第3話 講義 おっぱいについて
僕の部屋、教室に戻ってくると、赤井神奈央子は、椅子の上で項垂れていた。
「神様。もう脱いでいいかしら?」
「服を脱ぐのか? まさか自ら痴女になるとは――」
「違うわよ。神様が大好きな、このサイハイソックス。蒸れるし、暑いのよ」
彼女は、ニーソのゴムに手をかけ、いつでも脱げるようにしていた。だが、それは僕にとっては許せない行為だ。
「特段の事情がない限り、入浴時と就寝時以外、この素晴らしきニーソを脱ぐことは許されない。僕の教室では、服を着崩したり、スカートの丈を短くするのは全然良いが、絶対領域を無くすのは、僕は許さない。停学に値し、絶妙に嫌な罰をしないといけなくなる」
「体罰ですか? 今のご時世、叩いたり、暴言吐いたら、先生が怒られちゃいますよねー」
「毎回、中身が全く減っていない、封が切られたペットボトルが、毎朝枕元に置かれることになる」
「絶妙に嫌ね」
あの炎天下の中、彼女は頑張った。この教室を適温設定にしてから、汗で濡れている彼女に、シャワーを勧めた。
「この教室の説明をしていなかった。前の扉は個室トイレ。洋式で1つしかないから、注意してほしい。そして後ろの扉は更衣室。3つロッカーがあり、浴室も更衣室の中に1部屋、ジャグジーバス付きだ。着替える時に使うと良い。そして掃除用具入れのロッカーは、各々の部屋につながるワープホールになっている」
「そりゃどうも。優しい神様に拾われて、あたしは幸せ者ですよー」
「制服とニーソの替えは大量にあるが、さすがに下着の替えは無い。自分の通信機器で注文すると良い。ア〇ゾンなら、この教室に5分で届く」
「ここ、ア〇ゾン来るんかい」
「まず、Wi-Fiがあるのを褒めてほしい」
赤井神奈央子が、自分のスマートフォンで色々注文して5分後、見慣れた段ボールが彼女の机の上に届いた。
「お金は? と言うか、ここは日本円なの?」
「僕の給料から天引きされるが、君たちを救えるなら安いものだ。だが最近は円高らしいから、500ミリの水1本でも、日本円にすると5000円だ」
「……何か、悪いことをしたわ」
素直に謝る彼女には、僕は高評価だ。今回の注文が、10万円に達していても、僕は彼女に成長に感動し、何も思わない。むしろ嬉しい。
「じゃ、あたしは遠慮なく、入浴させてもらうわ。邪な事を考えるんじゃないわよ」
「ああ。ゆっくりと体を休めると良い」
彼女が着替えている間、僕はこの教室を掃除する事にした。
僕は神なので、女性が着替えている時、入浴時に覗く事はしない。そのような行為は最低であり、何度も言っているが、不意に見てしまった方が、男はときめく。初めから女性の裸体、下着姿を拝む目的で動いても、素直に喜ぶことは出来ない。
「……って、覗きに来ないんかい」
「変わった人だ。自ら覗きを希望するとは。自分の体に自信があるのか?」
「そう言う訳じゃないけどっ!! 30分ぐらい、扉の前で構えていた自分が、恥ずかしく思えんのよっ!!」
女性の身支度は、とても時間がかかる。2時間の入浴、身支度は普通だと思い、僕は普通に掃除が出来て、窓のサッシにたまっていた埃、汚れも完璧に除去出来てしまった。
「ま、湯冷めするのも嫌だから、神様が大好きなサイハイソックスは、ちゃーんと履いているわよ」
「それは嬉しい限りだ。君のその絶対領域が、この教室の授業料で良い」
「やっすい授業料ね」
彼女は苦笑しながら、着席したので、講義を再開することにした。
「今回は、おっぱいについて話す」
「神様。ここって、110番通じる? 目の前に変態がいるから、通報したいんだけど」
「男性は、皆変態だ。おっぱいは放送禁止用語では無いのだが、不快に思うなら、言い方を変えようではないか。今回は、女性の胸について話す」
あまり良い顔をしていないが、赤井神奈央子は、ムスッとした顔のまま、僕の話に耳を傾けていた。
「何度も言っているが、男は単純だ。もし好きな女性から、胸を揉んでも良いと、優しくされたら、男は一瞬で好きになってしまう。つまり、急に優しくされると、男は失血死する」
「胸の話はともかく、急に優しくされて好きになるのは、一理あるかもね」
「だから、僕に優しくしてほしい」
彼女はどう出るか。しばらく考えた後、彼女はこう言った。
「なら、肩を揉んであげるのはどう?」
「そう言う優しさではない」
親切と、急な親切とは、全く別物だ。
「君は無いか? いつも喧嘩ばかり、多くの荒くれ者の男子高校生を率いた不良の番長が、実はぬいぐるみが好き。ぬいぐるみを抱かないと寝れない。そんなギャップを見たら、君はどう思うか」
俗に言うギャップ萌えという物だ。赤井神奈央子は、どのような男性のギャップに惹かれるのだろうか。
「いや。なーんにも思わないわよ。そんなんなら、最初から真面目に勉強して、大手の玩具会社に行けって思うわ。不良だろうが、その辺一帯を治めてる番長だろうが、一度道を踏み外しているのだからかっこよくないし、むしろダサいわ。あーあ、かっこ悪いし、つまんない奴よ」
「なるほど。一理ある」
