第66話 アウストブルク国王の悲願
「やはりそうですか……」
カーミラ王女殿下の返事を聞いて、しょんぼりと肩を落とす旦那様。
そうだよね。
自分の事を忘れられても十年以上ずっと待ってくれていたイルノと、囚われて大ピンチだった時に助けてくれたまさに恩人とも言えるこの子。
どちらかを選ぶというのも、中々に酷な話だ。
……いっそ、私がどちらかと契約してしまうというのはどうだろうか!?
私と旦那様はほぼ一緒にいるから、便宜上の契約主が私になっても旦那様とも一緒に過ごせるのは変わらない訳だし。
私の無駄に多い魔力量なら、きっと精霊をもう一人くらいは養えるのではなかろうか。
私がそんな風に考えていると、旦那様を助けてくれた精霊が言った。
『あのね、それならイルノがいいと思う。イルノがずーっと待ってたの、ぼくも知ってるから!』
……なんたる健気さ!
これはもう、是非うちの子に……!!
そう伝えようと私が声を出すより一瞬早く、王女殿下が口を開いた。
「あら、それならうちの国の守護精霊にならない? 国と契約を結べば魔力の供給も出来るし、気に入った精霊使いがいれば個人的な契約もできるわよ?」
おう! しまった、王女殿下に先を越された!
『そんなことできるの? ユージーンといて、人間といるの楽しいなって思ったんだ。ぼく、この国の精霊になろうかな?』
王女殿下に誘われた精霊の子は、嬉しそうにピカピカ光りながらクルクル飛んでいる。
うーん、アウストブルクでなら精霊が大切にされるのは間違いないしな……。
本人も嬉しそうにしてるなら、その方がいいのかな?
私がそっと旦那様を見ると、旦那様は少し寂しそうに、それでも笑顔で頷いていた。
「カーミラ! 新しい精霊さんが守護精霊になってくれるのかい!?」
少し離れた所で聞いていた、カーミラ王女殿下の父親でもあるアウストブルクの国王陛下が目を輝かせながら声を上げる。
そうだ、陛下はちょっと周りが引くほど精霊ラブな人だった。
「それならその、契約相手に儂なんかどうか聞いてくれないか!? 大切にするぞ!」
陛下が前のめり過ぎてちょっと怖い。
王女殿下も困った顔で眉間をほぐしながら、フーッとため息をついた。
「お父様、お気持ちは分かりますが、いい加減に精霊と契約するのは諦めて下さい。お父様は確かに精霊使いとして認定はされていますが、レベルとしては本当にギリギリです。大体、会話が出来ないのでは精霊だって困るでしょう」
「うぅ……、契約して魔力交換をしていけば親和性も高まるから、段々と会話も出来る様になるって……」
陛下はチラチラと精霊を見ながら、必死に王女殿下に直訴している。王の威厳よ……。
『そのおじちゃん、精霊と契約したいの?』
話を聞いていた、旦那様を助けてくれた精霊が会話に加わる。
お、おじちゃん……。
さすが精霊。人間の地位に対する忖度がまったく無いな。
『あのね、ぼく契約してもいいよ?』
!!??
誰も想像していなかったであろう展開に、その場にいた人間が陛下を除いて凍りつく。
「え? い、いいの?」
『うん!』
「こう言っては何だけれど、その……、うちのお父様は、かなり愛情表現が豊かというか……暑苦しいわよ?」
『大丈夫だよー? ユージーンが、ずーっとアナアナ言ってるから、ぼく慣れちゃったー!』
「……それなら大丈夫かもしれないわね?」
うおぉぉぉおい!?
何たる流れ弾による羞恥プレイ!!
思わずジトっと旦那様を眺めてしまうが、旦那様は悪びれる事もなく、むしろ何故か誇らしげに頷いている。何でだよ。
「か、カーミラ!! もしかしてその精霊さんは儂と契約してもいいと言ってくれているのか!?」
ズイズイ迫って行く陛下の様子が、傍目に見ていても普通に怖い。
『ユージーン、ぼくこのおじちゃんと契約してあげる事にするよー』
「そうか。自分がそれが良いと思えるなら、きっとそれで良いのだろう。私の魔力が足りないせいで悪かったな」
『いいよー!』
こうしてまさかの展開でアウストブルク国王は自らの悲願を達成する事となり、私と旦那様は図らずも生涯に渡り、陛下から物凄く感謝される事になるのである。
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