第85話 精霊界と初コンタクト
半泣きになっている威厳溢れる声に激しいデジャブを感じながらも、ちらりと隣に立つお母さんを見る。
お母さんは『あらー』って感じで頬に手をあて首を傾げているけれども、どう考えてもこの惨事を招いたのはあなたですよ……。
「お母さん、お父さんにもだけど精霊王様にも何も言わずに人間界に来ちゃったの?」
「だって、アナがペンダントと塔の仕掛けに気付いてくれたのかなって思ったら嬉しくなっちゃって! 気付いたらもう一人で人間界に来ちゃってたのよー」
ああ、相変わらず脊髄反射で行動しちゃったかー。
ちゃんと一呼吸おいて考えてから行動に移してってあれ程言っておいたのに、精霊界に一度戻ってお母さんのフリーダム度がパワーアップしてしまった様な気がする。
娘としては非常に遺憾だ。
「お父様も落ち着いて下さいな。お父様が泣いたら人間界が大嵐になってしまいますわ」
うおぉぉぉい! そんな因果関係まであるの!? 今すぐ止めて!?
『だって、ターニャがぁ……』
まだスンスン言っている声に私がドン引きしていると、それを見たお母さんがウフフと笑う。
「やだわ、お父様。アナに引かれてますわよ?」
『な、何!? アナスタシアっ!? ま、孫っ、孫娘か!?』
あ、精霊王様的にも私は孫カウントなんですね。
良かった、嫌われたりとかしてなくて。
『それを早く言ってくれターニャ!! こんな格好で出て行く訳にはいかんじゃないか。孫と初対面じゃぞ!?』
「大丈夫よ、お父様。アナはそんな事気にしないわ!」
ええ、気にしませんね。
というより、それ以上に気になる事があり過ぎてそれどころじゃないというか……。
いやでも、精霊王様の言う『こんな格好』にはちょっと興味があるな。どんなだ?
『とにかく、アナスタシアにはもっとちゃんとした姿の時に会いたいのだ! カッコいいお祖父様だと思われたいのだ!』
おお、精霊王も結構俗っぽい……じゃなくて! いけない。こんな事してる場合じゃないわ。せっかく旦那様とお義兄様が神殿関係者達の気を引いてくれてるんだから、今の内に要件を済まさないと!
「お母さん、時間がないの。見つからない内に早く精霊王様にお願いしちゃって!」
呑気におしゃべりを楽しむお母さんの服をクイクイ引っ張って催促すると、ようやく状況を思い出してくれたらしい。
お母さんはポンと手を打つと、精霊王様の声がする方に向き直った。
「そうそう、そうだったわ! じゃあお父様、そのままでいいから私のお願いだけ聞いて下さいな」
『ふむ、なんだ?』
「私が人間界にいる間、『精霊王の代理者』の権限をアナに下さい」
!? ちょ、何それ聞いてないんですけど! しかも何で私!?
突然物騒な権限をねだるお母さんをギョッとした目で見る。
『良いぞ。何に使うかは知らないが、大事に使うのだぞ?』
いいんかい!! そんなお小遣いみたいな感覚で凄い権限与えないで下さいよ!?
「良かったわね、アナ! じゃあここに立って立って」
お母さんはそう言うと、私の手を引っ張って先程の魔法陣の真ん中まで連れて行く。
「ちょ、ちょっと待ってお母さん? 何か思ってたのと話がちが……」
「じゃあ、お父様! お願いしまーす!」
やっぱり話聞かなーい!
お母さんが私に危害を加える事はないだろうと従ってしまったが、ポゥッと輝き始める魔法陣に流石に恐怖心が湧いてくる。
ひいぃぃぃ、これ、間違っていきなり精霊界に転移したりとかしないよね? しないよね!?
怯える私を他所に、魔法陣の光はひとしきり光るとそのまま消えていった。
私にも目に見える範囲の変化は特にない。
『終わったぞ。その、アナスタシアよ。また改めて会える日を楽しみにしておる。さてターニャ、お前は遅くならないうちに早く帰って来るのだぞ?』
「はいはーい、そうは言ってもお父様? 例えこっちに五年いたとしても、そちらではたったの五日なんですから、大人しく待っていて下さいねー!」
『そんな、ター…』
お母さんは一方的にそう言うと、もう用事は済んだとばかりに、エイッと魔法陣を消してしまった。
精霊王様相手にこんな塩対応できるのは、きっとお母さん位のものだと思う。
「まぁあまり長く人間界にいるとその分エドが老けちゃうから困るけど……。あら、でもちょっと待って! 渋いエドも素敵かも!」
何やら一人でブツブツ言っていたかと思えば、急にパァッと顔を輝かせ始めるお母さんにため息しか出ない。
娘の前で何の惚気ですか、まったく。
「もう、お母さんったら。他人事みたいに『エドが』って言ってるけど、お母さんだって歳とるんだよ?」
「え? とらないわよ?」
「へ!?」
私が驚いて思わず声をあげると、お母さんは悪戯っぽく笑ってこう言った。
「精霊界へ戻って、お母さん歳もとらなくなったの。うふふ、お母さんはね、永遠の33歳よ!」
ババーン! と効果音でも付きそうな勢いでポーズまで決められたけど……
え、嘘! ほんとに?
それって、いつかは私の方がお母さんより年上になっちゃうって事!?
愕然とする私をよそに、お母さんはふとある事に気付いた様で、ポーズを決めていた手を静かに下ろすと納得がいかない様に首を傾けた。
「今気付いたんだけど……。33歳って……ちょっと微妙じゃない?」
「知らんがな!!」
ああ、駄目だ。
いつもは心の中でしていたツッコミを、ついに声に出してしまった……。
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