第12話 将軍ロンソン

「エ、エルジス、ファバード殿。よくぞお越しくださいました……」


 困惑しきった顔で額に汗を浮かべる将軍ロンソン。声も微かに震えている。


「そ、其方そちらの少年は……?」


 その言葉に反応するように、ファバードが睨みを効かせた。すかさず彼を制し、今度は俺(クファシル)が話し掛ける。


「あ〜、どうもロンソン将軍。俺、クファシルっていいます。……一応、王太子ヴィルトスの弟です」


 一瞬の沈黙を置き、まさか。という表情を作ったのはロンソン将軍だった。


「お、お、王弟殿下!?何故このような街に……」

「ただ来たいと思ったからだよ、この二人はそれの付き添いだ」


 今度はぽかんと口を開け固まるロンソン。


「お、王都からの軍では無い……?」

「王都からの軍がどうしたかな?ロンソン」


 最初の一言から無言を貫き通していたエルジスが口を開く。彼の言葉にロンソンは焦りを隠せ無かった。


「……まぁ、一泊だけ寝床を貸して欲しい。それを頼みに来た」

「……成程、それくらいでしたら直ぐに御用意致します……何泊でも御滞在下さい」


 エルジスは頼みをしつつ見逃さなかった。頭を下げたロンソンの表情が、闇に堕ちた薄暗い笑みを浮かべている事に。


 ◇◆


 歓迎の支度と言い館の奥へと消えていくロンソン。休憩室に招かれた俺、エルジス、ファバード、イグルの四人。一番最初に口を開いたのはエルジスだ。


「恐らく、奴は今宵動きますな」


 その言葉に微かながら緊張感が走った。


「して、根拠は?」

「いくらなんでも早すぎやしませんか?」


 冷静に言葉を返すファバードに続き、イグルも疑問を投げ掛ける。



「一つ、我々が旅路で疲れている。二つ、軍が戻るのが今夜。三つ、『態々わざわざ標的が自分の元に来る』という好機を逃すような男では無いからです」


 確かに、ロンソン将軍が仕掛けてきそうな要素は揃っているが、日が暮れるまで間もなくだ。そんな急に動き始めるのだろうか?


「王弟殿下、何故今日仕掛けてくると自信を持てるか……分かりますか?」


 突然の質問に驚いたが少し考える。


(何故って言われても、特に何もしてないしなぁ……)


 口元に手を当て、街に着いた時から振り返ってみる。そして、その答えはエルジスの言葉にある事に気付いたのだ。


「そうか……!だからエルジスは……!!」


 名前を呼ばれた天才軍師は、口元を緩めニヤリと表情を動かした。


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