第65話 コイツはもしや、三角関係?

 飛空挺が王城に到着した翌日。

 私は早起きをして、朝から大量のクッキーを焼いていた。


「みんな、お待たせー!! クッキー山盛り焼いて来たよー!!」



『『『クッキーーー!!』』』



 私と旦那様が両手で抱える程の大きなかごに山盛りのクッキーを持って現れると、中庭で遊んでいた精霊たちは一斉にドドドドドーッと押し寄せて来た。


 ひえぇぇ、やっぱり多い!!


 しかも、旦那様にくっ付いてフェアランブルからやって来た精霊だけじゃなく、元々アウストブルクにいた精霊たちも一緒になって押し寄せて来ているのだ。


 かつてない程に大量の精霊を今私は目の当たりにしている。

 大迫力である。



 クッキーいっぱい焼いといて良かったー!

 足りなかったら争奪戦になっちゃうよ。



 この大量のクッキーは、流石に私一人では作りきれなくてお母さんにも手伝って貰った。

 久しぶりに二人並んでクッキーを焼くのは、何だか不思議とくすぐったくて、でも楽しかった。



「うーん、悔しいけどやっぱりまだお母さんのクッキーには敵わないなぁ」

 

 籠から一枚苺ジャムのクッキーを失敬してパクッと口に入れる。


 サクサクとした歯応えに、ほんのり塩気の効いたクッキー生地と甘いジャムが絶妙に混ざり合う。うん、最高。


「そうか? 私はアナのクッキーが世界一だと思うぞ?」


 真顔でそう言う旦那様が可愛い。

 まぁ、旦那様にはかなり妻贔屓つまびいきが入ってますからね。



 ああ、平和だー!

 私達の日常が帰って来たぞー!!



『アナー! ユージーン!』


 私がお母さんのクッキーと共に久々の平穏を味わっていると、精霊トリオが、イルノともう一人精霊を連れて飛んで来た。


 誰だろう?

 他の精霊より、少しだけ色合いが違って感じるというか、微かに違いがわかるんだけど。


 しかし、そちらのニューフェイスも気にはなるのだが、それより気になる事が一つ。



 なんか……イルノがモチモチになってる!?


 そう、イルノの頬っぺたが何故かモッチモチなのだ。


 え、可愛い。モチモチ精霊可愛過ぎる。



「ね、ねぇ。何でイルノはこんな急にモッチモチになっちゃったの? 可愛いんですけど!?」


『イルノは、魔力不足で消えかかってたのに、急に潤沢に魔力が貰える様になったばかりだからね。体が魔力を吸収し切れなくてムチムチになってるんだよ。心配しなくてもすぐ体に馴染むよ』


 カイヤが分かりやすくそう説明してくれたけど、え、じゃあこの可愛いモチモチ精霊はすぐ元に戻っちゃうのか……。

 頬っぺモチモチ最高なのに……。

 


「うう、それにしても可愛い……! イルノ、うちの子になるかい?」



 モチモチ精霊のあまりの可愛さに、ついおかしな勧誘をしてしまった。



『ダメなの。イルノ、ジーンの精霊!』



 おお、相変わらず凄い忠誠心というか何というか……ラブラブだな?



「ジーンの精霊……か。そうだ、旦那様。イルノはまだ旦那様と『仮契約』みたいな状態なんだそうです。どうしましょう? このまま契約に進みますか?」

「ああ、もちろんそのつもりだ」

「わかりました! では、王女殿下にそう伝えて、直接契約しちゃいましょう」


 私達がそう話して頷きあっていると、精霊トリオに連れてこられていたもう一人の精霊が口を開いた。


『あの……あのね。ぼくも、ユージーンと契約したいんだけど、出来る?』



 ! なんと!!



 予想外の精霊の言葉に驚いて、旦那様の顔を見上げる。

 旦那様の説明によると、旦那様が神殿に監禁されていた時、一番初めに助けてくれたのがこの精霊なのだそうだ。



「私としては両方と契約を結びたい所なのだか、私の魔力量で足りるだろうか?」

「うーん、どうでしょう。カーミラ王女殿下に聞いてみましようか?」



「呼んだかしら?」



 突然の声に驚いて振り返ると、ちょうど王女殿下が中庭に出て来たところだった。

 なんと国王陛下も一緒についてきている。


 陛下は辺りを飛んでいる大量の精霊たちを見て目を輝かせまくっているけれど、私と旦那様はビシッと姿勢を正して頭を深く下げた。



『あのね、あのね、イルノとこの子、ジーンと契約したいの。ジーンの魔力、足りる?』



 そんな私達をよそにイルノがふよふよ飛んでそう尋ねると、王女殿下は少し考えた後、困った顔でこう答えた。


「残念だけど、両方は無理だと思うわ。そもそも、普通の人間の魔力量では複数の精霊と契約なんて出来ないものなのよ」



『『えー!!』』



 イルノともう一人の精霊が残念そうに声を上げる。



 ……旦那様、モテモテだな!?

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