は即座に否定できなかった。だって、双葉は沙彩を信用しているが、あの極度の人間嫌いにはとても理解をしていたから。


「でもなんだ?あいつは悪になんてなっていないだろう?」

「....そうですね、ですがそのような彼女を放棄しておくとでも?」

「.....何が言いたい?」

「......もし、私が彼女と仲良くなった理由がいつか彼女に双葉君を理由にし、彼女を無理やり私側に引き込むとしても?」


有希は気になった、双葉が自覚していない沙彩への愛はどのぐらいのものなのかを。

だからこそ彼女は適当な理由で彼を挑発して見せた。


「そうなったら俺はお前らを許さない、もしそうなったらお前らにはそれ相応の覚悟をしてもらう」

「へぇ....?浅海家に喧嘩を売るのですか?」


双葉は殺気をむき出しにし、鋭い目で言ってきた。


「沙彩は俺のものだ!いいか?あいつらはお前らの手となり足となるなんてそんなの絶対に許さない。たとえそれが世界のためになるとしてもだ。

俺が沙彩を守る、俺が沙彩を独占する、例え世界を敵にまわすとしても俺は沙彩を渡さない。沙彩は俺だけのもの、それが俺の中のあいつへの愛だ」



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