第13話 行動開始

「だからエルジスは、一泊だけって言ったのか!」


 俺(クファシル)の閃きに対し、ヴェルス国一の頭脳の持ち主は、静かに微笑んでいた。


「……成程な、ロンソンは我々が一日だけしかこの街に居ないと思い、焦るわけじゃ」


 次に口を開いたのは大将軍ファバード。全てを理解した様子で、天才軍師エルジスの方を向いた。


「仰る通りで御座います。奴はこの機会を逃すような男では無い。まず、私と大将軍殿を無力化するでしょうな」


 説明するように言葉を並べた後、自身の付き人の方を向くエルジス。


「そこでイグル、お前に少し動いて貰う」

「はい。何なりとお申し付け下さい」


 イグルが主人から耳打ちでとある事を頼まれ動き始めると、残った三人は筆談でこれからの作戦を共有した。声に出してしまうと、どこかで盗聴されている可能性があるからだそうだ。


 ――こうして、これからエルフィンの街は激動の一夜を迎える事となる。


 ◇◆


 日は完全に沈み、ポツポツと街中に光が灯っている。静寂が包む夜、総督府ではその静けさの中にカチャカチャと金属が擦れる音が響いた。


「ロンソン様、準備は万全です」

「今頃、エルジスや大将軍はぐっすりだろうなぁ?」

「指示通り、睡眠薬を置いております」


 昼間とは打って変わって、悪い笑みを浮かべたロンソンは、部下達を引き連れてクファシルの部屋へと向かった。


 ◇◆


「王弟殿下、少々よろしいでしょうか?」


 木製の扉にノックをし、ロンソン将軍が俺を呼び掛けている。


「どうしたロンソン、何か用か?」


 甲高い音が鳴り扉が開かれた。俺は武装を解いた寝間着姿で、ロンソンに言葉を返す。


「一大事に御座います。あのエルジス、ファバード両名謀反を企んでおりまする」


 その言葉に、一瞬沈黙する。それを切り裂いたのは、俺の言葉だった。


「へぇ?二人共ここまで良くしてくれている。謀反を起こすとは到底考えられないけど?」


 内心舌打ちをしながら、ロンソンが話を続けた。


「企みの密談をこの耳で盗み聞きして参りました」

「それで?その二人は今どこへ?」

「今頃この館を脱出し、軍備を整えておりますぞ!」


(……やつらの部屋には睡眠薬を仕込んだ香を焚いている。今頃、この騒ぎにも気付かずぐっすりだろう)


 ファバード、エルジス両名を反逆者として討ち、王弟クファシルを擁して権力を握る。


(……恐らくそんな所でしょうな)


 昼間にエルジスが言った事と、今のロンソン将軍の言葉が一致しすぎて、俺は笑いを堪えるのに必死だった。


「……ま、少し考えてみるよ」


 窓際に移動した王弟の言葉に、ロンソンは一瞬言葉が詰まった。もう少し疑念を抱き、面倒になるかと思っていたからだ。


「……で、では!」


 成功寸前の作戦、早まった気持ちを抑えきれず言葉を掛ける。


「あんたを牢屋に入れてからね?」


 そう言葉を残した俺はは、バルコニーから闇の中へ身を預けた。突然の行動にロンソンは驚き固まったが、直ぐに駆け出した。


「……王弟殿下!?ここは二階……な!?」


 叫びを上げ急いで辿り着いたバルコニー。そこから見えた景色に、やはり言葉を失った。


「……まぁそう焦るなロンソン」

「……エルジス!?それにファバード!?」


 闇夜の中で焚かれた松明の光。それは、愉しそうに話す天才軍師の姿を捉えていた。

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