第10話 沙彩は狂っている

天海沙彩と浅海有希は親友──ということになっているが、ホントは違う。

いや、あってはいるのだが、少しだけ違うのだ。

元々二人とも他人には一切興味を示さない二人であった。

だが、沙彩は双葉という存在がいるおかげで、表面上は仲良くするという視点が生まれてはいたが、有希はそうではなかった。

その理由はとても簡単だ。浅海家はこの世界で一番といってもいい存在だった。

だからこそこの家には、多額なお金があるし、そもそもとしてそんな事業をできるだけで、親が優秀だと分かった、そしてその才能はちゃんと有希にも引き継がれてた。

だからこそ、あらゆることを沙彩程ではないが、こなすことができた。

だが、有希はそんな人生に退屈をしていた矢先に.......沙彩が現れた。

そしていきなりこんな事を言ってきた。


『あなたの力.....貸してくれないかな』


唐突にそんなことを言ってきた。だから、別にこの女に興味などなかったので、踵を返して帰ろうとするその時だった。とんでもない力で引っ張られて、真黒い瞳で告げてきた。


『話だけでも、聞いてみないかい?』


帰ろうとしても帰れなさそうだったし、なんとなくこいつに興味を持ってしまったので聞いてみた。


『......どんな話何ですか?』

『私にはとある一人の大切な男の子がいるんだけど.....』


そうして、沙彩は有希に話し始めた。狂っている価値観を。




『ふふっ、あはははははははははは!とても面白い話ではないですか』

『あはっ♪そうでしょ?』

『ですが、なぜそこまで四季双葉にこだわるのでしょう』

『だって、双葉君にはあまり関わってほしくないんだよ』

『というと?』

『私は人間という存在が心底不愉快だし、気持ち悪い、双葉君以外の人間....つまり害悪でしかない虫なんて死ねばいい、話しかけられるだけで鬱陶しいし、なんなら、この世界の人間を全員殺して、私たち2人の世界を作ってしまいたい......私は四季双葉君という存在のおかげで普通でいることができるんだよ、彼の身体は私のもの、逆に私の体は彼のもの、この髪も、力も、体も、汗も、臭いも、全部双葉君だけの物だし......逆もまた然りってことなんだよね』


有希はこの言葉を聞いてゾッとした。


(......狂っている、私も大概狂っていると認識していますがこいつはその比ではない、自分が第一優先でもなく双葉の為だけに全てを注いでいる、自分の容姿は双葉を喜ばせるためのもの程度にしか思っておらず、全てが双葉優先....ここまでイカレテル人、なかなかいませんよ)


「それでどうかな?私についてきてくれる?」


その問いに、いつもの有希なら返事はしないのだが....沙彩についていけば、人生が楽しくなると、そんなことを思ってしまった。だから...


『ふふっ、いいですよ。ついていってあげます』


これがこの二人の始まりであった。


▼▽有希視点に再び


(双葉君は沙彩のことをたくさん知ってると言ってましたが....実際はそんなことありませんよ、彼女が隠すのがうまいだけにすぎないんです。ですが、あなたは何も知らなくていいですよ....沙彩の闇はずっとずっと深いですからね....)


双葉は急に黙った有希を不思議に思ったのか、有希に声を掛ける。


「急に黙ってどうしたんだ?有希」

「......あぁ、いえいえ、何でもありませんよ。それよりあそこにいる彼、何かしようとしていませんか?」

「.....え?」


よく見てみると...ホントにいた。あれは確か.....茶道君だっけ。陽キャイケメンの。

向かっている先は....沙彩?あの二人に接点はなかったのだと思うのだが


「なーっ、沙彩?なぁなぁ、この後2人でデートにでもいかないか?たまには異性と話すのもいいもんだぜ?」


おおー、あいつマジか.....毒舌で有名なあいつを、ましてはクラスメートがいる中でそれは......もはや尊敬に値するぜ。


「あれ?みんなどうしたの?急に変なとこ向いてしゃべらなくなっちゃって」


(((まさかの存在全否定!!??)))


この瞬間、クラスのみんなの心の声がそろった瞬間であった。

だって、今までなんやかんや毒舌ではあったが返事はしていたのだが、今回は完璧なスルー.....驚かないはずがなかった。


「おーい?それはさすがに冷たすぎないかい?せめて話すだけでもさぁ」

「うーん、なんかみんなしゃべらなくなったし、私はかっこいい双葉君のところに行ってくるね♪」


そう言って、沙彩は双葉のところに走ろうとした。だがそれを察知していたのか、男は先回りして、無理やり止めた。


「おいおい、そんなことで俺が引き下がるとでも思ってる?俺がその双葉とかいう男の存在を忘れさせてあげるぜ?女には慣れてんだ、俺に身を委ねてくれたらたくさん気持ちよくしてあげるよ」


そんなことをいってくる茶道君に対してみんなドン引きしていた。

そりゃあ会話の内容が下世話ばかりだし、何よりこの教室で大きな声で話しているのが気持ち悪かったのだ。

そして、張本人の沙彩はというと、心底めんどくさそうに、嫌そうに、口を開く。


「はぁ.....私、脳内お花畑の愚かな虫を相手するの嫌なんだよね、さっさとここから消えてくれる?」


沙彩は相変わらずの毒舌っぷりで凡人ならすぐにメンタルブレイクしそうなことを言った。だが、変な方向でヤバい茶道には通じなかった。


「ほーう、それじゃあ.......お前でいいや!」


そう言って茶道は走り、双葉の腹を殴ったのだった。




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