第11話 大将軍の力

「ここがエルフィンの街か……!」


 森を抜けた先にあった小高い丘。そこから見える街並みは「絶景」としては今一つだが、心を奪うには十分すぎる景色だ。


「この景色だけを見れば、綺麗さは変わりませぬ」


 ヴェルス国元軍師・エルジスが微笑みながらそう言った。森に出会った時とは違い、軽装に着替え腰には短剣を帯刀している。エルジスの付き人であるイグルも同じような格好をしていた。


「王弟殿下、彼処あちらに見える一際大きな白い建物、この街を統べる拠点、エルフィン総督府で御座います」


 同行している大将軍ファバードが総督府の場所を知らせた。彼は以前エルフィンを治めていた事もあり、地理に関しては把握が完璧なのだ。


「早速ですが参りましょう。策は先程伝えた通りですし、王弟らしく堂々と歩けばいいのです」

「うん、みんなも頼んだよ」


 俺(クファシル)の言葉に声を揃え、返事をする精鋭兵達。いよいよ国境の街、エルフィンに入った。


 ◇◆


「なぁ、先頭に居る子の横に居る人って……」

「いや、まさか……でも、本物だ!」


 王弟という身分故に民達と関わる機会が少ない俺や、数年前に王宮を離れた元軍師のエルジス。

 そんな我々よりも注目を集めたのは、各地を駆け回り積極的に交流を行ってきた大将軍ファバードだった。


「ファバード様だ!ファバード大将軍がいらっしゃったぞぉ……!」

「な、なら、そのファバード様の前に居るあの人は誰だ?」

「あの白髪の人も見た事ないぞ?」


 一人、また一人と俺達……というよりファバードのの存在に気付くと、やがて街を揺るがす程の大歓声へと変貌した。


(すっごい慕われてるな……ファバードって)


 先頭でその大歓声を受ける俺は、彼と武力とはまた違った凄さを感じた瞬間だった。


 ◇◆


「よりによって大将軍が来たか……くそっ!」


 守備兵から報告を受けた屈強な男。突然現れたファバードに対し、苛立ちと焦りを隠せないようだ。


「他には名高い将は居たか!?」


 怒鳴るように報告に来た兵士に問い掛ける。


「は、はっ!それが、四十名程の兵達を率いているのは見た事の無い少年であり、その横には白髪の男の姿もあるようですが……」


 白髪の男という言葉が聞こえ、雷に打たれたような衝撃が走った男は改めて守備兵に事実を確認する。


「い、今なんと言った?白髪だと……?」

「はい、間違い無く白髪と申しあげました」


 聞き間違いでは無い事を知った男。彼は苛立ちから怒りの表情へ昇格させ、震えながら白髪の男の名を口にした。


「エルジス……!」


「私の名を呼んだか、ロンソン」


 静かながらどこか威圧を感じる声が響き、男は振り返る。そこに居たのは、まさに今総督府に到着したばかりの元天才軍師エルジスだった。

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