第9話 2人の現状

「双葉君、もう時間がないから朝ご飯早く食べてくれないかな?」

「ん?俺の記憶じゃ半分くらいお前のせいなんだけど?」

「いやいや、君が一生懸命ボールを取りに来る犬みたいで可愛くてね」

「....俺を一瞬で怒らせられるのはお前だけだよ、沙彩」

「お前だけだなんて...恥ずかしいな?」

「話の文脈おかしくない???」


俺は沙彩と言い争いをしながら、パンをトースターで焼き、急いで食べていた。

こいつのせいで残り五分以内に家を出なくてはならない....あ、両親は共働きだからな、朝はいないんだ。


「遅刻したら沙彩のせいでいいよな??」

「私と君、どっちのほうが周りから信用されてるんだろうね?」

「.....っち!」


この女はとてつもなく口が悪いのだが、この10年間で男だけに発揮するようになったのだ。成長なのか退化しているのかわからないが、そういうことになっており男子からの評判は最悪...だなんてこともないのだ。そう、こいつは無駄に容姿がいいのだ、忌々しいことに。だから、逆にその毒舌ぶりが逆に人気の拍車がかかっていたりする。反対に俺は別に容姿に関しては普通であり、運動と勉強ができる程度なので、もちろん、あちらのほうが発言力は高いのである。


「ていうか、今日テストあるけど大丈夫なのか?お前昨日ずっとアニメみてただろう?」

「あぁ、さっき勉強したよ」

「.....さっき?」

「一分程前かな、パラパラめくりながら全部覚えたよ」

「え?お前世の中の学生舐めてるよな?そうだよな?」

「君たちが遅すぎるんだよねぇ、映像記憶なんて簡単じゃない?」

「ごめん、今すぐ殺したくなってきた」


沙彩の天才っぷりは結局留まることを知らなかった、こいつは高校三年生までの勉強を小2で全部終わらせるということをやって見せた。泣きたくなってくるね


「食べ終わった!さっさと学校行くぞ!」

「まぁ、別に急がなくても大丈夫だよ??」

「は?だから時間が」

「今日お父さん休みなんだ、だから車で送ってもらえるんだ」

「.......ということは?」

「君が無駄に急いでも意味がないってことだよ♪」

「先に言えよおおおおおおぉぉぉぉ!!!」


俺の努力は全て無意味だったらしい、先に言っててほしいもんだよね


▽▼

「沙彩~、待ってたよ」

「ごめんね、遅刻しちゃった」


教室に入ると早々、沙彩が女子のクラスメートに囲まれた。俺も沙彩から離れ、友達のところに向かって行く。


「よっ、朝からお前の幼馴染は人気だな?」

「すごいよなぁ、あんなに人気なのは」


友達二人──怜と要が話しかけてきた。

この2人とは中一からの仲であり、男子では一番仲がいい奴らだ。


「まぁ、あの容姿だからな....必然だろ」

「それでそんなあの人はお前と幼馴染....ビッグカップルっていうのはこういうことをいうんだろうな」

「それな?美男美女カップルだよ」

「は?俺なんてどこにでもいるモブじゃないか」

「......鈍感系主人公ってむかつくよな....要」

「あぁ、全くだな」

「ああん?俺は誰からも告白されたことねぇよ」

「たぶんそれは──」


その瞬間、怜と要にだけわかる殺意が向けられた。それはまるで.....ライオンが餌にするやつを決めた時のような、そんなものだった。

そう、その視線の犯人は沙彩である。光のない瞳で二人のことを凝視していた.....

それは、「言ったらどうなるかわかっているな?」と、そのような殺意だった。


「ん?視線が....?あれ、沙彩?」


双葉が視線を沙彩に向けた瞬間、何事もなかったかのようにその殺意は解かれ、双葉に目を向けていた。


((いや、こえーーーーーー))


怜と要はその変わり身の速さと向けられた殺意に圧倒的な恐怖を抱いていた。

それも当然だろう....ライオンがいきなり猫になったようなものなのだから。

だが、沙彩はその本性を滅多に外では出さない、なのになぜこの二人に出しているのか、それは簡単な話である。

二人はそもそもとして疑問だったのだ、なぜ双葉はモテナイのかと。

だが、別に気にすることはなく、そのままにしていたのだが、運が悪いのか偶然.....沙彩が双葉の靴に入っていたラブレターを破いていたところを見てしまったのだ。

そして二人は何だか悪い予感がして走って逃げようとしたが、流石沙彩というべきか、あっさり捕まった。そして


『君たち.....これを双葉君に話したら、どうなるかわかるよね?』


二人は首を縦に降るしかなかった。圧倒的な殺意を前に、成すすべがなかったのだ。

それ以降、たまにこういうことになるのだが.....二人の心臓はいつまで持つのか、不思議なものである。


「あら双葉君、おはようございます」


そして、いきなり双葉に話しかけてきた少女がいた。

彼女の名前は浅海 有希.....俺に怜と要という中一からの友人がいるように、沙彩には小学6年からの友人がいるのだ


「あぁ、おはよう。沙彩のところにいかなくていいのか?」

「ふふっ、たまにはあなたとも話したいなと思いまして」

「そうか?珍しい事もあるもんだな」

「そうですね....彼女、よく笑っていますね」

「あぁ、全く。女子には毒舌を発揮しなくて助かったぜ」

「ふふっ、そうですね」


有希は微笑みながら、双葉にそう返答する。


(あなたは....沙彩の価値観を知ったら、どのような顔をするのでしょうね)


有希は意味深に微笑むのだった。




あとがき

気づいたら一万pv達成、感謝です。

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