不良が更生したら褒められる風潮を好まず、最初からまじめに勉強しろと言う、赤井神奈央子は、やはり外見よりは、中身を重視して、男性を好きになるようだ。
「君の考えは分かった。しかし、古来から人間は男女関係なく、ギャップと言う物に惹かれる」
「分かったわよ。あたしが言わなさそうな事を言えって事でしょ? そんなら膝枕して、耳かきしてあげる。それで神様はどっち派? 絶対領域の上に頭を乗せたいか、サイハイの生地の上に頭を乗せたいか。好きな方を選びなさいよ」
「ぐふっ……! そ、そんな事されたら、僕は昇天してしまう……」
「ちょいちょい。神様って昇天するんですかー?」
昇天はしないだろうが、赤井神奈央子が言わなさそうなことを言ったので、僕はときめいてしまった。
「しかし、それをあの男に向かって言えるか?」
「そ、それは……言えないかも……しれない……」
それが出来ないと、赤井神奈央子は、永遠にメインヒロインになれない。本命は僕ではなく、幼なじみの男、九卯祖弥郎だ。彼をときめかせないといけない。
「改めて聞くが、巨乳好きの変態男を、まだ好いているのか?」
そう聞くと、彼女は照れくさそうに顔を赤くし、そっぽ向きながら、こう言った。
「アイツが性格で惚れたなら観念する……。けど、ただ胸が大きいから、あたしの胸が小さいからで振ったなら、無性に腹立つ……。だから、女は見た目じゃないって、アイツの目を覚ましてやらないと、気が済まない」
幼なじみの美少女を振り、巨乳が理由で、メインヒロインの聖人神女を選んだ、主人公の九卯祖弥郎だが、まだ彼女は、幼なじみの男を好いている。
なぜ彼女は、あの男が好きなのか。それは小説内で書かれている。
簡潔に説明すると、赤井神奈央子は、今とは違い、どんな相手でも気が強く、同級生、先生だろうが年上の人だろうが、嫌味を言い、周囲から孤立していた時でも、九卯祖弥郎はずっとそばにいて、仲良くしていたようだ。
ただ単に、『美少女と仲良くしていた方が、後に高校、大学で勝ち組になれるんじゃね?』と、九卯祖弥郎は、思っていたらしく、下心があって近づいていた。だが赤井神奈央子は、そんな考えでも嬉しく思い、男同士の友情関係が続き、年月が経つほど、彼女は巨乳好きの男を好きになっていったようだ。
「それなら、男はどうして、胸に惹かれるのか。さらに説いておこう」
彼女の恋路を応援したい僕は、黒板に大きく、『胸=六文銭』と書いた。
「意味が分かるか?」
「そうね。一度、お寺の住職にドロップキックされるべきよ」
あの世に行く際、三途の川にある渡し舟の運賃が、六文銭と言われている。
「そんな失礼な意味ではない。ちゃんとした理由がある」
理由を説明するため、一度自室に戻り、参考書(ライトノベル)を3冊持ってきた。3冊とも、表紙に胸が大きく設定された女性で、ぴっちりとしたスーツで戦う女子、胸を強調してある、現実ではありえない学生服の女子、そして異世界転移物で、絶対防御力が無いであろう、露出の多い装備で戦う女子が描かれた物だ。
「赤井神奈央子は、この子たちを見て、どう思う?」
「大きいわね。そんなものぶら下げて、鬱陶しく思わないのかしらって、思うわ」
「しかし、男性はそう思う人は少ない。まず、第一に揉みたい、顔を埋めたいなど。とにかく触りたいと思うのが、男の性(さが)だ」
彼女は、僕の事を冷めた目で見ている。
「人間は哺乳類に分類され、赤子の時は、母親の母乳を飲んで成長する。つまり、男女問わず、女性の胸に興味を持つのは、本能なのだ」
「それはそうかもしれないけど、男の胸への執着心は、あたしたちからすると、異常に見えるわ」
「相手の女性に、触ってみるかと言われたら?」
「触ってどうすんのよ。ま、良いって言うなら、軽く触るけど、仮に触ったとしても、微妙な空気になって、終わりよ」
このまま話していても、赤井神奈央子は、男性が思っている、胸の素晴らしさは分からないだろう。
「つまり、女性の胸は、男性にとっては天国へ行くための片道切符。この手で女性の胸を手にした瞬間、男性はこの世のすべてを手に入れた気分になり、そして失血死する」
「ほんと、男って単純ね。ま、あたしは大きすぎるからと言って、嫌悪感は特に抱かないわ。触りたいとは思わないし、と言うか、同性が女性の胸に興味ある方が、問題でしょ。まーったく興味ないんだから」
そう言っている赤井神奈央子だが、巨乳好きの幼なじみの男の気持ちを知るには、自分も巨乳が好きな男の心理を知る必要がある。
僕が変身し、グラマラスな女性になってもいいのだが、まず僕が触って、失血死するだろう。そんなみっともない姿を、教え子に見せるわけにいかないので、僕は彼女に提案した。
「赤井神奈央子。少し、この教室が寂しいと思わないか?」
「まあ、あたしと神様しかいないから。だだっ広い教室に2人だけだったら、必然的にそう思ってしまうわね」
「それなら、新たな仲間を入れよう」
僕には、まだ救いたいと思う負けヒロインがいる。なので、赤井神奈央子を刺激するためにも、僕は新たな生徒を増やすことにした。
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