第74話 当主の事情(Side:アレクサンダー)
(Side:アレクサンダー)
「大変お待たせ致しました。フェイラー辺境伯家当主、サブリナ・フェイラーでございます」
応接室に通されてから待たされる事
ようやく現れたフェイラー辺境伯は、話に聞いて想像していた『女辺境伯』とは全く違う印象の女性だった。
当代の辺境伯はまだ四十代位のはずなのだが、失礼ながらもっと年齢が上に見える。
化粧で誤魔化してはいるが目の下に深く出来た
これは、想像していた以上に辺境伯家の内情は悪そうだな……。
「ああ、随分待たされたので会って頂けないのかと思いましたよ。アレクサンダー・フォン・フェアファンビルです。お会いするのは初めてですね」
何の前触れもなく押しかけておいて我ながら不遜な物言いだとは思うのだが、立場上これくらい強気に出ざるを得ない。
何せ今の私は、『自分の家を軽んじられた事に腹を立てて押しかけて来た筆頭公爵家の当主』なのだ。
「私が、何故急に訪ねて来たかはお分かりですか?」
私が威圧的にそう尋ねると、フェイラー卿は感情を読めない目をこちらにむける。
「申し訳ないのですが心当たりがございません」
「ほう、
本当は
『アレク、アレク!』
リア!!
私が次の一手をどう打とうか考えあぐねていると、リアがフワリと現れた。
『アレク、この部屋の様子は全て隣の部屋から監視されてますわ!』
……やはりか。
『サブリナ様は、反領主派に脅されています。お話を聞いて差し上げてくださいませ』
「!!」
私はリアの話を聞くと、如何にも『不機嫌だ』と言わんばかりの動きで、テーブルの上にガンッと小箱を置いた。
「これは?」
「これから
そう、これはアウストブルクで流通している魔道具で、一定の範囲内にいる人間の声を外部に漏らさない様にする効果があるのだ。
「分かりました。どうぞお使い下さい」
フェイラー卿から魔道具使用の許可がおりると、私はおもむろにその箱の様な魔道具を起動させた。フォン、という不思議な音と共に周辺が特殊な魔力で包まれる。
これで、隣室に会話の内容を盗み聞きされる心配はなくなった。
「……フェイラー卿。私はハミルトン伯爵家とは懇意にしていて、少し前までアウストブルクに留学しておりました。サミュエル様やナジェンダ様とも親しくお付き合いさせて頂いていたのです」
相変わらず不機嫌そうな表情のまま口調と話の内容を変えた私に、フェイラー卿がハッとした顔をしてこちらを見た。
「フェアファンビル卿、この部屋は隣室から監視を……」
「知っています。この魔道具を使えば声が漏れる事はありません。様子は見られているでしょうから、態度には出さない様に気を付けましょう」
私の言葉を聞き、一瞬驚いた顔をしそうになったフェイラー卿は表情を引き締めるとまた下を向く。
『アレク、唇の動きを読めるほど頭の回転が早そうな人間はいませんでしたが、念の為気を付けて下さいませ。顔をもう少しこちらに向けて頂ければ大丈夫ですわ』
……すんごいしっかりしてる。ミラみたい。
小さな体で私の頬っぺたをグイグイ押して顔の向きを変えようとしてくるリアに思わず笑みが溢れそうになり、必死に不機嫌そうな顔を保つ。
あぁ、眉間が引き攣りそう。
さて、ゆっくり話をしている時間はない。私達の話が聞けなくなった以上、反領主派の人間がこの部屋に踏み込んで来る可能性もあるのだ。
「手短に言います。私の義弟であるユージーン・ハミルトンがフェイラー辺境伯家の使者を名乗る者に連れ去られました。しかし、その使者はハミルトン伯爵はあくまで自分の意思で辺境伯領へ言ったと言い張ったそうで、困り果てた伯爵家の使用人が私に助けを求めに来たのです」
「そういう事だったのですね。わざわざ筆頭公爵家のご当主自らがこの様な辺境まで来られるなど、何事かと思いました。反領主派もまさかフェアファンビル卿が訪問されるなんて予想もしていなかったのでしょう。碌な説明もせず、『全ては誤解だから、ハミルトン伯爵は辺境伯領で大切におもてなししていると伝えてこい』と言われたのです」
なるほど。アナスタシアやミラのスピードには敵わなかったが、辺境伯領の反領主派の不意をつくのには成功したらしい。
「一体何故、当主であるあなたがそんな扱いを? 『辺境伯家が後継者争いで揉めている』というのは王都まで漏れ伝わっておりますが、それと関係があるのですか?」
フェイラー卿は少し考え込んだ後、覚悟を決めた様に私を見るとこう言った。
「あぁ、お願いいたします、フェアファンビル卿。どうかお力をお貸し下さい。母は……、母は反領主派に囚われ、人質同然の扱いを受けているのです」
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