第75話 ユージーンの価値(Side:アレクサンダー)
(Side:アレクサンダー)
「先代が……!? 一体何故そのような事に?」
反領主派がこれだけ動き回っている事自体おだやかではないと思ってはいたが、まさか領主一族に直接手を出す程だったとは。
「母は病気の治療を理由に領地を連れ出され、そのままウェスティン侯爵領に留め置かれてしまったのです」
「! ウェスティン侯爵領に……」
これはやはり反領主派とウェスティン侯爵家が繋がっているという事だろう。
しかし、随分と手荒な真似をする。
何か焦っているのか?
「おそらく全てを説明する時間は無いでしょう。大切な事からお伝えすると、ここまで反領主派が強引な手に出たのは、ハミルトン伯爵の存在を知ったからなのです」
「存在を知った? 今更ですか? こう言ってはなんですが、元々ハミルトン伯爵は社交界でも有名な部類の人間だったかと思いますが」
ハミルトン伯爵家は国でも有数の資産家で名家だ。ユージーンの父親である先代がやらかしたお陰で良くも悪くもますます注目される様になっていたし、その家を継ぐ若き当主が注目されない訳がない。ただでさえ、ジーンは目立つ風貌をしているのだ。
「もちろん、ハミルトン伯爵の存在そのものは知っておりました。しかし辺境伯領の人間は、その……ユージーン様はソフィア様の実子ではないと考えていたのです」
「はっ!?」
「フェイラー辺境伯家の血筋に、男児が生まれる事はありませんから……。ユージーン様のお父君が、その、外で作られたお子を、書類上はソフィア様の実子として届け出たのだろうと、そう考えておりました」
気まずそうに告げるフェイラー卿。
成る程、確かに状況だけを見れば辺境伯領でそう解釈されるのは無理のない事かもしれない。ジーンの父君の女癖の悪さもその説に信憑性を持たせてしまったのだろう。
……しかし、気分の良い話ではないな。
そんな風に思われていたと知ればジーンは少なからず傷付くだろうし、サミュエル様なんて怒り狂いそうだ。思わず小さく溜め息を吐く。
「それが、何故急にこんな事になったのですか?」
「ユージーン様が精霊と心を通わせる事が出来ると分かったからです。そこで詳しく調べ直した結果、ユージーン様は紛れもなくソフィア様の実子である事が判明しました。それを知った旧精霊教の過激派は狂喜し、現当主である私に反旗を翻したのです。『精霊の巫女の血筋に男児が生まれるなど正に奇跡。これは精霊王のお導きに違いない』と」
——勝手な事を!!
「それでハミルトン伯爵を拉致したのか? 無茶苦茶だな……」
「他家の方にご迷惑をおかけするなど、本当にお恥ずかしい限りです。反領主派の者たちがユージーン様を辺境伯領へ迎えたがっていたのは知っていましたが、まさか無理矢理連れ去ってくるとは……」
目の前にいるフェイラー卿が当主として力不足なのは確かだろう。
これだけの事に巻き込まれたのだ。もっとしっかりしてくれという気持ちは勿論あるけれど、憔悴し切った姿を見ると彼女をこれ以上責める気にはなれない。
『アレク、もうすぐこの部屋に人がやって来ますわ!』
……時間切れか。
リアに言われ、私はフェイラー卿へ向き直る。
「反領主派の人間がやっている事は許せないし、ウェスティン侯爵家には私も思う所があります。……手を貸しましょう」
私がフェイラー卿にそう伝えた次の瞬間、けたたましいノックの音と共に扉が開き、数人の男達が部屋へ入って来た。
返事も待たずに勝手に部屋に入って来るなど随分無礼だな、と思いながら、どこにでもこういう無礼な輩はいるものなのだな、と深い溜め息が出る。
なんか嫌な事思い出した。
さて、これからどう動くか……。
無礼にも部屋に乱入しておきながら、ヘラヘラご機嫌伺いの口上を述べてくる反領主派の人間達を遠慮なく睨みつけ、相変わらず不機嫌そうな顔をしておく。
あぁ、本当に眉間が引き攣りそうだ……。
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