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「今日は湯浅君も来てくれてるんで!」
「お、まじで湯浅君じゃん! よ、我が研究室の秀才!」
居酒屋に着くと、すでに参加者は集まっていたようで、
テーブルを見回すと、おそらくは他学部の人を呼んでの合コンらしい。
「俺らとは違って、湯浅君は真面目に大学院生してるからね」
「え、どんな研究しているんですか?」
席につくなり、目の前の
いつもなら緊張してまともに顔すら見れないが、今はだいぶ落ち着いて顔を見返すことさえできる。よし。心は落ち着いてる。別にこれなら普通に話せるはずだ。
「拡張現実ってわかります? ARって言うんですけど、それの知覚影響について研究しています」
「ARってあのコンタクトのやつ? あんまり私は普段使いしてないかな。つけるのめんどくさくて」
「でも、そのARで見えるものが変わると、人の現実の認識も変わるんです。見えてるものが変わるというか。その人自身も変わるかもしれない」
周りの
その声に少しイラっときたが、今は話せる高揚感のおかげでそれも少し許せる感じさえする。
「えっと、じゃあ、例えばですが、緊張しないように人の顔を何か別のものだと思うと良い、って言いませんか? たとえばジャガイモとか」
ちょうど今、あなたたちの顔がそう見えてるようにだけど。
「あーそれなら知ってる! ジャガイモって! 確かによくいうけどさ」
「それは例えですけど、そういうことが本当に効果があるかどうか、という感じの、」
「え、うける! つまり人の顔がジャガイモみたいに見えて緊張しなくなる研究ってこと?」
「あ、えっと、それだけというわけじゃないけど……。まあ、そういうことをイメージしてもらうとわかりやすいと思います」
「え、なにそれめっちゃウケるんだけど!」
目の前の
「じゃあ、湯浅さん、ジャガイモ博士ってわけだ! 天才ジャガイモ博士!」
「えー、流石にダサすぎるででしょその名前!」
「むしろ湯浅君らしいって! 素朴で実直な感じでね! どう、湯浅君!」
酔いが回ってきたせいもあるのか、なんだか気持ち悪い感覚が徐々にせり上がってくる。
「ごめん、ちょっとトイレに……」
そう言って席を立ち、小走りでトイレに向かった。個室に入り、少し目と心を休めることにする。
洗面台で軽く顔をすすぎ、目の前に鏡に目を移すと、
席に戻ると、
「ジャガイモ博士のおかえりだ! では、博士。今日は参加記念ということで!」
タイミングを合わせたように、個室のカーテンが開けられ、料理が次々と運ばれてくる。それは。
頭ではなんでもない景色とわかっているのに、頭のずっと奥が痙攣している。この世の物とは思えない光景が、目の前に広がっている。一瞬、頭の痛さと共に目がくらんだ。
「とりあえずありったけ芋料理を頼んでおいたから! イモパーティーね! イモパ!」
隣の
「はい、湯浅博士!」
ニヤつく、顔のない
ふと、これが飲み会というやつか、と冷静に判断している自分に気づく。今まで飲み会になんか参加したことないそうだだから自分が知らなかっただけだそうなんだそういうことだそういうことにしよう。自分の知らなかった世界はこんなにもグロテスクで
勝手に納得しようとする頭とは裏腹に、手は必死に腕のデバイスでARの機能のONOFFを繰り返していた。目の前の人の顔がくるくるとシャッフルされる。芋が顔になり、顔が芋になり切り替わる。視界に映る物の正体が掴めぬまま、必死に機能のONOFFを繰り返した。
「どうした、湯浅君?」
声が聞こえ見ると、
気づくと周りの
口のない
いつの間に奇妙な世界に迷い込んだのか。ここは地獄か何かか。今私がいるのは、居酒屋だったはず、だ。
「ごめんなさい、ちょっと気分が悪くなってきたから今日は失礼させてください」
私はじっと見つめてくる芋達に別れを告げて、その狂気の世界から急いで離れた。一刻も早く、この地獄の世界から、抜け出したい。
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