第83話 突入、フェイラー辺境伯領!

「アレクサンダーお義兄様!」

「アナスタシア! ハミルトン伯爵!」


 アウストブルク王家が用意してくれた魔導飛空挺で魔の森を超え国境へ辿り着くと、そこではフェアファンビル公爵家の私設騎士団を伴ったお義兄様が私達を迎え入れる為に既に待機してくれていた。


 ありがとう、アウストブルクの守護精霊さん達。精霊便、めっちゃ便利。


「あぁ、二人とも無事で良かった! 本当に心配したよ」

「ご心配おかけした様で申し訳ない。当家の問題の為にこの様に遠い地まで足を運んで頂き感謝致します、アレクサンダー殿」


 伯爵モードで挨拶する旦那様とお義兄様の横を、フワフワとリアちゃんが飛んで来る。


『まぁ! 思ったより辺境伯領に精霊が少ないと思ったら、そういう事でしたのね?』


 リアちゃんは、私達にゾロゾロ付いて来た精霊達を見てコロコロと笑う。

 説明されるまでもなく、状況を見ただけで皆まで察したらしい。流石だ。


『あら、あなたは無事にユージーン様と契約出来たのね。良かったわ。うふふ、魔力が十分でモチモチね!』


 嬉しそうにリアちゃんの所へ飛んで行ったイルノが、いい子いい子と頭を撫でて貰っている。


 そう、すぐに戻ると言われて密かに残念に思っていたのだが、イルノはまだモッチモチのままである。

 頬っぺたなんてぷにぷにしていて非常に可愛い。


 こうやって改めて見てみると、契約している精霊達には随分個性が育っていくんだな、と思わず感心してしまった。

 アウストブルクの守護精霊達も個性派揃いだったし。

 最初の頃は精霊に性別があるという発想すらなかったけど、リアちゃんはどう見ても女の子にしか見えないし。


 ……まてよ?


 今まで考えた事も無かったけど、精霊に性別があるとするのなら、うちの子達精霊トリオって男の子なの? 女の子なの?


 一人称が『僕』だし、なんとなーく男の子なのかなって気もするけど、女の子でも一人称が僕の、『ボクっ』ってのもいるしな。

 三人とも可愛い顔立ちをしているし、仮に女の子だしても全然おかしくない。

 クンツなんて、おっとりしてて色もピンク系なので、なんならちょっと女の子な気すらして来た。


 え、どうしよう。今更だけど、後でちゃんと聞いておかなくちゃ!


 私がそんな風に思いながら精霊トリオの方を見ると、三人はお義兄様が自分達が見える様になったのが嬉しいらしく、お義兄様の周りをクルクル飛び回っていた。


 お義兄様も嬉しそうに目を輝かせているけれど、お義兄様、その子達意外とスピードが速いのでずっと見ていると目が回ります。

 それと、ずっと目で追っていると周りからは変に思われます。

 お気を付け下さいね。



「さて、アナスタシア達は出来るだけ最短でフェイラー辺境伯領を抜けたいんだよね?」

「はい。ただ、出来れば神殿に寄れるとありがたいのです」


 私がそう言うと、お義兄様はそっと周りを窺い、声を落として言った。


「ああ、聞いているよ。アナスタシアの母君が神殿に用事があるんだよね。……良かったね、アナスタシア。ご両親が見つかって」

「はい!」

 

 私の少し後ろには、お父さんとお母さんが立っている。

 お母さんには、フェアランブルに入国したら、く・れ・ぐ・れ・も、余計な事はしない様に言い聞かせておいたので、今の所はニコニコとおとなしくしてくれている。

 もちろん精霊封じの腕輪を付けているので発光もしていない。


「旧精霊教の方には、『ハミルトン伯爵が拉致されていたのが神殿かどうか確かめたいから、後ろ暗い所が無いなら確認させろ』と圧をかけて、神殿への立ち入り許可を取っておいたよ」


 おおっ、さすがお義兄様! 


「あちらはどうせ証拠なんて見つからないだろうと高を括ってるんだろう。『好きに見て貰って構わない』ってニヤニヤしていたよ」

 

 その余裕のお陰で神殿に入れるのは助かるんだけど、……何か腹立つな。


 まぁ、近いうちに自分達の行いを後悔する日が来るだろう。うん、ご愁傷様。


「ありがとうございます、お義兄様。それではこのまま早速神殿へ行けますか? 出来れば辺境伯領で宿泊はしたくないので……」

「ああ、大丈夫だよ。直ぐに向かおう」


 

 おお、いよいよ精霊王様と直々にお話が出来るんだ……さすがに緊張するかも!

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